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本編
885 啖呵を切る
しおりを挟む「そ、そんなことに……」
「もう時期30にもなる息子が抱っこを求める姿を見た私の気持ちはどうなる?」
「……ははは」
想像もしたくないな、そんな姿。
でもさ……。
ぶっちゃけ俺と絡んだ時以降のことって、自業自得の極みみたいなもんだ。
いい歳こいた大人ならば、怪しげな薬物に走るのではなく働けと。
俺だって社員ではなかったものの、しっかりバイトして食いつないでいた。
ネトゲに課金するためとはいえど、自分のことは自分でなんとかする。
それがわからんのか、この目の前にいるおっさんは。
副本部長っていうお偉いさんだから平謝りしているが……。
そもそもギルドとしての関わりはこの世界を生きていく上であまり必要ない。
アルバートやイグナイトとの縁もあり、俺の身元保証はバッチリだ。
俺が必要としていたギルド経由の情報。
代理人でも立てて金を払えばいくらでも取れる。
「もっとも、君には関係のないことだが? まったく関係ないことだがな?」
「いえいえそんな……」
まるで俺が悪いみたいな言い草だが、言い返さないでおこう。
「一つお尋ねしたいんですけど」
「なにかね」
「もし俺がSランク降格になった場合、担当受付にも何か罰則があるんですか?」
少し気になったのが、担当であるエリナのこと。
とらぬ狸のなんとやらで、金回りがきついのは自業自得なのだが……。
俺が下手なことをして責任問題となり、職を失う羽目になるのは不便だ。
Sランク担当ではなくなり、前よりも給料が減るくらいならば良いけど。
「クビだ」
「え」
今なんと。
「自己管理できない冒険者はどこかで野垂れ死ぬだけだが、職員はそうでもない」
すごく冷たい目を向けながら、ギフテッド副本部長は続ける。
「たるんだ内部を引き締めるべく、多少の厳しさも見せておく必要があるだろう」
「……その言い方だと、まるで俺が降格確定みたいな感じですね」
それで見せしめのためにエリナをクビにするとでも言っているようだ。
「この際はっきり言っておくが、そうだ」
「えらいはっきりと言いますね……」
「君が実直な冒険者であることは資料を見れば確かだが、Sランクとして貢献する気持ちは感じ得ない」
「……ランクはあくまでこなした依頼の対価であって、気持ちじゃないと思いますけども?」
「ほう、言うじゃないか。降格間際のSランク風情が」
しまった、つい言い返してしまった。
だが、何も言わなかったところで、俺たちを追い出すようなやつだ。
この場合は言い返しても良いのがマイルール。
言ってしまった方が気持ち的には楽なのだ。
「副本部長、もし俺がこの依頼を達成することができたらどうしますか?」
「ハハハハ、深海調査なんてどうやってなし得るというのかね?」
まさかとは言わないが潜るつもりか。
港町で漁師の噂話にでも耳を傾けるのか。
底引き網でも使って底を漁るのか。
「どうしようが、この依頼の達成は不可能だ。不可能な依頼を選ぶことも、担当受付失格ものだな」
もっとも、と副本部長は付け足す。
「君に用意されていた依頼は、全て達成不可能なものばかりだったのだがな? ナッハッハ!」
「……」
「まっ、潔く2カ月間の旅行でも楽しんでくれたまえ。帰ってきた頃には君はもうSランクではないが」
「……やってみなきゃわかりませんけども?」
散々言ってくれたので、俺も少しだけむかついた。
故に言い返す。
文句屁理屈で、俺に勝てると思うなよ。
「そこまで不可能だと言うのなら、達成できたら土下座してもらってもいいですか?」
「いいだろう。しかし土下座を条件とするなら、不達成時は君も土下座をしてもらおうか」
「構いませんよ。なんだったら布オムツ姿で土下座をしても良いです」
「ほう、ならその姿を絵にしていただこう。デカデカと、このギルドの正面に飾ってやる」
「その案いいですね。乗りました」
「……アォン」
そんな約束をしてもいいのか、とポチが俺を見る。
いいんだよ、これで。
お互い引っ込みがつかなくなるところまで行くのが狙いなんだから。
ギフのことを少しだけ可哀想だと思ったが、撤回する。
親子揃って、布オムツ絵画にしてここにデカデカと飾ってやろう。
「誓約書もつけておくかね?」
「どうぞどうぞ」
さすがに全財産かける、みたいなことを言ったら警戒されるか。
無様な姿を晒せばこの街にはいられなくなるだろうし、これでいい。
「では、簡易的だがサインをしていただこう」
「はい。これでいいですか?」
「うむ。期間は2カ月でいいかね? 温情として1カ月ほどくれてやってもいいが?」
「いや、2カ月でいいです。十分です」
「言ってくれる。布オムツ姿を楽しみにしているよ、トウジ君」
「俺も楽しみです」
俺は笑いながら、コレクトとゴレオをいったん図鑑に戻し、別の二人をセットした。
ビリーとワルプ、ともに海での最強コンビの二人である。
多少狭くて海中じゃないが、こいつらの生命力なら平気だろうと、召喚した。
「ォォォォォ!」
「ォォォォォ!」
そこそこ広めなギルドのエントランスが、2体の巨体な魔物によってかなり狭くなる。
巨大で、凶悪な鳴き声によって、ギルド内が阿鼻叫喚の地獄絵図となった。
みんな怖がってるけど、こいつらは柱が傷つかないように頑張って身を縮めてくれている。
健気で可愛い奴らなんだ。
「ーーなっ!? なにをいきなり!! 私を脅すつもりか!!」
「いえ、そんなつもりはまったくありません……が、びびっちゃったんですか?」
つーか。
先に不可能だとか、理不尽な脅しを言ってきたのはそっちだろうに。
「何をビビるか。私は副本部長。いろんなSランク冒険者を見てきたんだぞ!」
「そうですか。どうでもいいですけど、俺が持ってるのはロック鳥だけじゃないんですよ」
「……何が言いたい。海の魔物を持っていたとして、どうするつもりだ」
「簡単な話ですよ」
にこりと微笑んで言ってやる。
「ーー潜ります」
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