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7巻
7-2
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◇ ◇ ◇
翌日、竜の爪痕ゴーレム通りに向かうと、なんとも懐かしい景色が存在していた。
「そら出たぞ! 囲え! 囲えー!」
「兵士どもには渡すなー!」
ゴーレムがガゴゴッと崖から出現しては、待機していた全員で叩く光景。
相変わらず、あたり一面にはゴーレムのドロップアイテムが散乱していた。
もったいないが依頼優先。
断腸の思いでドロップアイテムから目を背け、俺たちはグリフィーの背に乗って崖下へと飛び降りるのであった。
「きゃっ」
イグニールは空を飛ぶのが初めてらしく、やや青ざめた顔をしている。
「しっかり捕まってて」
「う、うん……」
後ろから俺の腰に腕をしっかり回して密着してもらった。
やっぱり初めては怖いよなあ。
俺だって、最初はそのまま後ろに転げ落ちてしまったもんだ。
「グリフィー、ゆっくり降りてくれ」
「ガルルゥ」
撫でてやると、グリフィーは翼を大きく広げ、可能な限りゆっくりと降下を始めた。
グリフィーに乗るのはポチ、俺、イグニールの順番で三人。
成人二人とコボルトが乗っても余裕で安定飛行できるのは、さすがグリフォンである。
ジュノーの方は、いつもと同じようにコレクトの首元に掴まって楽をしていた。
うーむ、ポチ、コレクト、グリフィー。
この布陣はすっかり中距離移動用としてお馴染みになってきたな。
戦闘時はグリフィーをゴレオに、コレクトをキングさんにチェンジといったところ。
さらに天地殲滅時は、ゴレオをワシタカくんに交代だ。
海上決戦モードの時は、キングさん、ワルプ、ビリーの怪物トリオ。
なかなか良い布陣のテンプレートが出来つつある。
さて、それから休めそうな崖棚を見つけては、そこに一度降りて休憩を繰り返し、俺たちはようやく竜の爪痕の底へと辿り着いたのだった。
「うわぁ~、暗いし~」
ジュノーの感想の通り、爪痕の底は真っ暗で何も見えない状況だった。
まさに奈落の底と言っても過言じゃない。
「カンテラがあるから暗くても問題ないよ」
インベントリからカンテラを取り出すのだが、つける前にボッと目の前が明るくなった。
光源はイグニールで、彼女の隣に、ミニマムサイズの太陽みたいな妖精が浮かんでいる。
「え、なにそれ」
「言ってなかったっけ? イフリータよ」
「どういうこと……?」
「火の大精霊様に、加護として二つの装備をもらったって話はしたでしょ?」
「俺にくれたやつだよね? つまりそれがイグニールが持ってるやつ?」
「そう、私が身につけてる装備は、小さなイフリータを任意で召喚できるものなの」
「へぇー」
俺のは霊核だったが、イグニールのは任意召喚できるスキル持ちの装備だったのか。
効果はMP自動回復と魔力上昇、火属性強化とのことで、かなり強い装備だった。
ゲームには、妖精みたいなものを召喚して常時攻撃力や魔力を上昇させるバフをくれる指輪装備などがあったりしたのだが、その類の装備ってところである。
ちなみに、そうした特殊な装備は全てイベントでしか手に入らなかったが、まさか火精霊と巡り合うイベントだったとでも言うのかね?
霊装武器によって召喚された魔物が意思を持つなんて聞いたことがないし、ましてや装備をくれるだなんてゲームではありえないことだった。
ま、この世界が100%ゲームの世界に沿ってできているわけでもないから、俺の知らない摩訶不思議なことが起こったとしても、さしておかしい話ではないのである。
ゲームではプレイヤーバフ扱いでしかなかったサモンモンスターが、まさかここまで俺の支えとなって大活躍してくれるだなんて、思っても見なかったんだしな!
とりあえず、100レベルになったら邪竜召喚可能な指輪を装備できるようになるので、その時に俺も色々と試してみよう。
「そのカンテラの魔道具、燃料代とかかかるでしょ?」
「まあね」
「この子だったらMPも消費しないし……節約できるわよ!」
「おおおっ!」
節約生活を強いられるほど困窮していないのだが、ここは彼女の気持ちを汲み取ろう。
節約というのは、こういう細かなところからやっていかなきゃいけないもんだ。
ああっ、金がないから節約しなきゃ!
と思った時には、時すでに遅しってパターンが世の中の常だからね。
「助かるよ、イグニール」
「フフッ、暗い場所なら任せてね」
……それにこの自信満々の笑顔を無下にするなんて、俺にはできないよ。
「コフリータ、お願いね」
イグニールの傍らをふわふわと漂う小さな光は、彼女の命令にしたがって少しだけ発する光を強め、暗い地の底を照らしてくれた。
「なるほど、明かりの調整も可能なのか……ん?」
コフ、リー、タ……?
なんだ、その名前は?
「ねえ、コフリータってなんだし?」
俺の思っていたことを尋ねるジュノーに、イグニールは返す。
「この子の名前よ。小さなイフリータだからコフリータ、良い名前でしょ?」
「……イグニール、ひょっとして名前のセンスないし?」
パンケーキ師匠やっぱすげぇな、思ったことをすぐ口にする。
「な、何よ? セ、センスあるわよ……!」
ズバッと言われたイグニールは、狼狽ていた。
「えーでも、なんかトウジと同じ雰囲気がするし?」
「え? トウジと一緒なの?」
「おい、何言ってんだよ……」
なんでそこで俺のネーミングセンスが会話に出てくるんだ。
センスがない出来事に対する物差しとして、俺を引き合いに出すなよ。
「つーか、ジュノー……」
「なんだし?」
「お前だって俺とネーミングセンスがないランキングで首位争いする仲だろ?」
人のこと言えるのか、って話だ。
「はあ!? 何言ってるし、めっちゃセンスあるし!!」
「ふぅん? へー? ほーん?」
「なんだし! なんか文句があるならはっきりと言うし!」
「けっ」
辺境伯領で仲間になり、断崖凍土でも大活躍したサンダーソールのビリー。
みんなビリーと呼んでいるが、登録名はビリビリビリーだぞ。
名前をつけた時は特に何も感じなかったのだが、改めて登録された名前を確認したら、ビリビリビリーって……ビリーがかわいそうだとは思わないのか!
「ハフ……アォン……」
「なんすかポチさん、いきなりため息なんか吐いて――ほわっ!?」
ジュノーと言い争っていると、ポチが俺の膝を後ろ回し蹴り。
テクニカルな膝カックンされてしまった俺は、ものすごい勢いで転んでしまった。
「やーい! バーカバーカ!」
そんな俺を見てあっかんべーしながらバカにするジュノー。
ぐぬぬ……。
「ォン」
「だめぇっ! パンケーキの枚数は絶対に減らさないでぇ! 鬼ぃ!」
しかし、ポチの一言によってあっけなく散っていた。
「アォン」
「わかったし、ネーミングセンスの話題はここまでにするし……」
どうやら、ポチは俺たちの争いを止めるために間に割って入ったようだ。
どんな名前でも、それぞれ違って、それぞれが良いとのこと。
「アォン」
「つけた側を貶すことは、つけられた側を貶すことと同じだから二度とするなだって……」
「ご、ごもっともです……本当にすいませんでした……」
素直に謝ってジュノーと仲直りすることに。
ポチって、本当にできたコボルトである。
◇ ◇ ◇
最下層へ辿り着いたということで、グリフィーからゴレオに替えて先に進むことにした。
ここでゴーレムのサモンカードをゲットしたわけだから、ある意味ここはゴレオの故郷のような場所である。
当初はゴレオの等級アップのために、ゴーレム狩りを頑張ろうだなんて意気込んじゃいたのだが、実際ゴレオがそれを望んでいるのかが少し気になっていた。
コボルトを大量に狩った際、ポチはその辺を割とシビアに考えていたのだが、優しいゴレオのことだ、あまり前向きになれない可能性もある。
望郷の気持ちがあるのかどうか気になったので、チラリと横目でゴレオを見てみた。
「……」
相変わらずぼけーっとした表情でドスドス先に進んでいる。
表情は読み辛いから仕方がないな、問題は何を考えているのかだ。
「ゴレオ、懐かしいとかそんな感覚はあったりする?」
「……?」
首をゴリゴリと鳴らしながら傾げているのを見るに、特に何も感じてなさそうだった。
そりゃそうか。
サモンカードがドロップ前の記憶を持っていたとしたら、俺は確実に恨まれている。
サモンモンスターは、この世界の立ち位置として精霊チックなものなのかな、なんてイグニールのコフリータを見ていて思ったりもするのだが、やはり違っているようだ。
俺と同じような、そんな存在なのかもしれない。
ま、深く考えても意味はない。
一緒にいてくれて、ついて来てくれて、助けてくれる。
それだけで十分だ。
「……!」
「トウジ、ゴレオがもしゴーレムが出てきた時はちゃんと倒せるから心配いらないってさ」
「……!」
「少しは悲しいけど、それでも私が等級アップしてみんなの力になることの方が大事だって」
「ゴレオ……」
みんなの力になりたい、か。
相変わらず優しいやつだな、ゴレオ。
主要メンツの中で、まだゴレオだけがレアのままなので、平等にユニーク等級くらいにまではゴーレムのサモンカードを入手して上げておきたいところだ。
だとしたら、目標のサモンカード枚数は200枚、いや余裕を持って300枚。
コレクトと秘薬の効果を用いても、倒すべきゴーレムは約400体というかなりの規模になるので、気を引き締めて取り掛かろう。
「アォン」
裂け目の底を崖側に沿ってまっすぐ歩いていると、ポチが敵の出現を知らせてくれる。
コフリータの明かりに照らされて、俺らの前で蠢く何かを見つけたそうだ。
「みんな戦闘態勢」
イグニールを交えた形になって初めての戦闘である。
ここで俺が戦いをみんなに任せてドロップ集めに奔走したら、ドロップアイテムが見えないイグニールにはサボっているように見えてしまうのだろうか。
……一つ男を見せて俺も前線に出ようかと考えたが、やはりドロップアイテムを回収しないのはもったいない。
一応説明してるから理解されるとは思うのだが、どうしたもんか。
「トウジ、全ての戦いの指揮を私が執るから、ドロップアイテムの回収とか採掘とやらをやっててもいいわよ?」
「えっ、いいの?」
「ポチもゴレオも十分過ぎるくらい強いから、問題ないわよ」
「ありがとう!」
さすがはイグニール。
実は、竜の爪痕の底に来てからというもの、至る所に採掘ポイントが見えていた。
掘り掘りしたい衝動を抑え込むので必死だったのである。
グループ機能にはイグニールを追加してあり、いつでもHPの変動を確認することが可能だ。
何か大きなダメージをもらうようなことがあったらいつでも駆け付けられるように気をつけながら、戦いを任せて俺はドロップアイテム回収と採掘を行おう。
やっぱイグニールは聖母だわ。
「わーっ! 次々ゴーレムがやってくるし!」
「そのようね、みんな気を引き締めて行くわよ!」
「……!」
「アォン!」
「コレクトとジュノーはトウジのところにいて、何かあったらすぐ知らせてね」
「クエッ」
「わかったしー!」
イグニールの炎が真っ暗な中を明るく照らしてくれる。
爆発させることでダメージを与えることもできるのだが、やる気全開でハンマーを振り回し、ゴーレムたちを次々と叩き壊して行くゴレオに配慮して、サポート役に徹してくれていた。
「おー、やってんなー」
そんな様子を見守りながら、俺はピッケル片手に採掘を続ける。
カンカンッ、と叩く度にドロップアイテムがポロポロポロ。
カンカンッ、ポロポロポロ。
「トウジ、前よりさらに戦闘の時にいらない子になっちゃったね」
「クエー」
採掘する俺を見ていたジュノーとコレクトがそんなことを言った。
「……言うな」
自分でもわかってるんだよ。
大抵の生き物にとって、火というものは極めて有効な攻撃手段である。
ゲームでも、火が弱点の敵ってのは割と多めに設定されているほどだ。
そんな魔法の使い手であるイグニールがくれば、こうなることは予想できた。
「爆ぜなさい」
ドゴォン!
彼女は、火に対して耐性を持ったゴーレム相手でも、爆発で木っ端微塵にできてしまう。
耐性持ちでも関係なしに蹴散らすレベルなんだから、俺の役目はほとんどない。
「悲しい事実だが、俺は大人しく裏方に回るとするよ……」
「大丈夫だし。トウジが装備を作ってくれるから、みんな頑張れるんだし」
「クエ」
「そっか、ありがとな」
「それに、あたしもずっと前にもらったアクセサリー、大事に持ってるよ」
「おう、似合ってるよ」
「ほんと? それ冗談じゃないし? うへへぁ」
採掘しながら適当に返事をしたのだが、ジュノーは思いの外喜んでいた。
喜んでもらえるような装備を作れて、俺も嬉しいさ。
そうしてゴーレム狩りと採掘を並行しながら歩いていると、途中に大きな横穴を見つけた。
なんだか怪しいと思った俺たちは迷わずその横穴へ進むことにした。
「露骨にゴーレムの数が増えてきたわね」
「そうだね、採掘ポイントもかなりあるよ」
ゴーレムの棲み処なのかと思ってしまうほどに、天井・地面・壁の全方向からゴーレムはボコボコと生み出されて襲いかかってくる。
「……!」
そんなゴーレムたちを、ゴレオは息をするように蹴散らしてドロップアイテムにしていた。
「いけいけゴレオー! 蹴散らせゴレオー!」
「……!」
ジュノーの応援に合わせて、ゴレオは壁から今まさに出てこようとしているゴーレムを、俺から奪い取ったピッケルを使って掘り出し叩き壊す。
出落ちどころか、出る前に強制的に出されて落とされるゴーレムであった。
「や、やる気満々だなゴレオのやつ……ハハハ……」
いや、やる気ではなく殺る気か?
どっちでもいいが、なんだか乾いた笑いが漏れてしまった。
すでに回収したゴーレムのサモンカードは200枚を超えていて、そこからざっと計算して、倒したゴーレムの数は300近くってことになる。
「なんだか、ゴーレム通りのフィーバータイムがずっと続いてる感覚だなあ」
「フィーバータイム?」
ゴレオの快進撃を見ながらそんな言葉を零すと、隣を歩くイグニールが首を傾げた。
「出現するゴーレムの数がめっちゃ多くなる日のことらしいよ」
「そうなんだ?」
初めてゴーレム通りを渡った際に、運良く遭遇した場面である。
あの時は、目の前に溢れるドロップアイテムの山にテンション爆上がりしていた。
「その時から、ゴーレムマニアとか言われるようになったんだよな……」
同時に黒歴史も思い出した。
「トウジがサルトを出て別の国に渡ってからも、まだその噂広がってるわよね?」
「そうなんだよなあ……」
イグニールの言う通り、未だにサルトではゴーレムマニアの噂が囁かれている。
人の噂も七十五日と言うが、もうとっくに七十五日以上経過しているんだがな……。
「しかも尾ひれマシマシ状態で、だよ」
牛丼屋に足繁く通っていたとか。
塩漬け依頼をゴーレムやコボルトを扱き使って一日で全部終わらせたとか。
とんでもない臭気を漂わせているとか。
スタンピードの時に何故かポーションをタダでばら撒いていたとか。
ゴーレムを愛し過ぎて、ゴーレムの彫像作りに命をかけているとか。
作った彫像は全て美少女で、ゴーレムマニアの目にはゴーレムが美少女に見えているとか。
ゴーレムゴーレムゴーレム、と悩ましげに連呼しながら街を歩いていたりとか。
公園で一人ぼーっとしていたら、いきなり「降りてきたっ」と叫び出したとか。
もはやゴーレムマニアではなく、ゴーレムに取り憑かれし者だとか。
このように、俺がいない間に噂はとんでもない状況になっていた。
スタンピードまでは事実だから認めるけど、後半よ。
後半部分に関しては、まったくもって記憶にないというか、そもそもサルトにいない。
「改めて聞くと、とんでもない状況ね」
「噂に尾ひれが付くのはわかるけど、付き過ぎだ」
面白がって噂を広めている奴ら、限度ってものを考えて欲しい。
「でも火のないところに煙は立たないって言うじゃない?」
「うん。でもわかってほしいけど、俺はゴーレムマニアじゃないからね?」
「知ってるわよ。ただ、トウジの他にもゴーレムマニアがいるってことかしら?」
「……その可能性は否めない」
「だとしたら、マイスティー・ロガソー氏が最有力候補ね」
「恐らくね」
マイスティー・ロガソー。
初めて聞いた名前だって思うだろうが、実は違う。
トガル首都で行われたオークションの時に、ちらりとその名前が上がっていた。
サルト在住の芸術家で、ゴレオを初めてメイドゴレオに仕上げた人物である。
「実はトガルのオークションでさ、メイドゴレオのミニチュア版が出品されてたんだよね」
「……作った人はロガソー氏?」
「うん」
「……そっか」
俺の言葉を受けたイグニールも、何を言いたいか理解したようだ。
疑惑は、ほぼ確信へと変わる。
「どうするの? 風評被害を広げるなって一言釘を刺しておくつもり?」
「いや、放っておく」
真のゴーレムマニアがいるのなら、噂ではなくもはや事実だ。
これはもしかしたらの話だけど、彼をその道に引き摺り込んでしまったのは俺かもしれないので、可能な限りそっとしておこうと思ったのである。
翌日、竜の爪痕ゴーレム通りに向かうと、なんとも懐かしい景色が存在していた。
「そら出たぞ! 囲え! 囲えー!」
「兵士どもには渡すなー!」
ゴーレムがガゴゴッと崖から出現しては、待機していた全員で叩く光景。
相変わらず、あたり一面にはゴーレムのドロップアイテムが散乱していた。
もったいないが依頼優先。
断腸の思いでドロップアイテムから目を背け、俺たちはグリフィーの背に乗って崖下へと飛び降りるのであった。
「きゃっ」
イグニールは空を飛ぶのが初めてらしく、やや青ざめた顔をしている。
「しっかり捕まってて」
「う、うん……」
後ろから俺の腰に腕をしっかり回して密着してもらった。
やっぱり初めては怖いよなあ。
俺だって、最初はそのまま後ろに転げ落ちてしまったもんだ。
「グリフィー、ゆっくり降りてくれ」
「ガルルゥ」
撫でてやると、グリフィーは翼を大きく広げ、可能な限りゆっくりと降下を始めた。
グリフィーに乗るのはポチ、俺、イグニールの順番で三人。
成人二人とコボルトが乗っても余裕で安定飛行できるのは、さすがグリフォンである。
ジュノーの方は、いつもと同じようにコレクトの首元に掴まって楽をしていた。
うーむ、ポチ、コレクト、グリフィー。
この布陣はすっかり中距離移動用としてお馴染みになってきたな。
戦闘時はグリフィーをゴレオに、コレクトをキングさんにチェンジといったところ。
さらに天地殲滅時は、ゴレオをワシタカくんに交代だ。
海上決戦モードの時は、キングさん、ワルプ、ビリーの怪物トリオ。
なかなか良い布陣のテンプレートが出来つつある。
さて、それから休めそうな崖棚を見つけては、そこに一度降りて休憩を繰り返し、俺たちはようやく竜の爪痕の底へと辿り着いたのだった。
「うわぁ~、暗いし~」
ジュノーの感想の通り、爪痕の底は真っ暗で何も見えない状況だった。
まさに奈落の底と言っても過言じゃない。
「カンテラがあるから暗くても問題ないよ」
インベントリからカンテラを取り出すのだが、つける前にボッと目の前が明るくなった。
光源はイグニールで、彼女の隣に、ミニマムサイズの太陽みたいな妖精が浮かんでいる。
「え、なにそれ」
「言ってなかったっけ? イフリータよ」
「どういうこと……?」
「火の大精霊様に、加護として二つの装備をもらったって話はしたでしょ?」
「俺にくれたやつだよね? つまりそれがイグニールが持ってるやつ?」
「そう、私が身につけてる装備は、小さなイフリータを任意で召喚できるものなの」
「へぇー」
俺のは霊核だったが、イグニールのは任意召喚できるスキル持ちの装備だったのか。
効果はMP自動回復と魔力上昇、火属性強化とのことで、かなり強い装備だった。
ゲームには、妖精みたいなものを召喚して常時攻撃力や魔力を上昇させるバフをくれる指輪装備などがあったりしたのだが、その類の装備ってところである。
ちなみに、そうした特殊な装備は全てイベントでしか手に入らなかったが、まさか火精霊と巡り合うイベントだったとでも言うのかね?
霊装武器によって召喚された魔物が意思を持つなんて聞いたことがないし、ましてや装備をくれるだなんてゲームではありえないことだった。
ま、この世界が100%ゲームの世界に沿ってできているわけでもないから、俺の知らない摩訶不思議なことが起こったとしても、さしておかしい話ではないのである。
ゲームではプレイヤーバフ扱いでしかなかったサモンモンスターが、まさかここまで俺の支えとなって大活躍してくれるだなんて、思っても見なかったんだしな!
とりあえず、100レベルになったら邪竜召喚可能な指輪を装備できるようになるので、その時に俺も色々と試してみよう。
「そのカンテラの魔道具、燃料代とかかかるでしょ?」
「まあね」
「この子だったらMPも消費しないし……節約できるわよ!」
「おおおっ!」
節約生活を強いられるほど困窮していないのだが、ここは彼女の気持ちを汲み取ろう。
節約というのは、こういう細かなところからやっていかなきゃいけないもんだ。
ああっ、金がないから節約しなきゃ!
と思った時には、時すでに遅しってパターンが世の中の常だからね。
「助かるよ、イグニール」
「フフッ、暗い場所なら任せてね」
……それにこの自信満々の笑顔を無下にするなんて、俺にはできないよ。
「コフリータ、お願いね」
イグニールの傍らをふわふわと漂う小さな光は、彼女の命令にしたがって少しだけ発する光を強め、暗い地の底を照らしてくれた。
「なるほど、明かりの調整も可能なのか……ん?」
コフ、リー、タ……?
なんだ、その名前は?
「ねえ、コフリータってなんだし?」
俺の思っていたことを尋ねるジュノーに、イグニールは返す。
「この子の名前よ。小さなイフリータだからコフリータ、良い名前でしょ?」
「……イグニール、ひょっとして名前のセンスないし?」
パンケーキ師匠やっぱすげぇな、思ったことをすぐ口にする。
「な、何よ? セ、センスあるわよ……!」
ズバッと言われたイグニールは、狼狽ていた。
「えーでも、なんかトウジと同じ雰囲気がするし?」
「え? トウジと一緒なの?」
「おい、何言ってんだよ……」
なんでそこで俺のネーミングセンスが会話に出てくるんだ。
センスがない出来事に対する物差しとして、俺を引き合いに出すなよ。
「つーか、ジュノー……」
「なんだし?」
「お前だって俺とネーミングセンスがないランキングで首位争いする仲だろ?」
人のこと言えるのか、って話だ。
「はあ!? 何言ってるし、めっちゃセンスあるし!!」
「ふぅん? へー? ほーん?」
「なんだし! なんか文句があるならはっきりと言うし!」
「けっ」
辺境伯領で仲間になり、断崖凍土でも大活躍したサンダーソールのビリー。
みんなビリーと呼んでいるが、登録名はビリビリビリーだぞ。
名前をつけた時は特に何も感じなかったのだが、改めて登録された名前を確認したら、ビリビリビリーって……ビリーがかわいそうだとは思わないのか!
「ハフ……アォン……」
「なんすかポチさん、いきなりため息なんか吐いて――ほわっ!?」
ジュノーと言い争っていると、ポチが俺の膝を後ろ回し蹴り。
テクニカルな膝カックンされてしまった俺は、ものすごい勢いで転んでしまった。
「やーい! バーカバーカ!」
そんな俺を見てあっかんべーしながらバカにするジュノー。
ぐぬぬ……。
「ォン」
「だめぇっ! パンケーキの枚数は絶対に減らさないでぇ! 鬼ぃ!」
しかし、ポチの一言によってあっけなく散っていた。
「アォン」
「わかったし、ネーミングセンスの話題はここまでにするし……」
どうやら、ポチは俺たちの争いを止めるために間に割って入ったようだ。
どんな名前でも、それぞれ違って、それぞれが良いとのこと。
「アォン」
「つけた側を貶すことは、つけられた側を貶すことと同じだから二度とするなだって……」
「ご、ごもっともです……本当にすいませんでした……」
素直に謝ってジュノーと仲直りすることに。
ポチって、本当にできたコボルトである。
◇ ◇ ◇
最下層へ辿り着いたということで、グリフィーからゴレオに替えて先に進むことにした。
ここでゴーレムのサモンカードをゲットしたわけだから、ある意味ここはゴレオの故郷のような場所である。
当初はゴレオの等級アップのために、ゴーレム狩りを頑張ろうだなんて意気込んじゃいたのだが、実際ゴレオがそれを望んでいるのかが少し気になっていた。
コボルトを大量に狩った際、ポチはその辺を割とシビアに考えていたのだが、優しいゴレオのことだ、あまり前向きになれない可能性もある。
望郷の気持ちがあるのかどうか気になったので、チラリと横目でゴレオを見てみた。
「……」
相変わらずぼけーっとした表情でドスドス先に進んでいる。
表情は読み辛いから仕方がないな、問題は何を考えているのかだ。
「ゴレオ、懐かしいとかそんな感覚はあったりする?」
「……?」
首をゴリゴリと鳴らしながら傾げているのを見るに、特に何も感じてなさそうだった。
そりゃそうか。
サモンカードがドロップ前の記憶を持っていたとしたら、俺は確実に恨まれている。
サモンモンスターは、この世界の立ち位置として精霊チックなものなのかな、なんてイグニールのコフリータを見ていて思ったりもするのだが、やはり違っているようだ。
俺と同じような、そんな存在なのかもしれない。
ま、深く考えても意味はない。
一緒にいてくれて、ついて来てくれて、助けてくれる。
それだけで十分だ。
「……!」
「トウジ、ゴレオがもしゴーレムが出てきた時はちゃんと倒せるから心配いらないってさ」
「……!」
「少しは悲しいけど、それでも私が等級アップしてみんなの力になることの方が大事だって」
「ゴレオ……」
みんなの力になりたい、か。
相変わらず優しいやつだな、ゴレオ。
主要メンツの中で、まだゴレオだけがレアのままなので、平等にユニーク等級くらいにまではゴーレムのサモンカードを入手して上げておきたいところだ。
だとしたら、目標のサモンカード枚数は200枚、いや余裕を持って300枚。
コレクトと秘薬の効果を用いても、倒すべきゴーレムは約400体というかなりの規模になるので、気を引き締めて取り掛かろう。
「アォン」
裂け目の底を崖側に沿ってまっすぐ歩いていると、ポチが敵の出現を知らせてくれる。
コフリータの明かりに照らされて、俺らの前で蠢く何かを見つけたそうだ。
「みんな戦闘態勢」
イグニールを交えた形になって初めての戦闘である。
ここで俺が戦いをみんなに任せてドロップ集めに奔走したら、ドロップアイテムが見えないイグニールにはサボっているように見えてしまうのだろうか。
……一つ男を見せて俺も前線に出ようかと考えたが、やはりドロップアイテムを回収しないのはもったいない。
一応説明してるから理解されるとは思うのだが、どうしたもんか。
「トウジ、全ての戦いの指揮を私が執るから、ドロップアイテムの回収とか採掘とやらをやっててもいいわよ?」
「えっ、いいの?」
「ポチもゴレオも十分過ぎるくらい強いから、問題ないわよ」
「ありがとう!」
さすがはイグニール。
実は、竜の爪痕の底に来てからというもの、至る所に採掘ポイントが見えていた。
掘り掘りしたい衝動を抑え込むので必死だったのである。
グループ機能にはイグニールを追加してあり、いつでもHPの変動を確認することが可能だ。
何か大きなダメージをもらうようなことがあったらいつでも駆け付けられるように気をつけながら、戦いを任せて俺はドロップアイテム回収と採掘を行おう。
やっぱイグニールは聖母だわ。
「わーっ! 次々ゴーレムがやってくるし!」
「そのようね、みんな気を引き締めて行くわよ!」
「……!」
「アォン!」
「コレクトとジュノーはトウジのところにいて、何かあったらすぐ知らせてね」
「クエッ」
「わかったしー!」
イグニールの炎が真っ暗な中を明るく照らしてくれる。
爆発させることでダメージを与えることもできるのだが、やる気全開でハンマーを振り回し、ゴーレムたちを次々と叩き壊して行くゴレオに配慮して、サポート役に徹してくれていた。
「おー、やってんなー」
そんな様子を見守りながら、俺はピッケル片手に採掘を続ける。
カンカンッ、と叩く度にドロップアイテムがポロポロポロ。
カンカンッ、ポロポロポロ。
「トウジ、前よりさらに戦闘の時にいらない子になっちゃったね」
「クエー」
採掘する俺を見ていたジュノーとコレクトがそんなことを言った。
「……言うな」
自分でもわかってるんだよ。
大抵の生き物にとって、火というものは極めて有効な攻撃手段である。
ゲームでも、火が弱点の敵ってのは割と多めに設定されているほどだ。
そんな魔法の使い手であるイグニールがくれば、こうなることは予想できた。
「爆ぜなさい」
ドゴォン!
彼女は、火に対して耐性を持ったゴーレム相手でも、爆発で木っ端微塵にできてしまう。
耐性持ちでも関係なしに蹴散らすレベルなんだから、俺の役目はほとんどない。
「悲しい事実だが、俺は大人しく裏方に回るとするよ……」
「大丈夫だし。トウジが装備を作ってくれるから、みんな頑張れるんだし」
「クエ」
「そっか、ありがとな」
「それに、あたしもずっと前にもらったアクセサリー、大事に持ってるよ」
「おう、似合ってるよ」
「ほんと? それ冗談じゃないし? うへへぁ」
採掘しながら適当に返事をしたのだが、ジュノーは思いの外喜んでいた。
喜んでもらえるような装備を作れて、俺も嬉しいさ。
そうしてゴーレム狩りと採掘を並行しながら歩いていると、途中に大きな横穴を見つけた。
なんだか怪しいと思った俺たちは迷わずその横穴へ進むことにした。
「露骨にゴーレムの数が増えてきたわね」
「そうだね、採掘ポイントもかなりあるよ」
ゴーレムの棲み処なのかと思ってしまうほどに、天井・地面・壁の全方向からゴーレムはボコボコと生み出されて襲いかかってくる。
「……!」
そんなゴーレムたちを、ゴレオは息をするように蹴散らしてドロップアイテムにしていた。
「いけいけゴレオー! 蹴散らせゴレオー!」
「……!」
ジュノーの応援に合わせて、ゴレオは壁から今まさに出てこようとしているゴーレムを、俺から奪い取ったピッケルを使って掘り出し叩き壊す。
出落ちどころか、出る前に強制的に出されて落とされるゴーレムであった。
「や、やる気満々だなゴレオのやつ……ハハハ……」
いや、やる気ではなく殺る気か?
どっちでもいいが、なんだか乾いた笑いが漏れてしまった。
すでに回収したゴーレムのサモンカードは200枚を超えていて、そこからざっと計算して、倒したゴーレムの数は300近くってことになる。
「なんだか、ゴーレム通りのフィーバータイムがずっと続いてる感覚だなあ」
「フィーバータイム?」
ゴレオの快進撃を見ながらそんな言葉を零すと、隣を歩くイグニールが首を傾げた。
「出現するゴーレムの数がめっちゃ多くなる日のことらしいよ」
「そうなんだ?」
初めてゴーレム通りを渡った際に、運良く遭遇した場面である。
あの時は、目の前に溢れるドロップアイテムの山にテンション爆上がりしていた。
「その時から、ゴーレムマニアとか言われるようになったんだよな……」
同時に黒歴史も思い出した。
「トウジがサルトを出て別の国に渡ってからも、まだその噂広がってるわよね?」
「そうなんだよなあ……」
イグニールの言う通り、未だにサルトではゴーレムマニアの噂が囁かれている。
人の噂も七十五日と言うが、もうとっくに七十五日以上経過しているんだがな……。
「しかも尾ひれマシマシ状態で、だよ」
牛丼屋に足繁く通っていたとか。
塩漬け依頼をゴーレムやコボルトを扱き使って一日で全部終わらせたとか。
とんでもない臭気を漂わせているとか。
スタンピードの時に何故かポーションをタダでばら撒いていたとか。
ゴーレムを愛し過ぎて、ゴーレムの彫像作りに命をかけているとか。
作った彫像は全て美少女で、ゴーレムマニアの目にはゴーレムが美少女に見えているとか。
ゴーレムゴーレムゴーレム、と悩ましげに連呼しながら街を歩いていたりとか。
公園で一人ぼーっとしていたら、いきなり「降りてきたっ」と叫び出したとか。
もはやゴーレムマニアではなく、ゴーレムに取り憑かれし者だとか。
このように、俺がいない間に噂はとんでもない状況になっていた。
スタンピードまでは事実だから認めるけど、後半よ。
後半部分に関しては、まったくもって記憶にないというか、そもそもサルトにいない。
「改めて聞くと、とんでもない状況ね」
「噂に尾ひれが付くのはわかるけど、付き過ぎだ」
面白がって噂を広めている奴ら、限度ってものを考えて欲しい。
「でも火のないところに煙は立たないって言うじゃない?」
「うん。でもわかってほしいけど、俺はゴーレムマニアじゃないからね?」
「知ってるわよ。ただ、トウジの他にもゴーレムマニアがいるってことかしら?」
「……その可能性は否めない」
「だとしたら、マイスティー・ロガソー氏が最有力候補ね」
「恐らくね」
マイスティー・ロガソー。
初めて聞いた名前だって思うだろうが、実は違う。
トガル首都で行われたオークションの時に、ちらりとその名前が上がっていた。
サルト在住の芸術家で、ゴレオを初めてメイドゴレオに仕上げた人物である。
「実はトガルのオークションでさ、メイドゴレオのミニチュア版が出品されてたんだよね」
「……作った人はロガソー氏?」
「うん」
「……そっか」
俺の言葉を受けたイグニールも、何を言いたいか理解したようだ。
疑惑は、ほぼ確信へと変わる。
「どうするの? 風評被害を広げるなって一言釘を刺しておくつもり?」
「いや、放っておく」
真のゴーレムマニアがいるのなら、噂ではなくもはや事実だ。
これはもしかしたらの話だけど、彼をその道に引き摺り込んでしまったのは俺かもしれないので、可能な限りそっとしておこうと思ったのである。
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