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一章 鬼に繞乱(じょうらん)されしは
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「なんて逞しい体でしょう……」
うっとりした声が聞こえる。背中に冷たい床を感じながら、腹と胸には火照るような熱を感じていた。
「ふふ、たまらない肉付きだこと」
「……ッ」
胸を撫で回していた鬼の手が、再び揉むように動き出す。まるで女にするような手つきにギョッとし、逃げるように腰が動いてしまった。しかし鬼に乗っかられた状態ではずり上がることも難しく、逆に腰同士を絶妙に擦れ合わせることになってしまう。そのせいで否が応でも昂ぶる己を感じてしまい、ますます情けない気持ちになった。
(退治すべき鬼を相手に、俺は……俺は……ッ)
鬼に組み伏せられた体は間違いなく欲情していた。息は上がり、胸はいつもよりも忙しなく鼓動を打っている。なによりもさらけ出された逸物はこれでもかと言わんばかりに猛々しくそそり勃っていた。
そんな俺の体を目にした鬼は直衣や袴を脱ぎ捨て、単を羽織っただけの姿で腹に跨がった。真っ白な単よりも白い鬼の肌は興奮しているのかうっすらと桃色に染まっている。それよりも濃い赤色に変化した目元がやけに目についた。そんな状態の艶やかな黒目にじっと見つめられれば、相手が鬼だとわかっていても興奮しないわけがない。何を血迷っているんだと思っても、体の内側から沸々とせり上がるように熱が広がってしまう。
俺は己を保つのに必死だった。「これは鬼だ、鬼の力に惑わされているだけに過ぎない。俺は何のためにここまで来たのかを思い出せ」と何度も必死に言い聞かせた。熱に浮かされたようなこの感覚が鬼のなせる技だとしたら呑み込まれるわけにはいかない。せめて一太刀浴びせなければ死んでも死に切れない。
そう思い、ぐらぐらと揺れる意識に活を入れながら胸を揉みしだく鬼を睨みつけた。
「この状況になってもそのような顔ができるなんて、思った以上に強いのですね。ますます興味がわきました」
「興味など、とッ」
「ふふっ、すっかり胸の先が膨らんで……なんて美味しそうなんでしょう。あぁ、食べてしまいたい」
「なに、を……ッ!?」
揉みしだいていた手が離れたかと思えば、乳首をきゅぅと摘まれ息を呑んだ。何をしようとしているんだと己の胸に視線を向けると、鬼の紅い唇がそれを含むところが目に入る。
「……ッ!」
初めての感覚に下腹にクッと力が入った。左の乳首が生温かいものに包まれたかと思えば熱く滑ったものが纏わりつくように触れる。あまりの出来事に視線を逸らすこともできず鬼の顔を凝視してしまった。すると乳首に吸いついたままの鬼が俺を見ながらニィと笑みを浮かべる。
「お、い……ッ」
何かよくないことが起きる――咄嗟にそう感じた俺は、慌てて鬼に声をかけたが遅かった。なんと、鬼が吸いついている乳首に噛みついたのだ。
心臓に噛みつかれたのかと思うほどの衝撃と痛みに息が詰まった。これまで刀傷を負ったことも弓矢に腕を射貫かれたこともあったが、それらよりも鋭く恐ろしい痛みに体がぎゅうと硬直する。
「おや、こういった痛みは初めてでしたか」
「……っ、くっ」
「案外悪くないでしょう? それに……あなたのここは、より一層逞しくなったようですしね」
「ふぅッ」
鋭い痛みを感じている乳首をベロリと舐め上げた鬼が、同時に逸物まで撫で上げてきて思わず声を漏らしてしまった。さらに俺を絶句させたのは、そこがかつてないほどいきり勃っていたことだ。
そんな馬鹿なと頭が真っ白になった。美しい顔をしているとはいえ相手は男、しかも鬼だ。その鬼に組み敷かれ、胸をまさぐられ、あろうことか乳首に噛みつかれて興奮してしまうとは……。衝撃に戸惑っている間も、逸物は萎えるどころかますますいきり勃つ。これでは鬼の着物や腹を汚していたに違いない。そしていまは逸物をゆるゆると撫で擦る鬼の手を汚している。
「あぁ、本当に立派だこと」
手を動かしながら鬼がうっとりした声を出した。鬼も興奮しているのか、俺の太ももに尻を擦りつけるように動かしている。
(これではもう、閨のようでは、ないか……っ)
御帳がなく上に乗っているのが鬼の男というだけで、状況は完全に閨事のそれだった。
俺は鬼退治に来たはずなのに、鬼に欲情された挙げ句に組み敷かれている。「どうしたことか、なんということだ」といくら思っても相変わらず体は動かない。これが鬼の言っていた力のせいだとして、ではどうして俺までもがこれほど欲情してしまっているのだろうか。
「意識を保ったままの人と交わるのは初めてですが、なにやら底知れぬ興奮を感じますね」
交わる……だと? よもや、この鬼は俺と本気で閨事に挑もうというのか。
(……まさか、俺を女のように扱いたいと、屈服させたいと思っているのか!)
ギョッと目を見開いた直後、ザッと血の気が引いた。俺はこれまで男と閨事に及んだことは一度もない。貴族の間ではそういったことも流行っているようだが、鴉丸にふさわしい力を得ることにのみ精進してきた俺は、内にこもる熱を鍛錬で発散してきた。
それでも発散しきれないときは屋敷の女房で散らしていた。貴族にとってはそれが普通のことで、そういう相手をする女房たちがいるのも貴族屋敷としては当然だった。
そんな俺が、まさか鬼に挑まれようとしているとは。
想像するだけで恐ろしかった。同じ男、それも退治すべき鬼に抱かれるのは屈辱と恐怖以外の何ものでもない。貴族ながら体を鍛え武士よりも強いと自負している俺にとっては、自尊心を根こそぎへし折られることに等しい行為だ。
(……そうか、それが鬼のやり口なのか)
これでは腕に覚えのある者は都に帰って来られないだろう。たとえ殺されなかったとしても、鬼に手籠めにされたなど口が裂けても言えない。それが「鬼退治に行くぞ」と宣言した公達や強者たちならなおさらだ。いっそのこと身を隠してしまいたいと思っても不思議ではなく、それなら誰一人都に帰ってこないのも頷ける。
俺は腹にグッと力を入れ、うっとりと俺を見下ろしている美しい鬼の顔を睨みつけた。
「おまえの、いいようには、させない」
何とか絞り出した俺の言葉に、なぜか鬼はますます蕩けるような笑みを浮かべた。
「本当に、なんと胆力の強いこと。……あなたこそわたしが求めてきた存在かもしれません」
そう言って紅い唇をひと舐めした鬼の姿に、俺はすべてが終わったと覚悟した。俺はここで鬼に食われるのだ。命は取られないかもしれないが、鬼に手籠めにされた自分のことを許せるはずがない。
事が済んだら命を絶とう。鴉丸だけはなんとか取り戻し、母上の手元に届くように手配をしてから一人どこかの山奥で死ねばいい。
すべてを諦め、冷静に今後のことを考えた。心は絶望に染まり不甲斐ない自分に腹立たしくなったが、そんな気持ちとは裏腹に体はますます熱くなっていく。猛々しくなった逸物が鬼の手に悦びの蜜をあふれさせているのもわかった。そんな自分を情けなく思いながら、すべてを断ち切るようにスッと目を閉じた。
(さぁ、やるのならさっさとやってしまえ)
半ば自暴自棄になった俺の上で、ごそごそと衣擦れの音がした。鬼が最後まで纏っていた単を脱いでいるのだろう。わずかに離れた鬼の熱が再び腰のあたりに触れた。もはやこれまでと覚悟を決める。
(さぁ、こい。どんなことをされても、決して声だけは出すまい)
唇をグッと噛み締め、そのときを待った。ところが思わぬところに予想外の熱と感触を感じ、思わず目を見開いてしまった。
視線の先には、腰に跨がり足を大きく開いた真っ白な肌があった。中心には男の証がいきり勃ち滑っているのがよくわかる。その腰が静かに俺の腹に下りていき……俺の猛々しい逸物を己の尻に差し込むのが目に入った。
「なにを、ッ!」
「ふ、あ……あぁ、なんて逞しい。こんなに太く立派で……はぁ、奥までしっかり届く……」
「ぅあッ」
「あ……!」
熱く滑ったものに逸物の根元まで包まれた瞬間、鬼が密着する下半身を見つめたまま一気に子種を吐き出した。腰を突き上げてはいけない、そこまで堕ちるわけにはいかないと必死に両手の爪を床に突き立ててはいるものの、いつもより明らかに長い逐情が続く。
気がつけば俺の目は鬼の股座を見ていた。鬼の腰はゆらゆらと艶めかしく揺れ、いきり勃つ男の証はぬらぬらと濡れている。しかし逐情した様子は見られない。だが、かすかに震えている下腹部からは感じ入っているように見えた。
「ふふっ、熱く脈打ちながらこんなにも吐き出して……。それほどにわたしの中は心地よいですか?」
「なに、を……ッ」
「素直になればよいものを。わたしはあなたに欲情した、あなたもそれに応えた、ただそれだけのこと。鬼だの人だのは関係ないじゃないですか」
「だ、まれ……ッ」
「そのように頑ななところにも惹かれますけどね。肉欲に鬼だの人だのは関係ありません。ただ獣のように本能に従うのみ。ほら、あなたのここも気持ちよさそうじゃないですか。んっ、ふふ、また大きくなった」
子種を吐き出したというのに、俺の逸物は一向に衰えることがなかった。それどころか鬼の中でますますいきり勃っている。それがわかったのか、鬼はニィと笑って腰を回すようにゆるりと動き出した。そうされるとますます気持ちよくなり、自分でも腰を動かしそうになる。
(くッ! 駄目だ、鬼のいいように、されては、いけない……ッ)
俺は必死に抗った。鬼に呑み込まれないように、これ以上惑わされないようにと必死だった。手籠めにされなかったことには安堵したが、だからといって鬼を犯してよい理由にはならない。交わりが自分の意志でなかったとしても、ここで少しでも腰を突き上げれば望んで鬼に屈したことになる。それは鬼退治に来た俺にとって耐え難い屈辱だった。
「あぁほらまた。唇を噛んだりするから、血が出ているじゃないですか」
不意に鬼の指が唇を撫でた。襲い来る快感に耐えようと無意識に噛み締めていたらしく、指先の触れた部分がチリリと痛む。唇から離れた白い指には、まるで鬼の唇のように赤い血が付いていた。
「いい香りだこと」
鬼の言葉にハッとした。
「それに……やはり、とても美味しい」
俺の血がついた指先を鬼の真っ赤な舌がぺろりと舐める。妖艶にも見える姿を目にした瞬間、ゾッとするとともに体がカッと熱くなった気がした。
「あぁ、なんと心地よい香りだこと。それだけじゃない。古酒のように芳醇で奥深く、それでいてねっとりした味わい……。いけない、鬼の本性が……、あぁ、いけない」
逸物を咥え込んでいる場所が大きくうねった。もっていかれまいと慌てて瞼を閉じ、クッと下腹に力を入れる。それでもぐねぐねと動く熱く柔らかい感触に何度も腰を突き上げそうになった。
ただでさえすぐに逐精しそうになるほど心地よいというのに、これ以上は本格的にまずい。そう思い、なんとか鬼から逃れなければと再び目を開いた俺はとんでもないものを目にした。
(髪が、伸びている……? それに、額のものは……)
短かった鬼の黒髪が、ゆらりと毛先を揺らしながらゆっくりと伸びていく。さらに真っ白な額ににょきりとした角が一本生えているのが見えた。赤く艶やかに光るその角は、かつて書物で見た異国の獣の角のようにも見える。
「あぁ、あまりにも美味で、鬼の本性が抑えきれなくなりました」
同じ声だというのに、明らかに先ほどより艶を増したように感じるのは気のせいだろうか。それに見間違えでなければ、紅い唇の端から小さな牙のようなものがちらりと覗いている。
「よかった、萎えていませんね」
「……!」
鬼の言葉に今度こそ愕然とした。そう、俺の逸物は鬼が鬼らしく変化する様子を見たというのに、まったく衰えていなかったのだ。それどころかますます滾るようにいきり勃ち、逐精したいと訴えるように脈打っている。
「俺、は……」
「それも妖魔の血がなせること。いいえ、自我を保ったままというのは妖魔の力が完全には効いていない証。ということは、わたしそのものに欲情しているということかもしれませんね」
「なにを馬鹿な……!」
「あぁほら、それです。普通の人ならば反論することもなく、とっくに自我を失いわたしの腹の奥を獣のように犯しているはず。これまでどんな盗っ人も、そう、帝の第十親王だというあの者も、ただ獣のようにわたしを求め、わたしに子種を注ぐだけでした」
第十親王というのは、帝が俺に勅命を下す最後の一押しとなった皇子のことだ。
皇子は親王ながら早くに臣に下り、少し前から鬼退治に行くのだと盛んに話をしていた。周囲は「また戯れが始まった」と本気にしていなかったが本当に鬼退治へと旅立ち、その後都には戻っていない。
そうか、第十親王はこの鬼に堕ち、犯したのだ。その結果、都に戻れなくなってしまったのだろう。
「ふ、また逞しくなった。もしや、親王に嫉妬でもしましたか?」
「馬鹿なことを、……ぅッ」
「体はこんなに素直だというのに……。その胆力こそが妖魔の力を弱めているのでしょうね。それに鬼の本性を見ても萎えることのない逞しさ。やはり、あなたこそがわたしの求めていた存在なのかもしれません」
「ふざけ、るな……ァッ!」
「ふざけてなどいませんよ? さぁ、あなたも素直になってください。そうして……」
腰をゆるりゆるりと回し、ニィと笑った鬼が顔を近づけてくる。
「心と体のおもむくままに、わたしを犯してください」
耳に触れた熱い息と淫らな言葉に、必死に耐えていた俺の気持ちは呆気なく崩れ落ちてしまった。
うっとりした声が聞こえる。背中に冷たい床を感じながら、腹と胸には火照るような熱を感じていた。
「ふふ、たまらない肉付きだこと」
「……ッ」
胸を撫で回していた鬼の手が、再び揉むように動き出す。まるで女にするような手つきにギョッとし、逃げるように腰が動いてしまった。しかし鬼に乗っかられた状態ではずり上がることも難しく、逆に腰同士を絶妙に擦れ合わせることになってしまう。そのせいで否が応でも昂ぶる己を感じてしまい、ますます情けない気持ちになった。
(退治すべき鬼を相手に、俺は……俺は……ッ)
鬼に組み伏せられた体は間違いなく欲情していた。息は上がり、胸はいつもよりも忙しなく鼓動を打っている。なによりもさらけ出された逸物はこれでもかと言わんばかりに猛々しくそそり勃っていた。
そんな俺の体を目にした鬼は直衣や袴を脱ぎ捨て、単を羽織っただけの姿で腹に跨がった。真っ白な単よりも白い鬼の肌は興奮しているのかうっすらと桃色に染まっている。それよりも濃い赤色に変化した目元がやけに目についた。そんな状態の艶やかな黒目にじっと見つめられれば、相手が鬼だとわかっていても興奮しないわけがない。何を血迷っているんだと思っても、体の内側から沸々とせり上がるように熱が広がってしまう。
俺は己を保つのに必死だった。「これは鬼だ、鬼の力に惑わされているだけに過ぎない。俺は何のためにここまで来たのかを思い出せ」と何度も必死に言い聞かせた。熱に浮かされたようなこの感覚が鬼のなせる技だとしたら呑み込まれるわけにはいかない。せめて一太刀浴びせなければ死んでも死に切れない。
そう思い、ぐらぐらと揺れる意識に活を入れながら胸を揉みしだく鬼を睨みつけた。
「この状況になってもそのような顔ができるなんて、思った以上に強いのですね。ますます興味がわきました」
「興味など、とッ」
「ふふっ、すっかり胸の先が膨らんで……なんて美味しそうなんでしょう。あぁ、食べてしまいたい」
「なに、を……ッ!?」
揉みしだいていた手が離れたかと思えば、乳首をきゅぅと摘まれ息を呑んだ。何をしようとしているんだと己の胸に視線を向けると、鬼の紅い唇がそれを含むところが目に入る。
「……ッ!」
初めての感覚に下腹にクッと力が入った。左の乳首が生温かいものに包まれたかと思えば熱く滑ったものが纏わりつくように触れる。あまりの出来事に視線を逸らすこともできず鬼の顔を凝視してしまった。すると乳首に吸いついたままの鬼が俺を見ながらニィと笑みを浮かべる。
「お、い……ッ」
何かよくないことが起きる――咄嗟にそう感じた俺は、慌てて鬼に声をかけたが遅かった。なんと、鬼が吸いついている乳首に噛みついたのだ。
心臓に噛みつかれたのかと思うほどの衝撃と痛みに息が詰まった。これまで刀傷を負ったことも弓矢に腕を射貫かれたこともあったが、それらよりも鋭く恐ろしい痛みに体がぎゅうと硬直する。
「おや、こういった痛みは初めてでしたか」
「……っ、くっ」
「案外悪くないでしょう? それに……あなたのここは、より一層逞しくなったようですしね」
「ふぅッ」
鋭い痛みを感じている乳首をベロリと舐め上げた鬼が、同時に逸物まで撫で上げてきて思わず声を漏らしてしまった。さらに俺を絶句させたのは、そこがかつてないほどいきり勃っていたことだ。
そんな馬鹿なと頭が真っ白になった。美しい顔をしているとはいえ相手は男、しかも鬼だ。その鬼に組み敷かれ、胸をまさぐられ、あろうことか乳首に噛みつかれて興奮してしまうとは……。衝撃に戸惑っている間も、逸物は萎えるどころかますますいきり勃つ。これでは鬼の着物や腹を汚していたに違いない。そしていまは逸物をゆるゆると撫で擦る鬼の手を汚している。
「あぁ、本当に立派だこと」
手を動かしながら鬼がうっとりした声を出した。鬼も興奮しているのか、俺の太ももに尻を擦りつけるように動かしている。
(これではもう、閨のようでは、ないか……っ)
御帳がなく上に乗っているのが鬼の男というだけで、状況は完全に閨事のそれだった。
俺は鬼退治に来たはずなのに、鬼に欲情された挙げ句に組み敷かれている。「どうしたことか、なんということだ」といくら思っても相変わらず体は動かない。これが鬼の言っていた力のせいだとして、ではどうして俺までもがこれほど欲情してしまっているのだろうか。
「意識を保ったままの人と交わるのは初めてですが、なにやら底知れぬ興奮を感じますね」
交わる……だと? よもや、この鬼は俺と本気で閨事に挑もうというのか。
(……まさか、俺を女のように扱いたいと、屈服させたいと思っているのか!)
ギョッと目を見開いた直後、ザッと血の気が引いた。俺はこれまで男と閨事に及んだことは一度もない。貴族の間ではそういったことも流行っているようだが、鴉丸にふさわしい力を得ることにのみ精進してきた俺は、内にこもる熱を鍛錬で発散してきた。
それでも発散しきれないときは屋敷の女房で散らしていた。貴族にとってはそれが普通のことで、そういう相手をする女房たちがいるのも貴族屋敷としては当然だった。
そんな俺が、まさか鬼に挑まれようとしているとは。
想像するだけで恐ろしかった。同じ男、それも退治すべき鬼に抱かれるのは屈辱と恐怖以外の何ものでもない。貴族ながら体を鍛え武士よりも強いと自負している俺にとっては、自尊心を根こそぎへし折られることに等しい行為だ。
(……そうか、それが鬼のやり口なのか)
これでは腕に覚えのある者は都に帰って来られないだろう。たとえ殺されなかったとしても、鬼に手籠めにされたなど口が裂けても言えない。それが「鬼退治に行くぞ」と宣言した公達や強者たちならなおさらだ。いっそのこと身を隠してしまいたいと思っても不思議ではなく、それなら誰一人都に帰ってこないのも頷ける。
俺は腹にグッと力を入れ、うっとりと俺を見下ろしている美しい鬼の顔を睨みつけた。
「おまえの、いいようには、させない」
何とか絞り出した俺の言葉に、なぜか鬼はますます蕩けるような笑みを浮かべた。
「本当に、なんと胆力の強いこと。……あなたこそわたしが求めてきた存在かもしれません」
そう言って紅い唇をひと舐めした鬼の姿に、俺はすべてが終わったと覚悟した。俺はここで鬼に食われるのだ。命は取られないかもしれないが、鬼に手籠めにされた自分のことを許せるはずがない。
事が済んだら命を絶とう。鴉丸だけはなんとか取り戻し、母上の手元に届くように手配をしてから一人どこかの山奥で死ねばいい。
すべてを諦め、冷静に今後のことを考えた。心は絶望に染まり不甲斐ない自分に腹立たしくなったが、そんな気持ちとは裏腹に体はますます熱くなっていく。猛々しくなった逸物が鬼の手に悦びの蜜をあふれさせているのもわかった。そんな自分を情けなく思いながら、すべてを断ち切るようにスッと目を閉じた。
(さぁ、やるのならさっさとやってしまえ)
半ば自暴自棄になった俺の上で、ごそごそと衣擦れの音がした。鬼が最後まで纏っていた単を脱いでいるのだろう。わずかに離れた鬼の熱が再び腰のあたりに触れた。もはやこれまでと覚悟を決める。
(さぁ、こい。どんなことをされても、決して声だけは出すまい)
唇をグッと噛み締め、そのときを待った。ところが思わぬところに予想外の熱と感触を感じ、思わず目を見開いてしまった。
視線の先には、腰に跨がり足を大きく開いた真っ白な肌があった。中心には男の証がいきり勃ち滑っているのがよくわかる。その腰が静かに俺の腹に下りていき……俺の猛々しい逸物を己の尻に差し込むのが目に入った。
「なにを、ッ!」
「ふ、あ……あぁ、なんて逞しい。こんなに太く立派で……はぁ、奥までしっかり届く……」
「ぅあッ」
「あ……!」
熱く滑ったものに逸物の根元まで包まれた瞬間、鬼が密着する下半身を見つめたまま一気に子種を吐き出した。腰を突き上げてはいけない、そこまで堕ちるわけにはいかないと必死に両手の爪を床に突き立ててはいるものの、いつもより明らかに長い逐情が続く。
気がつけば俺の目は鬼の股座を見ていた。鬼の腰はゆらゆらと艶めかしく揺れ、いきり勃つ男の証はぬらぬらと濡れている。しかし逐情した様子は見られない。だが、かすかに震えている下腹部からは感じ入っているように見えた。
「ふふっ、熱く脈打ちながらこんなにも吐き出して……。それほどにわたしの中は心地よいですか?」
「なに、を……ッ」
「素直になればよいものを。わたしはあなたに欲情した、あなたもそれに応えた、ただそれだけのこと。鬼だの人だのは関係ないじゃないですか」
「だ、まれ……ッ」
「そのように頑ななところにも惹かれますけどね。肉欲に鬼だの人だのは関係ありません。ただ獣のように本能に従うのみ。ほら、あなたのここも気持ちよさそうじゃないですか。んっ、ふふ、また大きくなった」
子種を吐き出したというのに、俺の逸物は一向に衰えることがなかった。それどころか鬼の中でますますいきり勃っている。それがわかったのか、鬼はニィと笑って腰を回すようにゆるりと動き出した。そうされるとますます気持ちよくなり、自分でも腰を動かしそうになる。
(くッ! 駄目だ、鬼のいいように、されては、いけない……ッ)
俺は必死に抗った。鬼に呑み込まれないように、これ以上惑わされないようにと必死だった。手籠めにされなかったことには安堵したが、だからといって鬼を犯してよい理由にはならない。交わりが自分の意志でなかったとしても、ここで少しでも腰を突き上げれば望んで鬼に屈したことになる。それは鬼退治に来た俺にとって耐え難い屈辱だった。
「あぁほらまた。唇を噛んだりするから、血が出ているじゃないですか」
不意に鬼の指が唇を撫でた。襲い来る快感に耐えようと無意識に噛み締めていたらしく、指先の触れた部分がチリリと痛む。唇から離れた白い指には、まるで鬼の唇のように赤い血が付いていた。
「いい香りだこと」
鬼の言葉にハッとした。
「それに……やはり、とても美味しい」
俺の血がついた指先を鬼の真っ赤な舌がぺろりと舐める。妖艶にも見える姿を目にした瞬間、ゾッとするとともに体がカッと熱くなった気がした。
「あぁ、なんと心地よい香りだこと。それだけじゃない。古酒のように芳醇で奥深く、それでいてねっとりした味わい……。いけない、鬼の本性が……、あぁ、いけない」
逸物を咥え込んでいる場所が大きくうねった。もっていかれまいと慌てて瞼を閉じ、クッと下腹に力を入れる。それでもぐねぐねと動く熱く柔らかい感触に何度も腰を突き上げそうになった。
ただでさえすぐに逐精しそうになるほど心地よいというのに、これ以上は本格的にまずい。そう思い、なんとか鬼から逃れなければと再び目を開いた俺はとんでもないものを目にした。
(髪が、伸びている……? それに、額のものは……)
短かった鬼の黒髪が、ゆらりと毛先を揺らしながらゆっくりと伸びていく。さらに真っ白な額ににょきりとした角が一本生えているのが見えた。赤く艶やかに光るその角は、かつて書物で見た異国の獣の角のようにも見える。
「あぁ、あまりにも美味で、鬼の本性が抑えきれなくなりました」
同じ声だというのに、明らかに先ほどより艶を増したように感じるのは気のせいだろうか。それに見間違えでなければ、紅い唇の端から小さな牙のようなものがちらりと覗いている。
「よかった、萎えていませんね」
「……!」
鬼の言葉に今度こそ愕然とした。そう、俺の逸物は鬼が鬼らしく変化する様子を見たというのに、まったく衰えていなかったのだ。それどころかますます滾るようにいきり勃ち、逐精したいと訴えるように脈打っている。
「俺、は……」
「それも妖魔の血がなせること。いいえ、自我を保ったままというのは妖魔の力が完全には効いていない証。ということは、わたしそのものに欲情しているということかもしれませんね」
「なにを馬鹿な……!」
「あぁほら、それです。普通の人ならば反論することもなく、とっくに自我を失いわたしの腹の奥を獣のように犯しているはず。これまでどんな盗っ人も、そう、帝の第十親王だというあの者も、ただ獣のようにわたしを求め、わたしに子種を注ぐだけでした」
第十親王というのは、帝が俺に勅命を下す最後の一押しとなった皇子のことだ。
皇子は親王ながら早くに臣に下り、少し前から鬼退治に行くのだと盛んに話をしていた。周囲は「また戯れが始まった」と本気にしていなかったが本当に鬼退治へと旅立ち、その後都には戻っていない。
そうか、第十親王はこの鬼に堕ち、犯したのだ。その結果、都に戻れなくなってしまったのだろう。
「ふ、また逞しくなった。もしや、親王に嫉妬でもしましたか?」
「馬鹿なことを、……ぅッ」
「体はこんなに素直だというのに……。その胆力こそが妖魔の力を弱めているのでしょうね。それに鬼の本性を見ても萎えることのない逞しさ。やはり、あなたこそがわたしの求めていた存在なのかもしれません」
「ふざけ、るな……ァッ!」
「ふざけてなどいませんよ? さぁ、あなたも素直になってください。そうして……」
腰をゆるりゆるりと回し、ニィと笑った鬼が顔を近づけてくる。
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耳に触れた熱い息と淫らな言葉に、必死に耐えていた俺の気持ちは呆気なく崩れ落ちてしまった。
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