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本編
828 気合を入れろアキノトウジ
イグニールに手を引かれるがまま、俺たちは一度ギリスへ戻ることになった。
空を行く飛空船の中で、イグニールと話す。
「すごく啖呵を切ってたみたいだけど……良いのかな、本当に」
「良いも何も、あの人私が公爵家の血筋だって知ってたわよ」
「え、そうだっけ?」
「言葉に出てたじゃないの……聞こえてなかったの……?」
「は、はい……」
あの時は聞いてる余裕がなかった。
「……トウジ」
「……ふぁい」
ソファに座る俺の前に来たイグニールが、俺の頬を両手でムギュッと押さえる。
そして真っ直ぐな視線を向けながら、こう言った。
「しゃんとしなさいよ。いつまでもぐちぐち悩んでる場合じゃないでしょ?」
「ふぁい」
「みんなが居て家族。これはみんなのわがままだから、あなたも押し通しなさい」
「良いのかな……」
「たまにはわがままを言ったって良いのよ」
いやむしろ、とイグニールは言葉を続ける。
「わがままを言い合うのが、私たちなんじゃないかしら?」
「……わがままを言い合う、か」
「相手の顔色ばっかり見たって、それは家族とは言えないわよ」
そうだ。
確かに、彼女の言う通りだ。
俺に抜け落ちていた物。
でもって、今の居場所。
親しき中にも礼儀あり、と言うが、それを超えた関係性。
今まで作り上げて来たじゃないか、と納得する。
「ここにいるみんな、誰か一人が欠けることなんて望んでないの」
もっとも、しっかりとした意思があるなら、尊重すべきだけどね。
と、彼女は微笑んでいた。
「まだマイヤーに色々と話してないんだから、準備をしたらさっさとタリアスへ行くわよ!」
俺がうだうだ言う前に、イグニールは窓の外を見ながら言う。
視線の方角はトガル南方、海を越えた先に存在するタリアス。
「やっぱりギリスに向かうよりも先に、トガルの港ね!」
……ではなく、港町の方。
「え、タリアスに向かうんじゃないの?」
「それだと遅すぎるわよ。船に乗る前に確保しないと」
タリアス行きの船は首都の港からも出ている。
イグニールは、先にそこに向かい船に乗る前に確保する気でいた。
空の移動手段を持って、マイヤーが旅立つ前に一度会う。
そこで俺の気持ちをありのまま話そう。
謝って、そしてみんなの気持ちも改めて伝えるのだ。
「アォン」
「ほら、ポチも賛成だって言ってるわよ」
「あたしも賛成だし!」
おやつを持って来たポチ、それにつられて寄ってきたジュノー。
そしてじっと話を聞いていたゴレオも、力強く頷いている。
全員に背中を押されて、なんとか前向きになることができた。
本当に助かる。
俺は、これから先何度も選択肢を間違えることがあるだろう。
いやきっと間違える。
煮え切らない考えで、選択する前にゲームオーバーになってしまうことが多いだろう。
……帰ったら改めてお礼を言わないとな。
ってか、パーティーをしよう。
団欒がしたいんだ、俺は。
みんなで揃って、ご飯を囲って話しながら食べる。
それが目標で、今まで面倒ごとを終わらせようと頑張ってきたんだ。
そんな舞台にマイヤーが欠けている姿は、見たくない。
よし、イグニールの言う通り。
俺のわがままを押し通させていただこう。
「ワシタカくん! 方角はトガル首都で!」
「ギュア!」
俺はぐっと拳を握りしめて、飛空船を引っ張るワシタカに指示を出した。
言うぞ、言うぞ、言うぞ!
“戻ってこい、マイヤー”
この一言、この一言さえ言えれば良いんだから!
「トウジ、なんか気合入ってるけど……実際にマイヤーを目の前にしたら吃りそうだし」
「ちょっと不安ね。練習しておいた方が良いんじゃないかしら?」
一人で気合を入れていると、急にテンションが下がることを言うジュノー。
イグニールも、さっきまで応援していたのに、急に保守的になっていた。
何それ、急に下げるじゃん俺のこと。
めちゃくちゃ悲しい気持ち。
「よーし、ここはあたしが一肌脱いで、練習相手になってあげるし!」
「いや遠慮します」
「なんでだし!」
「もう腹はくくったし、ちゃんと言うから大丈夫だよ」
何が悲しくてジュノー相手に練習をしなければならないのか。
ちょっと恥ずかしいって思ってしまってる心情もなんか嫌だった。
=====
「マ、マママ、マイヤー! 戻ってきてくれ! き、君が居ないとダメなんだー!」
「……ね、練習しといた方が良かったし?」
「そ、そうね……ちょっと気持ち悪いわね……」
「マジか(吐血)」
「トウジ! そんなんだと、マイヤーに『何なん、誰なん、話しかけんなやハゲ』って言われるし」
「ぐふっ」
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