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本編
880 お留守番の民と進撃の不潔・1
しおりを挟む「……ぷぴ?」
時は少し戻り、トウジたちが忽然と姿を消した頃のこと。
いつもお留守番を任されるピーちゃんは、とりあえず家主を探すために部屋を駆け巡る。
「コッコッコッ」(いねぇな)
「ぷぴぷ」(いつものことだよね)
お留守番の民たちは、そんな会話をしながらリビングへ戻ることにした。
ふらっといなくなるのはいつものことで、数日すれば帰ってくる。
「コケッ!」(ピー助、飯食おうぜ)
「ぴ」(うん)
数日帰ってこない状況、食料の心配がつきものなのだが、心配はいらない。
こういう場合を想定し、ポチが年単位の料理をカバンにストックしてくれている。
「ぷーぴ」(今日はぎゅうどんにする!)
「コケーッ」(今日も牛丼の間違いじゃねぇのー?)
「ぷぴぷぴぷぴ」(そうともいう。でも飽きないお味)
「コケ」(わかるけどよ~。あ、俺つゆ抜きで頼むわ、啜れねえし)
「ぷ」(わかった。平べったいお皿にだすね)
「ケァッ」(サンキュー相棒!)
カバンをうまく扱えないストロング南蛮は、マイヤーいない時は基本ピーちゃんの世話になる。
「ぴぴ?」(今日はリクールさんが来てくれるんじゃなかったっけ)
「コケ」(お嬢がいないと、すぐ酒を飲ませようとして来るから無視すんだわ)
たまにリクールが様子を見に来る時があるのだが……。
従魔が主人の趣味に合わせないとは如何なものか、と最近たびたび酒を飲ませようとして来るので、うっとおしく思っているようだった。
「ぷぴ……?」(飲んでいいの……?)
「コケーッ」(飲んでいいわけねーだろぉ!)
「ぷぴ」(だよね)
呆れ口調でそう返しながら、ピーちゃんはキッチンの戸棚に飾られた酒を見ながら思う。
「ぷ、ぷぴ」(いつかぼくも飲めるようになるのかなあ?)
「コケッ」(飲めるようになるんじゃね? ハイオークってもっとでかくなるんだろ?)
俺は進化拒否して、いつまでもこの体型でいるけどな、と言葉を占めるストロング南蛮。
魔物だが、人に近く。
進化なんて関係なしに成長してしまうピーちゃんには、それがとても羨ましく思えた。
同時に、この平凡なやりとりがいつかなくなってしまうのかと寂しくなる。
「ぷぴー」(大人になっても一緒にご飯食べようね?)
「コケー」(ったりめぇだろ。むしろずっと飯を皿に出す係してほしいくらいだぜ)
「ぷぴ」(南蛮くん、器用にじゃんけんできるから、普通に色々できるんじゃないの?)
「コケ」(全身全霊で翼曲げてんだよ。言わせんな恥ずかしい)
「ぷ」(ごめん)
「コ、コケッ!?」(いいってことよ……む!?)
そんな会話をしていると、ストロング南蛮が何かに気づいたように固まった。
首を傾げていたピーちゃんも、すぐにその存在を感じ取り冷や汗を流す。
「ぷぷぴ!」(来た! あいつが来た!)
「コケーッ!」(今日はいつも以上にとんでもねぇ匂いだぜ!)
今からご飯を食べようとしていたのに、食欲を失う強烈な匂い。
ピーちゃんとストロング南蛮は、一旦食事をやめて隠れることにした。
奴が来ると、食事どころじゃなくなってしまうからである。
「昼飯時に私が来たぞ。さあ歓談しながら食おうじゃないか……ふむ? なんだ、いないのか?」
ヨレヨレの白衣を身にまとった髪の毛ギトギトでボサボサの女性。
いつものオスローである。
最近身だしなみを多少は気にするようになったとはいえど、仕事中は前とあまり変わらない。
というか、仕事に熱中しすぎて洗濯が追いつかず、体も衣服も汚いままの負の連鎖真っ只中であった。
「おーい、いないのか? 本当に誰もいないのか?」
再三に及ぶ、確認の声。
彼女は誰もいないことがわかると、顔をニヤリとにやけさせる。
「フフフ、と、言うことは……もふもふぷにぷにし放題じゃないか」
いやらしい笑い声を浮かべながら、オスローはリビングの隅々を探し始めた。
「どこかなピーちゃーん? ストロング南蛮ちゃーん?」
彼女は、白衣、上着を一枚一枚脱ぎ捨て、裸足のままペタペタと徘徊する。
「コケ」(なんでいつも脱ぐんだよあいつ)
「ぴぷ」(全身で楽しむためらしいよ)
「コケッ……」(やべぇ、やべぇよおい……)
「ぷー……」(この家、安全だって言うけど、結構いろんな人が来るよね……)
ピーちゃんとストロング南蛮は、ただならぬ不安を感じながら隅で身を寄せていた。
見つかれば、とんでもないことになる。
あの匂いを間近に、彼女の仕事の時間が来るまで永遠と愛撫されつづける地獄。
トウジたちがいる状況ならば、彼女も控えめになる。
そもそもあまり匂いを立ててこない。
しかし、誰もいない状況ともなれば話は別だ。
「隠れんぼかな~? フフフフ、ならば探そう。私の頭脳を持ってすればフフフヒヒヒ」
抑圧された本心の解放。
それはいともたやすく人間を変える。
「ぷぴ……」(これが大人なら、ぼくも大人になりたくないかも……)
「コケッ!」(バカ! 喋るな! バレるぞ!)
「みーつけた」
二人を覗き込む変態。
髪の揺れとともに、さらっとフケが落ちて、それが二人の背筋を凍えさせる。
「コ、コケーッ! コケーコッコッコッ!」(あばよ相棒! 生きてたらどこかで会おうぜアディオース!)
「ぷぴーーっ!!」(待って置いてかないで! ひどいよ!)
オスローの両足の間を通ってさっさと逃げていくストロング南蛮。
ピーちゃんは友情に一抹の不安を感じた。
しかし、今一番大切なことは目の前の存在から逃げ、生き延びること。
「あっ! どうして逃げるんだい?」
彼女が一目散に逃げ出したストロング南蛮に目を奪われた隙に、ピーちゃんも必死で走った。
廊下を抜けて、地下へ、地下へ。
「鬼ごっこがしたいのか?」
小動物たちの会話なんて理解できないオスローは、その様子を見ながらニンマリする。
「まったくもー、お姉さんと遊びたいだなんて、仕方ないなもー」
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ダンスオブアニマル
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