戦利品のオメガ

朏猫(ミカヅキネコ)

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 じゅぶじゅぶと濡れた音がする。指でいじる前から濡れていたが、貫いてからは滴り落ちるほどの状態だ。はだけた夜着から覗く白肌は発情でうっすら桃色に染まっている。そこにぷくりと膨らむ胸がやけに目立つ。

「んっ」

 アルスーンがカリと甘噛みすると、甘い悲鳴を上げながら華奢な体がビクンと跳ねた。勢いでベッドから浮いたシャオティエンの腰がグッとアルスーンに押しつけられる。深い挿入にせり上がる吐精感を何とか堪え、屈めていた上半身をゆっくり起こした。

「なんと美しい人だ」

 白い夜着の上で乱れる肢体は、この世のものとは思えない様子だった。美しくたおやかでありながら匂い立つような淫靡さをもかもし出している。発情したΩは美しいと言われるが、美しいという言葉だけでシャオティエンを表現するのは難しかった。

「は、は、」

 荒い呼吸をくり返す唇から目が離せない。アルスーンが食い入るように見ていると、それに気づいたのか目元を赤くした黒眼がゆらりとアルスーンを見た。それだけで細い体を穿つ陰茎がさらに膨らむ。

「やっと、触れあえた」

 囁いた口角が上がり笑みを浮かべた。そうして細い指がアルスーンの両頬を包み込む。

「あなたは、わたしの運命。わたしだけの、α」

 甘い声にアルスーンの首筋がぞくりと粟立った。

「そして、わたしはあなたのΩ」

 背筋を冷水にも似たものが走り抜けた。戦場ですら感じたことがない恐怖にも似た感覚が全身の肌を粟立たせる。

「さぁ、わたしをあなたのものに」

 頬を包んでいたシャオティエンの手が逞しい首筋を撫でた。そこから肩先までを撫で、細腕を首に絡みつける。

「わたしを、あなただけのものに」

 ぐぅと唸ったアルスーンは、シャオティエンの背中に片手を回し細腰を持ち上げた。そのまま何度も尻たぶに打ちつけるように腰を振る。ぐじゅぐじゅと音を立てながら柔らかい中を貫くが、いくら突き上げても欲が止まらない。ますます猛る陰茎をねじ込むように押し込み、深い場所をぐりぐりと擦り上げる。
 次第にシャオティエンの嬌声が高いものに変わってきた。息も絶え絶えといった様子で、アルスーンの首に絡めていた腕もいつの間にかベッドにくたりと落ちている。黒眼がより一層虚ろになっているのは発情の熱に呑まれているからだろう。
 そんな状態で、シャオティエンは何度も「噛んで」と口にした。途切れ途切れに「うなじを」と言い「噛んで」と乞う。

「駄目、です」

 眉をきつく寄せながら、アルスーンはそれだけ口にして何度もシャオティエンの熟れた中を貫き続けた。
 それから三日三晩、発情は続いた。その間シャオティエンは何度も「噛んで」と口にした。朦朧としながらも、まるでそれしか言葉を知らないというように言い続けた。それでもアルスーンは噛まなかった。うつ伏せになり、うなじを見せられても唇を寄せることさえしない。
 そうして発情が終わった四日目の午後、シャオティエンはベッドの上でアルスーンに馬乗りになっていた。普通のΩなら力尽き横たわっているはずが、発情明けにも関わらず細腰はしっかりしている。

「殿下、無理をされないほうがよいのでは」
「うるさい」

 発情が終わってもなお美しい顔が怒りの色を滲ませた。

「相手をしたことを怒っておいでか」
「その逆です」
「逆とは?」
「とぼけないでください。なぜ噛まなかったのですか?」

 涼やかな声に棘が混じる。夜着の裾から白い太ももが見えていることを気にすることなく、逃がさないとばかりに腰に跨がり続けた。

「噛めば殿下はわたしの伴侶となります」
「わかっています。そもそも、わたしはすでにあなたの伴侶。それなのになぜ噛まなかったのかと問うているのです」

 黒眼がアルスーンをきつく睨みつける。

「それとも、王から下げ渡されたわたしには噛む価値もないと思っているのですか」

 まるで自分を侮蔑するような言葉に、アルスーンは咎めるような眼差しを向けながら口を開いた。

「そうではありません。が、安易に噛むという選択はできません」
「わたしを噛むことを、安易な選択と言うのですか」
「わずかでも疑いの芽がある限りは」
「……わたしを疑っているのですね」
「あなたはこの国を憎んでおられる。それなのに、なぜ俺に噛まれたがるのか理解できません」
「噛まれたわたしが何かすると思っているのですか? Ωのわたしが、αであり将軍でもあるあなたに何ができると言うのです」
「何かできるから噛ませたがっておいでなのでしょう?」

 アルスーンの言葉にシャオティエンの赤い唇がすぅっと閉じた。そうして華奢な手が触れるようにアルスーンの首にかかる。

「こんな手しか持たぬわたしに何ができると?」
「力でΩがαに勝つことは無理でしょう。でも、殿下にはわたしをどうにかできる何かがある。それが“運命”というものなのではありませんか?」

 アルスーンが話している間、シャオティエンの指が戯れるように逞しい首を何度も撫でた。まるで愛撫のような感触にアルスーンの眉が寄る。

「運命とは、互いに唯一であるαとΩを指す言葉です。我が国では、もっとも強き絆と言われていました」

 細い人差し指が立派なのど仏に触れる。

「本来、運命は互いに感じあえるものだと言われています。しかし、あなたはそう感じていないようだった。あの日、初めて見たときにわたしは感じたというのに」

 シャオティエンがいう「あの日」とは、親善のため彼の国に出向き挨拶したときのことだろう。何かあっただろうかと思い返したものの、アルスーンには特別気になる記憶はない。

「もしや勘違いかと思ったときもありました。でも、そうではなかった。あなたに再び会い、そばにいて間違いないと確信しました。あなたはわたしの運命、わたしだけのαです」
「だから、殿下は俺のΩというわけですか」
「そのとおりです」
「だが、それだけじゃないはずだ。何を隠しておいでですか?」

 のど仏を撫でていた指が顎を伝い、唇の端に触れる。そうして下唇を撫で始めたシャオティエンの黒眼は伴侶を愛おしむような雰囲気をしていた。しかし、アルスーンにはそれ以外の何かが含まれているような気がしてならない。

「わたしが黒真珠と呼ばれていたことは?」
「存じています」

 目の前の姿はまさに黒真珠のように美しい。あの日「今日は黒真珠の君が顔をお見せになるそうだ」と彼の国の貴族たちが騒いでいたことを思い出す。

「そう呼ばれる理由が、わたしにはあるのです」

 アルスーンの唇から指を離したシャオティエンは極上の笑みを浮かべた。
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