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後宮に繋がれしは魔石を孕む御子
3 王子と魔石1
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体が熱い。体の中の熱がぐるぐる回って暴れ出そうとしているのを感じる。とくにお腹のあたりと、その少し下の部分が疼くように熱かった。その熱をどうにかしたくて手を伸ばす。そこに指先が触れる直前、伸ばした指をギュッと握り締めて拳を握った。
(自分で触れるのは、やっぱり嫌だ)
魔石を生み出す方法を教えられたとき、僕は魔石を生み出すことを怖いと思った。嫌だと思った。それが“魔血”であり“魔純の御子”の役割だとわかっていても、自分が卑しい生き物になるような気がしてどうしようもなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのがオオルリ兄上様だ。同母胎の兄上様も以前は魔石を生み出していたと聞いている。だから僕が抱える苦しい気持ちに気づいてくれたのだろう。もしかしたら兄上様も僕と同じような気持ちを抱いたことがあったのかもしれない。
「ほかの誰の手にも触れさせはしないからね」
初めて魔石を生み出したのは十二歳の誕生日の日だった。あの日、兄上様はそう約束してくれた。それから僕の魔石は兄上様が採取することになった。
「怖がらないで。大丈夫、痛いことはしないから」
低すぎず高すぎない兄上様の声が耳の奥で響く。「大丈夫だから」という声にホッとして、綺麗な手で頬を撫でられるたびに強張っていた体から力が抜けた。兄上様の声や手はいつも優しかった。兄上様が心の底から僕のことを気遣ってくれているのがわかったから、すべてを任せることができた。
「兄上、さま」
ルリ兄上様の声を思い出しながら、そうっと下着の中に手を入れた。熱いそこに指先が触れただけで心に黒いモヤがかかるような気がした。熱源に触れた手が強張るように動きを止める。
それでも消えない熱をどうにかしたくて、ゆっくりとそれに指を絡めた。兄上様がしてくれたことを思い出しながら、余計なことは何も考えないようにと自分に言い聞かせる。「もしわたしが来られないときには、こうして治めなさい」と言われたように、ゆっくりと手を動かした。
「は、はっ、はっ」
嫌悪する気持ちと熱を吐き出したい欲がぶつかり合って目眩がしてきた。自分が吐き出す荒い息やクチュクチュとした小さな音に不快感が広がる。それでも手を止めることができないほど体の熱は限界を迎えていた。はやく熱を消し去ってしまいたい。澱んだ魔力を吐き出してしまいたい。それだけが頭の中を占めていく。
「んっ、ん……っ」
体がビクッと震え、手に滑った感触がした。同時に体の内側でぐるぐると渦巻いていた熱が弾けて、飛び散ったものが僕の体から立ち上りゆっくりと宙に向かっていく。
目には見えないけれど、霧のような熱が渦を巻くように空中に集まっていくのを感じた。渦の中心に向かって僕を苦しめていた熱がどんどん吸い寄せられていく。そうして一カ所に集まったかと思うと、パァンと音を立てて弾け飛んだ。空中で弾けたものは、まるで光の粒のような姿になってパラパラと僕の体に降り注ぐ。
弾けたそれは、魔石になり損なった残骸だった。まるで宝石の粒のようにキラキラ光る残骸は、僕に触れるとすぅっと消えていった。
うまく導き出せなかった魔力は魔石としての形を為すことができない。砕けた魔石はただの残骸として消え、再び魔石になることもない。兄上様からそう聞いてはいたけれど、実際に体験したのはこれが初めてだ。
(……そうか、だから導き手が必要なんだ)
魔石を生み出す王族には必ず導き手がつく。いまみたいに一人では魔石を生み出すことが難しいからなのだろう。僕にも父上様が決めた導き手がいた。その導き手によって魔石を採取される予定だったけれど、実際に導き手になってくれたのは兄上様だった。でも、もう兄上様が採取することはない。
(導き手がいなければ僕は魔石を生み出すことができない)
そのことにホッとした。いまみたいにどうにもならない熱を一人で吐き出したとしても、兄上様がいなければ魔石になることはない。どれほど高純度の魔石の元を生み出したとしても残骸になれば生み出していないのと同じだ。
(よかった)
これなら体内に溜まった魔力を吐き出しても大丈夫。魔石にならないなら帝国に利用されることもない。そう思うと少しだけ気分が晴れるような気がした。
気怠い体を寝台から起こした僕は、濡れた手を冷たい水で洗い清めるため冷たい床に足を着いた。
(自分で触れるのは、やっぱり嫌だ)
魔石を生み出す方法を教えられたとき、僕は魔石を生み出すことを怖いと思った。嫌だと思った。それが“魔血”であり“魔純の御子”の役割だとわかっていても、自分が卑しい生き物になるような気がしてどうしようもなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのがオオルリ兄上様だ。同母胎の兄上様も以前は魔石を生み出していたと聞いている。だから僕が抱える苦しい気持ちに気づいてくれたのだろう。もしかしたら兄上様も僕と同じような気持ちを抱いたことがあったのかもしれない。
「ほかの誰の手にも触れさせはしないからね」
初めて魔石を生み出したのは十二歳の誕生日の日だった。あの日、兄上様はそう約束してくれた。それから僕の魔石は兄上様が採取することになった。
「怖がらないで。大丈夫、痛いことはしないから」
低すぎず高すぎない兄上様の声が耳の奥で響く。「大丈夫だから」という声にホッとして、綺麗な手で頬を撫でられるたびに強張っていた体から力が抜けた。兄上様の声や手はいつも優しかった。兄上様が心の底から僕のことを気遣ってくれているのがわかったから、すべてを任せることができた。
「兄上、さま」
ルリ兄上様の声を思い出しながら、そうっと下着の中に手を入れた。熱いそこに指先が触れただけで心に黒いモヤがかかるような気がした。熱源に触れた手が強張るように動きを止める。
それでも消えない熱をどうにかしたくて、ゆっくりとそれに指を絡めた。兄上様がしてくれたことを思い出しながら、余計なことは何も考えないようにと自分に言い聞かせる。「もしわたしが来られないときには、こうして治めなさい」と言われたように、ゆっくりと手を動かした。
「は、はっ、はっ」
嫌悪する気持ちと熱を吐き出したい欲がぶつかり合って目眩がしてきた。自分が吐き出す荒い息やクチュクチュとした小さな音に不快感が広がる。それでも手を止めることができないほど体の熱は限界を迎えていた。はやく熱を消し去ってしまいたい。澱んだ魔力を吐き出してしまいたい。それだけが頭の中を占めていく。
「んっ、ん……っ」
体がビクッと震え、手に滑った感触がした。同時に体の内側でぐるぐると渦巻いていた熱が弾けて、飛び散ったものが僕の体から立ち上りゆっくりと宙に向かっていく。
目には見えないけれど、霧のような熱が渦を巻くように空中に集まっていくのを感じた。渦の中心に向かって僕を苦しめていた熱がどんどん吸い寄せられていく。そうして一カ所に集まったかと思うと、パァンと音を立てて弾け飛んだ。空中で弾けたものは、まるで光の粒のような姿になってパラパラと僕の体に降り注ぐ。
弾けたそれは、魔石になり損なった残骸だった。まるで宝石の粒のようにキラキラ光る残骸は、僕に触れるとすぅっと消えていった。
うまく導き出せなかった魔力は魔石としての形を為すことができない。砕けた魔石はただの残骸として消え、再び魔石になることもない。兄上様からそう聞いてはいたけれど、実際に体験したのはこれが初めてだ。
(……そうか、だから導き手が必要なんだ)
魔石を生み出す王族には必ず導き手がつく。いまみたいに一人では魔石を生み出すことが難しいからなのだろう。僕にも父上様が決めた導き手がいた。その導き手によって魔石を採取される予定だったけれど、実際に導き手になってくれたのは兄上様だった。でも、もう兄上様が採取することはない。
(導き手がいなければ僕は魔石を生み出すことができない)
そのことにホッとした。いまみたいにどうにもならない熱を一人で吐き出したとしても、兄上様がいなければ魔石になることはない。どれほど高純度の魔石の元を生み出したとしても残骸になれば生み出していないのと同じだ。
(よかった)
これなら体内に溜まった魔力を吐き出しても大丈夫。魔石にならないなら帝国に利用されることもない。そう思うと少しだけ気分が晴れるような気がした。
気怠い体を寝台から起こした僕は、濡れた手を冷たい水で洗い清めるため冷たい床に足を着いた。
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