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本編
933 縄張り争い・後
しおりを挟むウィンストを追って、南西側へと移動した。
出てくるガーディアンは、あちこちが腐敗した動く屍である。
「嫌な記憶が蘇るなあ」
大丈夫だろうか、ウィンストは。
強い精神力を持っているとは言えど、彼は一度罪を背負った。
生真面目な彼の性格上、気にしないなんてことはできない。
これも、相手も作戦のうちだというのかね。
「トウジ、本物では無いよ」
蹴散らしながら前に進んでいると、ジュニアが語る。
「死者の骨を媒介にして、受肉させてるだけだろうからね」
今回、生きてる人が犠牲になっているわけでは無いそうだ。
奈落墓標付近は、過去の大戦にて多くの戦死者が出ている。
死した彼らは、当時はまともに埋葬されることもなく埋められた。
誰かが止めに入らなければ、どちらか一方根絶やしになる。
それほどまでに、色々な何かが積み重なって大量の死者が出た戦争だったそうだ。
そういったモノを媒介に奈落墓標のガーディアンは作られている。
腐敗してアンデッドっぽくなっているのは、見た目を寄せているだけらしい。
もしくは、適当に獣の肉あたりを使っているか。
「どっちにしたって気分は悪いだろ」
「まあね」
死者への冒涜だ、とかそんな高尚なことは語らない。
単純に悪趣味なんだ。
「でも理論値的には鉱石とか木材使って人型作るよりも、効率良いよ」
「そうなの?」
「骨になっても魔力は残るし」
だったらすっごく高度で悪趣味だなってだけだ。
そう言えば、クロイツ付近でダンジョン探してた時のことである。
白骨化したドラゴンをビシャス繋がりのダンジョンコアが狙ってたっけ……。
「……あー」
だったら居そうだよなあ、って予感がした。
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
次の瞬間、目の前の土が盛り上がって中からアンデッドドラゴンの姿を模したガーディアンが出現した。
「まあ、いるよねー」
俺の思考を読み取っていたのか、ジュニアも呆れた表情をする。
うん、フラグ回収お疲れ様。
「キングさん呼ぶか」
オリハルコンやアダマンタイトで作られたガーディアンは強い。
つまり、ドラゴンの骨を元に作られたガーディアンも強い。
すなわちキングさん案件である。
「いや、切り札は後に取っておいたほうがいい」
召喚しようとした俺を遮って、ジュニアが前に出た。
「なに? ジュニアがやるの?」
他人任せにできるなら、そうするタイプだと思っていた。
俺に似てるからね、こいつ。
「切り札は最後の最後まで取っといた方がいいっしょ」
「そうだけど」
徹底的に情報収集されている現状を考えてみると、切り札バレバレだ。
いつでも最後はキングさんだったんだからね。
もっとも、それでもまだキングさんが残っているぞ、という圧。
これは確かに存在するだろう。
「で、どうするのジュニア」
「もうしてる」
「え?」
ジュニアがアンデッドドラゴンのガーディアンとどう戦うのか聞いてみると、すでに戦いは始まっていた。
そういえばそうだ、目の前に現れたってのに、敵は全く俺たちを攻撃していない。
『……ッッ! ……ッッ!!』
咆哮をあげることもできずに、目の前でビクビクと悶えていた。
「何したの……?」
「限定的に権限を奪って、こいつの周りを魔力の壁でガッチリ固めただけ」
「な、なるほど」
つまりは、透明な箱を作ってその中に閉じ込めた。
というわけか。
音すら通さない狭い空間で、ドラゴンは拘束を逃れようと必死になっている。
「……ち、ちなみに秘薬換算だと?」
「500個」
たっけ!!!!!!
「拘束するだけで500個って、高過ぎるだろ!」
「いやいや、まあ見てろって」
「はあ?」
言われた通りに目を向けると、そのままドラゴンの体を構成していた肉が剥がれ落ちた。
『……ッッ! ……ッッ!!』
悶えると言うよりは、もはや痙攣している。
こっちには聞こえないが、中ではとんでもない叫び声が上がってるんだろうな。
そのまま骨だけになりガラガラと崩れ去り、スッとどこかに消えていった。
「リソースの供給元は断たれてるし、こうすればあとは奪うだけの簡単作業だよ」
「見てるだけで恐ろしいな……」
回収先は恐らく俺のインベントリだろう。
ジュニアと共有しているからね。
まったくとんでもないものがインベントリに溜まって
「どうよ、すごいっしょ?」
何だか誇らしげなジュニア。
「まあ500個分でも、回収できればいくらか元は取れてるか……うんうん、すごいすごい」
「ちなみにここまでやって500個分のリソースは使う」
「よし、二度と使うな。普通にぶっ飛ばして回収するだけでいい」
この際、この戦いの中で俺のインベントリに人骨やら多種多様の骨が貯まるのは我慢する。
しかし減るのはダメだ。
「なんでコスパ悪いって自分で言っておきながら、見せ付けるように使うんだよ」
「そりゃあれだよ、心の底では目立ちたいっていうお前のクソみたいな願望が強く出てるから」
「……」
「言っとくけど俺はお前の嫌なところをかき集めた分身みたいなもんだぞ?」
「……」
「俺に何を言ってもブーメランだから、そこんところよろしくな?」
「……ジュニア、やっぱお前ちょっと交代しよっか——」
そう言いかけたところで、追撃が来た。
『——ギャオオオオオオオ!』
『――ギャオオオオオオオ!』
さっきのドラゴンとは打って変わって、お次は巨大な熊や猪である。
見た目の強さはドラゴンに劣るが、数が尋常ではなかった。
「おっと! 見せ場きた!」
ジュニアは意気揚々として現れたガーディアンを片っ端から捕まえていく。
ここでジュニアを戻したら、確実に損だった。
その後の回収も含めてって話だったからである。
「いい加減にしろって! やめて! お願い! なんでそんなことするの!」
「ダンジョン合戦なら俺が一番だってところを見せつけたいだけだよ」
負けず嫌いというか、勝ち誇りたがりというか。
俺のなかなか人に見せられない部分を露出させていくジュニアである。
黒歴史を穿り返されているようだった。
奈落墓標がここら一帯の墓荒らしなら、ジュニアは対俺専門の墓荒らしである。
これは、見てる俺もダメージを負ってしまうね……。
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登録者1増加=1更新企画中。
7日連続更新は確約。
頑張って書きたいと思います。
平和な話を書きたいのでちゃっちゃか先に進めたいと、心の底ではおもっているんです……。
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