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本編
901 隠れ里爆破
しおりを挟む井守衆の隠れ里から少し離れた上空にて、グリフィーに乗りながら敵情視察。
山脈中腹の崖側にまさに隠れ家っぽい無数の横穴があり、黒装束に身を包んだ細身の人間が出入りしていた。
「あれが井守の隠れ里か」
「そうですじゃ」
崖の正面にあった集落は全て焼き払われてるようで、燃えかすになった家屋の残骸が点々としている。
「残ってそうな建物はないっぽいし、祀ってある手甲は洞窟の中?」
「ですじょ。横穴の一つより、どれか一つの道が手甲へ続く道となるんですじゃじょ」
「へー、うまいこと隠されてるわけね? だったら、時間的猶予は多少あるのかな?」
崖の手前の地面に大量の財宝が積まれているのを見るに、まだ敵は行動していないのがわかった。
百足衆は、ライバルだった井守衆を無力化したことによる安心感か、少し余裕を持っている。
この隙をついて大火力を浴びせて全員ぶっ飛ばした後、井守の長からルートを聞いて俺が行けば良い。
うん、この方法が一番だな。
百足衆がかき集めた汚いお金も回収できるし、まさに両得、いやマルチに得できる。
「長、あいつら全員ぶっ飛ばすから、手早く正解のルートを教えて欲しい。それで俺が手甲を完成させるから」
「む? それは無理ですじゃ、我ら井守衆ですら正確な道順を導き出せていないんですじゃ」
「えっ、ならどうやって今までお金を納めていたんだって話なんだけど……」
「この抜け穴には、少し裏技があるんですじょ」
もはや語尾についていた「ぞ」が「じょ」に変わってしまった長の得意げな言葉に耳を傾けた。
「正解へのルートはどこかに必ずあるんですぞ。じゃから、全員で一気に全ての横穴から入るんですじゃ」
「ち、力技だった」
大多数で一気に抜け道に入れば、いつかは誰かがたどり着く。
そういった手法を全力疾走で何度も何度も繰り返すことによって、今までお金を納めて来ていたらしい。
「朝から翌朝まで、全てのお金を収めるためのダッシュ祭り……はあ、またやりたいですじょ……時間内に終わらせた後のあの開放感と達成感は、今まで体を鍛えて来てよかったと心の底から実感するんですじょ……」
大金を均等に割って、一人が手甲までたどり着く。
そして再び残されたお金を均等に割って、の繰り返し。
最終的に、端数はみんなのお小遣いとして。
最後に手甲にたどり着いたものには栄誉を。
そんな祭りが一定の時期を挟んて行われていたそうだ。
うーん、脳筋ゴリ押し祭り……。
「なるほどなあ」
俺もどうやって入るか考える必要があるけど、百足衆もかなり時間を取られそうな状況である。
キングさんに頼んで、大量に分身を出してもらって一気に向かわせるか……いや怒られるね。
ロイ様だって同じ手法が使えるからロイ様でも良いのだが……アイテムを分散するってのが面倒である。
「そうか、ジュニアで良いか」
「ジュニア? なんですじょ?」
「俺の従魔でダンジョンコア」
「!?」
この辺一帯をダンジョン化して、直通ルートが絞れるならそれで良い。
もしできなかったとしても、分体を作って持っていけば良いのだ。
分体も本体も俺のインベントリをストレージ代わりにできるから、お金の共有が可能である。
そうすれば、一回の試みで全てが完結しそうだ。
「ほ、本当だとしたらその反則じみたやり方は、手甲の持つ力に変な影響がありそうですじょ……」
「そっちだってせこい真似してるだろ」
「力技ですが反則ではないんですじょ~!!」
「まあ、試してどうかって感じだから、まだ本当にできると決まったわけじゃないよ」
「むむむ。できなかったらどうするんですじょ」
「できなかったらできなかったで、また別の手段を考えるさ」
「正攻法ではいかないんですじょ?」
「ないない」
そうなれば、俺と勘違いしている伝説の存在的なもんを探してこいって話になってくるのだが……。
今から探しに行くのはちょっとな……。
ウィンストが探しているような、そんな話があったけども。
到底間に合うかはわからない。
「時間をかければかけるほど、面倒臭いことになるってわかってる?」
「ぬぬぬ?」
「……わかってなさそうだな……お前らには時間がないだろ、現状」
ただでさえ、エリナが保母さん役をしてないと統率が取れないような状況だ。
このままいくと、目の前でこいつらの存在が消えかねない。
「一網打尽で即日解決、これを捻り出して実行するのが一番なんだよ」
「どうするんですじょ」
「まあ、あとはとんでもない攻撃を加えて崖全体をぶっ壊すとかかな——」
——ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
そんな話をしていると、目下の崖からとんでもない爆音が響いて来た。
土煙と共に、粉々になった石が俺たちを襲う。
「おわあああああああああ!?」
「ぬおおおおおですじょー!?」
どうやら百足衆はなんらかの手段を用いて穴の中を爆破したようだった。
手甲にお金を収める上で、やはりあいつらもその手段を取ったらしい。
俺でも考えつくことなんだから、敵も使ってくるのは当たり前か……。
「って、まずいな! これ崖の爆破に成功してたらまずいやつだ! グリフィー!」
「グルァッ」
「目が開けづらいと思うが、この土煙に隠れながら近寄って欲しい!」
この状況なら、爆心地に人がいるわけがない。
巻き込まれるのを避けて避難しているはずだ。
そっから瓦礫やらなんやらを退けて、手甲が納められた場所を探し始めるはず。
接収するなら、今がチャンスだな。
=====
なかなか更新できなくてすいません。
執筆環境がimacからwindowsに変わってしまい、戸惑いを隠せませんが頑張ります。
来年の豊富はもっと読んでくださる皆様と寄り添えるような作家になることです。
楽しんでいただけますよう、がんばります。ツイッター活発になります。
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