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17 これから始まる二人の物語①お茶会のその後
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オペラは珍しく朝から少しそわそわしていた。どんなお茶会や社交界でも表情一つ変えることがないというのに、朝から鏡を見てはため息をついている。
「お嬢様、お召し物を替えられますか?」
「いいえ、大丈夫よ」
「では首飾りを……いえ、髪をお直ししましょう」
落ち着かない女主人の様子に気づいたのは侍女マディーヌだった。手際よくテーブルに髪飾りをずらりと並べ、着ているドレスに当てては「これと、これと……」とより分けていく。
「本日のドレスは少々襟元が広くなっております。こういうときは襟足が見えるほうがよろしいかと」
「そうね……そうしてちょうだい」
「承知いたしました」
万事心得ているという手つきでマディーヌが美しい黒髪を結い上げ、それを髪留めで留める。ふわりと丸められた根元に真珠で作られた髪飾りをいくつか挿し、最後に首飾りとお揃いの紅玉で作られた花模様の飾りを挿した。
「完璧でございます」
「ありがとう」
「お嬢様のうなじを見てときめかない殿方は一人もおりません」
そういうものだろうかと思いながら鏡の中の自分を見る。見慣れているよそ行きの姿だが、こうして首をすべてさらけ出す髪型は初めてだ。
「いつもと違う髪型だけれど、おかしくないかしら」
「通常のお茶会ではございません。婚約者にお会いになるのですから、このくらいはいたしませんと」
婚約者という言葉に胸がとくんと鳴った。
(王太子妃候補になったときでさえ胸の高鳴りはなかったのに)
むしろ目的の最終点に近づいたという達成感や安堵感のほうが大きかった。しかし今回は違う。王弟妃というのはオペラの中にもなかったことで、さらにグラニーテ公に求婚されての結果だ。一度くらいは言い寄られてみたいという願望は抱いていたものの、いざ当事者になると戸惑いのほうが大きい。
だからといって不快なわけではない。むしろお茶会での出来事を思い返すたびにときめくような気持ちになった。ホワイトの「王弟殿下は、本当にそういう方ではありませんの?」という言葉を思い出しては頬に手を当て「ふぅ」とため息を漏らす。
(やはりわたくしはボンボール公に恋をしているのかしら)
何度も考えたが答えは出なかった。それでもグラニーテ公のことを思い浮かべるとたしかに胸が高鳴る。トクトクという鼓動は本で読んできた恋物語の主人公のようであり、きゅうと絞られるような感覚は慕っているという気持ちの表れなのだろう。同時に焦燥感のような奇妙な感覚もあった。
(そのせいであの場でお返事をしてしまったのかしら……駄目だわ、考えてもよくわからない)
グラニーテ公からの突然の求婚に周囲は大騒ぎした。もちろんオペラも驚いた。気がつけば「お返事は後日」と返すところを「はい」と答えていた。そのことに一番驚いていたのはオペラ自身だった。
おかげでお茶会の場は騒然となった。とくに騒がしかったのは令嬢たちで、あちこちで「お姉様が!」という悲鳴にも似た声が上がった。中でもホワイトの声は一際大きく、「お姉様ぁ!」という叫び声は庭中に響いたほどだ。そうしてドレスの裾を乱しながら駆け寄ると、グラニーテ公からオペラの手を奪い取った。そのまま「本当にお姉様をお妃にされるおつもりですの!?」と食ってかかった。
それに驚いたのはビスケティで、慌てて「ホワイトっ」とたしなめた。それでもホワイトは潤んだ碧眼でじっとグラニーテ公を睨み、オペラの腕を握る手にぎゅうと力を込めた。
「もちろんだ。そして誰よりも幸せにすると誓おう」
グラニーテ公の返事に黄色い悲鳴を上げた令嬢たちはパタパタと倒れ、そのままお茶会はお開きとなった。
あの騒動から十日が経つ。この間、グラニーテ公からは毎日手紙と花が届くものの顔を合わせることはない。
(お兄様のお話では大層お忙しかったということですものね)
それもそのはずで、王弟の結婚ともなれば準備や手続きなど様々なことが必要になる。しかもオペラはもとは王太子妃候補だ。甥の婚約者を叔父が横取りしたとなっては王城も静観するわけにはいかない。そうしたこともあり、数日間王城の奥に留め置かれたグラニーテ公は国王や重臣たちと話し合うことになったのだと聞いた。
(そして昨日、わたくしは正式に王弟殿下の婚約者になった)
最後の決め手は王太子のひと言だったと聞いている。「敬愛する叔父上の気持ちを尊重したい」と言い、オペラは王太子妃候補から外れることになった。そうしてグラニーテ公の許嫁となり、残るは結婚式を挙げる日取りを決めるだけだ。
(わたくしがボンボール公と結婚……)
実感は湧かない。王太子妃になることだけを目標に生きてきたからか、これでいいのかという不安のほうが強かった。一方、ガトーオロム公爵家としては娘が有力な王弟の妃となるのは手を叩きたくなるほど喜ばしいことで、父は毎日蕩けるような笑顔を浮かべている。兄フリューは顔をしかめていたが、王太子の側近に取り立てられいまはそちらに全集中しているところだ。
再び小さなため息をつくオペラに、マディーヌが「どうぞ自信をお持ちくださいませ」と声をかけた。
「お嬢様はこの国一番のご令嬢でいらっしゃいます。相手がどなたであろうともお嬢様を前にすればイチコロでございますわ」
「マディーヌ、その言い方はさすがに失礼よ」
「申し訳ございません。ですが、これがわたしたち侍女の総意でございます」
鏡越しに後ろを見ると、控えている侍女たちが小さく頷いている。侍女たちは相手が恋多き王弟ということでオペラの将来を心配しているのだろう。熱烈に求婚したが、すぐに別の恋人を作るのではと考えているに違いない。
(そういう方だから噂のお相手にはちょうどよいと思っていたのだけれど)
グラニーテ公を誘惑し二人は恋仲だという噂を流させ、結果として王太子妃候補を降りる計画だった。それは見事に叶ったのだが、その先がこうなるとは予想していなかった。
(“ぷろぐらむ”どころか神にさえ打ち勝ったということなのでしょうけれど……)
グラニーテ公には尋ねたいことが山のようにある。小さくため息をつくと、迎えが到着したと侍女が伝えに来た。
「いってらっしゃいませ」
侍女たちに見送られ玄関へと向かう。その先で待っているのは王族が使う馬車と、婚約者となった王弟グラニーテだった。
「お嬢様、お召し物を替えられますか?」
「いいえ、大丈夫よ」
「では首飾りを……いえ、髪をお直ししましょう」
落ち着かない女主人の様子に気づいたのは侍女マディーヌだった。手際よくテーブルに髪飾りをずらりと並べ、着ているドレスに当てては「これと、これと……」とより分けていく。
「本日のドレスは少々襟元が広くなっております。こういうときは襟足が見えるほうがよろしいかと」
「そうね……そうしてちょうだい」
「承知いたしました」
万事心得ているという手つきでマディーヌが美しい黒髪を結い上げ、それを髪留めで留める。ふわりと丸められた根元に真珠で作られた髪飾りをいくつか挿し、最後に首飾りとお揃いの紅玉で作られた花模様の飾りを挿した。
「完璧でございます」
「ありがとう」
「お嬢様のうなじを見てときめかない殿方は一人もおりません」
そういうものだろうかと思いながら鏡の中の自分を見る。見慣れているよそ行きの姿だが、こうして首をすべてさらけ出す髪型は初めてだ。
「いつもと違う髪型だけれど、おかしくないかしら」
「通常のお茶会ではございません。婚約者にお会いになるのですから、このくらいはいたしませんと」
婚約者という言葉に胸がとくんと鳴った。
(王太子妃候補になったときでさえ胸の高鳴りはなかったのに)
むしろ目的の最終点に近づいたという達成感や安堵感のほうが大きかった。しかし今回は違う。王弟妃というのはオペラの中にもなかったことで、さらにグラニーテ公に求婚されての結果だ。一度くらいは言い寄られてみたいという願望は抱いていたものの、いざ当事者になると戸惑いのほうが大きい。
だからといって不快なわけではない。むしろお茶会での出来事を思い返すたびにときめくような気持ちになった。ホワイトの「王弟殿下は、本当にそういう方ではありませんの?」という言葉を思い出しては頬に手を当て「ふぅ」とため息を漏らす。
(やはりわたくしはボンボール公に恋をしているのかしら)
何度も考えたが答えは出なかった。それでもグラニーテ公のことを思い浮かべるとたしかに胸が高鳴る。トクトクという鼓動は本で読んできた恋物語の主人公のようであり、きゅうと絞られるような感覚は慕っているという気持ちの表れなのだろう。同時に焦燥感のような奇妙な感覚もあった。
(そのせいであの場でお返事をしてしまったのかしら……駄目だわ、考えてもよくわからない)
グラニーテ公からの突然の求婚に周囲は大騒ぎした。もちろんオペラも驚いた。気がつけば「お返事は後日」と返すところを「はい」と答えていた。そのことに一番驚いていたのはオペラ自身だった。
おかげでお茶会の場は騒然となった。とくに騒がしかったのは令嬢たちで、あちこちで「お姉様が!」という悲鳴にも似た声が上がった。中でもホワイトの声は一際大きく、「お姉様ぁ!」という叫び声は庭中に響いたほどだ。そうしてドレスの裾を乱しながら駆け寄ると、グラニーテ公からオペラの手を奪い取った。そのまま「本当にお姉様をお妃にされるおつもりですの!?」と食ってかかった。
それに驚いたのはビスケティで、慌てて「ホワイトっ」とたしなめた。それでもホワイトは潤んだ碧眼でじっとグラニーテ公を睨み、オペラの腕を握る手にぎゅうと力を込めた。
「もちろんだ。そして誰よりも幸せにすると誓おう」
グラニーテ公の返事に黄色い悲鳴を上げた令嬢たちはパタパタと倒れ、そのままお茶会はお開きとなった。
あの騒動から十日が経つ。この間、グラニーテ公からは毎日手紙と花が届くものの顔を合わせることはない。
(お兄様のお話では大層お忙しかったということですものね)
それもそのはずで、王弟の結婚ともなれば準備や手続きなど様々なことが必要になる。しかもオペラはもとは王太子妃候補だ。甥の婚約者を叔父が横取りしたとなっては王城も静観するわけにはいかない。そうしたこともあり、数日間王城の奥に留め置かれたグラニーテ公は国王や重臣たちと話し合うことになったのだと聞いた。
(そして昨日、わたくしは正式に王弟殿下の婚約者になった)
最後の決め手は王太子のひと言だったと聞いている。「敬愛する叔父上の気持ちを尊重したい」と言い、オペラは王太子妃候補から外れることになった。そうしてグラニーテ公の許嫁となり、残るは結婚式を挙げる日取りを決めるだけだ。
(わたくしがボンボール公と結婚……)
実感は湧かない。王太子妃になることだけを目標に生きてきたからか、これでいいのかという不安のほうが強かった。一方、ガトーオロム公爵家としては娘が有力な王弟の妃となるのは手を叩きたくなるほど喜ばしいことで、父は毎日蕩けるような笑顔を浮かべている。兄フリューは顔をしかめていたが、王太子の側近に取り立てられいまはそちらに全集中しているところだ。
再び小さなため息をつくオペラに、マディーヌが「どうぞ自信をお持ちくださいませ」と声をかけた。
「お嬢様はこの国一番のご令嬢でいらっしゃいます。相手がどなたであろうともお嬢様を前にすればイチコロでございますわ」
「マディーヌ、その言い方はさすがに失礼よ」
「申し訳ございません。ですが、これがわたしたち侍女の総意でございます」
鏡越しに後ろを見ると、控えている侍女たちが小さく頷いている。侍女たちは相手が恋多き王弟ということでオペラの将来を心配しているのだろう。熱烈に求婚したが、すぐに別の恋人を作るのではと考えているに違いない。
(そういう方だから噂のお相手にはちょうどよいと思っていたのだけれど)
グラニーテ公を誘惑し二人は恋仲だという噂を流させ、結果として王太子妃候補を降りる計画だった。それは見事に叶ったのだが、その先がこうなるとは予想していなかった。
(“ぷろぐらむ”どころか神にさえ打ち勝ったということなのでしょうけれど……)
グラニーテ公には尋ねたいことが山のようにある。小さくため息をつくと、迎えが到着したと侍女が伝えに来た。
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侍女たちに見送られ玄関へと向かう。その先で待っているのは王族が使う馬車と、婚約者となった王弟グラニーテだった。
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