戦利品のオメガ

朏猫(ミカヅキネコ)

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「あ、あ……!」

 黒髪を乱しながら頭を振る姿にアルスーンの口元が歪む。強すぎる感覚にどうしても逃げ腰になってしまうのだろう。わかっていて、アルスーンは意地悪く問いかけた。

「こうしてほしかったのでしょう?」
「んっ!」

 腰を引き寄せ猛々しい陰茎をねじ込みながら、華奢な体に覆い被さり耳元でそう囁いた。

「乱暴にされるのがお好きとは、なんといやらしい人だ」
「ぁ、ぁ、あ!」
「ほら、奥までしっかり咥え込んでください」
「もぅ、入らな、」

 ゆるゆると胸を押し返す細い両手首を左手一本で掴み上げ、頭上に縫い止める。

「俺の嫉妬心を煽ったのは殿下ですよ」
「もぅ、奥は、やめて、」
「いいえ、αを本気にさせたのですから責任を取っていただかなくては」
「ひ……!」

 突き上げていた柔い場所を硬い切っ先で押し上げた。途端にシャオティエンの黒眼からぽろぽろと涙がこぼれ出す。
 完全に発情していない体では逞しいαの陰茎をすべて体内に収めるのは難しい。わかっていたが、それでもアルスーンは穿つのをやめなかった。

「俺を本気にさせたかったのでしょう? 発情を促すことでα性を強めてから、敢えて他人に触れられるのを見せつける。そうしてαの強い嫉妬と怒りを煽り、うなじを噛ませようと考えた。違いますか?」

 動きを止め、美しく泣き乱れるシャオティエンをじっと見下ろした。憐憫を誘い蠱惑的に惹きつける姿は女神というより悪魔に近い。ぞくりとするものを感じながらも、アルスーンは確信を持って黒眼を見つめた。
 生理的な涙に濡れた黒眼がすぅっとアルスーンを見る。しばらく見つめたあと、笑むように細くなった。そうして濡れた唇がゆっくりと口角を上げる。

「わたしだけの、α」

 囁きが聞こえた瞬間、アルスーンは勢いよく腰を引き、すぐさま奥深くを穿った。「ひぃ!」と甘い悲鳴を上げる美しい顔を見ながら乱暴に動き続ける。しばらくするとシャオティエンの体がガクガクと震え出し、アルスーンを包み込む柔い壁がうねるような動きを見せ始めた。

「まずは一度達しておきますか」
「あ・あ……!」

 掴んでいたシャオティエンの両手首に力が入った。それをグッと押さえつけると、華奢な体がビクンと跳ね上がる。下腹が濡れる感触に、アルスーンはシャオティエンが達したのだとわかった。

「量はそれほど出ないようですね。殿下はΩですから、この程度が可愛らしいとは思いますが」
「は、はっ、は」
「さぁ殿下、休んでいる時間はありませんよ。うなじを噛まれたいのでしょう?」
「はっ、は、」

 息を乱している黒眼がアルスーンを見る。涙に濡れ虚ろな眼差しだというのに、いまだ得体の知れない何かを感じさせる瞳だ。ほかにも企みがあるのかもしれないと思いながらも、アルスーン自身これ以上冷静でいるのは難しかった。

(いますぐうなじを噛みたい)

 これまで腕に抱いたどのΩにも感じなかった強烈な欲を感じる。目の前のΩが発情しかかっているからだけではない。この段階でここまで強く感じる欲は本能からわき上がるものだ。

 このΩは自分のものだ。そして自分はこのΩのためのαだ。

 全身を巡る感覚に目眩がした。発情のときに感じるものとは違う、もっと深く纏わりつくような感情がわき上がる。これがシャオティエンの言う「運命」のせいだとすれば、抗うことはあまりに難しかった。アルスーンは一度奥歯を噛み締め、それからゆっくりと口を開いた。

「うなじを噛むには、殿下にしっかりと発情してもらわなくてはなりません。いいですね?」

 アルスーンは別に許可を得ようと思って口にしたわけではない。覚悟を決めるため自分に言い聞かせるように言葉にしただけだ。
 息を吐きながら目を閉じる。そうして再び開いた緑眼は燃え上がるような草木の色を宿していた。

「ぁ……ぁ……あ……」

 虚ろだったシャオティエンの黒眼が見開かれていく。気づく程度だったΩの香りが一気に華やいだ。白い肌は薄桃色に染まり、目尻には歓喜の涙が新たに浮かび上がる。

「陛下の前で発情しなかったとは思えない姿だ。これほど濃密で可憐な発情は初めて見ます」

 拘束していた両手を離し、頬に散っていた黒髪を梳くように退ける。指先がわずかに肌に触れた瞬間、シャオティエンは「ぁあ!」と甘い声を漏らした。

「この間の発情とはまったく違いますね。……なるほど、これが運命とやらの発情というわけか」

 絡みつくような甘いΩの香りが段々と濃くなっていく。前回は部屋全体に広がっていた香りが、今回は濃縮されたように二人を包み込んでいた。
 アルスーン自身、本格的な発情を感じるのは久しぶりだった。初めてΩと行為に至ったとき以来かもしれないなと二十年以上前のことを思い出す。

(あのときは、ただ訳がわからないだけだった)

 発情したΩにのし掛かられ、濃い香りに我を見失った。気がつけば柔く熱い腹の中に大量の精を吐き出していたが、相手が首飾りをしていたおかげで噛むことがなかったのが幸いだった。
 それ以来、アルスーンは不測の事態が起きても発情を誘発されないように訓練してきた。おかげで発情中のΩに抱きつかれても冷静に相手をすることさえできるようになった。
 前回、初めて嗅ぐ濃いΩの香りに意識をぐらつかせながらもシャオティエンを噛むことはなかった。しかし今回は無理だろう。本能がそう訴えている。「このΩを自分のものにしろ」と吠え続けるのを感じていた。

「殿下のお望みどおり、噛んでさしあげます」

 耳元で囁くアルスーンに、咥えたままのシャオティエンの中が悦ぶように蠢いた。
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