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本編
882 降格されたくなければ、依頼を受けろとのこと
しおりを挟む約1ヶ月ほどの時をかけて、タリアスから国を一つまたいでギリスへと戻ってきた。
せっかく暖かくなっていたと言うのに、季節は再び秋口。
北国では普通に雪も見られる、そんな景色に移り変わっているようだった。
そろそろ異世界に来て2年くらい立つのではないか?
順風満帆とはいかないが、そこそこ楽しくやれているはずだ。
戻って来る道中で、嫁二人を含めて様々なエピソードがあったのだが、割愛。
うむ、今年の夏は情熱的だった……という言葉で締めておきましょう。
「ただいまー」
「ぷぴー!」
「コケッ!」
懐かしの我がマイホーム、いやマイダンジョンに帰るとチビ二人がお出迎え。
「あれ、なんかピーちゃんちょっと成長した?」
モチモチのちっこいのを抱きかかえると、なんとも前よりモチモチしている。
うーん、ただ太っただけかな?
「南蛮も元気しとったかー?」
「コケッ!」
しばらく留守にしていたが、この家には知り合いが常々出入りするからな。
誰かしらが世話してくれるし、みんな賢い子で食料備蓄もかなりある。
元気そうな姿を見て、何も問題がないことに少しだけホッとした。
「ふう、やっと戻ってこれたのね」
「体調は大丈夫?」
「平気……とは言い難いわね。気だるさが前より少し酷いくらい」
「部屋でゆっくりしてなよ」
身重のイグニールは、魔力の制御が前より少し効かなくなっていた。
宿した子に一部を取られているのか。
ステータスのMP量も母数の方が徐々に減っている。
聞くところによれば、安定するまではこうして不安定になるらしい。
不思議だな、異世界。
そうやって母体の魔力を受け継ぐとするならば、俺の子はどうなる。
……末恐ろしい。
俺、しっかりパパができるのだろうか。
少しだけ不安になった。
「うち、長い間ほったらかしにしとったから、ちょっと商会とか諸々確認しに行って来るわー」
「いってらっしゃい」
「これからタリアスの空いた穴にも販路を広げるんや、ゆっくりなんてしちゃいられんで!」
長旅からの帰宅だというのに、意気揚々と商会へ向かうマイヤーを見送る。
帰路の道すがら、彼女の両親への挨拶も済ませていた。
マイヤー母からの謝罪、父からは娘をよろしく頼むという言葉を無事いただいた。
他にも色々と細かい話をしたのだけど、そこも割愛。
孫はまだか、とか。
まだに決まってんだろ。
マイヤーがタリアスがどうのこうの言っていたが、イイユ・ダーナは潰す。
それは確定事項です。
温泉利権とやらも、ダンジョンコアから直々に俺が許可を取り付けて来た。
そこにアルバートとうちの商会を食い込ませて、飛空船の発着所にしてやる。
「あたしはダンジョン内の見回りしてくるし!」
「はいよー」
放置していたダンジョンの見回りに向かうジュノーを見送り、リビングでポチとピーちゃんを膝に乗せてくつろいでいると。
「トトトトト、トウジさーん!」
間借りしている部屋のドアが叩かれた。
聞き覚えのある声はエリナのもの。
「なんだなんだ?」
ポチとピーちゃんを体にしがみつかせたまま、間借りしている部屋に向かいドアを開ける。
住所は教えてないはずなんだがな……。
「なんですか?」
「あっ! 本当にいた!」
「……はあ?」
俺の顔を見ながら、そんなセリフを口にするエリナ。
「トウジさん! 住所を教えてくれないから、町中のドアを叩く羽目になってましたよー!」
「ええ……」
「他のギルドに出入りしたって報告もなかったですし、まだこの街にいると信じてました!」
どうやら、彼女は俺を探して俺が住んでそうな部屋を片っぱしから叩いてまわっていたらしい。
それだけ聞くと、ただのやばい人なのだが、指名依頼対策に住所を教えなかった俺も悪い。
「で、何の用ですか」
「その、あまりにも不在かつ依頼を受けていらっしゃらないようなので……その……ランク降格になってしまいます!」
「あー……」
そんなルールあったっけな、と思いつつ。
ギルドに行かなかった期間を考えて、彼女の言葉にもなんとなく納得する。
Sランク冒険者になってしまえば、あとの依頼は放置で旨味だけを得るなんて、虫のいい話だからだ。
「依頼を受けたらいいんですよね? じゃ、薬草取って来たんでそれを」
「薬草じゃ、なんの評価にもなりませんよ!」
「1トンくらいあれば評価になったりします? それを取りにずっと留守にしてたんですよ」
「アォン……」
「ぷー……」
息を吐くように嘘をつくなとか。
その薬草は僕が作ったもんだとか。
そんなニュアンスの講義の声が聞こえるが、一切合切無視だ。
冒険者ギルドなんて、あくまで身分の保証。
元いた世界方式で言えば、免許証とか健康保険証である。
「1トンて……なんでそんな量の……って、どれだけ数があってもダメです! むしろありすぎもダメです!」
「ええ……ちなみに降格ってAランクになるってことですか?」
「トウジさんの場合、Sランクでの実績がほとんどなく、かつ不在期間も長めだったので最初からになります」
「……えっ」
最初から?
そこそこ苦労してSランクになったってのに、かなり厳しい対応だった。
評価は悪くないはずなのに、なんだこのマイナスっぷり。
「本当ならとっくに降格ですけど、私がなんとか時間を稼いでおきました!」
「おお」
「草1トンとともに、その依頼を達成すればかなりの評価を得られるはずです!」
「ふむふむ」
「っていうか私のSランク担当ボーナスが全てなくなる可能性があるのでお願いしますよぉ~!」
涙目になりながら懇願するエリナ。
そのために必死こいて探してくれていたっぽいし、ここはひと肌脱いでおきましょう。
「降格を免れる依頼の詳細を教えていただけますか?」
「はい! 深海調査です!」
「ん……? なんて?」
「深海調査です! 未だかつて誰も達成できたことのない依頼ですけど」
と、そんな不穏な前置きをしながら、彼女は言葉を続ける。
「たぶんトウジさんならいけると思って、これしかないと思って取って来ました!」
「ええ……一つだけ聞いてもいいですか?」
「なんでしょう?」
「エリナさんの私利私欲とか、一切関係なく、選んでくれたんですよね?」
「……それは違います! でも、達成報酬は過去の失敗分が乗りに乗りまくってめちゃくちゃ高いですよ! これならトウジさんも受けてくれる金額だと思って、選んで来ました! ほら、過去の傾向から多少困難でも高い依頼しか受けなかったじゃないですか!」
「それはそうですけど……」
「あと、トウジさんの評価ももちろんですが、私のボーナスにもかなりの色が付くみたいです! でも私利私欲じゃないですよ! これはあくまでついでです! トウジさんの活躍を見越して、ちょっと広い部屋に引っ越してみたりとか、最新の魔導機器をローンでいっぱい買っちゃったりとか、それでちょっと生活が苦しいとか、そんなのは一切関係ないですからね!」
「お、おう……」
俺の依頼の傾向はあっているが、そのあとのついでとやらに、めっちゃ私利私欲入っとるがな……。
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