装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

682 閑話・ドラグーン

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「トウジ、トウジはいるか」

 ドアを力強く開けて、白衣を身につけた女性が入って来る。
 その女性はシンと静まり返ったリビングを訝しむ。

「……いないのか?」

 やれやれ、とため息をつきながらポケットから手鏡を取り出した。
 何をするかと思えば、自分の化粧を確認し髪を弄り出す。
 目的である人物、アキノトウジからパンダ女と呼ばれていたのはもう過去。
 健康状態も良くなり、目元に多少の隈は残るが、美人となっていた。

「また、どこぞに行ったと言うのか……いや、寝ているのかもしれんな」

 そうだ起こしに行こう。
 と、元パンダ女であるオスローは、ズカズカととある部屋に向かった。

「そうだ、どうせならばベッドに潜り込んで朝の男性の……」

 独り言をぶつくさ言いながらトウジのドアを開けようとしていると。
 後ろから声がかかる。

「……ほくそ笑んで何しとるん、オスロー」

「わっ!?」

 同居人、そして一緒に仕事を行う仲間であるマイヤー・アルバートが背後に立っていた。

「何って、トウジに用事があって私はここへ来たんだ」

「朝の男の部屋に入ったらあかんって、おとん言っとったで」

「ふむ、それが何故かと言うことは聞いているかな?」

「いや聞いてへんけど。男も女同様準備することがあるから失礼やって」

「ふむふむ。まあ、私はパパからそんなこと言われてないから入らせてもらう」

 オスローは問答無用でドアを開ける。

「重要サンプルとして、一つこの目で見てやろうじゃないか!」

「だから、何をやっちゅーねん」

 だが、ガラッとして誰もいない室内に、その勢いは消されてしまった。

「あ、あれ?」

「そうや、トウジたちやったら、たった今飛空船に乗って出てったで?」

「何、飛空船に乗ってだと? どこに何をしに行ったって言うんだ?」

「一番の冒険者を決める大会がデプリであるからやってさ」

「そんな大会が……まあ、竜樹を取ってこれてヒヒイロカネも作り出せる冒険者だから、選ばれるのも当然か」

「せやね、トウジはあの感じでもSランク冒険者やし。懐かしいわぁ、ペーペーやった頃が」

「君は彼と共に旅をしていた時期があったらしいな。それについても色々を話を聞きたいところなのだが……まずいな」

 許可もなくトウジのベッドに入り込んで、そのままシーツを被るオスロー。
 何してるのか、まずいのはお前の行動だろ、という疑問はさておいて。
 マイヤーは尋ねる。

「何がまずいん? なんか研究所でトラブルでも起こったん?」

「いや、私としたことが飛空船に取り付けておくべきだった部品を一つ忘れていたようでね」

「そうなん? でもちゃんと飛んでったから、問題ないんちゃう?」

「飛行性能は問題ないし、あれでほとんど完成されている」

 しかし、と間を開けて枕をクンクンしながらオスローは言った。

「問題は別の部分にあるのだよ」

「別の部分?」

「説明するよりも、手っ取り早く見せた方がいいだろう」

 と、オスローは白衣のポケットから小さな漏斗のような物を採り出した。
 漏斗の四方には小さな浮遊結晶が取り付けられている。
 さながら、四葉のクローバーに漏斗という、なんとも言えないセットだ。

「なんなんそれ?」

「これはピクシー、人工精霊を試験的に用いた自律型浮遊防衛機構の一部だ」

「じんこうせいれい、じりつがたふゆうぼうえいきこう?」

「と、言っても、実際に精霊が中に入っている訳ではないけど、実質守護や庇護を司るそれに近いような形だから、そう呼んでいる。この防衛機構のことをドラグーンと呼び、母体であるドラグーンを元に危険を感知すれば自律展開し驚異を極小サイズの魔力収縮砲で攻撃するという画期的な物だ」

「ごめんごめん、ちょっとゆっくり喋ってもらえる? えっと、端的に言えば危険を感じたら守ってくれるってこと?」

「厳密に言えば、驚異の元を排除するために動き出す、というものだ。竜の名を司る素材で作られた飛空船、それを守護する妖精たちの集まり。ドラグーン、なかなかに良い名前だろう?」

「まあ、そうやね。竜の軍って書いてどらぐーんかいな? 洒落てるやん」

「断じてダジャレではないということをしかと理解して欲しいのだが……まあいい」

 オスローは続ける。

「私が問題点としてあげているのは、とりあえず100個くらいあの飛空船に実装してみたものの、肝心の母体側の設定を一つ間違えていてな、その修正のために今日ここに来た訳なのだ」

「えっ、やばいやん。なんか知らんものが暴走してしまうとか、そんなんなん?」

「いや、基本的にはトウジの意思に従う様に設計してあるから、トウジが誰かに露骨に敵意を向けなければ問題ない。そもそも任意に発動する仕組みをまだ組み込んでなかったからな」

「はあ、だったら安全なんやね?」

「いや、誰かに露骨に敵意を向けなければの範疇で、その条件が満たされれば自律的に起動するようになっている。私の隣にいるピクシーも君に敵意を向ければ行動に移る。もっとも安全装置として言葉による命令でないとある程度は制御されるようにしているがな!」

「また話長いわあ……。まあ、トウジってのほほんとしとるから、大丈夫やろ。本気で殺そうとする奴なんか明確な敵しかおらんやろうしな?」

「だったら良いのだが、問題は発動してからも付きまとう」

「どんな?」

「発動したドラグーンを止める手立てがないのだ」

「あっ」

 その話を聞いて、マイヤーの頭の中には色々と嫌な予感が過った。

「トウジたちにはこの存在をまだ教えてないからな」

「なんでそんな重要なもんを教えんのや!」

「だってまだ完成じゃなかったし。そして今日その完成をお披露目しようと思ったんだもん」

「もん、て……」

 ファサッとトウジのシーツに包まるオスロー。
 マイヤーは呆れて何も言えなかった。

「ちなみに、トウジの船に積んだドラグーンは自律飛行からの各武装の指揮もやるぞ」

「とんでもないもの作っとるやん……」

「天啓が舞い降りたかのように、閃いてしまったのだよ。たまにある」

「は、はあ……」

「虫眼鏡で太陽の熱を集めると紙が燃えるだろう? 鏡を大量に並べて光を一つに集めると目玉焼きだって焼けてしまうだろう? 魔力収縮砲は虫眼鏡みたいな感じで超密度にした魔力を放出する、そしてドラグーンから繰り出されるピクシーの魔力収縮砲は鏡を大量に並べて一つにする感じのイメージで広範囲から一点集中までを補う、私の考えた現状最強武装なのだよ。どうだ、すごいだろう? これでトウジも私を認めるに違いないはず!」

「いや、呆れると思うけど……」

 危険なものを作っておきながら何故か誇らしそうにするオスロー。
 マイヤーはややげっそりとしながら天を仰いだ。

「まあ、引き金となってしまう事柄は現状トウジの敵意のみだ。船を空中に待機させず、その無駄にでかいアイテムボックスの中に入れてある限り、発動はしない。魔物を狩ることに関しては作業みたいな感覚の男だから、そこまで明確な敵意を持つことはないし、心配はいらないだろう」

「せやったら良いけど……なんだかなあ……」

 トウジたちのことを憂いながら、マイヤーも少し顔を赤らめてボフッとトウジのベッドに倒れ込んだ。

「ところでマイヤー」

「なんやねん」

「トウジの枕、なんだかちょっと甘い匂いがするのだが、どうしてだろうか?」

「あー……」

「私の本能的な部分が彼の匂いに、フェロモン的なものに感応して甘い現実を見せているのだろうか、興味深い」

「いや、多分そこでいつもお菓子食ってるジュノーの……」

 そこでマイヤーは言葉を止めた。
 猛烈に枕の匂いを嗅ぎ出したオスローに引いたからである。
 匂いの元はジュノーのよだれなのだが……。
 それを教えずシーツの専有権のみを確保したのだった。

(しばらく寝るとき使わしてもらおっと)

 ペンで端っこに「シーツス」と書かれたトウジの掛け布団、拉致。






=====
オスロー「くんくんくんくんくんくん」
マクラス「やめろおおおおおおお!!」
マイヤー「すんすんすんすんすんすん」
シーツス「お兄ちゃあああああん!!」
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