廃人ゲーマーとラスボス後の世界

tera

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第一章 - 旧友との再会

12 - とりあえず金策

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■聖王国領/アルヴェイ村/農士:ユウ=フォーワード

 加護の像の手前でどうするか悩んでいると、仮想画面が浮かぶ。



《セーブポイントの登録をいたしますか?》
《所属国家未選択時は一日限定での利用になります》
《所属国家選択はその国家の首都で行ってください》
《選択可能国家:ゾルディア、ビクトリア、ローロイズ、ウィズラビア、万里、千國》



「うおっ」

 いきなりのことで少し驚いてマリアナの方を向くが、どうやら彼女には見えてないようだった。

「どうしました?」

「いや、とりあえず加護の像を意識してみ」

 返事したマリアナもいきなり出現した仮想画面に驚いた表情を作る。
 なんとなくいつもしてやられてる分、驚いた表情が可愛く思えた。

「……オルフェ様のいっていた所属国家云々はこういうことだったんですね」

「そうだな。国家の首都に向かわなきゃいけないみたいだけど」

 領内だったらどこでも所属決めれるようにしてくれていればいいんだけどね。
 まあ、ゲームのような世界といえどもそこまで甘くはないということか。

「ゾルディア、ビクトリア、ローロイズ、ウィズラビア、万里、千國……ですか。聞いたことないですね」

「後半二つはなんとなく察しはつくけどな」

 漢字だし。
 万里と千國という語感的に、なんとなく東にありそうだ。
 でも、今の場所がどこの国なのかもわからないので、本当に東かどうかは怪しいところである。

 すぐ向こうの森の奥に帝国領を望む。
 聖王国領辺境のアルヴェイ村だってことしか地理的情報はないからな。

「で、結局この聖王国ってやつはなんていう国名なんだろうか……」

 オルフェは国名じゃなくて“せいおうこく”っていってたから国名まではわからなかったのだ。

「そういう時は聞いてみましょう」

 愚痴っているとマリアナがすぐに手を上げて村人を止めていた。

「すいません第一村人さん。せいおうこくの国名はなんでしょう?」

「はあ? 美人なくせによーわからんことを聞く娘さんだなあ、せいおうこくはビクトリアっつーんだ。教皇様と英雄王様が治めてくれとる平和な国だよ」

「ありがとうございます」

 そういって手を振り合う村人とマリアナ。
 なんというコミュニケーション能力。
 さすがだ。
 俺だったら店の人以外の他人には喋りかけれない自信があるぞ。

「とりあえずビクトリアだってことがわかりましたね」

「うん、だったら首都を目指して進むしかないな」

「はい!」

 そういうと、軽快な返事をするマリアナだった。



 だが、速攻でとある問題に直面する。

 職業も得て、これからどうするかの目標も定まった。
 いわば長い長いチュートリアルを終えて、ここから俺たちの異世界的な冒険物語がようやくスタートする。

 ……訳なの、だが。

 ここはその聖王国ビクトリア領の辺境の村。
 つまるところ、端っこの方。

 首都までの距離を考えると、二人で5,000Sずつ持っている合計10,000Sの資金では足りないことが発覚した。
 ちなみにリンゴを買って9,900S。
 面倒なのでこれから9.9KSとする。

 そこから俺の装備は別に良いとして、マリアナは弓と消耗品の矢を購入しなければならない。
 弓が安いのでも3KS、矢が矢筒込みの30本で2.5KS。
 残されたお金は4.4KSとなった。

「民宿の一番安い宿代でも一泊一部屋3KS。さらにそこでご飯を食べると一食一人500Sで二人で1KSか……明日には資金が底をつくな……」

「なんだか宿代に例えると間取りみたいですね。私はワンルームがいいです。マスターと二人でワンルーム。もう、お互いのプライバシーなんかズブズブで……」

「ちょっと、本気で由々しき事態だってのに、話変えるのやめて」

 流石に同棲したとしてもプライバシーズブズブのワンルームは嫌だなあ。
 贅沢を言えばベッドも分けたいくらいだ。
 他人(それも異性)がいると意識してしまって絶対寝れないと思う。

「マスター、由々しき事態ならば私も農士になった方がいいのではないでしょうか? 消耗品が存在する時点でコスパが悪いとも思います」

 打って変わって申し訳なさそうにするマリアナ。

「いや、ツーマンセルで動くときはできるだけ職は分けておいたほうがいい」

 雑魚狩りだったら単体火力でゴリ押しする、前衛職どうしてタッグを組んでもいい。
 だが、極めて現実的な状況だと、脳筋プレイは死に直結する。

「前タイトルでもよくいたんだよな。戦士のみで固めたパーティでゴリ押しする奴ら」

「でも、直接戦闘力が高い方が基本的にはいいと思うんですが」

「確かにそうれもあるけどな。直接戦闘力が高いと、ここぞという時に競り勝てる可能性は高い」

 だが。
 ステータスという明確な個体差があって、なおかつ現実に近い世界観の“ゲーム”の場合は、俗にいう「力こそパワー」ってのがまるで意味をなさなくなる。
 攻撃速度が高くても移動速度がなければ翻弄されるし、遠距離攻撃手段を持たないと、その手段スキルを持つプレイヤーの良い的である。
 ダンジョンとかでも、罠を解けるプレイヤーがいなければろくすっぽ探索は進めない。

 だから、取れる手段が多ければ多いほど良い。
 状況によって戦い方をがらりと変えれば生存の可能性は上がる。

「なるほど。ちなみにそういうマスターは前の世界ではずっと私を連れ回してソロプレイをしていましたけど、その理論からは思いっきり外れているんじゃないですか?」

「バランスよくっていうのはあくまで序盤だな。カンスト廃人クラスになれば、ぶっちゃけ何が来ても怖く無くなる。唯一怖いのはカンストクラスを基準にされたボスモンスターとかクエストくらいだった」

「なるほど。さすがカンスト廃人」

「ちなみにマリアナも前は特別職カンストまで行ってたから、立派な廃人だぞ?」

「アベックですね!」

「言葉古っ! ウィンストン入力ミスってんぞ!」

 ちなみにある程度耐久値を持ってると生半可な罠は効かなくなる。
 俺の場合はダンジョンにある罠とかほとんど知ってたからスキルぶつけて先に発動させたり、職業そのものの機動力がべらぼうに高かったから無視して先に進んだりしていた。

 さて、話を戻す。
 今の俺は体力に優れる軽装戦士みたいなもんだ。
 防御をアビリティに頼れるので、同じく軽装の狩人マリアナの足にもついていける。
 火力ゴリ押しではなく、狩れるものを効率よく狩りして行くスタイル。
 それが現状一番いいと思っていた。

「幸いこの森は動物も多いし、厄介なモンスターに気をつければ狩りで食うには困らないはずだ」

 農士として農業の手伝いをさせてもらってもいいかもしれない。
 だが、それは最終手段で、基本的にはレベル上げを並行して金策としていきたい。

「わかりました。一本たりともうち漏らさないようにしっかり心がけます」

「まあ、ほどほどにね」

 お互い揃って前タイトルでは魔法職だったわけだ。
 まあ俺は別ゲーで戦士系やったことあるから別に平気なんだけど。
 マリアナは最初から最後まで魔法職オンリーだったし、少し心配だったりする。

「すぐにでも外へでますか?」

「いや、もうすぐ日没だから今から外に出るのは危険だと思う」

 前タイトルでも夜はモンスターが強化されたり、特殊なモンスターが出たりと分けられていた。
 実際の現実でも基本的に夜は視界が著しく悪くなるので危険だってことは一般常識である。
 まだ序盤、焦ってレベル上げに走るよりも、日が明けてから確実に一歩一歩地道に進めて行くのが良いと思った。

 レベル上げの基本的な狩場ルートが有志によって構築されているならば、それをたどってスタートダッシュをすることも可能だが、ここにはそれがない。
 そもそも狩場っていう概念があるのかすら、怪しいところである。

 更に言えば、

「いきなり弓を使うのも難しいと思うし、できるだけ修練してからの方がいい」

 俗に言うプレイヤースキルというものだな。
 職業に就けばそれなりに弓を扱えたり、命中させることはできるかもしれない。
 だが、実戦になったとして、それをうまく扱って戦えるかは別だ。
 だれでもいきなり完全に立ち回れる奴はいない。
 もしそうだとしたら、直感でそれがわかっている天才だ。

 知り合いで言えばジハードとか、そんな感じである。
 戦士の最上位職対魔法使いの最上位職で決闘をしたのがなんだか随分懐かしく感じるなあ……。

 まあいい、それは置いといて。

 俺は基本的にどのゲームでもボス戦とか重要な戦いになればスキルの使いどころをきっちり考えて、必要なアイテムをしっかり揃えてからじゃないと嫌なタイプだからな。
 ゴブリンとかレッドオーガとか、モンスターの強さを瀕死になって味わった今、アビリティを使った戦い方やそれがなくても最低限立ち回れる方法をしっかり練習しておきたい。

「プレイヤースキルは重要だぞ、マリアナ」

「了解です。では、村の外で弓の練習をしても良いか、村長様に聞いて来ますね」

 それからマリアナとともに村長の元へ向かい、一応の許可を取った。
 もし子供とか誰かいたりしたら、とんでもないことになるからな。


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