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11 作戦は一時中断、噂からの意外な展開
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その後もホワイトとビスケティの噂はまことしやかに流れ続けた。そのためオペラとグラニーテ公との噂は落ち着いてきたものの、それでもまだ囁かれ続けている。ミルフィ嬢への貴族たちからの風当たりも強いままで、この状況からオペラは「やはり“ぷろぐらむ”は不具合を起こしているのだわ」と確信した。
(それはある意味よい結果かもしれないけれど……これはどういうことかしら)
十日ぶりに温室での小さなお茶会を開いたオペラは、隣に座るホワイトの様子がいつもと違うことに気がついた。この十日間で噂話はさらに尾ひれをつけているものの、ホワイトの件が突出しているというわけではない。それなのに浮かない様子のホワイトに、「何か見落としているのかしら」と集めた噂話を思い出す。
オペラがホワイトになかなか会えなかったのは、社交界での噂話を集めながら同時に現状に頭を痛めている兄フリューの相手をしていたからだ。さらにほかにも“ぷろぐらむ”が関わっていそうな噂話がないか侍女たちを使って収拾することも忘れなかった。
ようやく落ち着いたのは三日前で、すぐに手紙を送ったもののホワイトからの返事が届いたのは翌日になってからだった。さらに温室に来たのは次の日、つまり今日で、これまでのホワイトとは明らかに反応が違っている。
(もしかして影で嫌な目に……?)
そうした話は集めた中にはなかったものの、絶対にないとは言い切れない。もしそうなら手を打たなくてはと考えながら優しく見守る。
「あの……お姉様にお尋ねしたいことがあるのですけれど……」
両手でグラスを持ち、しとやかに冷たい紅茶を飲んでいたホワイトが意を決したような表情でオペラを見た。やはり何かされているのだろうか。爪弾きにされているのか、それとも虫入りのパイやガラス片が入った紅茶を飲まされたりしたのだろうか。あれこれ予想しながら「どうしたの?」と優しく問いかける。
「ビスケティ様が……とても優しくしてくださるんですの。あたしとの嫌な噂が流れているのに、気にしなくていいとおっしゃって……。それどころかお茶会ではひどいことをおっしゃる方々から守ってくださったりもしますの。……どうしてそんなことをなさるのかしらと思って……」
「ビスケティ様はそれだけホワイトのことを慕っていらっしゃるのね」
「でも……そのせいで、あんなひどい言葉を投げつけられてしまわれましたわ」
グラスをテーブルに置いたホワイトが「あたし、成金の家だと言われてもなんとも思っていませんのに」と口にした。その言葉から、オペラはビスケティが「おまえは成金の娘なんかに想いを寄せて貴族として恥ずかしくないのか」といった暴言を浴びせられたのだろうと推察した。
(いまだにザルツブルガートルン家は貴族社会では異質ですものね)
しかしホワイトには関係ない話だ。もし王太子妃候補でなければオペラも堂々とホワイトを社交界に連れて行っただろう。そうしないのは家同士の諍いの原因になることを避け、必要以上に噂話の餌食にならないためだ。
(そもそもビスケティ様は金銭目当てでホワイトに近づいたわけではないと、誰が見てもわかるはずなのに)
マログラッセ家はザルツブルガートルン家と同じ伯爵位であり、無理をしてまで仲を深めなくてはいけない家柄ではない。それにマログラッセ伯爵家は貿易で財を成しているため、そうした意味でザルツブルガートルン伯爵家に近づく必要もなかった。
(それでもホワイトに近づくビスケティ様を悪し様に言うのは、かつてのザルツブルガートルン家の顛末を思い出すからかしら)
貴族の一部は財政難が続き、そのため商人から借金をすることがある。しかし完済できる貴族は少なく、そのため爵位を売る貴族もいた。ホワイトの生家ザルツブルガートルン家はもとは王家にも繋がる歴史ある家だったが、先々代が農園経営に失敗し多額の借金を抱えることになった。先代は必死に工面していたようだが、結局ままならなくなり商人に爵位と家名を売ることにした。その後、一族は親戚を頼って海を渡った大陸に移り住んだと聞いている。
(そうした貴族が年々増えているからか、ザルツブルガートルン伯爵家は悪く言われる一方だわ)
爵位を買った商人の中でもザルツブルガートルン伯爵家は成功者と言えるだろう。実際、ホワイトの生母は子爵家の娘でホワイトは貴族の血を引いている。うまく貴族社会に馴染んでいる結果だが、潜り込んでいるように感じる貴族たちもいた。だからこそザルツブルガートルン伯爵は娘を王太子妃候補にと考えたのだろうが、ホワイト自身にその気はない。
「ビスケティ様が心配なのね」
「心配というか……あたしはビスケティ様のことが嫌いで、そのことはビスケティ様もご存知のはずなのに、どうして優しくしてくださるのか不思議ですの」
不思議と言いながら、ホワイトもビスケティの想いの深さには気づいてるのだろう。眉尻を下げながらも目元をわずかに赤らめている。
「ホワイトはビスケティ様のこと、まだ嫌い?」
「そ……れは……わかりませんわ」
「よい方だとは思っているのでしょう?」
「……えぇ。だって、あたしがいくら怒ってもあの方、いつもニコニコしていらっしゃるんですもの。成金と罵られても気にしないとおっしゃるし、あたしが落ち込んでいることにも真っ先に気づきますの。ダンスでも一人にならないようにと最初から最後まで隣にいてくださいますわ。それが鬱陶しくていやだったのに……」
「嫌ではなくなった?」
「……わかりませんわ」
「ビスケティ様はそれだけホワイトのことを大事に思っていらっしゃるのね。ホワイトにはいつも笑顔でいてほしいと、そう思っていらっしゃるのではないかしら」
「……とてもいい方だと……思ってはいますの」
俯いたホワイトが、膝に置いた指先をもじもじといじっている。それがあまりにいじらしく、オペラは思わず「なんて可愛いのかしら」と頬に手を当てながらため息を漏らした。
「そうね……それなら、ビスケティ様のことをよく観察するといいわ」
「観察……?」
「えぇ。ビスケティ様のことがよくわかれば自分の気持ちもはっきりするのではなくて? ビスケティ様が本当に求めているのは家なのか、それとも財産なのか、もしかして本当に近づきたいのはホワイトの身近にいる別の誰かではないのか、そうしたことを見極めるの」
オペラの言葉にもじもじしていた指が止まり、可憐な顔が少しずつ眉間に皺を寄せていく。
「あなたは伯爵令嬢なのだから相手を見極めるのは大事なことよ? 自分に伸びてくる手は乱暴をしようとしていないか、邪な目で自分を見ていないか、そうしたことにも注意を払いなさい。そうしたことをしっかり見て、それでも間違いないと思ったらビスケティ様の手を取るといいわ」
「お姉様……」
「わたくしが見る限り、ビスケティ様はそんな方ではないと思うわ。あの方は心からホワイトのことを慕っていらっしゃるに違いなくてよ」
「……お姉様」
顔を上げたホワイトの頬は薔薇色に変わっていた。ホワイトの心はすでにビスケティに傾いていたのだろう。
(ホワイトは社交界で随分と嫌な目に遭ってきたはず。そんなホワイトを守ろうとするビスケティ様に内心はずっと惹かれていたのではないかしら)
それでも煙たがっていたのは複雑な乙女心だったのだろう。成金と蔑まされる家のことを心配し、そのために王太子妃にならなくてはと考えていた。幼さが残る言動から気づかれにくいが、ホワイトからは令嬢としての心構えと自尊心をオペラは感じ取っていた。
(わたくしに近づいたのもはじめは家のためだったのでしょうね)
ただ、姉と慕って縋りたい気持ちもあったのだろう。ホワイトに兄弟はいない。父親は本物の貴族になるため躍起になり、母親は成り上がりに嫁いだことを悔いていると聞いたことがあった。そんな中で頼る人のいないホワイトが頼りたいと思ったのがオペラだった。
オペラはそんなホワイトの複雑な気持ちに気づいていた。その上でホワイトを受け入れた。オペラ自身も可愛い妹がほしかった欲が満たされ、さらに秘密のお茶会という密かな楽しみを見つけることもできた。自分たちは血こそ繋がっていないものの心は姉妹だとオペラは思っていた。
「あなた自身が選んだ道をわたくしは応援するわ」
ホワイトの表情が晴れやかなものに変わった。進みたい道はわかっていたが、最後に姉と慕うオペラに背中を押してもらいたかったのだろう。そのことに気づいたオペラは貴族令嬢としての心構えを説きながら、最後に求めていた答えを贈った。
「ビスケティ様とのこと、もっとよく考えますわ」
そう決意を口にしたホワイトの顔が、「でも」と少しずつ暗くなる。
「そうしたら、王太子妃候補はお姉様とミルフィ様の二人になってしまいますわ。それでは神様がおっしゃったとおり、どちらかが悪役令嬢になってしまうのでしょう?」
つらそうに眉を寄せるホワイトの頭を優しく撫でながら、オペラも同じことを考えていた。王太子妃候補が再び二人になれば“ぷろぐらむ”が正常に動き出すかもしれない。「そうね」と考え込むオペラの手にそっと触れたホワイトが、窺うような表情で「お姉様」と呼びかけた。
「お姉様には、そうした方はいらっしゃいませんの?」
「そうした方?」
「お慕いする方ですわ。……王弟殿下は、本当にそういう方ではありませんの?」
ホワイトの問いかけにオペラは瞳を見開き、「わたくしが、ボンボール公を……?」とつぶやいた。
(それはある意味よい結果かもしれないけれど……これはどういうことかしら)
十日ぶりに温室での小さなお茶会を開いたオペラは、隣に座るホワイトの様子がいつもと違うことに気がついた。この十日間で噂話はさらに尾ひれをつけているものの、ホワイトの件が突出しているというわけではない。それなのに浮かない様子のホワイトに、「何か見落としているのかしら」と集めた噂話を思い出す。
オペラがホワイトになかなか会えなかったのは、社交界での噂話を集めながら同時に現状に頭を痛めている兄フリューの相手をしていたからだ。さらにほかにも“ぷろぐらむ”が関わっていそうな噂話がないか侍女たちを使って収拾することも忘れなかった。
ようやく落ち着いたのは三日前で、すぐに手紙を送ったもののホワイトからの返事が届いたのは翌日になってからだった。さらに温室に来たのは次の日、つまり今日で、これまでのホワイトとは明らかに反応が違っている。
(もしかして影で嫌な目に……?)
そうした話は集めた中にはなかったものの、絶対にないとは言い切れない。もしそうなら手を打たなくてはと考えながら優しく見守る。
「あの……お姉様にお尋ねしたいことがあるのですけれど……」
両手でグラスを持ち、しとやかに冷たい紅茶を飲んでいたホワイトが意を決したような表情でオペラを見た。やはり何かされているのだろうか。爪弾きにされているのか、それとも虫入りのパイやガラス片が入った紅茶を飲まされたりしたのだろうか。あれこれ予想しながら「どうしたの?」と優しく問いかける。
「ビスケティ様が……とても優しくしてくださるんですの。あたしとの嫌な噂が流れているのに、気にしなくていいとおっしゃって……。それどころかお茶会ではひどいことをおっしゃる方々から守ってくださったりもしますの。……どうしてそんなことをなさるのかしらと思って……」
「ビスケティ様はそれだけホワイトのことを慕っていらっしゃるのね」
「でも……そのせいで、あんなひどい言葉を投げつけられてしまわれましたわ」
グラスをテーブルに置いたホワイトが「あたし、成金の家だと言われてもなんとも思っていませんのに」と口にした。その言葉から、オペラはビスケティが「おまえは成金の娘なんかに想いを寄せて貴族として恥ずかしくないのか」といった暴言を浴びせられたのだろうと推察した。
(いまだにザルツブルガートルン家は貴族社会では異質ですものね)
しかしホワイトには関係ない話だ。もし王太子妃候補でなければオペラも堂々とホワイトを社交界に連れて行っただろう。そうしないのは家同士の諍いの原因になることを避け、必要以上に噂話の餌食にならないためだ。
(そもそもビスケティ様は金銭目当てでホワイトに近づいたわけではないと、誰が見てもわかるはずなのに)
マログラッセ家はザルツブルガートルン家と同じ伯爵位であり、無理をしてまで仲を深めなくてはいけない家柄ではない。それにマログラッセ伯爵家は貿易で財を成しているため、そうした意味でザルツブルガートルン伯爵家に近づく必要もなかった。
(それでもホワイトに近づくビスケティ様を悪し様に言うのは、かつてのザルツブルガートルン家の顛末を思い出すからかしら)
貴族の一部は財政難が続き、そのため商人から借金をすることがある。しかし完済できる貴族は少なく、そのため爵位を売る貴族もいた。ホワイトの生家ザルツブルガートルン家はもとは王家にも繋がる歴史ある家だったが、先々代が農園経営に失敗し多額の借金を抱えることになった。先代は必死に工面していたようだが、結局ままならなくなり商人に爵位と家名を売ることにした。その後、一族は親戚を頼って海を渡った大陸に移り住んだと聞いている。
(そうした貴族が年々増えているからか、ザルツブルガートルン伯爵家は悪く言われる一方だわ)
爵位を買った商人の中でもザルツブルガートルン伯爵家は成功者と言えるだろう。実際、ホワイトの生母は子爵家の娘でホワイトは貴族の血を引いている。うまく貴族社会に馴染んでいる結果だが、潜り込んでいるように感じる貴族たちもいた。だからこそザルツブルガートルン伯爵は娘を王太子妃候補にと考えたのだろうが、ホワイト自身にその気はない。
「ビスケティ様が心配なのね」
「心配というか……あたしはビスケティ様のことが嫌いで、そのことはビスケティ様もご存知のはずなのに、どうして優しくしてくださるのか不思議ですの」
不思議と言いながら、ホワイトもビスケティの想いの深さには気づいてるのだろう。眉尻を下げながらも目元をわずかに赤らめている。
「ホワイトはビスケティ様のこと、まだ嫌い?」
「そ……れは……わかりませんわ」
「よい方だとは思っているのでしょう?」
「……えぇ。だって、あたしがいくら怒ってもあの方、いつもニコニコしていらっしゃるんですもの。成金と罵られても気にしないとおっしゃるし、あたしが落ち込んでいることにも真っ先に気づきますの。ダンスでも一人にならないようにと最初から最後まで隣にいてくださいますわ。それが鬱陶しくていやだったのに……」
「嫌ではなくなった?」
「……わかりませんわ」
「ビスケティ様はそれだけホワイトのことを大事に思っていらっしゃるのね。ホワイトにはいつも笑顔でいてほしいと、そう思っていらっしゃるのではないかしら」
「……とてもいい方だと……思ってはいますの」
俯いたホワイトが、膝に置いた指先をもじもじといじっている。それがあまりにいじらしく、オペラは思わず「なんて可愛いのかしら」と頬に手を当てながらため息を漏らした。
「そうね……それなら、ビスケティ様のことをよく観察するといいわ」
「観察……?」
「えぇ。ビスケティ様のことがよくわかれば自分の気持ちもはっきりするのではなくて? ビスケティ様が本当に求めているのは家なのか、それとも財産なのか、もしかして本当に近づきたいのはホワイトの身近にいる別の誰かではないのか、そうしたことを見極めるの」
オペラの言葉にもじもじしていた指が止まり、可憐な顔が少しずつ眉間に皺を寄せていく。
「あなたは伯爵令嬢なのだから相手を見極めるのは大事なことよ? 自分に伸びてくる手は乱暴をしようとしていないか、邪な目で自分を見ていないか、そうしたことにも注意を払いなさい。そうしたことをしっかり見て、それでも間違いないと思ったらビスケティ様の手を取るといいわ」
「お姉様……」
「わたくしが見る限り、ビスケティ様はそんな方ではないと思うわ。あの方は心からホワイトのことを慕っていらっしゃるに違いなくてよ」
「……お姉様」
顔を上げたホワイトの頬は薔薇色に変わっていた。ホワイトの心はすでにビスケティに傾いていたのだろう。
(ホワイトは社交界で随分と嫌な目に遭ってきたはず。そんなホワイトを守ろうとするビスケティ様に内心はずっと惹かれていたのではないかしら)
それでも煙たがっていたのは複雑な乙女心だったのだろう。成金と蔑まされる家のことを心配し、そのために王太子妃にならなくてはと考えていた。幼さが残る言動から気づかれにくいが、ホワイトからは令嬢としての心構えと自尊心をオペラは感じ取っていた。
(わたくしに近づいたのもはじめは家のためだったのでしょうね)
ただ、姉と慕って縋りたい気持ちもあったのだろう。ホワイトに兄弟はいない。父親は本物の貴族になるため躍起になり、母親は成り上がりに嫁いだことを悔いていると聞いたことがあった。そんな中で頼る人のいないホワイトが頼りたいと思ったのがオペラだった。
オペラはそんなホワイトの複雑な気持ちに気づいていた。その上でホワイトを受け入れた。オペラ自身も可愛い妹がほしかった欲が満たされ、さらに秘密のお茶会という密かな楽しみを見つけることもできた。自分たちは血こそ繋がっていないものの心は姉妹だとオペラは思っていた。
「あなた自身が選んだ道をわたくしは応援するわ」
ホワイトの表情が晴れやかなものに変わった。進みたい道はわかっていたが、最後に姉と慕うオペラに背中を押してもらいたかったのだろう。そのことに気づいたオペラは貴族令嬢としての心構えを説きながら、最後に求めていた答えを贈った。
「ビスケティ様とのこと、もっとよく考えますわ」
そう決意を口にしたホワイトの顔が、「でも」と少しずつ暗くなる。
「そうしたら、王太子妃候補はお姉様とミルフィ様の二人になってしまいますわ。それでは神様がおっしゃったとおり、どちらかが悪役令嬢になってしまうのでしょう?」
つらそうに眉を寄せるホワイトの頭を優しく撫でながら、オペラも同じことを考えていた。王太子妃候補が再び二人になれば“ぷろぐらむ”が正常に動き出すかもしれない。「そうね」と考え込むオペラの手にそっと触れたホワイトが、窺うような表情で「お姉様」と呼びかけた。
「お姉様には、そうした方はいらっしゃいませんの?」
「そうした方?」
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