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後宮に繋がれしは魔石を孕む御子
8 初夜2
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どのくらい経っただろうか。僕の下肢をいじっていた軍帝の手が、すぅっと後ろのほうへ動くのがわかった。少し張っている二つの袋の間を触れられた瞬間、必死に閉じていた目をハッと見開いた。触れている先にあるのは、あの場所しかない。
(嫌だ、それだけは嫌だ……!)
必死に身をよじり、軍帝に背を向けた。そんなことで逃れられるはずがないのに、とにかくやめてほしくて丸まるように体を小さくする。下敷きになっていた薄い夜着をたぐり寄せ、背中とお尻の半分を必死に隠した。
「なんだ、恥ずかしいのか? 初めてじゃねぇだろうに」
ため息をつくような軍帝の言葉が背中に突き刺さった。
「それとも愛しい兄上様の手じゃないのが気に入らねぇか?」
思いもしなかった言葉にお腹の底が冷えるような気がした。
(まさか、兄上様が魔石の採取をしていたことも知っている……?)
そんなはずはないと思いながら夜着をギュッと握り締める。
「高純度の魔石を生み出すには前への刺激だけじゃ難しいんだろ? どこまでしてたかは知らねぇが、いまさら恥ずかしがる必要なんてねぇだろうが」
「違う! 兄上様は違います……!」
思わず声を荒げながら振り返った。たしかに僕の導き手は兄上様だったけれど、あくまで魔石の採取を担っていただけにすぎない。それなのに、まるで兄上様がそういう目的で僕に触れていたような言葉にカッとなった。否定しようと軍帝を見たものの、爛々と光る赤い眼に言葉が続かない。
「別に隠す必要はねぇよ。それも知ったうえで連れて来たんだ。ま、二番目ってのは気にくわねぇけどな」
「二番目」という単語で軍帝の声が低くなった。視線は鋭さを増し、まるで僕を睨みつけているように見える。
圧倒的な気配に先ほどまでとは違う恐怖を感じた。僕が感じているこれは、きっと生き物が持つ本能だ。自分よりも遥かに強大な存在を前にすれば、僕のような力のない者は小さなネズミのように怯えることしかできない。
それでも兄上様のことを誤解されたままではいられなかった。誰よりも美しく才能あふれる兄上様は、僕と違って卑しいところは何一つない。僕に触れるたびにつらそうな表情をしていた兄上様を思い出し、誇りを汚されたままでなるものかと震える唇を必死に動かした。
「ちがいます。兄上様は、そうじゃない」
「魔石を生み出す手伝いはオオルリがしていたはずだ」
やっぱり軍帝は魔石の採取方法を知っている。僕の導き手が兄上様だということも知っている。
「導き手は、たしかに兄上様でした。でも、あなたが思っているようなことはしていません」
このことだけは絶対に否定しなくてはいけない。兄上様は僕のために導き手を担ってくれていただけで、行為そのものをしていたわけじゃない。
(それに、あれも僕を守るために仕方なくしてくれていたことだ)
今度は僕が兄上様を守る番だ。軍帝をグッと睨みつけたものの、静かに見返す赤眼に喉がひくっと震える。
「快感を得ることで魔石を生み出すことは知っている。おまえが生み出す高純度の魔石は……ここで得られる快感によって生み出されるってこともな」
ぬめったものがお尻に触れる感触に、慌てて両手をぎゅうっと握り締めた。怖い、嫌だと思っていても僕には抵抗する術がない。
ヌチュウという感覚とともに軍帝の指が入り込んできた。抵抗できない代わりに必死に目を瞑り唇を噛み締めたものの、そんなことで軍帝の指が止まるはずもない。
「何も知らねぇって感じじゃねぇな。それだけいじられてきたってことか」
言葉とともに少し深くを擦られて、強張っていた体がビクンと跳ねた。兄上様が導いてくれる魔石の採取では触れられなかったところだ。こんなのは嫌だと思っているのに体の奥がどんどん熱くなっていく。
(これもすべて僕が卑しいからだ)
卑しい“魔血”の僕の体は魔石の採取かどうか関係なく感じてしまう。それが“魔血”の血筋の体だと小さい頃から何度も本で読んできた。
「こんな小せぇ場所なのに必死に迎え入れようとしている。奥もねだるようにうねっていやがる。兄上様じゃなくてもほしいんだろ? それとも兄上様にそう躾けられたか? おまえの体は男をほしがっているようにしか見えねぇな」
軍帝の言葉に涙があふれた。
(違う! 違う、違う、違う!)
僕の体が卑しいのは事実だ。でも兄上様にされたからじゃない。
「ちが、います……! 兄上様は、ただ、手で、導いて……っ。僕の体、は……っ。導きで、魔石を、生み出す、だけ……!」
後ろをグチュグチュといじっていた指が止まった。それでも一度火照った体は魔力を吐き出したくて疼き続けた。体の奥底に溜まっている澱みが外に出たいと暴れ始める。それを渾身の気力で抑えつけながら、震える唇で必死に言葉を紡いだ。
「兄上、様は……、違う……」
恐がりな僕のために、兄上様はなるべく楽に魔石を生み出す方法を考えてくれた。暗示のようなそれのおかげで、僕は絶望することなく魔石を生み出すことができた。
――そう、ゆっくりと力を抜いて。
前を少しだけ触って魔力を吐き出しやすいように体を火照らせる。僕の体はすぐに熱くなるから、あとはほんの少し後ろに刺激を与えるだけで簡単に魔力を吐き出せた。
――指に押し出されるのだと想像して。中に指が入ってきたら、そのぶんだけ魔力が外に出るのだと想像して。一度出てしまえば、あとは水が噴き出すように魔力のほうから外に出る。そう、そのまま吐き出せばいいからね。
たしかに兄上様は前にも後ろにも触れていたけれど、それは軍帝が言うような夜の営みのようなことをするためじゃない。僕が魔石を生み出すために必要だっただけだ。
兄上様は束ねた長い銀髪を一筋も乱すことなく、いつも穏やかな瑠璃色の眼で僕を導いてくれた。優しく声をかけ続け、できるだけ僕の心も体も傷つかないように、魔石を滞りなく生み出せるように気を配ってくれていた。触れる場所も最小限に、違和感も苦痛も感じないようにといつも気遣ってくれていた。
――魔石を生み出す必要のない世界を、必ず作ってみせる。
それが兄上様の口癖だった。そう言いながら、僕が生み出した魔石を悲しそうな顔で見ていた。そんな兄上様が僕のせいで汚されるなんて絶対に駄目だ。
「兄上様は、違います」
小さい声で、もう一度そう口にした。「兄上様は、そんなことはしません」と続けた言葉に、軍帝が僕の顔を覗き込んだ。
「まさかおまえ、処女なのか?」
「しょじょ?」
意味がわからずおうむ返しに口にしたら、ズンと指を突き入れられた。
「ひっ」
「ここに男を迎え入れたことはないんだな?」
「あ、ありま、せん……!」
兄上様の指だって入り口からほんの少し入るだけだ。体内に指が“入ってきた”と認識しただけで魔力を吐き出せるようにしてもらったおかげで必要最低限の接触で済んだ。
「あいつ、黙っていやがったな……」
軍帝のつぶやきはグチュグチュという淫らな音にかき消されてしまった。突然始まった強い動きに体の火照りはますますひどくなり、呼吸まで苦しくなる。あまりのつらさに唇を噛み締め続けることができなくなった。後ろをひどくいじられるのも体が熱くなるのも苦しくてたまらない。吐き出したいのに吐き出せない魔力のせいで、ますます息ができなくなる。
「もう、やめて……」
あまりの苦しさに思わずそう訴えた。指を抜いてほしくて、後ろ手に軍帝の腕を押し返そうと試みる。
「や、めて……。指、抜いて、くださ……」
「駄目だ」
肩を掴まれたと思ったら仰向けにされた。握り締めていた夜着を奪われ、心許なくなった僕の上に軍帝が覆い被さる。そうして再び後ろを指でグチュグチュといじられ目眩がした。
やめてほしくて胸を押したり叩いたりしたものの、軍帝の指が僕の中をかき混ぜるのをとめることはできなかった。体をゾクッとさせるところを何度も擦られ、それが怖くて必死に頭を振ってやめてほしいと懇願した。それに「はは」と笑った軍帝は、ますますいやらしい音を立てるように激しく指を動かし続けた。
「泣きながら男の下で嫌がるのは余計に劣情を刺激するだけだぞ」
軍帝の赤い眼が、さらに赤くなった気がした。にやりと笑った軍帝に、僕は魂ごと食われてしまうのだと恐怖した。
それからのことはあっという間だった。
「ぃや、もう、やめて……」
「体はそうは言ってねぇな」
「や、あ……!」
膝に乗せられたまま腰を掴まれ、グイッと引き寄せられた。同時に軍帝が腰を押しつけてくるせいで、ますます体の深くを抉られてしまう。
指で散々いじられたところに熱く硬いものがあてがわれたとき、それが軍帝のものだというのはすぐにわかった。ハッと目を見開いた僕の脳裏に、塔での出来事が蘇って血の気が引いた。
塔に住んでいたとき、後宮と同じように出入り口には衛兵が立っていた。僕が逃げ出さないように、誰かに連れ出されないように監視するためだったのだろう。そんな衛兵に僕は何度か襲われかけたことがあった。部屋に押し入った衛兵に引き倒され、下肢を暴かれ、後ろに男の滾ったものをあてがわれたことも一度や二度じゃない。中にはそんな衛兵に協力する従僕すらいた。
いずれのときも兄上様が用意してくれた魔具が発動して僕を守ってくれた。それでも僕はいつも気絶してしまい、そんな僕を見る兄上様はつらそうな表情をしながら看病してくれた。
(僕は自分の身一つ守ることができない)
ここには僕を守ってくれる魔具はない。ここは軍帝の後宮で、僕は妃として軍帝に召し上げられた。つまり、最初から行為を拒絶することは許されていないということだ。
貫かれる瞬間は気が触れそうなくらい怖かった。怖くてたまらないのに全身は悦びに震えていた。後ろにあてがわれた硬い熱に「早く、早く」と気が急くような感覚までした。おまえはそういう血筋なのだと、そういう呪われた体なのだと突きつけられたような気がして涙が止まらなくなった。
いまだってそうだ。嫌だと思っているのに、突き上げられるたびに気持ちいいと感じてしまう。やめてほしいと思っているのに「もっと」と口走りそうになる。そんな自分が嫌でたまらなかった。
(嫌なのに……僕はこんなこと、求めていないのに……)
僕を襲った衛兵は「おまえが誘ったんだ」と口元を歪めた。従僕は「そういう体なんだろ」と笑った。何人もの男たちが“魔血”はそういう血筋なのだと口にした。そのたびに自分の体が恐ろしいもののように思えて絶望した。
きっと軍帝もそう思ったに違いない。僕が“魔純の御子”だから軍帝の目に留まってしまったのだ。“魔血”の体だから軍帝を呼び寄せてしまった。
(僕は“魔血”の澱みだ……あの国の錆だ……)
自分の血と体と運命に震えた。そんな僕をなぜか軍帝がぎゅうと抱きしめた。
「怖がる必要はねぇよ。大丈夫だ、ひどいことは絶対にしねぇから」
何を言っているのかわからなかった。僕を裸にして組み敷いて、そうして貫いたのは軍帝だ。いまも膝に乗せて下から突き上げ続けている。それなのに「怖がる必要はない」なんて、どういうつもりだろう。
「大丈夫だ」
兄上様と同じ言葉を言わないでほしい。こんな恐ろしいことをしているくせに、どうして同じ言葉を言うのだ。
(兄上様とあなたは違う。あなたはひどい人だ)
それなのに気がつけばすがりつくように肩を掴んでいた。嫌だと言いながら腰を揺らしていた。
「大丈夫だ」
朦朧とした意識のなか、軍帝のその言葉だけが聞こえてくる。軍帝の声が段々と兄上様の声に聞こえてきた。
「大丈夫」
耳元で囁かれたあと、頬に口づけられた。汗で濡れている前髪を指で梳かれ、そこにも口づけられる。何度もつぶやかれる「大丈夫」という声に体の奥の何かがふるりと震えた。
「大丈夫だ」
恐怖と嫌悪感で強張っていた体から力が抜けた。次の瞬間、体の深いところに軍帝の熱がググゥッと入り込んでくるのを感じた。
「……っ」
何かがせり上がってくるような気がした。ブルブルと震えるのをなだめるように軍帝の手が何度も僕の背中を撫でる。
「大丈夫だ」
この声は兄上様じゃない。それなのに聞こえるとなぜかホッとする。
(怖いのに……どうして……)
交互に襲ってくる安堵感と恐怖心に僕は混乱していた。そんな僕の体の奥を軍帝の熱が押し広げていく。そうして体の奥深くに溜まっていた魔力の澱みに触れた。
「ひ……っ」
何かがバチンと弾け飛んだ。ズンズンと突き上げられる感覚に頭が痺れる。ズクンとお腹の奥が震え、重く漂っている澱みがユラユラと揺れ始めた。まるで魔石を生み出す直前のような感覚に困惑し混乱する。
「あ……ぁ……だめ……ぼくの……が……」
ズンと深い場所を押し上げられ、背中が反り返った。体の深い場所でとてつもない熱が弾け飛ぶ。僕の魔力が体内で弾けるのと同時に、それよりもずっと濃く強い魔力に似たものが澱みを覆い尽くすのを感じた。
ドクン、ドクッ、ドクン。
あぁ、これは軍帝の吐き出している熱だ。それが僕の体の内側を万遍なく濡らしている。軍帝の熱に触れたところから、なぜか澱みが少しずつ消えていくのを感じた。
(どうして……?)
僕は魔石を生み出していない。それなのになぜ澱みが消えていくのだろう。初めて感じる体内の感覚に、僕は耐えられずにそっと意識を手放した。
(嫌だ、それだけは嫌だ……!)
必死に身をよじり、軍帝に背を向けた。そんなことで逃れられるはずがないのに、とにかくやめてほしくて丸まるように体を小さくする。下敷きになっていた薄い夜着をたぐり寄せ、背中とお尻の半分を必死に隠した。
「なんだ、恥ずかしいのか? 初めてじゃねぇだろうに」
ため息をつくような軍帝の言葉が背中に突き刺さった。
「それとも愛しい兄上様の手じゃないのが気に入らねぇか?」
思いもしなかった言葉にお腹の底が冷えるような気がした。
(まさか、兄上様が魔石の採取をしていたことも知っている……?)
そんなはずはないと思いながら夜着をギュッと握り締める。
「高純度の魔石を生み出すには前への刺激だけじゃ難しいんだろ? どこまでしてたかは知らねぇが、いまさら恥ずかしがる必要なんてねぇだろうが」
「違う! 兄上様は違います……!」
思わず声を荒げながら振り返った。たしかに僕の導き手は兄上様だったけれど、あくまで魔石の採取を担っていただけにすぎない。それなのに、まるで兄上様がそういう目的で僕に触れていたような言葉にカッとなった。否定しようと軍帝を見たものの、爛々と光る赤い眼に言葉が続かない。
「別に隠す必要はねぇよ。それも知ったうえで連れて来たんだ。ま、二番目ってのは気にくわねぇけどな」
「二番目」という単語で軍帝の声が低くなった。視線は鋭さを増し、まるで僕を睨みつけているように見える。
圧倒的な気配に先ほどまでとは違う恐怖を感じた。僕が感じているこれは、きっと生き物が持つ本能だ。自分よりも遥かに強大な存在を前にすれば、僕のような力のない者は小さなネズミのように怯えることしかできない。
それでも兄上様のことを誤解されたままではいられなかった。誰よりも美しく才能あふれる兄上様は、僕と違って卑しいところは何一つない。僕に触れるたびにつらそうな表情をしていた兄上様を思い出し、誇りを汚されたままでなるものかと震える唇を必死に動かした。
「ちがいます。兄上様は、そうじゃない」
「魔石を生み出す手伝いはオオルリがしていたはずだ」
やっぱり軍帝は魔石の採取方法を知っている。僕の導き手が兄上様だということも知っている。
「導き手は、たしかに兄上様でした。でも、あなたが思っているようなことはしていません」
このことだけは絶対に否定しなくてはいけない。兄上様は僕のために導き手を担ってくれていただけで、行為そのものをしていたわけじゃない。
(それに、あれも僕を守るために仕方なくしてくれていたことだ)
今度は僕が兄上様を守る番だ。軍帝をグッと睨みつけたものの、静かに見返す赤眼に喉がひくっと震える。
「快感を得ることで魔石を生み出すことは知っている。おまえが生み出す高純度の魔石は……ここで得られる快感によって生み出されるってこともな」
ぬめったものがお尻に触れる感触に、慌てて両手をぎゅうっと握り締めた。怖い、嫌だと思っていても僕には抵抗する術がない。
ヌチュウという感覚とともに軍帝の指が入り込んできた。抵抗できない代わりに必死に目を瞑り唇を噛み締めたものの、そんなことで軍帝の指が止まるはずもない。
「何も知らねぇって感じじゃねぇな。それだけいじられてきたってことか」
言葉とともに少し深くを擦られて、強張っていた体がビクンと跳ねた。兄上様が導いてくれる魔石の採取では触れられなかったところだ。こんなのは嫌だと思っているのに体の奥がどんどん熱くなっていく。
(これもすべて僕が卑しいからだ)
卑しい“魔血”の僕の体は魔石の採取かどうか関係なく感じてしまう。それが“魔血”の血筋の体だと小さい頃から何度も本で読んできた。
「こんな小せぇ場所なのに必死に迎え入れようとしている。奥もねだるようにうねっていやがる。兄上様じゃなくてもほしいんだろ? それとも兄上様にそう躾けられたか? おまえの体は男をほしがっているようにしか見えねぇな」
軍帝の言葉に涙があふれた。
(違う! 違う、違う、違う!)
僕の体が卑しいのは事実だ。でも兄上様にされたからじゃない。
「ちが、います……! 兄上様は、ただ、手で、導いて……っ。僕の体、は……っ。導きで、魔石を、生み出す、だけ……!」
後ろをグチュグチュといじっていた指が止まった。それでも一度火照った体は魔力を吐き出したくて疼き続けた。体の奥底に溜まっている澱みが外に出たいと暴れ始める。それを渾身の気力で抑えつけながら、震える唇で必死に言葉を紡いだ。
「兄上、様は……、違う……」
恐がりな僕のために、兄上様はなるべく楽に魔石を生み出す方法を考えてくれた。暗示のようなそれのおかげで、僕は絶望することなく魔石を生み出すことができた。
――そう、ゆっくりと力を抜いて。
前を少しだけ触って魔力を吐き出しやすいように体を火照らせる。僕の体はすぐに熱くなるから、あとはほんの少し後ろに刺激を与えるだけで簡単に魔力を吐き出せた。
――指に押し出されるのだと想像して。中に指が入ってきたら、そのぶんだけ魔力が外に出るのだと想像して。一度出てしまえば、あとは水が噴き出すように魔力のほうから外に出る。そう、そのまま吐き出せばいいからね。
たしかに兄上様は前にも後ろにも触れていたけれど、それは軍帝が言うような夜の営みのようなことをするためじゃない。僕が魔石を生み出すために必要だっただけだ。
兄上様は束ねた長い銀髪を一筋も乱すことなく、いつも穏やかな瑠璃色の眼で僕を導いてくれた。優しく声をかけ続け、できるだけ僕の心も体も傷つかないように、魔石を滞りなく生み出せるように気を配ってくれていた。触れる場所も最小限に、違和感も苦痛も感じないようにといつも気遣ってくれていた。
――魔石を生み出す必要のない世界を、必ず作ってみせる。
それが兄上様の口癖だった。そう言いながら、僕が生み出した魔石を悲しそうな顔で見ていた。そんな兄上様が僕のせいで汚されるなんて絶対に駄目だ。
「兄上様は、違います」
小さい声で、もう一度そう口にした。「兄上様は、そんなことはしません」と続けた言葉に、軍帝が僕の顔を覗き込んだ。
「まさかおまえ、処女なのか?」
「しょじょ?」
意味がわからずおうむ返しに口にしたら、ズンと指を突き入れられた。
「ひっ」
「ここに男を迎え入れたことはないんだな?」
「あ、ありま、せん……!」
兄上様の指だって入り口からほんの少し入るだけだ。体内に指が“入ってきた”と認識しただけで魔力を吐き出せるようにしてもらったおかげで必要最低限の接触で済んだ。
「あいつ、黙っていやがったな……」
軍帝のつぶやきはグチュグチュという淫らな音にかき消されてしまった。突然始まった強い動きに体の火照りはますますひどくなり、呼吸まで苦しくなる。あまりのつらさに唇を噛み締め続けることができなくなった。後ろをひどくいじられるのも体が熱くなるのも苦しくてたまらない。吐き出したいのに吐き出せない魔力のせいで、ますます息ができなくなる。
「もう、やめて……」
あまりの苦しさに思わずそう訴えた。指を抜いてほしくて、後ろ手に軍帝の腕を押し返そうと試みる。
「や、めて……。指、抜いて、くださ……」
「駄目だ」
肩を掴まれたと思ったら仰向けにされた。握り締めていた夜着を奪われ、心許なくなった僕の上に軍帝が覆い被さる。そうして再び後ろを指でグチュグチュといじられ目眩がした。
やめてほしくて胸を押したり叩いたりしたものの、軍帝の指が僕の中をかき混ぜるのをとめることはできなかった。体をゾクッとさせるところを何度も擦られ、それが怖くて必死に頭を振ってやめてほしいと懇願した。それに「はは」と笑った軍帝は、ますますいやらしい音を立てるように激しく指を動かし続けた。
「泣きながら男の下で嫌がるのは余計に劣情を刺激するだけだぞ」
軍帝の赤い眼が、さらに赤くなった気がした。にやりと笑った軍帝に、僕は魂ごと食われてしまうのだと恐怖した。
それからのことはあっという間だった。
「ぃや、もう、やめて……」
「体はそうは言ってねぇな」
「や、あ……!」
膝に乗せられたまま腰を掴まれ、グイッと引き寄せられた。同時に軍帝が腰を押しつけてくるせいで、ますます体の深くを抉られてしまう。
指で散々いじられたところに熱く硬いものがあてがわれたとき、それが軍帝のものだというのはすぐにわかった。ハッと目を見開いた僕の脳裏に、塔での出来事が蘇って血の気が引いた。
塔に住んでいたとき、後宮と同じように出入り口には衛兵が立っていた。僕が逃げ出さないように、誰かに連れ出されないように監視するためだったのだろう。そんな衛兵に僕は何度か襲われかけたことがあった。部屋に押し入った衛兵に引き倒され、下肢を暴かれ、後ろに男の滾ったものをあてがわれたことも一度や二度じゃない。中にはそんな衛兵に協力する従僕すらいた。
いずれのときも兄上様が用意してくれた魔具が発動して僕を守ってくれた。それでも僕はいつも気絶してしまい、そんな僕を見る兄上様はつらそうな表情をしながら看病してくれた。
(僕は自分の身一つ守ることができない)
ここには僕を守ってくれる魔具はない。ここは軍帝の後宮で、僕は妃として軍帝に召し上げられた。つまり、最初から行為を拒絶することは許されていないということだ。
貫かれる瞬間は気が触れそうなくらい怖かった。怖くてたまらないのに全身は悦びに震えていた。後ろにあてがわれた硬い熱に「早く、早く」と気が急くような感覚までした。おまえはそういう血筋なのだと、そういう呪われた体なのだと突きつけられたような気がして涙が止まらなくなった。
いまだってそうだ。嫌だと思っているのに、突き上げられるたびに気持ちいいと感じてしまう。やめてほしいと思っているのに「もっと」と口走りそうになる。そんな自分が嫌でたまらなかった。
(嫌なのに……僕はこんなこと、求めていないのに……)
僕を襲った衛兵は「おまえが誘ったんだ」と口元を歪めた。従僕は「そういう体なんだろ」と笑った。何人もの男たちが“魔血”はそういう血筋なのだと口にした。そのたびに自分の体が恐ろしいもののように思えて絶望した。
きっと軍帝もそう思ったに違いない。僕が“魔純の御子”だから軍帝の目に留まってしまったのだ。“魔血”の体だから軍帝を呼び寄せてしまった。
(僕は“魔血”の澱みだ……あの国の錆だ……)
自分の血と体と運命に震えた。そんな僕をなぜか軍帝がぎゅうと抱きしめた。
「怖がる必要はねぇよ。大丈夫だ、ひどいことは絶対にしねぇから」
何を言っているのかわからなかった。僕を裸にして組み敷いて、そうして貫いたのは軍帝だ。いまも膝に乗せて下から突き上げ続けている。それなのに「怖がる必要はない」なんて、どういうつもりだろう。
「大丈夫だ」
兄上様と同じ言葉を言わないでほしい。こんな恐ろしいことをしているくせに、どうして同じ言葉を言うのだ。
(兄上様とあなたは違う。あなたはひどい人だ)
それなのに気がつけばすがりつくように肩を掴んでいた。嫌だと言いながら腰を揺らしていた。
「大丈夫だ」
朦朧とした意識のなか、軍帝のその言葉だけが聞こえてくる。軍帝の声が段々と兄上様の声に聞こえてきた。
「大丈夫」
耳元で囁かれたあと、頬に口づけられた。汗で濡れている前髪を指で梳かれ、そこにも口づけられる。何度もつぶやかれる「大丈夫」という声に体の奥の何かがふるりと震えた。
「大丈夫だ」
恐怖と嫌悪感で強張っていた体から力が抜けた。次の瞬間、体の深いところに軍帝の熱がググゥッと入り込んでくるのを感じた。
「……っ」
何かがせり上がってくるような気がした。ブルブルと震えるのをなだめるように軍帝の手が何度も僕の背中を撫でる。
「大丈夫だ」
この声は兄上様じゃない。それなのに聞こえるとなぜかホッとする。
(怖いのに……どうして……)
交互に襲ってくる安堵感と恐怖心に僕は混乱していた。そんな僕の体の奥を軍帝の熱が押し広げていく。そうして体の奥深くに溜まっていた魔力の澱みに触れた。
「ひ……っ」
何かがバチンと弾け飛んだ。ズンズンと突き上げられる感覚に頭が痺れる。ズクンとお腹の奥が震え、重く漂っている澱みがユラユラと揺れ始めた。まるで魔石を生み出す直前のような感覚に困惑し混乱する。
「あ……ぁ……だめ……ぼくの……が……」
ズンと深い場所を押し上げられ、背中が反り返った。体の深い場所でとてつもない熱が弾け飛ぶ。僕の魔力が体内で弾けるのと同時に、それよりもずっと濃く強い魔力に似たものが澱みを覆い尽くすのを感じた。
ドクン、ドクッ、ドクン。
あぁ、これは軍帝の吐き出している熱だ。それが僕の体の内側を万遍なく濡らしている。軍帝の熱に触れたところから、なぜか澱みが少しずつ消えていくのを感じた。
(どうして……?)
僕は魔石を生み出していない。それなのになぜ澱みが消えていくのだろう。初めて感じる体内の感覚に、僕は耐えられずにそっと意識を手放した。
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小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
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水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった!
「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。
そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。
「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。
孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
希望したのは、医療班だった。
それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。
「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。
誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。
……けれど、婚約者に裏切られていた。
軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。
そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――
“雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。
「君の料理が、兵の士気を支えていた」
「君を愛している」
まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?
さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?
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