494 / 650
本編
794 女神の頼み
「この世界の女神……なら、俺たちを召喚した張本人ってことですか?」
「いやそんな面倒くさいことする訳ないし」
女神ユノはバッサリと否定しながら言葉を続ける。
「そもそも命って、何もしなくても生まれ滅んでを繰り返すもんだし」
「確かに」
「あたしの存在ってこの世界にある魔力由来だから、女神ってのもどうだかね」
「自分で女神だって自己紹介してたのにですか」
「そりゃ人間が勝手に女神って呼んでるだけ。でも、お前もそれが受け取り易いでしょ」
「まあそうですね」
この世界の力の根源は魔力である。
その魔力の概念体みたいな存在は、神にも等しい。
あれ、ってことは、怨嗟の鎖って……神?
「そうだし、モースは神の一人的な感じだよ」
的な、と言うことは神と呼ぶのは人だけだってことね。
女神ユノも、あくまで概念のような存在である。
「つーか、神様相手に俺は毎日拷問してしまっていたのか……」
「そんなことしてるし!? まあ、あいつキモいから別に良いけど」
女神目線でも、あいつはキモいのか。
この女神とは話が合いそうだと思った。
「とにかく元の世界に戻る方法を……」
と、そこまで考えて、そういえばと思い至る。
教団が崇めていた神っていったいなんなんだ?
キングさんが潰しに行った聖堂の像は、男の物だったんだよな。
そして、地下室に女神ユノを象った小さな像が保管されていた。
「はやく帰れし」
「いや、俺の思考読めるなら、何を言いたいかわかりますよね」
「……まあ、ちょろっとだし」
「神って他にも存在するんですか? 勇者を呼んだのが貴方じゃないなら、別のやつが」
「そんなの人間が決めることであってあたしが口出しする権利はないし」
ただ、と女神ユノは続ける。
「ある時期に、この世界には何かの介入があった。それは災厄と呼べるものだったし」
「ふむふむ」
ダンジョンコアたちが頑張った過去の災いとやらだな。
昔の勇者が召喚されるずっと前に起きたと言われる。
「でも結局あたしが何かしなくても、生きてる奴らがなんとかしてたし」
「めっちゃ強いですからね、ダンジョンコア」
生存を心がけてきた俺だって、戦って死んじゃったくらいだ。
災厄とやらが押し寄せても、ダンジョンコアがいれば割となんとかなる。
「しかし、そこから少し歪み始めた、と言っても過言ではないし」
「歪み?」
「世界にあるダンジョンって、正直、得体が知れないんだし」
「そうなんですか?」
「あの災厄の時も、ある時期を境に彼らはダンジョン化して脅威に打ち勝った」
けど。とユノは少し悲しそうな顔をしながら言う。
「その後の彼らは、あまり見ていて良いものじゃないっていうか……可哀想」
「俺は羨ましい限りですけどね」
わりかしなんでもできるのがダンジョンコア。
でも、永遠の命っぽいものは必要ないかな。
真っ当に子孫残して、孫に囲まれながら大団円したい。
「ま、それをきっかけに一人が歪み始めて、勇者召喚しだしたり、世界のあちこちで悪さするようになったんだし」
「色々はしょり過ぎでしょ……」
「なんか途中で話すの面倒くさくなったし。とにかく、せっかくここに来たんだからあたしの願いを聞くし」
「ええ……いやって言ったら……?」
「戻さない。監禁する」
「ええ……」
脅迫じゃないか、脅迫じゃないかー。
「一応話だけは聞いておきますけど、なんですか?」
「彼らを助けてあげて欲しい。あたしはここから動けないから、お前にやってもらいたい」
「……」
ダンジョンを助ける、か。
そりゃまた無理難題をふっかけられたもんだ。
こないだ実際にそれやろうとして死んでるんだよな……。
命がいくらあっても足りない。
「大丈夫。力を貸してあげるし」
俺の考えを読み取ったのか、ユノはそう言いながら近づいてくる。
「力?」
「うん、普通はできないんだけど、お前にあたしの力の一端を少しだけ」
手と手が触れる。
この世に存在しない、魔力そのものである彼女の手は、ほんのり暖かかった。
「……よし、これでオッケーだし」
「あんまり代わり映えしないんですけど、何したんですか?」
「魔力権限の一部を渡したし」
「魔力権限?」
「魔力の流れを少し操作できるようになってるし」
「ふむふむ、厳密にはそれをどう使うんですか?」
「割となんでもできるし。魔力を媒介とした攻撃は無効とか」
「おお!」
「魔力を媒介にして、相手のステータスに自分のステータスを譲渡したりとか」
「ほお!」
いいね、ってことは逆も……。
「奪うことは無理。その権限だけは誰にも渡しちゃいけない決まりなんだし」
「そ、そうですか」
まあ、そんな物騒なものはいらないね。
防御系能力を得たってだけでも、十分だ。
ダンジョンコア相手に一度死んだからこそ、そこが重要だと痛感している。
そんな俺の心を汲み取って、彼女は力を授けてくれたのだ。
「かっこいいスキルじゃないけど、お前なら上手く使えるでしょ?」
「十分ですよ」
ちなみに、その上手く使えるという部分には他の意味も含まれてるんだろうな。
そう思って彼女の顔を見ると、微笑んでいた。
「しゃーねえ、やりますよ。やらなきゃ戻してくれないなら、やるしかないですし」
嫁が向こうで待ってんだ。
男らしく決断して、早いところ戻ってあげないと。
「お前がなんでこの世界に呼ばれたのか、少しだけ理解できたし」
「俺はちゃんちゃら理解できないですけどね」
「いーや、後できっとわかる時が来るし。この世に意味のないものなんてないんだし」
それだけ言うと、彼女は俺の手を離してふわっと浮かんでいく。
なんとなく、お別れの時なんだなと頭の中で理解できた。
「最後に一つ良いですか」
「なんだし?」
「女神ユノって呼ばれる前は、なんだったんですか?」
あくまで人間が定めたもんだからね。
他にも呼び名があるのだろう。
「──太初の力」
「ああ、なんかそれっぽい」
「じゃ、頑張るんだし」
「あっ、もう一個最後に良いですか!」
「……なんだし、ここは良い感じに別れを告げさせろし」
ハハ、お断りだ。
シリアスな雰囲気は苦手なんだよ。
「俺の知り合いにすっごい似てるんですけど、ひょっとして甘いもの好きだったりします?」
なんなら、神棚でも作ってパンケーキをお供えしておいても良い。
「……イチャラブ甘々展開は好きだけど、正直甘いものは苦手。ブラックコーヒーおいとくし」
「了解です」
顔や雰囲気、言葉遣いとかすごく似てるけど。
根本的な部分で少し違ってるから、関係性は薄いのかな──?
「………………あ」
光に吸い込まれて数秒後、視界に知っている天井が映った。
特に内装にこだわっていないゴツゴツしたダンジョン本来の天井である。
ってことは、俺は蘇ったってことで良いのだろうか。
「トウジ! もう!」
「トウジー! 心配したんだし!」
「うわああ、生き返ったほんまにー!」
「うお!?」
寝起きの歓迎は手厚い抱擁である。
異世界悪くないね。
=====
感想の予想コメ見ながら、ニヤニヤしてます。
鋭いみなさんは、本当にさっしが良いです。が……。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました