529 / 650
本編
829 セバスとの会話
しおりを挟むトガル首都へと先回りした俺たちは、マイヤーが来るのを今か今かと待っていた。
来るまでに予想される時間は、めちゃくちゃ早くても約7日くらいである。
ほとんど端から端なので、意外と遠いんだな、これが。
それを1日で行けちゃうワシタカ超特急は、本当に素晴らしいもんだ。
普通の飛空船だと、ワシタカくんほどの速さは出ないのでもう少しかかる。
今後、この辺の交通の便を良くしていくとなれば……。
気軽に飛べなくなる時代が来るのかもしれないね。
「──で、2週間くらい経ったんだけど。マイヤー来なくね?」
「……おかしいわね」
窓の向こうに見える丘の景色を見ながら、イグニールと顔を見合わせる。
先回りして3週間。
もう確実に到着していてもおかしくないほど待っていたのだが、マイヤーは来ない。
マイヤーが来たらわかるように、トガル首都に入るための道がよく見える場所。
そこに居を構えてずーっとストーカーのように毎日毎日見ていたのだ。
装備やらポーションを作りながら、な!
2万個。
この数字は、マイヤーと話す切っ掛けにしようと思っていたポーションの数。
俺の計画では、ポーション納品したいけど良いかな?
って話を持って行く予定だった。
もし「今更なんやねん」と言われても、ビジネストークなら話してくれる。
そう思っていたのだ。
そこから俺の思いの丈とか、みんなの気持ちとかを伝えて。
最終的にはマイヤー戻ってこいと、とにかく頭を下げるつもりだったのである。
「せっかくマイヤー用の秘薬セットとか準備したのに」
「トウジ、それなんか営業に行くみたいだし……」
俺の一言にそんなツッコミを入れるジュノー。
「そうだけど、それが良いかなと思ったんだよ」
マイヤーとの関係の始まりって、こういうところからだった。
だから、初心に戻ってもう一度筋を通すために、俺はポーションを作り続けるのである。
「……にしても、いったいどうしちゃったのかしら?」
「ちょっと心配だし……」
「アォン……」
待てども待てどもマイヤーがこないという事実に、多少の焦りを感じてきた。
どこかで事故にあったのだろうか、それとも考え直してサルトに戻ったのだろうか。
実はもう首都に入っていて、俺たちがたまたま見逃しただけなのかもしれない。
「……アルバート商会、行ってみるか」
とにかく情報が必要なので、マイヤーの実家に足を運ぶことにした。
体裁的には、ポーションを持ってきたという形でいいだろう。
いつもマイヤーを経由していたのだし、その居どころを探るにはちょうど良い。
「む? トウジ殿ではありませんか」
「へ?」
その道すがら、急に声をかけられた。
振り返ると、燕尾服に身を包んだオールバックが良い渋さを出す人物。
セバスがいた。
「おお、お久しぶりです、セバスさん」
「久方ぶりです」
「買い出しですか?」
「いえ、今からギリスに向けて船に乗るところでございますよ。ご存知のはずですが……」
「あ、ああ、そうでしたね……」
セバスは、マイヤーの代わりにギリス支店へ異動することになったんだった。
向こうで立ち上げた商会をマイヤーが落ち着くまで切り盛りする手はずである。
もっとも、本当にマイヤーが戻って来るかはわからない。
あの母親の口ぶりからは、到底そうには思えなかった。
「何故、トウジ殿が首都に? とっくにギリスにお戻りになられているかと」
「え、えっと……」
ギクリ、と狼狽えていると、セバスはにこやかな表情をしながらこう言った。
「冗談ですよ。お嬢様を呼び戻しに来られたのでしょう?」
「あ、あはは……」
色々と察しているみたいだった。
できる男は違うね。
「トウジ殿、せっかく首都までご足労いただかれましたところ申し訳ないのですが」
「はい?」
「お嬢様は、首都からではなく別の港から出発いたしております」
「えっ!?」
「首都からも出ていますが、最速で行くとなれば南端の港からも出ておりますゆえ」
「し、知らなかった……」
どうやらイグニールも知らなかったようで、唖然とした顔をしていた。
嫁入り前の準備をすべく、首都に立ち寄るだろう。
そんな予想をして首都に来たのだから、イグニールは何も悪くない。
「私も、そこまで急ぐほどのものかと……少々困惑しておりますよ……」
「そうなんですか……」
商売人らしく、行動力がめちゃくちゃ高いマイヤー。
何もこんなところで発揮しなくても良いのにな。
先読みするはずが、そのさらに先を読んでいるみたいだ。
「トウジ殿、私はお嬢様には自由にしていただきたいと思っております」
南の方角を見ながら、セバスは語る。
「貴方と一緒に過ごされている間のお嬢様は、すごく楽しそうに仕事をしていらっしゃいました」
サルトを離れてギリスに向かってからも、定期的に手紙をもらっていたらしい。
「貴方がここにいる。この状況は、つまりはそう言うことなのでしょう?」
「はい」
どこまでも察しのいい男、セバスである。
「小さい頃から苦労の絶えない生活を送ってらしておいでですから……私の一個人の意見といたしましては、お嬢様がご自身で決めた道を歩んでいただきたい。そう心から思っております」
たしか、彼女は小さい頃から遠方に飛ばされて行商生活をさせられていたんだっけ。
あまり多く聞いてこなかったところだけど、結構過酷な幼少期である。
一緒にギリスに向かうことになったのも、魔導機器について勉強するため。
自由奔放にしていながらも、実情はかなり家に束縛された状況だったのだろうか。
「不躾なお願いではございますが、どうかお嬢様のことをよろしくお願いいたします」
「はい、すぐにタリアスに向かいたいと思います」
「その間、ギリス支店につきましては私にお任せください」
「ありがとうございます」
それだけ言って、セバスは船の時間がありますのでと港へ向かって行った。
日にちを考えれば、もうすでにタリアスについているだろう。
急がないと。
=====
色々こじれるタリアス編始まる。
更新が遅れてしまったこと、謝罪いたします。
55
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。