381 / 650
本編
682 閑話・ドラグーン
「トウジ、トウジはいるか」
ドアを力強く開けて、白衣を身につけた女性が入って来る。
その女性はシンと静まり返ったリビングを訝しむ。
「……いないのか?」
やれやれ、とため息をつきながらポケットから手鏡を取り出した。
何をするかと思えば、自分の化粧を確認し髪を弄り出す。
目的である人物、アキノトウジからパンダ女と呼ばれていたのはもう過去。
健康状態も良くなり、目元に多少の隈は残るが、美人となっていた。
「また、どこぞに行ったと言うのか……いや、寝ているのかもしれんな」
そうだ起こしに行こう。
と、元パンダ女であるオスローは、ズカズカととある部屋に向かった。
「そうだ、どうせならばベッドに潜り込んで朝の男性の……」
独り言をぶつくさ言いながらトウジのドアを開けようとしていると。
後ろから声がかかる。
「……ほくそ笑んで何しとるん、オスロー」
「わっ!?」
同居人、そして一緒に仕事を行う仲間であるマイヤー・アルバートが背後に立っていた。
「何って、トウジに用事があって私はここへ来たんだ」
「朝の男の部屋に入ったらあかんって、おとん言っとったで」
「ふむ、それが何故かと言うことは聞いているかな?」
「いや聞いてへんけど。男も女同様準備することがあるから失礼やって」
「ふむふむ。まあ、私はパパからそんなこと言われてないから入らせてもらう」
オスローは問答無用でドアを開ける。
「重要サンプルとして、一つこの目で見てやろうじゃないか!」
「だから、何をやっちゅーねん」
だが、ガラッとして誰もいない室内に、その勢いは消されてしまった。
「あ、あれ?」
「そうや、トウジたちやったら、たった今飛空船に乗って出てったで?」
「何、飛空船に乗ってだと? どこに何をしに行ったって言うんだ?」
「一番の冒険者を決める大会がデプリであるからやってさ」
「そんな大会が……まあ、竜樹を取ってこれてヒヒイロカネも作り出せる冒険者だから、選ばれるのも当然か」
「せやね、トウジはあの感じでもSランク冒険者やし。懐かしいわぁ、ペーペーやった頃が」
「君は彼と共に旅をしていた時期があったらしいな。それについても色々を話を聞きたいところなのだが……まずいな」
許可もなくトウジのベッドに入り込んで、そのままシーツを被るオスロー。
何してるのか、まずいのはお前の行動だろ、という疑問はさておいて。
マイヤーは尋ねる。
「何がまずいん? なんか研究所でトラブルでも起こったん?」
「いや、私としたことが飛空船に取り付けておくべきだった部品を一つ忘れていたようでね」
「そうなん? でもちゃんと飛んでったから、問題ないんちゃう?」
「飛行性能は問題ないし、あれでほとんど完成されている」
しかし、と間を開けて枕をクンクンしながらオスローは言った。
「問題は別の部分にあるのだよ」
「別の部分?」
「説明するよりも、手っ取り早く見せた方がいいだろう」
と、オスローは白衣のポケットから小さな漏斗のような物を採り出した。
漏斗の四方には小さな浮遊結晶が取り付けられている。
さながら、四葉のクローバーに漏斗という、なんとも言えないセットだ。
「なんなんそれ?」
「これはピクシー、人工精霊を試験的に用いた自律型浮遊防衛機構の一部だ」
「じんこうせいれい、じりつがたふゆうぼうえいきこう?」
「と、言っても、実際に精霊が中に入っている訳ではないけど、実質守護や庇護を司るそれに近いような形だから、そう呼んでいる。この防衛機構のことをドラグーンと呼び、母体であるドラグーンを元に危険を感知すれば自律展開し驚異を極小サイズの魔力収縮砲で攻撃するという画期的な物だ」
「ごめんごめん、ちょっとゆっくり喋ってもらえる? えっと、端的に言えば危険を感じたら守ってくれるってこと?」
「厳密に言えば、驚異の元を排除するために動き出す、というものだ。竜の名を司る素材で作られた飛空船、それを守護する妖精たちの集まり。ドラグーン、なかなかに良い名前だろう?」
「まあ、そうやね。竜の軍って書いてどらぐーんかいな? 洒落てるやん」
「断じてダジャレではないということをしかと理解して欲しいのだが……まあいい」
オスローは続ける。
「私が問題点としてあげているのは、とりあえず100個くらいあの飛空船に実装してみたものの、肝心の母体側の設定を一つ間違えていてな、その修正のために今日ここに来た訳なのだ」
「えっ、やばいやん。なんか知らんものが暴走してしまうとか、そんなんなん?」
「いや、基本的にはトウジの意思に従う様に設計してあるから、トウジが誰かに露骨に敵意を向けなければ問題ない。そもそも任意に発動する仕組みをまだ組み込んでなかったからな」
「はあ、だったら安全なんやね?」
「いや、誰かに露骨に敵意を向けなければの範疇で、その条件が満たされれば自律的に起動するようになっている。私の隣にいるピクシーも君に敵意を向ければ行動に移る。もっとも安全装置として言葉による命令でないとある程度は制御されるようにしているがな!」
「また話長いわあ……。まあ、トウジってのほほんとしとるから、大丈夫やろ。本気で殺そうとする奴なんか明確な敵しかおらんやろうしな?」
「だったら良いのだが、問題は発動してからも付きまとう」
「どんな?」
「発動したドラグーンを止める手立てがないのだ」
「あっ」
その話を聞いて、マイヤーの頭の中には色々と嫌な予感が過った。
「トウジたちにはこの存在をまだ教えてないからな」
「なんでそんな重要なもんを教えんのや!」
「だってまだ完成じゃなかったし。そして今日その完成をお披露目しようと思ったんだもん」
「もん、て……」
ファサッとトウジのシーツに包まるオスロー。
マイヤーは呆れて何も言えなかった。
「ちなみに、トウジの船に積んだドラグーンは自律飛行からの各武装の指揮もやるぞ」
「とんでもないもの作っとるやん……」
「天啓が舞い降りたかのように、閃いてしまったのだよ。たまにある」
「は、はあ……」
「虫眼鏡で太陽の熱を集めると紙が燃えるだろう? 鏡を大量に並べて光を一つに集めると目玉焼きだって焼けてしまうだろう? 魔力収縮砲は虫眼鏡みたいな感じで超密度にした魔力を放出する、そしてドラグーンから繰り出されるピクシーの魔力収縮砲は鏡を大量に並べて一つにする感じのイメージで広範囲から一点集中までを補う、私の考えた現状最強武装なのだよ。どうだ、すごいだろう? これでトウジも私を認めるに違いないはず!」
「いや、呆れると思うけど……」
危険なものを作っておきながら何故か誇らしそうにするオスロー。
マイヤーはややげっそりとしながら天を仰いだ。
「まあ、引き金となってしまう事柄は現状トウジの敵意のみだ。船を空中に待機させず、その無駄にでかいアイテムボックスの中に入れてある限り、発動はしない。魔物を狩ることに関しては作業みたいな感覚の男だから、そこまで明確な敵意を持つことはないし、心配はいらないだろう」
「せやったら良いけど……なんだかなあ……」
トウジたちのことを憂いながら、マイヤーも少し顔を赤らめてボフッとトウジのベッドに倒れ込んだ。
「ところでマイヤー」
「なんやねん」
「トウジの枕、なんだかちょっと甘い匂いがするのだが、どうしてだろうか?」
「あー……」
「私の本能的な部分が彼の匂いに、フェロモン的なものに感応して甘い現実を見せているのだろうか、興味深い」
「いや、多分そこでいつもお菓子食ってるジュノーの……」
そこでマイヤーは言葉を止めた。
猛烈に枕の匂いを嗅ぎ出したオスローに引いたからである。
匂いの元はジュノーのよだれなのだが……。
それを教えずシーツの専有権のみを確保したのだった。
(しばらく寝るとき使わしてもらおっと)
ペンで端っこに「シーツス」と書かれたトウジの掛け布団、拉致。
=====
オスロー「くんくんくんくんくんくん」
マクラス「やめろおおおおおおお!!」
マイヤー「すんすんすんすんすんすん」
シーツス「お兄ちゃあああああん!!」
ドアを力強く開けて、白衣を身につけた女性が入って来る。
その女性はシンと静まり返ったリビングを訝しむ。
「……いないのか?」
やれやれ、とため息をつきながらポケットから手鏡を取り出した。
何をするかと思えば、自分の化粧を確認し髪を弄り出す。
目的である人物、アキノトウジからパンダ女と呼ばれていたのはもう過去。
健康状態も良くなり、目元に多少の隈は残るが、美人となっていた。
「また、どこぞに行ったと言うのか……いや、寝ているのかもしれんな」
そうだ起こしに行こう。
と、元パンダ女であるオスローは、ズカズカととある部屋に向かった。
「そうだ、どうせならばベッドに潜り込んで朝の男性の……」
独り言をぶつくさ言いながらトウジのドアを開けようとしていると。
後ろから声がかかる。
「……ほくそ笑んで何しとるん、オスロー」
「わっ!?」
同居人、そして一緒に仕事を行う仲間であるマイヤー・アルバートが背後に立っていた。
「何って、トウジに用事があって私はここへ来たんだ」
「朝の男の部屋に入ったらあかんって、おとん言っとったで」
「ふむ、それが何故かと言うことは聞いているかな?」
「いや聞いてへんけど。男も女同様準備することがあるから失礼やって」
「ふむふむ。まあ、私はパパからそんなこと言われてないから入らせてもらう」
オスローは問答無用でドアを開ける。
「重要サンプルとして、一つこの目で見てやろうじゃないか!」
「だから、何をやっちゅーねん」
だが、ガラッとして誰もいない室内に、その勢いは消されてしまった。
「あ、あれ?」
「そうや、トウジたちやったら、たった今飛空船に乗って出てったで?」
「何、飛空船に乗ってだと? どこに何をしに行ったって言うんだ?」
「一番の冒険者を決める大会がデプリであるからやってさ」
「そんな大会が……まあ、竜樹を取ってこれてヒヒイロカネも作り出せる冒険者だから、選ばれるのも当然か」
「せやね、トウジはあの感じでもSランク冒険者やし。懐かしいわぁ、ペーペーやった頃が」
「君は彼と共に旅をしていた時期があったらしいな。それについても色々を話を聞きたいところなのだが……まずいな」
許可もなくトウジのベッドに入り込んで、そのままシーツを被るオスロー。
何してるのか、まずいのはお前の行動だろ、という疑問はさておいて。
マイヤーは尋ねる。
「何がまずいん? なんか研究所でトラブルでも起こったん?」
「いや、私としたことが飛空船に取り付けておくべきだった部品を一つ忘れていたようでね」
「そうなん? でもちゃんと飛んでったから、問題ないんちゃう?」
「飛行性能は問題ないし、あれでほとんど完成されている」
しかし、と間を開けて枕をクンクンしながらオスローは言った。
「問題は別の部分にあるのだよ」
「別の部分?」
「説明するよりも、手っ取り早く見せた方がいいだろう」
と、オスローは白衣のポケットから小さな漏斗のような物を採り出した。
漏斗の四方には小さな浮遊結晶が取り付けられている。
さながら、四葉のクローバーに漏斗という、なんとも言えないセットだ。
「なんなんそれ?」
「これはピクシー、人工精霊を試験的に用いた自律型浮遊防衛機構の一部だ」
「じんこうせいれい、じりつがたふゆうぼうえいきこう?」
「と、言っても、実際に精霊が中に入っている訳ではないけど、実質守護や庇護を司るそれに近いような形だから、そう呼んでいる。この防衛機構のことをドラグーンと呼び、母体であるドラグーンを元に危険を感知すれば自律展開し驚異を極小サイズの魔力収縮砲で攻撃するという画期的な物だ」
「ごめんごめん、ちょっとゆっくり喋ってもらえる? えっと、端的に言えば危険を感じたら守ってくれるってこと?」
「厳密に言えば、驚異の元を排除するために動き出す、というものだ。竜の名を司る素材で作られた飛空船、それを守護する妖精たちの集まり。ドラグーン、なかなかに良い名前だろう?」
「まあ、そうやね。竜の軍って書いてどらぐーんかいな? 洒落てるやん」
「断じてダジャレではないということをしかと理解して欲しいのだが……まあいい」
オスローは続ける。
「私が問題点としてあげているのは、とりあえず100個くらいあの飛空船に実装してみたものの、肝心の母体側の設定を一つ間違えていてな、その修正のために今日ここに来た訳なのだ」
「えっ、やばいやん。なんか知らんものが暴走してしまうとか、そんなんなん?」
「いや、基本的にはトウジの意思に従う様に設計してあるから、トウジが誰かに露骨に敵意を向けなければ問題ない。そもそも任意に発動する仕組みをまだ組み込んでなかったからな」
「はあ、だったら安全なんやね?」
「いや、誰かに露骨に敵意を向けなければの範疇で、その条件が満たされれば自律的に起動するようになっている。私の隣にいるピクシーも君に敵意を向ければ行動に移る。もっとも安全装置として言葉による命令でないとある程度は制御されるようにしているがな!」
「また話長いわあ……。まあ、トウジってのほほんとしとるから、大丈夫やろ。本気で殺そうとする奴なんか明確な敵しかおらんやろうしな?」
「だったら良いのだが、問題は発動してからも付きまとう」
「どんな?」
「発動したドラグーンを止める手立てがないのだ」
「あっ」
その話を聞いて、マイヤーの頭の中には色々と嫌な予感が過った。
「トウジたちにはこの存在をまだ教えてないからな」
「なんでそんな重要なもんを教えんのや!」
「だってまだ完成じゃなかったし。そして今日その完成をお披露目しようと思ったんだもん」
「もん、て……」
ファサッとトウジのシーツに包まるオスロー。
マイヤーは呆れて何も言えなかった。
「ちなみに、トウジの船に積んだドラグーンは自律飛行からの各武装の指揮もやるぞ」
「とんでもないもの作っとるやん……」
「天啓が舞い降りたかのように、閃いてしまったのだよ。たまにある」
「は、はあ……」
「虫眼鏡で太陽の熱を集めると紙が燃えるだろう? 鏡を大量に並べて光を一つに集めると目玉焼きだって焼けてしまうだろう? 魔力収縮砲は虫眼鏡みたいな感じで超密度にした魔力を放出する、そしてドラグーンから繰り出されるピクシーの魔力収縮砲は鏡を大量に並べて一つにする感じのイメージで広範囲から一点集中までを補う、私の考えた現状最強武装なのだよ。どうだ、すごいだろう? これでトウジも私を認めるに違いないはず!」
「いや、呆れると思うけど……」
危険なものを作っておきながら何故か誇らしそうにするオスロー。
マイヤーはややげっそりとしながら天を仰いだ。
「まあ、引き金となってしまう事柄は現状トウジの敵意のみだ。船を空中に待機させず、その無駄にでかいアイテムボックスの中に入れてある限り、発動はしない。魔物を狩ることに関しては作業みたいな感覚の男だから、そこまで明確な敵意を持つことはないし、心配はいらないだろう」
「せやったら良いけど……なんだかなあ……」
トウジたちのことを憂いながら、マイヤーも少し顔を赤らめてボフッとトウジのベッドに倒れ込んだ。
「ところでマイヤー」
「なんやねん」
「トウジの枕、なんだかちょっと甘い匂いがするのだが、どうしてだろうか?」
「あー……」
「私の本能的な部分が彼の匂いに、フェロモン的なものに感応して甘い現実を見せているのだろうか、興味深い」
「いや、多分そこでいつもお菓子食ってるジュノーの……」
そこでマイヤーは言葉を止めた。
猛烈に枕の匂いを嗅ぎ出したオスローに引いたからである。
匂いの元はジュノーのよだれなのだが……。
それを教えずシーツの専有権のみを確保したのだった。
(しばらく寝るとき使わしてもらおっと)
ペンで端っこに「シーツス」と書かれたトウジの掛け布団、拉致。
=====
オスロー「くんくんくんくんくんくん」
マクラス「やめろおおおおおおお!!」
マイヤー「すんすんすんすんすんすん」
シーツス「お兄ちゃあああああん!!」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました