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本編
884 親の気持ちがわかるかね
しおりを挟む「えっと……一応、空の移動手段を使った方が手っ取り早いんですが……?」
「申し訳ありませんが、ギルドの指定、準備に則って行動をお願いします」
「え」
どういうことだ、そんなことは一度も聞いてないぞ。
確かにギルド側が移動手段を準備してくれていることはある。
しかし、それを用いるか用いないかは、個人の自由だった。
「ロック鳥を持ってることはみんな知ってると思いますけども」
「でしたら、そちらを用いていけば2ヶ月も待つ必要はありませんね」
「ぐ」
確かにそうだが、それでは満足に疲れも取れない。
揚げ足を取ろうとしているのか、この職員は。
「すいません、担当のエリナさんを呼んでいただけますか?」
新人だと融通が効かないかもしれない。
ここは一つ、エリナにお願いしよう。
彼女なら、なんとか俺のサボる時間をくれるはずだ。
まったく、こっちはやることがいっぱいあるんだよ。
嫁さんたちの側にいたり、ベビー装備を作ったり。
2ヶ月あれば全てまるっと準備できるんだからさあ。
頼むぞ。
担当以外とは俺は依頼の話はしません。
「彼女でしたら、移動手段のチャーターや食料の準備で先に港町へと向かっております」
「……ん? どういう意味ですか?」
なんだかまるで、俺に同行するようなそんなニュアンスなのだが……。
さすがにエリナに限ってそれはないよな?
彼女はリゾートには意気揚々とついてくる強かさを持っている。
つまり逆に考えて、ヤバいところには絶対にこないタイプだ。
移動だけでも2ヶ月かかる旅路についてくるとか、まさか。
「彼女には同行していただきます」
「マ、マジですか……」
そのまさかだった。
「ええ、マジです」
「いやいや、さすがにエリナさんを連れてとなると、逆に大変ですよ」
「それでも規定は規定です」
「ええ、聞いたことないですけど」
昇格依頼にはこっそり後をついてくる職員もいるが、これは違う。
あくまで降格阻止のための依頼だ。
Sランクらしく貢献できているかのチェックみたいなものである。
「とりあえず、話はエリナさんが来るまで待っていただくってことでいいですか?」
彼女に詳しく聞いておかなきゃいけない。
名目上、作戦会議ということでなんとか時間を作ることにした。
長旅から帰ってきてまだ初日だぞ。
レベル下がってしまった分も取り戻さなきゃいけないってのに、なんでまた……。
「その必要はない。合流地点は港だから、さっさと依頼に向かっていただこう」
受付の前でごねていると、そんな声が響いてきた。
ギルド2階の階段からカツカツと降りてくるかっちりとした背広に身を包んだ壮年の男。
オールバックにした白髪が、なんともお偉いさんちっくな風格を漂わせている。
「ギフテッド副本部長!」
「うむ。話は私がつけておくから、君は他の業務に当たりたまえ」
「了解しました!」
副本部長……つまり、支部を束ねる本部のナンバー2みたいな感じか。
ギルドの形態はわからんのだが、多分そうだろう。
支部があれば、本部もあるからね。
「はじめましてかな、トウジ・アキノ君」
「えっと、どうも」
副本部長というお偉いさんなので、とりあえず姿勢を正して頭を下げておく。
話が通じるか通じないかでは、おそらく先ほどのセリフを鑑みるに通じないだろう。
「依頼に何か言いたいことがあるようだが、全ては君の担当が了承したことなのだよ」
「エリナさんが……?」
「そうだ。君がゴネていた規定というのは、今回の依頼に関する規定のこと。よく読まなかったのかね?」
「いつもはエリナさんに概要を聞いてるものですから」
「ふむ、つまり君は文字が読めないのか?」
「いえ、読めますけども……」
「だったら話を聞いた上で、しっかり依頼書に目を通すのが冒険者としての責務ではないか?」
「は、はい」
「まったく、昨今の冒険者はなっとらん。ただ依頼をこなせばいいと思っとるようだ」
くそ、なんだこいつ。
フリーター時代に、頭ごなしに叱りつけてくる店長を思い出してしまった。
嫌な記憶である。
「今一度、よく目を通して見たまえ」
「わかりました……あ、すいません依頼書は全てエリナさんに管理してもらってますので、予備をもらえますか……?」
「……はあ、それでもSランク冒険者かね?」
「す、すいません……」
叱られながら依頼書をもらって確認すると、確かに職員を一人同行させると書いてあった。
小さく、たくさん書かれた無駄な文字の中に、こそっと。
「本当だ……」
半ベソで俺のところに来るレベルだから、エリナも焦って読んでいなかったのだろう。
「最近、安値で大量に買収した鉱石や薬草類を需要が多い時期に持ち込む輩が多くてな。それでは冒険者の品位が損なわれるというものだ。だからチェックを細かくし、高ランクや高難易度の依頼には、定期的に必ず一人の職員をつけることとなったのだよ」
「そ、そうなんですね」
ちなみに俺はずーっとギルドに行ってないから、そんな不正はしていない。
薬草だって、大量ではなく、あくまで用法要領を守ってチマチマと納品している。
そもそも買ったものではなく、自分で育てたものだからセーフ。
今回の薬草1トンだって、ずーっといない間にしこしこ集めてましたって説明ができる。
くそ、誰なんだ。
安値で買って需要が高いときに売るとか、薬草転売ヤーの仕業だろ。
こんなところでも、人様に迷惑をかけているとは……。
「君も以前、不正を疑われたことがあっただろう?」
「……いや、それはまったくの誤解なんですが」
それに職員に疑われたわけではなく、あくまで同業者。
……って、なんでこの人が知ってるんだ?
特に騒ぎになってないはずなのに、どういうことだ。
風の噂にしても、だいぶ昔の話である。
……ん? ギフテッド?
なんか、あいつと名前が少し似ている。
そう思っていると、副本部長は俺に顔を近づけて言った。
「依頼の件とは関係ないが、息子が世話になったようだな」
「ッ!」
「依頼の件とは全く関係はないがね?」
2回も言うとか、バリバリ私怨入ってそうな勢いである。
「ハ、ハハハ、ギフさんのお父さんでしたか。彼は元気ですか? ハハハハ」
ギフの父親が副本部長だとか、聞いてないぞ。
後ろ髪を掻きながら苦笑いしていると、なんとも殺気立った雰囲気で副本部長は言う。
「私の息子は、君に出会ってからと言うもの、順調に転落人生を歩んでいるさ」
「いや、それは俺は関係ないと言うか、なんと言うか……」
結構自業自得も含まれているのだが、そんなことは関係ないとばかりに副本部長は続ける。
「君は、心労から怪しげな薬物を使い現実逃避して、挙句の果てには常時布オムツを身につけることになった良い年の息子を持つ親の気持ちがわかるかね!?」
「えっ」
=====
赤ちゃん化したギフという言葉を聞いて、俺は想像した。
布オムツをはいた大人の姿を。
ギフ(28歳)「ばあぶ、ばあぶ、あひゃひゃひゃひひ」
ギフテッド「……言わなきゃよかった」
トウジ「……聞かなきゃよかった」
俺「……書かなきゃよかった」
レベルの上がり辛さの取材をしていたら、今まで書くのが遅れてしまいました。
サボってないです。断じて。
240レベルを超えると、1レベルあげるのに経験値を650%増加させても9時間かかるんですね。
常にモンスターが湧く状態でそれなんだから、トウジのレベル上げは困難を極めそうです。
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