装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

文字の大きさ
528 / 650
本編

828 気合を入れろアキノトウジ

しおりを挟む

 イグニールに手を引かれるがまま、俺たちは一度ギリスへ戻ることになった。
 空を行く飛空船の中で、イグニールと話す。

「すごく啖呵を切ってたみたいだけど……良いのかな、本当に」

「良いも何も、あの人私が公爵家の血筋だって知ってたわよ」

「え、そうだっけ?」

「言葉に出てたじゃないの……聞こえてなかったの……?」

「は、はい……」

 あの時は聞いてる余裕がなかった。

「……トウジ」

「……ふぁい」

 ソファに座る俺の前に来たイグニールが、俺の頬を両手でムギュッと押さえる。
 そして真っ直ぐな視線を向けながら、こう言った。

「しゃんとしなさいよ。いつまでもぐちぐち悩んでる場合じゃないでしょ?」

「ふぁい」

「みんなが居て家族。これはみんなのわがままだから、あなたも押し通しなさい」

「良いのかな……」

「たまにはわがままを言ったって良いのよ」

 いやむしろ、とイグニールは言葉を続ける。

「わがままを言い合うのが、私たちなんじゃないかしら?」

「……わがままを言い合う、か」

「相手の顔色ばっかり見たって、それは家族とは言えないわよ」

 そうだ。
 確かに、彼女の言う通りだ。

 俺に抜け落ちていた物。
 でもって、今の居場所。

 親しき中にも礼儀あり、と言うが、それを超えた関係性。
 今まで作り上げて来たじゃないか、と納得する。

「ここにいるみんな、誰か一人が欠けることなんて望んでないの」

 もっとも、しっかりとした意思があるなら、尊重すべきだけどね。
 と、彼女は微笑んでいた。

「まだマイヤーに色々と話してないんだから、準備をしたらさっさとタリアスへ行くわよ!」

 俺がうだうだ言う前に、イグニールは窓の外を見ながら言う。
 視線の方角はトガル南方、海を越えた先に存在するタリアス。

「やっぱりギリスに向かうよりも先に、トガルの港ね!」

 ……ではなく、港町の方。

「え、タリアスに向かうんじゃないの?」

「それだと遅すぎるわよ。船に乗る前に確保しないと」

 タリアス行きの船は首都の港からも出ている。
 イグニールは、先にそこに向かい船に乗る前に確保する気でいた。

 空の移動手段を持って、マイヤーが旅立つ前に一度会う。
 そこで俺の気持ちをありのまま話そう。
 謝って、そしてみんなの気持ちも改めて伝えるのだ。

「アォン」

「ほら、ポチも賛成だって言ってるわよ」

「あたしも賛成だし!」

 おやつを持って来たポチ、それにつられて寄ってきたジュノー。
 そしてじっと話を聞いていたゴレオも、力強く頷いている。

 全員に背中を押されて、なんとか前向きになることができた。
 本当に助かる。

 俺は、これから先何度も選択肢を間違えることがあるだろう。
 いやきっと間違える。
 煮え切らない考えで、選択する前にゲームオーバーになってしまうことが多いだろう。

 ……帰ったら改めてお礼を言わないとな。
 ってか、パーティーをしよう。

 団欒がしたいんだ、俺は。
 みんなで揃って、ご飯を囲って話しながら食べる。

 それが目標で、今まで面倒ごとを終わらせようと頑張ってきたんだ。
 そんな舞台にマイヤーが欠けている姿は、見たくない。

 よし、イグニールの言う通り。
 俺のわがままを押し通させていただこう。

「ワシタカくん! 方角はトガル首都で!」

「ギュア!」

 俺はぐっと拳を握りしめて、飛空船を引っ張るワシタカに指示を出した。
 言うぞ、言うぞ、言うぞ!

 “戻ってこい、マイヤー”
 この一言、この一言さえ言えれば良いんだから!

「トウジ、なんか気合入ってるけど……実際にマイヤーを目の前にしたら吃りそうだし」

「ちょっと不安ね。練習しておいた方が良いんじゃないかしら?」

 一人で気合を入れていると、急にテンションが下がることを言うジュノー。
 イグニールも、さっきまで応援していたのに、急に保守的になっていた。

 何それ、急に下げるじゃん俺のこと。
 めちゃくちゃ悲しい気持ち。

「よーし、ここはあたしが一肌脱いで、練習相手になってあげるし!」

「いや遠慮します」

「なんでだし!」

「もう腹はくくったし、ちゃんと言うから大丈夫だよ」

 何が悲しくてジュノー相手に練習をしなければならないのか。
 ちょっと恥ずかしいって思ってしまってる心情もなんか嫌だった。





=====

「マ、マママ、マイヤー! 戻ってきてくれ! き、君が居ないとダメなんだー!」
「……ね、練習しといた方が良かったし?」
「そ、そうね……ちょっと気持ち悪いわね……」
「マジか(吐血)」
「トウジ! そんなんだと、マイヤーに『何なん、誰なん、話しかけんなやハゲ』って言われるし」
「ぐふっ」
しおりを挟む
感想 9,839

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。