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7ー初の海岸、乙女は大胆になりますの
しおりを挟むエルトン様への挨拶と食事も済ませた私たちは、私用の小さな邸宅(と言っても、そこそこ広めの一軒家、この辺境の地ではかなり大きな部類に入る)へと向かいました。
馬車に載せていたわずかな私物をすべて降ろし身軽にして、私はトレイザを連れて街へと繰り出します。
「目指すは海です、浜辺です」
「お嬢様、あまり走ると危ないですよ」
「なんの。治療魔術も心得ていますの!」
少し転んでしまったくらいではどおってことはありません。
「でも運動音痴でしょう?」
「……それは言わない約束ですの」
学園首席だった私にも不得意な物は多くあります。
一つは、運動の授業ですわね。
体を動かすことは特に嫌いではないのですけど。
なぜかしら、他の人よりは足が遅く。
さらに持久走も最後から数えた方が早いのです。
その点あのライラックとクレアは体力お化けとでもいいましょうか。
まあ、日がな日中盛っていたのですから、お察しというものですわね。
「丘の上から街を一望した時に、まずはここに来ようと思っていたのです」
ラフな服装ですから、周りの視線もあまり気になりません。
やはり来たばかりで身分を隠している状況は開放感が素晴らしいですわね。
こんな薄い一枚のワンピースで王都を歩いていれば、次の社交界では小言の嵐。
あらまあはしたない、なんて陰口を叩かれます。
その心配がないって、本当に素晴らしい、素晴らしいですの辺境!
「トレイザさん、早く早く!」
「お嬢様、急がなくても海は遠くへ行きませんよ」
「そうですが、時間は有限ですのよ?」
軽食の入ったバスケットを持ったトレイザとともに道を歩き、私は浜辺へとやって来ました。
波の音が耳に入って来ます。
そして砂浜の感触がとても心地いいのです。
もう、サンダルを脱ぎ捨てて裸足で駆け回りたいくらい。
流石にそれははしたないというか、鋭い貝殻がちょくちょく見えたのでやめましたけど。
「トレイザさん! 海です!」
はしたないと言いつつも、私はワンピースを脱ぎ捨てました。
前言撤回です。
今の私は変態令嬢です。
でも、それくらい開放感に満ち溢れた景色なんです。
「お嬢様、流石にワンピースを一気に脱ぐのは……」
「下に水着を着ていますからいいのですよ!」
「……今日は不問としますけど、奥様には報告しますからね?」
「報告でもなんでもしてください! とにかくトレイサさんもその下に水着を着ているのでしょうし、早く脱いで海へと入りましょう!」
ちなみにこのトレイザ。
メイド服の下にかなりのボディを隠しています。
胸は私の勝ちですが、引き締まったスレンダーボディです。
けしからん、と邸宅で無理やり一緒に着替えた時に思いました。
「私はこの浜辺用の日傘をさして、いつでも休憩が取れるように準備しておきますよ」
「いけずですねえ」
「荷物番をしないといけませんので」
せっかく無理を押し通して水着に着替えさせましたのに、泳がないとは何事ですか。
でもまあ、確かに不届き者がいないわけでもないですから、用心しておいて損はないでしょう。
ああもう、人手が足りませんね。
トレイザを泳がせるためには、もう一人、荷物番をする人が必要ですの。
でも取られて困るものは服以外ありません。
最悪水着のままでも家に帰ればいいのでは、と思いました。
邸宅には管理する常駐の者をつけていただきましたし。
それと伝えても、
「ダメですよ。その……恥ずかしいですし……勝てませんし……」
後半部分は遠くて聞こえませんでしたが、トレイザは頑なに海に入りませんでした。
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