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本編
763 トイレの守護者様
「すまんのー待たせたのじゃー」
みんなと一緒にがやがやと姿を現したラブ。
ツインテールが片方だけ取れていた。
そう、右側である。
「予備を探すのに手間取ってたんじゃ、でも見つからんかった!」
「ここにあるしな」
「おー!」
手元にあるツインテールを渡すと、受け取って右側頭部にパチッ。
どうやって装備してんだそれ。
「どうなってんだ……?」
「セパレートタイプなのじゃ」
その日の気分によって、高い位置、低い位置と切り替えるらしい。
いや、そう言うことを聞いてるんじゃなくてだな……。
呆気にとられていると、ラブを連れて戻ってきたイグニールが言う。
「まあ、無事で良かったじゃないの」
「そうだけど」
深く考えない方がいいのだろうかね、この辺。
「ねートウジ! アレ欲しい! あたしもお揃いにしたい!」
「イグニールにやってもらえ」
ジュノーの髪の長さでも、できないことはない。
ちょっと短めって形だが、それでもお揃いはお揃いだ。
「イグニールやって! お揃いにして!」
「はいはい。でも地味に難しいのよね……」
確かに、小さなジュノーの髪を結ぶことは繊細な作業を必要とする。
イグニールには、言っちゃなんだが無理だ。
繊細な作業が得意なやつと言えば、ポチである。
「やっぱりポチにやってもらった方が良くない?」
「何よ、その言い方」
「いや、難しそうだから」
「できるわよ!」
「……やっぱりポチにやってもらうし」
俺の言葉を察したのか、ジュノーはそそくさとポチの元へ行った。
その後ろ姿を見て、ズーンと気を落とすイグニール。
「ま、まあ人って得意不得意あるからさ」
「……フォローになってない」
「えっと」
「あんたの頭こっちに寄越しなさい、私が結わえてあげる」
「いや俺のはちょっと……髪もそんなにいじって欲しくないかな……」
「黙りなさい」
「いだだだだだ! 引っ張らないで! やめてー!」
御無体なことに、俺の頭は無理やり二つ結びにされた。
左右対称ではなく、時計で例えると2時45分程度。
「……」
そんな俺の様子を見て、さらに自分の不器用さに愕然とする嫁さん。
もうフォローできないぞ、俺。
できることは、ひとまずこの妙に突っ張った髪型を続けるくらいだ。
「イグニールの嬢ちゃん、意外と不器用だったんだな」
「ええまあ……」
「せめて料理くらいは俺も教えるの手伝うぜ? 愛妻料理は重要だろ?」
「えっと……」
パインの提案は嬉しいのだけど、料理はポチがいる。
1品2品くらいだったら食べんこともないが……。
イグニールに求めてる部分って確かそこじゃなかった気がする。
性欲とかも、今は皆無だが、前からそこまででもなかった。
なら何を、という形になるのだけど。
もう十分過ぎる程、俺の求めていたものはもらっているのだ。
わかってくれている。
そんな理解者は、いてくれるだけで良いのだ。
「イグニール、側に居てくれるだけで俺は十分だよ」
「トウジ……」
自分の人生には、それが大きく欠けていたわけで。
そこまで多くを相手に求めるのは失礼だよね。
「私はそれが不満だってキレてんのよ。求めなさいよ」
「あ、あれ?」
どうやら求めなさいとのこと。
色恋沙汰って、難しいね。
「まあ良いわ。とにかくさっさとあの3色バカを倒しなさいよ」
「あっはい」
命令されるがままに、放置していたジュニアの方へと目を向ける。
「あ、あの時一撃で倒したはずでは!?」
ひょっこり現れたラブを目にして、驚くアンダンテ。
ラブが言い返す。
「貴様ー! お腹痛い時に攻撃してくれたのー!」
「何! 大事な時に腹を壊す方が悪い! それにしても何故生きている!」
「ギリギリでトイレに転移したからのう、危なかったんじゃ」
命が、ではなさそうだな。
危険だったのは漏れそうだった方っぽい。
時系列的には……。
俺たちが、ラブがこねえなと不審に思っている時。
それがトイレで冷や汗を流している時だったっぽい。
だから気付かなかったらしい。
「戻ろうと思ったら……なんか一気に権限奪われたエリアもあるし、何事かと思ったんじゃ」
「それは後で返すから大丈夫だよ」
ジュニアを元に戻したらまたこの断崖凍土の一部に戻るだろうしな。
「同じ構造に再建するのが面倒なんじゃー!」
「はいはい、リソースと新しいデザートもあげるから機嫌なおして」
「新しいデザートとな!? よし、許すのじゃ!」
ちょろい。
「……なんか、やる気がなくなったからもう帰って良い?」
わいわいと言い合う俺たちを見て、やる気をなくしたジュニアがそう言う。
今まで熱い展開だったのに、途端に締まらない展開になっちゃったからな。
見せ場を失って気持ちがだれてしまったのだろう。
だが、帰るのはダメだ。
一度戦うと宣言したのならば、最後まで戦いなさい。
「やると決めたことは、しっかりやれ!」
「お前がそれ言う? はあだるい」
もう良いよ、とため息を交えてジュニアは言葉を続ける。
「情報の引き出し合いとか、そう言うのも目的にしてたけど……このバカ相手には無理そうだからな」
「バカとはなんだ!」
「バカはバカだよ。味方の安否確認も取れたことだし、茶番は終わりにするぞ」
ジュニアが腕を振るった。
その瞬間、でかい部屋が大きく揺れた。
「キングたちには全く意味なかったけど、現実に生きるお前にならよく効くだろ」
「む? 何をするつもりかわからんが、意味ないぞ! 貴様の攻撃力じゃ通用しない!」
「だったら耐えてみろ」
床から球体が生まれて、アンダンテを取り囲む。
為す術なく捕まったアンダンテ。
そして数秒後。
球体が消え失せると、そこにはボロボロの状態になったアンダンテが姿を現したのだった。
え、何したの……?
=====
ダンジョンだからできることをしました。
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