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本編
773 . ※ジュノー視点。
「ずっと考えてきたんですよ、私たちは。この閉塞した状況を打開する日を」
「御託はいい、消えろ」
「クフフフ、消せるものなら、早く消していただきたいのですよ!」
「うっ」
体を掴まれ、今にも攻撃を仕掛けようとしていた。
いや、仕掛けてきた憤怒の目の前に掲げられる。
すると、またしても憤怒の仕掛けた攻撃は、途中で止められた。
「……」
前と違うのは、憤怒の表情が少しうごしたと言う点。
頭の中で何かを考えている訳ではない。
自分の考えになかった挙動を、無数の逆鱗がとった。
それに対して、少しだけ驚いている表情。
「ハハハ、殺せませんよね? 私もです」
「ビシャス、その小娘は何者だ」
「はて、何者なのでしょう?」
「な、何者って……あたしはダンジョンコアだし!」
「そうですね。わかっている部分はそうですが……」
ビシャスは、あたしを掴んだ手とは別の手の爪を伸ばし。
何度も何度も斬りつけようとした。
不思議なことに、その爪はあたしの体を貫く前に止まる。
そんな様子を見ながら、話を続ける。
「貴方を殺せないという事実は、一つの解をもたらします」
「?」
「私たちが唯一殺せない存在。それは、神だけなのですよ」
「えっと……つまりあたしが神ってことだし?」
ええええ!
あたし神だったし?
本当?
トウジ敵に言うなら、リアルマジのガチだし?
「そんな訳ないじゃないですか」
「あっはい、だし……」
「でも繋がりのある何者かであることは、確かでしょう」
急にそう言われても何がなんだかわからないけど。
あたしを殺せないと言うことは、勝機につながる。
これから、トウジはこいつらと戦う。
その時もしも、もしも、トウジがやばかったら……。
あたしが前に出ればなんとかなるってことだし。
良いこと聞けたし。
「言いましたよね。閉塞した状況を打開する日を待っていると」
「……」
黙ったままの憤怒に、ビシャスは語りかける。
「貴方の中にある怒りの呪いを解く鍵になるとは思いませんか?」
「呪いってなんだし」
「良い質問です。私はこの話をしにきたんですから……」
ビシャスは語り出した。
「今となっては伝説の勇者たちよりもさらに古い話ですが──」
◆
──昔、この世界に災厄が訪れた。
空からは、破滅をもたらす神々の使途。
その時を生きていた者たちは飲み込まれた。
為す術無く、みんな一様に。
そんな中、立ち向かった者たちがいる。
世界を救うという大それた使命とは、関係なしに。
その身に降り注ぐ火の粉を打ち払える力を持った。
……曲がり者の8人。
一人は、独占欲の強い逝かれたストーカー男。
愛した女を殺させないために、立ち上がった。
一人は、嫉妬深くて我の強い、超絶淫な乱女。
自分の特別な世界が朽ちるのを許せなかった。
一人は、世界を喰らう力を持った強大な魔物。
文字通り、神々の使途すらも食べる力を持つ。
一人は、最強以外はどうでも良い、唯我独尊。
ただの負けん気が、彼を戦場へと向かわせた。
一人は、いつも憂鬱で塞ぎがちなじめじめ女。
ごめんなさいごめんなさいと、使途を殺した。
一人は、面倒臭がり屋ですぐサボる異世界人。
どこから来たのかわからないが、何故か居た。
一人は、優しいがキレると手に負えない龍人。
愛する者を守るために、彼は脅威に対抗した。
一人は、混沌を好み、虚が得意なペテン野郎。
曲者達が戦うのを見たくて、みんなを集めた。
曲がり者達がペテンによって集められた。
みんなお互いをよく思っていなかったが、そんなことはどうでもよかった。
敵が来るから、打ち倒す。
ただそれだけのために、不思議とまとまっていた。
それでも、厄災は徐々に強力なものへと至り。
少しずつ、全員が傷を負い始めた。
想像していたよりも、とてつもない力だったのだ。
どうしようもない、そんな状況で。
突然、彼らの前に舞い降りた。
彼女は名乗る、この世界の神であると。
そして、曲がり者の8人に力を渡すと。
ペテン師は、まるで自分が人を騙す時のような言葉だと警戒した。
だが他の連中はそれぞれの思いを胸に、その力を享受することに。
……そうして終止符を打った。
世界を覆った厄災に、8人の力でピリオドを。
◆
「ああ、思い出すだけでもなんとも泣けて来る美談ですねえ……」
でも、と急に険しい目つきになったビシャスは続ける。
「それがそもそもの間違いだったとは気付かずに……バカですよ」
「バカ? それでどうにかなったから今がある訳だし?」
八大迷宮と呼ばれるダンジョンが作られたのはその後。
崩壊しかかった世界を正すための後処理みたいなものらしい。
「言われていたことは、神同士の戦いをお手伝いをすることだったんですよ」
「手伝ってるし? そして勝ってるし?」
「クフフフ、人柱ですよ、人柱。厄災の封印と同時に、ね……?」
ビシャスは言う。
自由を奪われてしまった、と。
「目の前にいるヒューリーのように、よくわからない呪縛を植え付けられたまま」
「……」
黙って話を聞いている憤怒を見ると、その話は間違っていないように思えた。
「だから私は、もう一度神を呼び出すために、こうして世の中をこねくり回している訳です」
「どういうことだし?」
「クフフ、勇者召喚ですよ、勇者召喚。それに魔王召喚もあの時の状況にぴったりです」
「えっ、つまりそれって、わざと面倒ごとを起こしてるってこと?」
「大正解。ですが、それも全て失敗に終わって来ましたけどね。勇者は良いとこ行けたんですが……」
こいつは、とんでもない悪党だし。
つまりそれって……。
こいつの恨みに巻き込まれて、トウジはこの世界に来たってことになる。
「最低だし! だいたい、閉じ込められてても外に出れるじゃん!」
自由を奪われたとか、そんなの関係ない。
ダンジョンコアだったとしても、ずっとダンジョンに引きこもらなくても良い。
それは、あたし自身が証明している。
「外に出て、甘いもの食べて、すっごく美味しくて、楽しいし!」
「そんな単純な問題じゃないんですよ。私たちはどこか狂わされたんですから」
もっとも、元から曲がり者でしたけどね、とビシャスは言葉を締めた。
「狂ってても別に平気だし! それは自分の問題で、解決できるし!」
「暴食を抑えた件について言ってるんですか?」
「そうだし! トウジやパインがきっかけで、みんな幸せだし!」
「クフフフ、良かったですね。でも全てがそうじゃないんですよ?」
「大丈夫、トウジが──ぐえっ」
「さて、そろそろ黙っててください。もう昔のことなんでどうでも良いです。今はあなたを見つけたんですから」
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