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本編

934 縄張り・亀裂

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 ウィンストが作り出した太陽の下を走り、樹海の端へ。
 通常、ダンジョンとは奥に進めば進むほどに高難易度になるのだが、今回は逆だ。
 今もなお熾烈に行われている陣取り合戦の渦中へと切り込んでいく。

 ここで戦っているのは、恐らくウィンストと深淵樹海のガーディアンたち。
 竜樹を用いて作られた人形が続々と現れ、俺たちと並走していた。

「ジュニア、ポチ、ゴレオ! いくぞ!」

「アォン!」

「……!」

「あ、ちょっとたんま」

 意気込んでいた俺たちをジュニアが止める。
 何だよジュニア、せっかく気合を入れていたのに。

「この先、ちょっとおかしいというか……んー?」

「見たところ別に普通だけど……」

 立ち止まって、首を傾げるジュニア。
 ガーディアンたちが続々と進軍していく森の中、何もおかしなところはない。

「あれー? 一瞬壁が見えたような……」

「アォン?」

「……?」

 ポチがゴレオに見えたか聞いて、ゴレオは首を横に振る。
 ダンジョンコアであるジュニアは、一体何を感じ取ったのか。

「なーんか、そこら中にダンジョンコアっぽいもんが重なりあっててよくわからん! 気持ち悪い!」

「多分、簡易式エンチャント・ダンジョンコアってやつじゃないかな?」

 ダンジョンコアじゃなくても、ダンジョンコアっぽいことができる例のアレ。
 今回の進軍には、陣取り合戦にはもってこいじゃないか。
 俺の弱体化を試す時に、今回使えるか色々と調べていた可能性だってある。

 まあ、何にせよ。

「なんかありそうなら迂回するぞ、ジュニア」

 たとえ俺の黒い部分が如実に出ていようと、慎重な根っこの部分は同じだ。
 そんなジュニアがなんか不穏なものを感じ取ったのなら、きっと何かある。
 無闇に攻め入る必要はない。

 ほら俺、勢いに任せて行動できるほどもう青くないし。
 妻帯者だし、子供生まれるし。

「……わふ」

「……」

 そんなことを考えて悦に浸っていると、俺の心を読み取ったかのようにポチとゴレオがため息をついていた。
 ……何だよ。
 ま、まあ確かにノリと勢いに任せてしまうことだって、たまにはあるけどさ。
 でもたまには、ってやつだ。

「いや、考えても仕方ないしまっすぐ進むか。あの木偶の棒集団は素通りできてるし」

「いいの?」

 状況的にはノリに任せてる場合じゃないと思うけど。
 確かに俺はダンジョンの最深部でお茶会っぽいことよくやっていたが、今は戦時中のようなもの。

「念には念を入れて、別の方向からでも構わないよ、本当に」

「うーん、度を超えた慎重さって時には取り返しのつかないことになる」

「そうだけど」

「陣取り合戦でいつここが敵陣になるかもわからない現状、どこを通っても一緒だし」

 そう言いながらジュニアは前に出て、ニカッと顔を綻ばせる。
 ここにはいないムードメーカー師匠のように。

「あいつのノリを真似して、このまま突っ切ろうぜ」

 何かあれば、俺が対処すると背中で語っているようだった。
 キングさんに影響を受けたのか、頼もしくなったもんだ。

「そうだな」

「小狡い真似をしてきても俺には効かない。それでも何か爪痕を残せるとしたら、敵さんの大将くらいなもん」

 心配事が的中したとしても、逆に相手の首元に近づける。
 そんなわけで正面突破。

「よし、なら引き続きウィンストの元にナビゲート頼むよ」

「まかせろまかせろ——」

 と、みんな揃って走り出したところだった。



「……あれ?」



 景色が変わる。
 まるでさっきまでの物々しさが夢だったかのように。

「いらっしゃーい! 頭取さん頭取さん、こっちよこっち!」

「安いよ! 飲んで食べて選り取り見取りで5000ケテル!」

「こっちは良い女の子いっぱい揃って質がたけぇんだ~!」

「そこの若いお兄ちゃん、こっちよこっち、あたしと中で話そ!」

 鬱蒼とした森の中から、活気あふれる夜の街へと一変した。

「……な、何これ」

 照れているのか、酔いどれなのか。
 顔を赤くした色んな種族の男たちが、街を歩いては露出の激しい格好をした女性に絡まれている。
 女性たちも露骨なセックスアピールで男らの手を引いて店の中へと消えていく。

 子供が来ちゃいけない街だ、ここ!
 そして、俺も来ちゃいけない場所である。

「ちっ、あんまりよろしくない方の大将に急接近しちまったかあ」

 ポカンとするポチとゴレオをよそに、ジュニアが舌打ちをしながらそう溢した。

「あらぁ~、可愛い従魔を連れてますね? お兄さんと坊や」

「うちはペットも可だし、なんなら未成年もここでは実は合法なのよ?」

「へ?」

 道の真ん中につっ立っていたから客だと思われたのか、唐突に腕を掴まれる。
 鼻をくすぐり、脳内に直接響いてきそうな魅惑の香り。
 俺は動けず、いつの間にかガッツリ腕を絡ませられていた。

「ま、まって客じゃないです! 違います! 妻いるんです!」

「いても来るのが普通よ。恥ずかしがらないの」

「ちょっ!」

 強引に腕を引かれて、そのまま近くの店まで連れて行かれる。
 ち、ちくしょう。
 これは厄介だ。
 ジュニアが舌打ちしてしまった気持ちもわかる。

 ここは恐らく、いやほぼ確実に。

「夢幻楼街……ッッ!」











=====
【悲報】トウジ、終わりかもしれない。(笑)
1登録=1更新継続中~!





イグニール「……なんか、嫌な予感がする」
マイヤー「うちもした」
ジュノー「パンケーキうまうまうまうま」

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