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幕間 - 寄り道

1 - 北方都市スタジア

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■聖王国領/北方都市スタジア/農士:ユウ=フォーワード

 一日かけて竜車は進み、辺境の小さな町を通り越して大都市へとたどり着いた。
 あの辺境の村からは、歩けば五日ほどの距離であるらしい。
 そうなってくると、竜車の速さがいったいどれほどの物かよくわかる。

 馬よりも早く、そしてその速さを軽く維持できるのは、まさに竜種といっても過言ではない。
 つまるところ、欲しい。

 ジハードに聞いたら、やっぱりお高い代物だそうだ。
 それにこの世界にはそれぞれの国に特徴を持った竜種が存在するとのこと。

 ビクトリアは走竜種ランバーン。
 ローロイズは海竜種シーバーン。
 ヴィズラビアは飛竜種ワイバーン。
 ゾルディアは輓竜種ヘビーバーン。
 万里は密竜種デンスバーン。
 千國は滅竜種ロストバーン。

 全部バーンってつくの?
 なんか語呂がいいんだか悪いんだか判別つかないな。

「何やらたくさん馬車がありますね」

 竜車で門をくぐる。
 窓から外の光景を見つめるマリアナが呟いていた。
 ジハードが答える。

「聖王国の北方都市スタジアは、北西東をつなぐ都市だからな。ある種、この生王国の貿易の中心点と言ってもいい」

「なるほど、だからですか」

 西にある海の恵みや珍味達、北にある希少鉱石、東に存在する香辛料等。
 その全てがこのスタジアに一気に集まるという。
 貿易や商売が盛んな西と東の国は、北と南にある国によって国境の隣接点が存在しない。
 だから、王達のやりとりによって、こうした中継地点となる大都市が作られたという。

「いろんな人種がいるのはそのせいか?」

 尻尾や耳があって二足歩行した獣みたいな人。
 シュルシュルと舌を出す爬虫類のような顔を持つ人。
 体の一部に鱗やヒレを持つ人。
 さらに、容姿は一般的な人と同じでも、大きい人に小さい人。

 様々な人種が織りなす世界が広がっていた。
 白い石材を基調とした街並みが合わさって、ものすごくファンタジー。

「それもあるとは思うが……聖王国はもともと人種的な差別はしない国風だから、多分それだ」

 神の教えとして、そういうことになっているらしい。
 聖がつく国なだけに、宗教がお盛んなのだろう。

 あと、なんとなくではあるが……。
 南の暖かい気候が穏やかな国民性を育んでいるのかなとも思った。

「うおお! 決闘王だ! チャンピオン!」

「きゃー! 戦聖様よー!」

「サインもらわなきゃ!! きゃー!」

 街並みを見ながら街道を進んでいると、周りにいた人々がジハードを見て黄色い声を上げ始めた。

「偉い人気だな。っていう決闘王?」

「ああ、スタジアには決闘専用のコロシアムがあって、俺はそこの優勝者だからな」

「相変わらずだな」

 前のタイトルでも、ジハードは似たような対人戦専用の区域で頂点に君臨していたのだ。
 この世界でも同じように、対人戦専門の決闘大会があり、自分のランクが掲示されるらしい。
 そして各国には必ず一つ、そう言ったものがあるそうだ。

「目立って面倒で仕方がない……」

「それは有名税だろ」

 ジハードは口元をややひくつかせて、ぎこちない笑顔で手を振り返す。
 こいつはいつも仏頂面で、眉間以外の表情筋を失った男だとよくからかわれていたので、なんだか面白かった。

「マスター、私はマスターのふぁん第一号です。ファンクラブ会員ナンバーがあれば0番ですよ?」

「ねーよそんなファンクラブ」

 そして竜車は街道をゆっくりと進み、教会の手前でストップした。
 御者席から飛び降りたジハードに合わせて、俺とマリアナも降りる。

「ここは?」

「教会だな。辺境地への騎士団派遣を要請してくる」

「では、私たちはここで待っていればいいですか?」

「……実は夜通し走って眠たいから、一旦仮眠する時間を貰いたい」

「ああ、わかった」

 ここに来るまでの一日、ジハードはずっと竜車を動かしてくれていた。
 一応牽引するのが知性を持った竜種で、最悪仮眠しながらでも目的地にはつくのであるが、いつの間にか疲れて眠ってしまっていた俺たちを守るために起きていてくれたそうだ。
 所属が決まっていない状況だと、どこの誰かが横槍を入れて来るかわからない状況だったからである。

 そもそもジハードは昨日辺境の村に辿り着くまでの三日間。
 一睡もせず一直線に向かってきていたそうだ。
 だから全くもって寝足りないらしい。

「ここの仮眠室を使っているから、何かがあったらいつでも起こしてく……、すまんそろそろ電池切れそうだからもう行くわ」

「あ、ジハード。何時間くらい仮眠するんだ?」

「夕方ごろまた出ようと思っている。だからそれまで観光なり二人で過ごすなり、なんでもしてくれ」

 そう言いながらジハードはフラフラとした足取りで教会へを入っていった。

「相変わらず自由な人ですね」

「自由というより、戦い以外はだいたいあんな感じだったような……」

 俺の記憶では、戦っている以外の時間は飯を食ってるか、寝てるか(VRゲーなのに)。
 もしくはぼーっとしているところしかない。
 ごく稀に、唐突に何かに興味を引かれてそれに付き合わされるってことならあった。
 その場合、高確率で面倒ごとに巻き込まれていた。
 飯食わせて、寝かせとけば面倒ごとが少ないとまで言われるレベルの廃人である。

 逆に。
 辺境地の安全のためにこうして騎士団派遣を申請しに行くのを見ると……なんだかジハード丸くなったな、なんて思えて来るほどでもあった。
 基本的にはいい奴だしなあ。

「とりあえず……どうしましょうか?」

「そうだな」

 睡眠も取れたし、一応安全だと思われる街にも来れた。
 今から金稼ぎなんてできそうもないし、本当にぽっかりと空いてしまった時間である。

「二人で観光しつつ、今あるお金で装備を買ったり、あとはつける下位職業を調べたりしよう」

「おお、デートですか!」

「うーん……まあ、今回はそういうことにしとく」

「わー! よっしゃあああ! 私の時代きたー!」

「は、ハシャギ過ぎじゃない? 周りの目があるからちょっと声抑えてくれよ……それにデートプランなんてないし、リードすることに期待するなよ?」

「最初からそんなことには期待していません」

「ぐ」

「今時の乙女は等身大の男性が好みなのです!」

「そ、そうなの?」

 ウィンストン知識なのだと思うんだが、あいつは無駄知識だけは天下一品だったから変に説得力があるな。
 あ、思い出したのだが、首都に行ったらあいつらも待っていると聞く。
 ウィンストン、見つけたら最初にぶちころがしたるからな。

「安心してくださいマスター! 私は会計の時財布出さなかったり、食事の時になんでもいいって言ってたのに思ってたのと違ったら不機嫌になったり、帰りのタクシー三千円だけど一万円くらい気前良くだせとか、クーポン使ったらダサいだとか、そういう事は全く言いませんので安心してくださいね!」

「お、おう……」

 どこまで本気でどこまで冗談なのかわからなかったが、とりあえず嬉しそうなのでよしとします。
 つっても、観光もそこそこに、できれば職業選択とそれからの武器購入を目的に動きたいんだけどなあ……。
 このはしゃぎっぷりでそれをいったら、怒られそうな気がした。

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