廃人ゲーマーとラスボス後の世界

tera

文字の大きさ
22 / 48
第一章 - 旧友との再会

13 - アビリティの使い方

しおりを挟む
■聖王国領/アルヴェイ村/農士:ユウ=フォーワード

「フォーワードさん、次はこっちお願いしてもいいか?」

「はいっす」

 村から南へ少し離れた、開けた土地に農場はある。
 育てられている作物は穀物、野菜、多種多様。
 村の財源の八割方が、ここで取れた野菜を近隣の町に出荷したものらしい。

 俺は、農家のおっさんに言われた通りに動き。
 畑の畝の前で光の壁を起動して猛ダッシュする。

 まるでスキャンするように、光の壁が俺と一緒に畝を駆け抜け。
 そして草についた害虫達をザルでこすように集めて行く。

「いやぁ、いつみても〈異人〉さんのアビリティっつーもんはすげぇな!」

 ひとかたまりになった虫達を足で踏み潰していると、追いついた農家のおっちゃんが俺の背中をくしゃっとした笑顔でバシバシと叩いてくる。
 地味に痛かったし、ステータスを確認するとHPが減っていた。

「はは、そんなでもないですよ」

 やめろとは言えないので笑ってお茶を濁す。

「最近虫が多くて困ってたんだよ。報酬は村長に言って弾んどくから、この調子で全部やってくれるとすごく助かる!」

「どもです」

 本当なら、今日は朝から森に出て見るはずだったのだが……。
 俺は今、農家の人に頼まれて、農作業の手伝いをするハメになっている。

 その理由は、俺のアビリティが実はすっごくいろんなことに応用できるからだった。



◇◇昨日◇◇



「なんだこれ、面白いな」

「どうしました?」

 笑いながらひとりごちていると、弓の練習をやめて興味深そうに俺を見るマリアナ。

「いやさ……見てこれ」

 俺は左腕から自身のアビリティである光の壁を生み出してマリアナに見せる。

「マスターのアビリティですね」

「こっからだよ」

 キョトンとするマリアナの目の前で、光の壁を大きくしたり、小さくしたり。
 さらに3Dグラフィックで作ったモデリングをマウスでドラッグして360度くるくると回転させるように、光の壁も上下左右にくるくると回転させる。

「……曲芸ですか? マスター、それで面白がって笑うのは小学生までですよ?」

「いちいち辛辣だな……こっからだよ」

「わっ!?」

 光の壁をマリアナの顔にぶつける。
 いきなり目の前に迫ってきたもんだから、マリアナは驚いて尻餅をついていた。

「すごくないこれ? 俺が透過してもいいって意識すれば、こんな感じで物体を突き抜けるんだよ!」

 展開した光の壁の大きさや厚さを継続的に消費するMP量によって変えることもできたりするのだが、そんなのは置いといて、こうして自由自在に動かして、そして指定した物を透過できる機能は素晴らしいと思った。

 ってことはだよ、俺が敵を押さえつけて、そこからボコボコにできるってことだ。
 マリアナも弓矢で確実に射抜くことができるようになるし、俺の光の壁が邪魔にならないってことだよな。

「よし、マリアナ。光の壁を出すから矢を射ってみ──」

 耳元すれすれを矢が突き抜けて行った。

「──はわっ!?」

 俺も腰を抜かして尻餅をつく。
 見上げると、笑顔で弓を構えるマリアナがいた。

「マスターのアビリティがとてもすごいことはわかりました。でも、何も言わずにいきなりその光の壁を人の顔に向かって飛ばしてくるのはどういうことでしょうか?」

「あ、あれ……まさか怒ってますか? マ、マリアナさん?」

「まさかですが、あれで怒らないとでも思っているのでしょうか?」

「い、いやでも、これダメージないし!」

「はあ……まったくこれだから童貞は……」

 必死に弁明する俺を見て、マリアナはそう言いながらため息をついて弓を下ろした。
 つーか、童貞関係なくね?
 何が悪いんだよ……ぐすん。

「ちなみにその上に物は乗っかるんでしょうか?」

「試して見るか?」

 光の壁を横向けに展開し、その上にマリアナを乗せて見る。

「おお、なんというか、不思議な乗り心地ですね」

「……なんかすごい光景だな」

 光の壁に乗るマリアナ。

「マスター、いきなり透過させて落とさないでくださいね?」

「んなことするわけないだろ」

 何故か疑心暗鬼になるマリアナを光の壁から下ろして消費したMPを確認する。
 うむ、透過させても、人が上に乗っても、消費するMPは変わらないようだった。
 縦横3メートルの大きさくらいまでは、基本的に1秒につき1のMP消費量となる。

「さすが個性的かつ大器晩成型唯一職【双極】の元にしたアビリティ、とでも言いますか」

「そうだな」

「あ、そうだマスター。ちなみにそれで他人の装備類ははがせるんですか?」

「ああ」

 マリアナのいうことはわかる。
 人体だけを透過して、装備類は不透過にすることによって相手の装備を弾けるか。ということだろう。
 ……でも、それやっちゃった場合って……あれだよな。

「いいのか……?」

 そうなった場合の状況を想像すると、ゴクリと喉がなってしまう。
 だが、俺以上にマリアナがなんだか期待の眼差しを向けて顔を赤らめていたので萎えた。
 なんでそこで興奮するんだ?
 わけがわからんぞ。

「っていうか、ダメージは入らないと思うけど……それで人体が真っ二つになったらシャレにならん、まずは石ころとか葉っぱで試そう」

「そうですね……セーブポイントを設定したとは言え、そんな死に方は嫌です」

 さっそく石ころで試して見た。
 残りのMPは50前後。
 無駄遣いはできないので、展開したらすぐ石を透過させてそのまま不透過にする。
 すると、

 ──ふわっ。

 石ころではなく、小さくした光の壁が弾き出された。
 磁石の同じ極同士を無理やりくっつけようとして、ふわっと離れるような動き。
 なるほど、こうなるのか。

「じゃ、マリアナでもそうなるのかな?」

「……まず自分の体でやるという案はないのですか?」

 確かに。
 やって見る。

「ええと、下は恥ずかしいから、下と体だけ透過する感じにして、上着を弾くっと……」

「どうせなら全裸になってもいいですよ? 見てるのは私だけですし。むしろ何故そうしないんですか」

「うっさいな」

 いちいち茶々を入れるなよ……。
 だが、光の壁を確認すると、石ころの時と同じようにふわっと体から離れてしまった。

「服を弾こうとして弾けなかった感じはしないから、持ち物には無理みたいだな」

 相手の武器だけを弾き落とす、という戦法は使えないようだ。
 うーん、持ち物も含めて個体として認識されているとできないのかな。
 まだ定かではないが、今の結果からはそうなのだろう。

「なるほどスケベには使えないようですね。ほんと、使えないアビリティです」

「ひどくね、その言い方」

 もとよりそんなくだらないことに使う気はない。
 重要なのはそこではなく、戦いの時に下手に展開して邪魔にならないことだ。
 これならば、安全マージンを確保しつつ敵を倒せる。

「ちなみにマスター、ここに害虫がたくさんついた植物があります……これはどうですか?」

「おー、個体に個体が密集したパターンか」

 それならばどうなのだろうか。
 草と虫が一つの個体として認識されているならば、意味はないだろう。
 だが、草と虫が別個体だとすれば、虫だけうまく払いのけることは可能なのか?
 とりあえず試してみる。

「おっ」

「おお、綺麗に虫だけ取り除けましたね。バル●ンマスターとこれから呼ぶべきでしょう」

「それ絶対やめろよ。それにしても……すごいなこれ……」

 小さくも大きくも、薄くも厚くもできて。
 さらに360度くるくる動かせて。
 任意で透過と不透過を指定できる。
 まさにとんでもないアビリティだと思った。

 左手に何かを持つと使用できないという欠点はあるが、それに引き換えてもかなり良い効果を持ったアビリティを発現できたのはないだろうか?

 素直に感心していると、遠くから声が響いた。

「すごいな!! まさかそれ〈異人〉が持つっていうアビリティか!?」

 ちょうど畑から帰ってきたのだろう、農具を持った顔に傷のあるおっさんが、やや興奮した様子で近寄ってきた。

「へ?」

「今の虫だけを取り除く様子を見ていたよ! すごいな! 是非力を貸してくれないか!?」

「いや、その、えっと……」

 おっさんに手を握り締められても嬉しくない。
 しかも力が強すぎてHPが地味に減っている。

「な、なんすか!」

「その能力を使ってちょっと手伝って欲しいことがあるんだ! 頼むよ!」

 それからすぐ、俺は村長宅に連れて行かれ、報酬を払うからと畑の害虫駆除をと頼まれたわけだった。



◇◇◇◇◇



「お、レベルが上がった」

 狩りに赴くつもりだったのだが、かなり割りのいい報酬を積まれたからやることになった害虫駆除。
 だが、バカにはできない。
 畑一面に存在する虫達を光の壁で取り除くと、かなりの数になる。
 それを足でぐちゃぐちゃと踏み潰しているだけでなんと一日でレベルが3も上がってしまったのだ。
 ……当初の予定とはかなり外れているが、そこはまあ成り行き的にオッケーってことにしておこう。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...