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12 淫らな熱
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(気づかれてはいない……ようだな)
将軍と会うたびに様子を窺うようになった。膨らみすぎた気持ちをうまく隠せているか不安で、ついそんなことをしてしまう。
(いずれ首をはねられるのなら、いっそ告げてしまおうか)
魔が差したようにそんなことを思ってしまう自分が情けなくなった。こんなふうに一日のほとんどを将軍について考えているような気がする。女神に祈りを捧げているときでさえ、気がつけば将軍への加護を思ってしまうくらいだった。
命の芽吹きを司る大地の女神は、人間が抱く愛という感情を尊いものだと説いている。友愛、家族愛、師弟愛、それどころか性愛すら女神が加護する愛の一つだ。そのためメレキア王国では異性愛だけでなく同性愛にも偏見がない。実際、同性同士で婚姻を結ぶ者もいて、神殿で永遠の誓いを交わす者も多かった。
それでも自分には関係ないとずっと思っていた。女神の愛し子と呼ばれる自分が誰かと婚姻すれば、相手にもその家族にも迷惑をかけてしまう。子ができれば、その子は王太子に道具として使われてしまうかもしれない不安もあった。
(道具として使われるのはわたし一人でいい)
恋だの愛だのは自分には無縁だ――そう思ってきたはずなのに、心の中で将軍の存在がますます大きくなっていく。
チラッと将軍を見た。汗を拭っているだけなのに、その仕草にさえドキッとして目が離せなくなった。
(将軍の手はわたしより二回り、いやそれ以上だな)
だからあれほど大きい大剣イオニータを軽々と扱えるのだろう。不意に首を拭われたときのことを思い出した。あの大きな手が自分の首筋に触れたのだと思うと居たたまれない気持ちになる。気になって拭ってくれただけだというのに、まるで恋人のような触れ合いに思えて耳まで熱くなってきた。
(わたしは何を考えて……!)
慌てて視線を逸らすと「そうでした」と将軍の声が聞こえてドキッとした。
「こちらをお渡しするのを忘れていました」
ゴソゴソと何かを取り出すような気配に視線を戻す。見ていると懐から紐のようなものを取り出した。
「こちらの組み紐をお使いください」
「これは……?」
将軍の手のひらに載っているのは黒色の平べったい紐だった。
(……いや、黒ではないような……?)
日の光が当たると濃い青色に見える。そうかと思えば銀色に光っているところもあった。
「髪を結うための紐です」
「……あぁ、」
そういえば前回、そうした紐を用意すると言っていた。
「先にお渡しするはずが失念していました」
「ありがとうございます……将軍?」
受け取ろうと手を伸ばすが、なぜか両手で紐を持った。どうしたのだろうと首を傾げると、「結んで差し上げましょう」と言い出してギョッとした。
「いえ、そのようなことをしてもらうわけには、」
「遠慮なさらずに。これでも手先は器用なほうですので」
「そういうわけではなく、あの、本当に、」
「さぁ、後ろを向いて」
有無を言わさず体を反転させられた。「失礼します」と低い声が聞こえたかと思うと太い指が手櫛で何度も髪を梳き始めた。それだけでも緊張するというのに、髪をまとめるときに指先がうなじに触れて信じられないほど鼓動がうるさくなる。
(エルドがいなくてよかった)
今日は軍部での用事があるとかでエルドの姿はなかった。もしいつもの場所に立っていたら真っ赤になった顔を見られていたことだろう。そんな自分を見ればさすがに気づかれたに違いない。
「いかがですか?」
うなじが涼しくなった。「ありがとうございます」と言えたものの、どうにも気恥ずかしくて将軍のほうを見ることができない。
「何色にするか迷いましたが、やはりこの色を選んでよかった。これなら副官殿もうるさく言わないでしょう」
「えっ?」
どういう意味だろうと振り返った。
「殿下の副官は何かと厳しそうに見えましたので、派手な色では殿下が何か言われるのではと思ったまでです」
「それは……お気遣い感謝します」
屋敷に引き取る前にヨシュアのことも調べたのだろう。それとも実際に対面して、そうした印象を受けたのだろうか。
(もし顔を合わせたのだとしたら、あまりよい態度ではなかっただろうしな)
捕虜になってまで自分のそばにいろと命じられて納得したとは思えない。今でもヨシュアとはほとんど顔を合わせることがなく、何を考えているのかわからないままだ。だが、食事のときに向けられる視線は段々と厳しくなってきている。
(何かしら気づかれているのかもしれない……だが、この想いはもう消すことなど不可能だ)
首筋を涼やかな風が撫でた。風が冷たく感じるのは汗がまだ残っているからだろう。もう一度拭っておくかと手拭いを持ち上げるが、それより先に布の感触がして肩が震えた。
「まだ汗が残っていますよ」
そう言って将軍が先に拭い始めた。驚いて「自分でできますから」と言うが将軍の手が止まることはない。それどころかはだけていた鎖骨のあたりまで拭われて悲鳴が出そうになった。慌てて唇を噛み締めたものの、今度は上半身がビクッと震える。
「部屋の中で何か不便なことはありませんか?」
「と、とくには」
「不自由がありましたら執事に申しつけてください。もちろんわたしに直接言っていただいてもかまいません」
「あ、ありがとう、ございます」
話しながらも将軍の手は流れるように喉や顎、耳の裏まで拭っていく。不意に植物のような匂いがしていることに気がついた。メレキア王国で好まれる香木を使った香のようにも感じる。以前は自分もそうした香を焚くことがあったが、アトレテスに来てからは使うことがないため自分の服に移った残り香ではない。
(それに先ほどまでは感じなかった……まさか)
将軍に気づかれないようにクンと小さく鼻を鳴らした。腕が動くたびに香りがしているような気がする。もしかして将軍が使っている香の残り香なのだろうか。
(……あぁ、体を動かしたからか)
香は熱を加えて香りを楽しむものだが、残り香でも温められるとそうなるのだろう。おそらく手合わせや手ほどきで汗を掻くほど熱くなり、その体温で一時的に香りが強くなったに違いない。
(それでもこうして近づかなければ気づかなかっただろうが……)
つい将軍の分厚い胸元を見つめてしまいドキッとした。自分は今、残り香を感じるほど将軍の近くにいる。しかも汗まで拭ってもらっている。急に鼓動がドクドクと速くなった。そうかと思えば将軍の指が首筋をかすめたような気がしてカッと顔が熱くなる。
「部屋に戻られたら着替えをお忘れなく」
いつも言われる言葉なのに距離が近いからか耳が痺れるような気がした。視線をさまよわせながら小さな声で「はい」と答えると、「殿下」と耳元で囁かれて危うく悲鳴を漏らしそうになる。
「明日から四日間ほど所用にて屋敷を不在にします。次の手合わせは戻ってから……そうですね、七日後には必ず」
「わ、わかりました」
かろうじて返事はできたものの、最後まで将軍の顔を見ることはできなかった。
部屋に戻ってからも落ち着かない気持ちが続いた。本を開いても頭に文章は入ってこず、食事中も将軍の低く艶やかな声が耳の奥に蘇る。極めつけは湯を使っているときで、そんなはずはないのになぜか将軍の香りがしているような気がして落ち着かなかった。
寝室に入り、濡れた髪を布で拭いながら昼間の手合わせ後のことを思い返した。ああして汗を拭われたのは初めてではないが香りを感じたのは初めてだ。「草原のような香りが将軍の好みなのだろうか」と考えるだけで体が熱くなる。
ふとベッドのそばにある小さなテーブルに目が留まった。メレキアでは就寝前にああしたテーブルに香を用意して焚いていたことを思い出す。
(そういえば夜の営みのときに香を使うことがあると聞いたな)
不意に浮かんだ言葉に全身がカッと熱くなった。何を考えているのだと自分を叱りつけるが、一度浮かんだ淫らな妄想はなかなか消えようとしない。それどころか将軍の胸元や手の感触を思い出し、ますます体が熱くなってきた。
あらぬところに違和感を感じて視線を落とした。予想どおり股間のあたりが膨らんでしまっている。
(勝手に将軍を想って体を熱くするなんて……)
駄目だと思いながらも右手が股間に伸びていた。「はぁ」とため息のような吐息を吐き出し、持っていた布をテーブルに置く。そうして両手で腰紐をほどくとズボンがはらりと床に落ちた。「駄目だ」とつぶやく声はほとんど吐息で、下穿きの上から首をもたげつつあった己のものをそっと撫でる。
「んっ」
口を突いて出てきた声は聞いたことがないほど上ずっていた。慌てて唇を噛み締めるものの、股間を撫でる手を止めることができない。
(こんなことをしては……こんな……)
これまで自慰をしたことはあったが、特定の誰かを思い浮かべたのは初めてだった。頭に浮かぶ将軍の顔や耳に蘇る低い声に体が火照っていく。つられるように股間もますます熱く昂ぶった。
「……将軍……っ」
鈍い銀色の髪に触れたらどんな感じなのだろうか。あの分厚い胸に抱きしめられたらどれほど熱いのだろうか。大きな手に撫でられたら……あの声に愛を告げられたら……駄目だと思えば思うほど淫らな妄想が次々と浮かんでくる。
「将軍……ディエイガー将軍……」
気がつけば右手を下穿きの中に入れていた。直接扱きながら何度も将軍の名前を口にする。
(あの香りに包まれながら……抱きしめられたら……)
滲む視界の端に紐が映った。湯を使う前に外してテーブルに置いていた紐を左手に取り、鼻に近づける。懐に仕舞ったまま手合わせをしたからか、ほんのわずか将軍の香りがしているような気がした。縋るように紐を嗅ぎながら昂ぶった屹立を必死に扱く。先端からあふれる先走りがクチュクチュと音を立て、右手が少しずつ濡れるのがわかった。
「っ、っ、っ、」
声を噛み殺しながらもますます右手を強く動かした。腰がガクガクと震えて立っているのもやっとになる。それでも手を止めることができなかった。紐を持っていた手で傍らのテーブルを掴んだまま強く扱くと腰がブルッと大きく震えた。手合わせのときより激しい鼓動に、こめかみもドクドクとうるさくなる。
「ディ、エイガ、ぁ……っ」
名前を口にした瞬間、全身がブルブルと大きく震えた。ぐぅっと息を詰め、扱いていた手を止める。途端に濡れそぼった先端からピュピュッと勢いよく白濁が飛び散った。思わず動かしそうになった右手をグッと押し留め、それでも久しぶりの自慰だったからか残滓がポタポタと滴り落ちる。
「わたしはなんてことを……」
ただ想うだけだったはずが、こうして肉欲まで感じるようになってしまった。将軍の顔を見るたびにおかしな衝動に駆られるのではないかと不安がよぎる。
(わたしは……)
力なく俯くと、床に飛び散った欲望が目に入った。吐き出した後だというのに屹立はまだ昂ぶったままで、いやらしくも先端からはまだ白濁がポタポタと滴っている。
(将軍に触れたい。将軍に触れてほしい)
昂ぶった気持ちは収まるどころか抑え込んできた感情が次々とわき上がってきた。何度抑え込もうとしてもどうにもできない。
これまで感じたことがない衝動にグッと目を閉じた。何かに耐えるように唇を噛み締め、そうしてゆっくりと目を開く。小さく息を吐いてから汚れた下肢を布で拭い取った。服を整え、最後に床の汚れを丁寧に拭う。
(自分の中にこんなにも抑えがたい欲望があったとは)
強い武人になりたいと心も鍛錬してきたつもりだったが、まったく役に立たなかった。どうにもならない自分の感情を押し留めるように、ひたすら床を拭い続けた。
将軍と会うたびに様子を窺うようになった。膨らみすぎた気持ちをうまく隠せているか不安で、ついそんなことをしてしまう。
(いずれ首をはねられるのなら、いっそ告げてしまおうか)
魔が差したようにそんなことを思ってしまう自分が情けなくなった。こんなふうに一日のほとんどを将軍について考えているような気がする。女神に祈りを捧げているときでさえ、気がつけば将軍への加護を思ってしまうくらいだった。
命の芽吹きを司る大地の女神は、人間が抱く愛という感情を尊いものだと説いている。友愛、家族愛、師弟愛、それどころか性愛すら女神が加護する愛の一つだ。そのためメレキア王国では異性愛だけでなく同性愛にも偏見がない。実際、同性同士で婚姻を結ぶ者もいて、神殿で永遠の誓いを交わす者も多かった。
それでも自分には関係ないとずっと思っていた。女神の愛し子と呼ばれる自分が誰かと婚姻すれば、相手にもその家族にも迷惑をかけてしまう。子ができれば、その子は王太子に道具として使われてしまうかもしれない不安もあった。
(道具として使われるのはわたし一人でいい)
恋だの愛だのは自分には無縁だ――そう思ってきたはずなのに、心の中で将軍の存在がますます大きくなっていく。
チラッと将軍を見た。汗を拭っているだけなのに、その仕草にさえドキッとして目が離せなくなった。
(将軍の手はわたしより二回り、いやそれ以上だな)
だからあれほど大きい大剣イオニータを軽々と扱えるのだろう。不意に首を拭われたときのことを思い出した。あの大きな手が自分の首筋に触れたのだと思うと居たたまれない気持ちになる。気になって拭ってくれただけだというのに、まるで恋人のような触れ合いに思えて耳まで熱くなってきた。
(わたしは何を考えて……!)
慌てて視線を逸らすと「そうでした」と将軍の声が聞こえてドキッとした。
「こちらをお渡しするのを忘れていました」
ゴソゴソと何かを取り出すような気配に視線を戻す。見ていると懐から紐のようなものを取り出した。
「こちらの組み紐をお使いください」
「これは……?」
将軍の手のひらに載っているのは黒色の平べったい紐だった。
(……いや、黒ではないような……?)
日の光が当たると濃い青色に見える。そうかと思えば銀色に光っているところもあった。
「髪を結うための紐です」
「……あぁ、」
そういえば前回、そうした紐を用意すると言っていた。
「先にお渡しするはずが失念していました」
「ありがとうございます……将軍?」
受け取ろうと手を伸ばすが、なぜか両手で紐を持った。どうしたのだろうと首を傾げると、「結んで差し上げましょう」と言い出してギョッとした。
「いえ、そのようなことをしてもらうわけには、」
「遠慮なさらずに。これでも手先は器用なほうですので」
「そういうわけではなく、あの、本当に、」
「さぁ、後ろを向いて」
有無を言わさず体を反転させられた。「失礼します」と低い声が聞こえたかと思うと太い指が手櫛で何度も髪を梳き始めた。それだけでも緊張するというのに、髪をまとめるときに指先がうなじに触れて信じられないほど鼓動がうるさくなる。
(エルドがいなくてよかった)
今日は軍部での用事があるとかでエルドの姿はなかった。もしいつもの場所に立っていたら真っ赤になった顔を見られていたことだろう。そんな自分を見ればさすがに気づかれたに違いない。
「いかがですか?」
うなじが涼しくなった。「ありがとうございます」と言えたものの、どうにも気恥ずかしくて将軍のほうを見ることができない。
「何色にするか迷いましたが、やはりこの色を選んでよかった。これなら副官殿もうるさく言わないでしょう」
「えっ?」
どういう意味だろうと振り返った。
「殿下の副官は何かと厳しそうに見えましたので、派手な色では殿下が何か言われるのではと思ったまでです」
「それは……お気遣い感謝します」
屋敷に引き取る前にヨシュアのことも調べたのだろう。それとも実際に対面して、そうした印象を受けたのだろうか。
(もし顔を合わせたのだとしたら、あまりよい態度ではなかっただろうしな)
捕虜になってまで自分のそばにいろと命じられて納得したとは思えない。今でもヨシュアとはほとんど顔を合わせることがなく、何を考えているのかわからないままだ。だが、食事のときに向けられる視線は段々と厳しくなってきている。
(何かしら気づかれているのかもしれない……だが、この想いはもう消すことなど不可能だ)
首筋を涼やかな風が撫でた。風が冷たく感じるのは汗がまだ残っているからだろう。もう一度拭っておくかと手拭いを持ち上げるが、それより先に布の感触がして肩が震えた。
「まだ汗が残っていますよ」
そう言って将軍が先に拭い始めた。驚いて「自分でできますから」と言うが将軍の手が止まることはない。それどころかはだけていた鎖骨のあたりまで拭われて悲鳴が出そうになった。慌てて唇を噛み締めたものの、今度は上半身がビクッと震える。
「部屋の中で何か不便なことはありませんか?」
「と、とくには」
「不自由がありましたら執事に申しつけてください。もちろんわたしに直接言っていただいてもかまいません」
「あ、ありがとう、ございます」
話しながらも将軍の手は流れるように喉や顎、耳の裏まで拭っていく。不意に植物のような匂いがしていることに気がついた。メレキア王国で好まれる香木を使った香のようにも感じる。以前は自分もそうした香を焚くことがあったが、アトレテスに来てからは使うことがないため自分の服に移った残り香ではない。
(それに先ほどまでは感じなかった……まさか)
将軍に気づかれないようにクンと小さく鼻を鳴らした。腕が動くたびに香りがしているような気がする。もしかして将軍が使っている香の残り香なのだろうか。
(……あぁ、体を動かしたからか)
香は熱を加えて香りを楽しむものだが、残り香でも温められるとそうなるのだろう。おそらく手合わせや手ほどきで汗を掻くほど熱くなり、その体温で一時的に香りが強くなったに違いない。
(それでもこうして近づかなければ気づかなかっただろうが……)
つい将軍の分厚い胸元を見つめてしまいドキッとした。自分は今、残り香を感じるほど将軍の近くにいる。しかも汗まで拭ってもらっている。急に鼓動がドクドクと速くなった。そうかと思えば将軍の指が首筋をかすめたような気がしてカッと顔が熱くなる。
「部屋に戻られたら着替えをお忘れなく」
いつも言われる言葉なのに距離が近いからか耳が痺れるような気がした。視線をさまよわせながら小さな声で「はい」と答えると、「殿下」と耳元で囁かれて危うく悲鳴を漏らしそうになる。
「明日から四日間ほど所用にて屋敷を不在にします。次の手合わせは戻ってから……そうですね、七日後には必ず」
「わ、わかりました」
かろうじて返事はできたものの、最後まで将軍の顔を見ることはできなかった。
部屋に戻ってからも落ち着かない気持ちが続いた。本を開いても頭に文章は入ってこず、食事中も将軍の低く艶やかな声が耳の奥に蘇る。極めつけは湯を使っているときで、そんなはずはないのになぜか将軍の香りがしているような気がして落ち着かなかった。
寝室に入り、濡れた髪を布で拭いながら昼間の手合わせ後のことを思い返した。ああして汗を拭われたのは初めてではないが香りを感じたのは初めてだ。「草原のような香りが将軍の好みなのだろうか」と考えるだけで体が熱くなる。
ふとベッドのそばにある小さなテーブルに目が留まった。メレキアでは就寝前にああしたテーブルに香を用意して焚いていたことを思い出す。
(そういえば夜の営みのときに香を使うことがあると聞いたな)
不意に浮かんだ言葉に全身がカッと熱くなった。何を考えているのだと自分を叱りつけるが、一度浮かんだ淫らな妄想はなかなか消えようとしない。それどころか将軍の胸元や手の感触を思い出し、ますます体が熱くなってきた。
あらぬところに違和感を感じて視線を落とした。予想どおり股間のあたりが膨らんでしまっている。
(勝手に将軍を想って体を熱くするなんて……)
駄目だと思いながらも右手が股間に伸びていた。「はぁ」とため息のような吐息を吐き出し、持っていた布をテーブルに置く。そうして両手で腰紐をほどくとズボンがはらりと床に落ちた。「駄目だ」とつぶやく声はほとんど吐息で、下穿きの上から首をもたげつつあった己のものをそっと撫でる。
「んっ」
口を突いて出てきた声は聞いたことがないほど上ずっていた。慌てて唇を噛み締めるものの、股間を撫でる手を止めることができない。
(こんなことをしては……こんな……)
これまで自慰をしたことはあったが、特定の誰かを思い浮かべたのは初めてだった。頭に浮かぶ将軍の顔や耳に蘇る低い声に体が火照っていく。つられるように股間もますます熱く昂ぶった。
「……将軍……っ」
鈍い銀色の髪に触れたらどんな感じなのだろうか。あの分厚い胸に抱きしめられたらどれほど熱いのだろうか。大きな手に撫でられたら……あの声に愛を告げられたら……駄目だと思えば思うほど淫らな妄想が次々と浮かんでくる。
「将軍……ディエイガー将軍……」
気がつけば右手を下穿きの中に入れていた。直接扱きながら何度も将軍の名前を口にする。
(あの香りに包まれながら……抱きしめられたら……)
滲む視界の端に紐が映った。湯を使う前に外してテーブルに置いていた紐を左手に取り、鼻に近づける。懐に仕舞ったまま手合わせをしたからか、ほんのわずか将軍の香りがしているような気がした。縋るように紐を嗅ぎながら昂ぶった屹立を必死に扱く。先端からあふれる先走りがクチュクチュと音を立て、右手が少しずつ濡れるのがわかった。
「っ、っ、っ、」
声を噛み殺しながらもますます右手を強く動かした。腰がガクガクと震えて立っているのもやっとになる。それでも手を止めることができなかった。紐を持っていた手で傍らのテーブルを掴んだまま強く扱くと腰がブルッと大きく震えた。手合わせのときより激しい鼓動に、こめかみもドクドクとうるさくなる。
「ディ、エイガ、ぁ……っ」
名前を口にした瞬間、全身がブルブルと大きく震えた。ぐぅっと息を詰め、扱いていた手を止める。途端に濡れそぼった先端からピュピュッと勢いよく白濁が飛び散った。思わず動かしそうになった右手をグッと押し留め、それでも久しぶりの自慰だったからか残滓がポタポタと滴り落ちる。
「わたしはなんてことを……」
ただ想うだけだったはずが、こうして肉欲まで感じるようになってしまった。将軍の顔を見るたびにおかしな衝動に駆られるのではないかと不安がよぎる。
(わたしは……)
力なく俯くと、床に飛び散った欲望が目に入った。吐き出した後だというのに屹立はまだ昂ぶったままで、いやらしくも先端からはまだ白濁がポタポタと滴っている。
(将軍に触れたい。将軍に触れてほしい)
昂ぶった気持ちは収まるどころか抑え込んできた感情が次々とわき上がってきた。何度抑え込もうとしてもどうにもできない。
これまで感じたことがない衝動にグッと目を閉じた。何かに耐えるように唇を噛み締め、そうしてゆっくりと目を開く。小さく息を吐いてから汚れた下肢を布で拭い取った。服を整え、最後に床の汚れを丁寧に拭う。
(自分の中にこんなにも抑えがたい欲望があったとは)
強い武人になりたいと心も鍛錬してきたつもりだったが、まったく役に立たなかった。どうにもならない自分の感情を押し留めるように、ひたすら床を拭い続けた。
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カクヨムに書き溜め。
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