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tera

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941 貴方に言っておきたいこと

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941 貴方に言っておきたいこと

「……手を取り合う前に一つだけ、あなたに言っておきたいことがあるわ」

「俺に言っておきたいこと?」

「ええ」

 頷きながらラストは、ソファーに座ってグラスに入った酒を煽る。
 俺は立ったままで彼女の話に耳を傾けることにした。

「敵は私とビシャスの2勢力だと思ってるようだけど、違うわよ」

「他にも混ざってる勢力があるってことですか?」

「そう。そもそも私の能力は対ダンジョン戦ではあまり使い物にならないもの」

 インサスが言っていたように、彼女の魅了はダンジョンコアには通用しない。
 色情となるものが存在しないからだ。
 長い年月をかけて、家族のような絆は持ち合わせることはある。
 しかし、操ろうにもそもそもがダンジョンコアの意思の元にあるわけだ。

 だからこそ、ラストの力は通用しない。
 操ることは不可能なのである。

 それでも人間には効果抜群で、大量に動かせる人間に魔力を貢がせれば……。
 力技でなんとかならんこともなきにしもあらずってところだな。
 人や魔物が蔓延るこの世界で、彼女の力はやはりとんでもなく強いと言える。

「ふふん」

 心の中で強い強いと言っていると、ラストは誇らしげに鼻を鳴らしていた。
 俺は自分で言うのもなんだが、欲だけは人並み以上だ。
 コントロールしているとは言えども、一部において止まることをしらない。

「よかった、操られてなくて」

 霧散の秘薬も通用するかわからんかったからね。

「複雑に絡み合ったこの状況が、貴方を救っていると言っても過言じゃないわね」

「そうですね」

 ウィンストとの仲が構築されてなかったら多分人間椅子とかテーブルにされていた未来。
 ありそうだ。

「そんな悪趣味なことはもうしないわよ」

「もう……?」

 過去にやっていた可能性が浮上した。

「話を戻すわよ? 私の役目は貴方の目をここに向けさせておくだけ」

「それは成功してますね」

「そうね。でもこうやって裏切る流れになるとは思ってないんじゃないかしら?」

「どうだろう……」

 相手はビシャスだから、裏切ることも考慮しているかもしれない。
 奴に対してはかもしれない運転をしなきゃいけないのだ。
 だろう運転では決してダメなのだ。

 俺の情報をとにかく集めてるストーカーだからな?
 今もこうしてどこかで俺を見ている可能性すらある。

「大丈夫よ、ここはあたしの領域。何人たりとも通してないから」

 そこかしこにいるけどなあ、人が。
 まあビシャスが指示を出してようが関係ないか。
 対人ならば、彼女は無敵に近いのだから……。

「ふふん、そうね。もし間者がいたとして記憶ごと消すわよ。心を壊して廃人にしても良い」

「それはさすがに」

 どこぞの知らん奴が可哀想でもあった。
 信用しておこう。
 俺に何かあれば、状況証拠からウィンストに疑われるのはラストだ。
 彼との間を取り持つ、その一点だけで成り立つこの関係性。

 脆そうで脆くない。
 が、別の意味で危険ではあるってところだろうか。

「一つ聞いておきたいんですけど」

「何かしら」

「エリナが拐われた理由は、貴方ですか?」

「そうね」

 あっけらかんと答えたラストである。
 まあ、話の流れ的にそりゃそうだよな。

 よかった。
 彼女がなんか特別なものを秘めていて……とかそんなルートじゃなくて。
 単純にラストの嫉妬ならば、この場で解決できることだった。

「なら、彼女の回収をお願いできますか?」

「嫌よ、なんであたしが?」

「むしろウィンストに助けさせることこそ悪手ですけど……」

 よく考えてみてほしい。
 拐われて、助けられる。
 こんな状況に陥った男女が恋仲にならないはずがない。
 百歩譲ってならなかったとしても、特別な関係になるはずだ。

 得てしてそれを演出してしまったラスト。
 知られてしまえば、どうしようもなく不利になる。

「……ぐぎぎ」

 俺の心の中を読んだのか、ラストの顔色がどんどん悪くなっていった。
 そうだよなあ、そうだよなあ。
 これをどうにかするには、ウィンストが助ける前に裏切って助けたという、その事実が必要となるのだ。

 むしろヒーロー。
 かつ、エリナからは恩人として見られて煙たがられない。

「最高のエンディングが待ち受けてますよ? いや、本当に」

 上手くいくかは知らないが、悪いことにはならない布陣。
 かつ、俺に対しての信用も信頼へと変わる。

 ウィンストは俺を無条件で信じてる節があるからね?
 俺がラストと信頼関係を気づいていれば、信用されると思う。

「わかったわよ、こっちでなんとかしておくから」

「俺も全力でラストさん推します」

 約束します。
 ってことで、話の続きをお願いします。

「約束を破ったら承知しないわよ」

 そう呟きつつ、ラストは途中で脱線していた話を戻した。

「もう一つの勢力は、北から……大きく森を迂回して迫るグリードたちね」

「グリード……強欲の?」

「そう、魂枯砂漠にいる強欲のグリードもこの戦いに加わってるのよ」

 ラストは続ける。

「あたしの役目は貴方をここに留めておくこと。で、本来深淵樹海を叩き潰す役割はグリードたち」

 2方面作戦みたいな形になっていたが、夢幻楼街と階層墓地ではなく。
 階層墓地と魂枯砂漠での2方面作戦、という位置付けだったようだ。

 色々と裏をかかれているというか……。
 ダンジョン三つ使ってことを起こすのは、やりすぎじゃないだろうか?
 そんなことしなくても、ラスト一人で俺はどうにでもなりそうではある。
 そこまで考えて、ふと思う。

「この戦いを起こした目的ってなんなんですか?」

 てっきり俺個人を狙ったのかと思いきや、そうではない。
 そんな気がした。
 いや、きっとそうだ。

「エリナをさらった理由が個人的なものだとして、何故深淵樹海も巻き込んでいるのか」

 勝てるか心配だから、という理由ならば、度が過ぎている。
 もっともビシャスならそこまで入念にしていてもおかしくはない。
 情報が少なすぎて、何をやらかすのかよくわからなくなってきた。

「あいつの真意なんて誰も知らないわよ。あたしらが協力するのは個人的な理由」

 こうしてすぐに寝返ってるのが証拠でしょ。
 と、ラストは断言した。

「……ってことは、深淵樹海に用があったのか」

 むしろ、俺が絡まれたのはただのついでで、そもそも深淵樹海が目的だった。

「そうでしょ。まるで自分が世界の中心みたいな考え方だけど。まっ、人間だもの、嫌いじゃないわね」

「……」

「何惚けてるのよ、話の肝はここからよ。グリードとグルーリングだと……相性は最悪ね」

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