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本編
935 夢幻楼街・マテンロウ
しおりを挟む「ようこそ! どんな殿方でも魅了する幻想空間マテンロウへ!」
腕を引かれて連れて行かれたのは、華やかな明かりと装飾に包まれた店だった。
客引き女性の格好とは裏腹に、思ったよりも内装に淫靡さはない。
普通のキャバクラのような、そんな感覚である。
いや、キャバクラなんて行ったことないけど、何となくそんな感覚がした。
「ワハハッ、魔国と言ったらここよここ!」
「代理! 今まで訪れ辛かったですもんね!」
「うむ、ついに経費で来れるようになったのはでかいぞ!」
「クロイツ経由の飛空船が運行すれば、もっと気軽に行けるようになりますね!」
「接待旅行がハマるハマる、ワハハハハッ!」
来客たちの声が聞こえる。
わざわざ遠い別の国からここを訪れるほどの人までいるようだ。
そこまで魅かれるもんかね、こういうお店って。
別に悪くはないけど、真実の愛なんてそこにはないだろう。
もっとも、色々な柵がある世の中だ。
たとえ幻想だとしても、ストレス発散として仮初の愛を求める人もいる。
人間、誰からも認められずに生きていくなんて、とてもじゃないが耐えられない。
そんな何かを欲する感情を発散させる場所が、ここ夢幻楼街。
「お客様は、本日どのような希望をお持ちですか?」
魅惑的な格好をした女性が、上目遣いでそう尋ねてくる。
「えーと」
なんと答えようか。
大して求めてるものなんてない。
強いていうならば、さっさと元の場所に戻してほしい。
もしくは出口である。
そんなことを言ったところで、出してもらえるはずはないだろう。
わざわざ俺たちを誘った敵の目的は、俺の足止め。
欲に溺れやすい人間だから、ここの勢力を打つけたのだ。
ならば話は早い。
「夢幻楼街のダンジョンコア、ラストさんに会いに来ました」
「ッ」
一瞬だけ、目の前にいる女性の表情が凍りついたような気がした。
それでもすぐに元のニコニコとした笑顔に戻るのは流石接待プロ。
「金を積まなきゃいけないというのなら、ありますよ」
すぐそばのカウンターに、白金貨を一枚、また一枚と積んでいく。
「ちょ、ちょっとお待ちくださいませええええ!」
どんどん積み上がっていく白金貨に、お店の女性が焦りを見せ始めた。
ほらほら、早く対応しないとまだまだ積み上がっていくぞ。
店ごと買ってもお釣りが来るレベルの資金はあるんだ。
「つーか、そもそもここの大将に招待されたんだから、それ相応の扱いを受けて然るべしだろ」
「そうだそうだ」
ジュニアもそう言っていることだし、出てこいよ大将。
何がペット可だ、従魔可だ。
うちの連中はな、される側よりする側なんだよ。
むしろ接待させろ。
うん、それだ。
俺らがここのダンジョンコアを接待する。
そして、なんかダンジョン同士で組まれた同盟を辞めさせる。
ビシャスと俺の一対一。
そんな状況に持っていければ、争いが肥大化せずに楽なんだけどなあ。
「おいおい黒髪の兄ちゃん」
白金貨タワーという悪趣味な成金遊びをしながら待っていると、後ろから声がかかる。
「あんまり女の子を困らせるもんじゃないぞ」
店内一番奥、間仕切り用のキラキラした薄いカーテンの向こう側。
豪華なソファに腰を落とし、両サイドに3人ずつ女性を侍らせた男がいた。
「困ってるのはこっちなんですけど……」
「それも男の器量の内さ」
……なんか、鬱陶しい奴に絡まれたかもしれない。
「あと、新婚なんで早く家に帰りたいんですけど」
「それはさっさと帰ってやったほうがいいな。だが、せっかく来たんだから少しくらい遊んでいくのもいいだろう」
「ええ……」
「この店の女の子たちだって誠心誠意込めて俺らみたいなのの相手をしてくれてるんだからよ、失礼さ」
いやいや、前提条件よ。
来たくて来た訳じゃないんだから、別に相手にしてもらわなくても結構なんだ。
「まっ、今対応してる最中なんだから、それが終わるまで俺がいっぱい奢ってやるよ」
「はあ」
「ここでの流儀を教えてやる」
「別に教えてもらわなくても……ここで待ってますよ……」
ソファーに座ったりなんかしたら、勝手にフルーツの盛り合わせ出てきてぼったくられそうだ。
資金は問題ないが、頼んでもいないのに勝手にぼったくられるのが嫌なのである。
「いいから座ってけって、どの世界にも初心者講座ってのは必要だろ?」
依然としてフードで表情の読めない男は話す。
「チュートリアルくらい受けて行けよ……秋野冬至」
初心者講座、チュートリアル。
俺にとっては、耳障りの良い単語。
しかし、それ以上に驚いた。
今この男、俺の名前をどう言った?
秋野冬至。
確かにそう聞こえた。
この世界で、俺のことを日本式の名称で呼ぶ奴はほとんどいない。
=====
23話中の3話更新済み。
あと20話。
つまり毎日更新恐らく20日続きます。
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