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本編
783 霊体でやばいやつにであった
しおりを挟む(ナ、ナニアレェッ──!!)
なんかしんみりした気持ちになっていたら、なんかいるんですけど。
(ああ、おいたわしやお姉様ぁ……お姉様、お姉様お姉様)
やばい。
時には頬を抑えて恍惚としたり。
(それもこれもあの男が起因しているのかしら……ギギギ)
稀に爪を噛んで恨めしそうにしたり。
とにかく、ヤベェのが目の前にいらっしゃった。
マイヤーは気づいていない。
つまり、俺と似たようなタイプである。
更に言えば、俺はあいつを知っている。
そして俺の知る人物は生きている。
オスロー親子の研究所に勤めているその名は、ローディ。
サルトの冒険者をしていた頃に助けた女性。
イグニールによって作られたダメ女である。
もうとんでもない心頭ぶりは、どこぞの学校の七不思議になるレベル。
ここへ来て。
ここへ来てこいつが出てくるのなんでだよ。
正直言って、ダンジョンコアよりやべえ相手だぞ。
(やべぇ、逃げないと……)
(お姉様ぁん……あ? なんだお前だれだよ)
気づかれた。
戦いますか?
いいえ、逃げます。
(いや、ちょっとその辺を通りかかった霊です。それじゃ)
(待ちなさい)
肩を掴まれた。
逃げられない。
(あの、その、えっと……どちらの地縛霊ですか?)
(生き霊ですよ)
自分で言ってんだけど、こいつ。
まあ、そうなんじゃないかとは思った。
だって生きてるもんな、お前。
(くっ、こうして霊体になってまでお姉様の身を案じているというのに……)
生き霊ローディは、言い表せないものすごい形相で叫んだ。
(どこまで私の邪魔をすれば気が済むんですか、あなたは!)
(ええ……邪魔も何も、久しぶりにあった相手にそれ言う?)
俺はこいつとの接触を徹底的に避けて来た。
だからそんなを言われる筋合いはないのだけど。
(言いますよ! お姉様と隣にいつもいて!)
(パーティーだからね)
(ずるいずるい、研究所のトップじゃなければ殺してます!)
こ、怖い。
権力的なガードは通じないタイプかと思ったのだけど。
その辺の分別はまだ持ち合わせているようだった。
こうして生き霊になってまでこっそり見守るストーカーだからな。
イグニールの迷惑にならないことを一生懸命考えての上でだろう。
(なんで生き霊になっても自我持ってるの? 本体は?)
(は? そんなの普通に決まってるじゃないですか)
えっ、普通なの?
この世界の生き霊って、普通なの?
(貴方だって普通に過ごしてるじゃないですか? バカなんですか?)
(いや俺は……)
ちょっとちげーんだよ。
くそ、こいつと話してるとバカになりそうだ。
(本体は何してるのかって聞いてんのよ。仕事しろよ、研究所で)
(大丈夫です。ここにいる私はお姉様の愛専門の感情なんで)
(は?)
(私の本体は、研究への熱意を持ってデスマーチに勤しんでいます)
(そ、そうなんだ……)
聞けば、イグニールへの愛のみがこの場にいるらしい。
そして、本体は歪んだ愛情が抜け落ち、すっきりした表情で仕事に打ち込んでいるそうだ。
知らんがな。
(と、とにかくキモいから帰れよ)
イグニールの部屋に、だ。
ドアを透過して顔を突っ込んで、下腹部をもぞもぞしながら見るのやめろ。
何してんだお前、霊体の有効活用をするな。
(は? 貴方に言われたくありません)
俺のことを蔑んだ目をしながら、ローディは再びスポッと顔を突っ込んだ。
こいつ、こんなことずっとしてたのか?
プライベートもへったくれも何もねえなおい……。
(あのさ、お前と一緒にしないでもらえる……?)
(貴方も生き霊なんでしょ? 私のは愛、貴方のは性欲。貴方のがキモい)
お前に言われたくねえええ!
(ちげえよ。俺、普通に死んでるんだけど)
(死んでる? ついに天罰での当たったんですか?)
(こっちに死体あるよ)
(うわグロっ、片足ないし、色々焦げて、何やってたんですか……)
(ちょっとダンジョンコアと死闘してたら、ちょっとね……)
(ダンジョンコアって……まあ、死んでるんなら成仏してください。それじゃ、私は見守る仕事がありますんで)
(ちょ、ちょっと待って!)
(なんですか? 邪魔です。今忙しいんですよ。久しぶりにお姉様に会えたのに……)
こいつ、俺とイグニールが結婚したことに気付いてないのか。
知ったら何されるかたまったもんじゃないな……。
(いや、どうやって生き霊から本体に戻るの?)
(はあ? もう死んでるなら諦めてくださいよ)
(いやいや、一応今後の参考までに……)
馬鹿げた話だが、こいつから蘇る方法が聞き出せそうな気がした。
確かに死んじゃいるが、あくまで墓ドロってだけで、まだ生きている。
こうして意識があるんだからね?
死んだ連中がみんな幽霊になるのならば、周りは幽霊だらけだろう。
=====
幽霊になったら、絶対覗き見する。
そういう回です。
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