装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

946 パワハラスライム、スライムセクハラ

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「アォン」

「ふむふむ」

 ポチが言うには、ここに来るまでは至って正常だったらしい。
 俺はしっかり記憶を持っており、目的のために行動していたとのこと。

 現在、深淵樹海とビシャスとやらが率いる階層墓地側の戦争中。
 そんな中、ラストから話を聞いてこの戦いにグリードが賛成していることを耳にした。

 目的とは、グリードと戦うこと。
 グルーリングとの相性が最悪なので、俺が代わりに相手をするって形だ。

「じゃあ、ここに来て早々、俺は何者かに攻撃を受けたってことか」

「ォン」

「それが華子である可能性が大きい……か」

 明らかに彼女が来てからおかしい状況になった。
 ポチはそう睨んで華子にクロスボウを向けている。

「アォン」

「それにギリスに体を奪われた本来の華子がいるって? 骨って名前で?」

「うーむ……」

 記憶を辿ってもちっともわからん。
 だが、ポチの言うことならば俺は無条件で信用できる。
 サモンモンスターは、この世界では確定で俺の味方。

 絶対に敵にならない。
 そんな存在なのだ。

「じゃあ、目の前にいる華子は何者?」

「アォン」

 それは知らないとのこと。
 むしろ敵である可能性の方が高いので、迂闊に近づくなとポチは警告していた。

「そ、そんな……敵じゃないですぞ……」

「ごめんけど、ポチを信じるしかないんだよね」

 絶対条件だ。
 ここまでポチやコレクトが言ってくれるのならばそれを信用するしかない。

「誠に申し訳ないが、一旦話はなかったってことで」

「そんなですぞお~!」

「アォン!」

 縋るように近寄ってくる華子に対して、ポチがクロスボウを射った。
 ここから先には近づくな、という意思表示。
 俺もどうしたら良いかわからんので、素直に助かった。

「骨というワードもわからんあたり、それも消されてんのかな……?」

 どうやって、そして何がトリガーとなって消されたのか。
 わからない以上、かなりの脅威に感じた。

 運が良かったのは、ただ敵対する人物だけ消されていたと言うこと。
 これで別のもっと大切なものが消されていたとしたら大変なことになる。

「アォン」

「なるほど、グリードの能力は奪うこと。俺の記憶も奪われたってことか」

「ォン」

 過去に、骨とやらが砂漠で意識を失って骨の姿になったと言っていたそうだ。
 それを加味すると、目の前にいる華子とグリードは繋がっている。
 高確率で敵側なので、これ以上不用意に近づかないようにした方がいい。
 ポチはそう言っていた。

「アォンアォン」

 同時に、体自体は奪われた骨のものかもしれないので、あまり攻撃したくないとのこと。

「ってことは、目的としては骨に体を返すためにどうにかするってこと?」

「ォン」

「さっきからちっとも話についていけないんですぞ」

「俺もついていけてないんで、大丈夫だよついてこなくて」

「そんなご無体な~!」

「ォン」

「ギリスに骨って言われてる過去の聖女がいるから、多分引き合わせたら記憶も戻るんじゃないか? だってさ」

「骨……? 私がいるんですぞ? でも私は私で……あれ……ですぞ……?」

 よくわからないことになってきた。
 目の前で首を傾げるこの女が敵なのか味方なのかもわからない。
 敵勢力だが、体は敵じゃない可能性。

「うーむ、とりあえずグリフィー戻してロイ様ぁ~!」

 俺が正常な判断を下せない以上、話をまとめる役目が必要だ。
 そんなわけで、スライムキングを統べる上位存在のロイ様を呼び出すことにした。
 キングさんはまだ取っておきましょう。

「見事に思考が混乱しているな、盟主よ」

「はい、混乱しています。助けてください。通訳もお願いします」

 ある程度はわかるとは言えども、限界はある。
 さっきだってメモ帳に書かれた文字を含めて説明してもらってたからね。

「ふむ……ならば先んじて、周りの情報から集めよう——王室諸君」

 ロイ様が呟くと、大量のスライムキングが姿を現した。
 これが上位存在スライムロイヤルの能力である。
 一人一人がスライムキングという強者揃いで、ロイ様と意識を共有している。
 他方に散らばらせることで情報収集もお手の物だ。

「では、次に古の聖女から紐解いていこうではないか」

「私ですぞ?」

「うむ、私から奪ってみろ」

 そう言って華子の前にデンと構えたロイ様。
 奪われたとしても、サモンモンスターなら24時間で復帰できる。
 いや、そもそもサモンモンスターは自然の摂理から大きく離れた謎の存在でもあるから奪えるのかもわからない。
 見越した上で、実験台になるつもりのようだった。

「あ、ちょっと待て。こいスライムキング」

「ぷるあ?」

 ロイ様は、キングさんとは一回り小さめのスライムキングを追加で呼び出してこう言った。

「奪われてこい」

「ぷる!?」

「元は私だから死なない。大丈夫だ」

「……」

 パ、パワハラだ……。
 命令されたスライムキングはとぼとぼと華子の前に移動していた。

「えっ? 何をどうするんですぞ? えっえっ?」

「スライムキングに触れてみろ。盟主の目を通して見ていたが、触れたことがトリガーになっているのかもしれない」

「は、はあ……では失礼します……」

 恐る恐る、スライムキングのぷるぷるボディに触れる。

「おほぉ~、意外なことにひんやりたぷたぷ、ソファーにしたい肌触りですぞ~」

「……ぷるぁ……」

 弄るような容赦ない変な手つきに、スライムキングは嫌悪感を露わにしていた。
 モンスターにセクハラって通用するのだろうか?

「——ぷるっ!?」

 呑気にそんなことを考えていると、スライムキングの様子が変わった。
 ビクンと大きく体を震わせた後、急に華子を突き飛ばしたのである。

「プルァッ!!!」

「むっ?」

 そして反転して、今度は近くにいたロイ様に襲いかかった。

「叛逆は罪。罪には罰だ」

 そう言って、ロイ様は襲い来るスライムキングを容赦なく殴り飛ばす。
 有無を言わさずぶっ飛ばされたスライムキングは飛ばされると同時に光となって消えた。
 光になったスライムキングを吸収しながら、ロイ様が納得したように呟く。

「なるほど」

「何かわかったのか?」

「触れた瞬間、スライムキングと共有していた意識の一部が消えた。なんども触るうちに穴だらけになっていき、最後は自分すらも見失うようなった」

 急に襲いかかってきたのは、その結果だと言う。

「マジか……」

「おそらくサモンモンスターにも通用するが、我らの記憶領域は盟主の本にある。一度仕舞えば元通りだろう」

 で、とロイ様はさらに続ける。

「古の聖女が何かしようとした意思は感じ得なかった。おそらくだが、手に触れることで記憶を奪う力が自動的に働くのだろう」

 スライムキングが最初に華子を突き飛ばしたことから、消える記憶には自分も含まれている。
 そしてその次に消えていったのがグリードとビシャスというワードだったらしい。

「彼女と密接に関わる事柄を優先して消していくってこと?」

「うむ。それから先はどんどん他のものも奪われるだろうな」

「なるほど……」

「盟主よ。主は二度と触れるな。次に触れた際、何を消されるかわからない」

「うん」

 ロイ様を出して大正解だった。
 思ったよりも簡単に記憶を奪う謎が解けて、そして彼女が味方ではない。
 敵勢力であることがはっきりと確定したのである。
 なら、そこから彼女をどうするかという話になるのだが……。

「…………まさか、まさかですぞ……」

 彼女はすごくショックを受けた表情で立ち尽くしていた。
 自分の手を見ながら震えている。

「道中、助けてくれた人が急に私を無視したのは……こんな力があったからだなんて……」

「ええ……気付ける要素いっぱいあったんじゃ……?」

「おかしいと思ったんですぞ~! 別れ際にありがとうと握手したら、みんな無視するんですぞ~!」

 どうやら気づいてなかったらしい。
 ひとしきり頭をかけて喚いた後、過去はまともな表情に戻る。

「記憶を取り戻したいのに、奪ってしまうなんて……まるで呪いですぞ……」

「誰かが探らせないように保険を付けたようにも見えるな」

「それがグリードか」

 ロイ様の意見に頷く。
 俺の油断を引いて記憶を奪うため、と言うよりも……。

 どっちかと言えば、彼女の逃さないため。
 重要な何かを漏らさせないようにするため。

 そんな意味が見て取れた。
 元に、勝手に発動してしまっているのだから。
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