14 / 39
14 無情
しおりを挟む
(いったい何が起きているんだ?)
部屋に戻ってからもそのことが気になって仕方なかった。手合わせを提案されたときも驚いたが、短剣はそれとはまったく違う。捕虜に短剣を渡したのだと露呈すれば将軍は間違いなく重い罰を与えられるだろう。国によっては処刑されてもおかしくない行動だ。
(なにより知られればわたし自身の命もない)
それでも将軍は「肌身離さず」と言った。そう言わざるを得ないほどの何かが起きつつあるということだ。
(短剣が必要になるようなこと……)
考えられるのはこの身に何かが起きようとしていることだ。メレキアの王宮ならあり得なくもないがここはアトレテス、しかもディエイガー将軍が住む屋敷だ。アトレテスの誰かが将軍の屋敷に潜り込んでまで自分の命を狙ったりするだろうか。
(そもそもわたしを殺せばアトレテス王の考えに反することになる)
武人の頂点に立つ王に逆らってまで事を起こす者がいるとは思えない。そういう意味では王妃や王太子に存在を疎まれていたメレキアより安全かもしれなかった。
(アトレテス側に狙われているのではないとしたら、いったい誰が……)
不意に王太子の顔が浮かんだ。鮮やかな金髪を揺らしながら整った顔で薄く笑う様子を思い出し、眉間に皺が寄る。
こうした状況でも自分をどうにかしたいと願うのは王太子くらいだろう。だが王太子は幽閉の身だ。そんな状態で何かできるとは思えない。
(それとも王妃が……? いや、いくら王妃の兄が高位神官だったとしても力が及ばないこの地で何かできるとは思えない)
それに自分が神殿に入ってからは王妃からの接触はなかった。王妃の兄とも顔を合わせたことはない。疑心暗鬼に揺れる自分に苦々しい気持ちになった。愛をもっとも尊いものだと説く女神に仕える神官がこんなことでどうする。
預かった短剣を取り出した。神殿でもこうした武器を持つことはなく、だからかやけに重く感じる。「普段は細剣を振り回しているのにな」と自嘲の笑みが漏れたところで扉を叩く音がした。急いで懐に短剣を仕舞い、「入れ」と返事をする。
「失礼します」
振り向くと扉の外にヨシュアが立っていた。わざわざ寝室を尋ねてくるのは初めてだ。いつにも増して鋭い眼差しをしていることに気づき、短剣のこともあるからか緊張が走った。
「何かあったのか?」
「何かあったのは殿下のほうではありませんか?」
「なんだと……?」
鋭さを増した目に「まさか短剣のことを気づかれたか?」と焦った。しかしヨシュアの視線が胸のあたりを見ることはなく、なおもじっと顔を見ている。
「どういう意味だ?」
「殿下と将軍の手合わせを拝見しました」
「な……」
思わず「なんだと」と言いかけた言葉を呑み込んだ。
(なぜそのことを知っている? ヨシュアはこの部屋から出られないはずだ)
この部屋から中庭を望むことはできない。それなのになぜ手合わせのことを知っているのだろうか。そもそも中庭のことは執事も口にしたことはなく、どうして場所まで知っているのだろうか。
「なぜとお思いですか?」
ヨシュアがにやりと笑った。続けて「この目で見たからですよ」と告げる。
「まさか部屋を抜け出したのか?」
「屋敷に連れて来られたときから、わたしは祖国メレキアのために動いております。ただ愚鈍に寝室に籠もっているだけだとお思いでしたか?」
嘲るような笑みにグッと拳を握った。まさかヨシュアがそこまでするとは思わなかった。もし誰かに見つかればその場で斬り捨てられてもおかしくないことを平然とやってのける胆力にも驚いた。
(戦場では一度も剣を握る姿を見なかったが、形式だけの神官兵ではなかったということか)
副官の力量さえ見定められなかったとは……噛み締めた奥歯がギリリと軋む。
「残念ながらわずかな時間しか拝見できませんでしたが、なるほどと納得しました」
「……どういう意味だ」
「おや、ご自分のことですよ? わたしの口から申し上げるまでもないでしょう。それとも指摘させていただいたほうがよろしいですか?」
ヨシュアが部屋に入ってきた。一歩、また一歩と近づいてくる。
「わたしは剣に詳しくありませんが、少しの時間拝見しただけでも気づきました。殿下の動きはグレモンティ将軍によく似ていらっしゃる。さすがは武人を目指していらっしゃるだけのことはあると感服しました」
「……なぜそのことを知っている」
「殿下が密かに訓練所に潜り込み剣の腕を磨いていたことは将軍、副官なら存じ上げていますよ」
王太子が吹聴したのだろう。だから最前線へ進めという命令に誰も異を唱えることなく、そして誰も付いてくることなく自分の隊だけが先頭に立たされたのだ。
「殿下の様子はまるでグレモンティ将軍の弟子か子飼い。アトレテスの武人なら誉れでしょうが、殿下はメレキアの神官です。女神の愛し子であり大地の女神でいらっしゃる。これからの祖国は殿下の肩にかかっていると申し上げたはずですが、わたしの言葉は心に届きませんでしたか」
「そんなことはない」
「そんなことは大いにあるでしょう? グレモンティ将軍に心酔しているのだと考えれば手合わせのときの殿下の表情にも納得できます」
ヨシュアの目がギラリと光った。その目に何度も見てきた王妃と王太子の眼差しが重なる。
――何が“女神の愛し子”です。所詮は陛下のための道具でしかないというのに忌々しい。
――あちこちに愛想を振りまいて、王族として恥ずかしくないのですか?
――誰もおまえのことなど好きになるわけないだろう。母にも好かれていないくせに勘違いするな。
――姿だけは女神のようだな。その顔で今度は誰をたらし込むつもりだ?
望んで黒髪で生まれたわけではなく好きでこの姿になったわけでもない。何度も憎悪を向けられた記憶が蘇り心がグッと重くなった。将軍との手合わせで忘れていた重苦しいものが体の深いところから泥のようににじみ出てくる。
「殿下はグレモンティ将軍を慕っていらっしゃいますね?」
「な、にを」
「隠さなくても結構です。まさか仇に恋をするとは、なんと恥知らずな」
茶色の目が睨みつけるように鋭くなった。
「殿下は祖国のことを忘れ、民のことを忘れ、そうして仇である敵国の将軍にうつつを抜かしていらっしゃる。神官としての魂も第二王子としての気概もお忘れか」
「そのようなことは断じてない」
「言い訳はけっこう」
鋭い言葉に反論することはできなかった。
「あれほど申し上げたというのにこの体たらくとは……。陛下も王太子殿下もどうお思いになることか」
「嘆かわしい」と言いながら額に手を当てた。
「祖国のために将軍を籠絡するということなら納得できます。殿下ほどの美貌ならあのいかつい将軍でも手玉に取ることができるでしょう。ところが祖国を忘れ、陛下や王太子殿下のことを忘れ、ただの色恋に身を落とすなどなんと嘆かわしいことか」
「忘れてなどいない」
「では、いつまで手合わせなどという武人の真似事を続けるおつもりだったのですか? 今も陛下は、王太子殿下は、そして民たちはアトレテスに苦しめられているというのに、殿下は将軍に骨抜きにされているだけではありませんか」
「それは、」
「殿下、我が国の女神は大変寛容なお方です。ですが、女神の愛し子である殿下が我が国を滅ぼそうとしている相手と結ばれることは決してお許しにならないでしょう。殿下が成すべきこと、成さねばならぬことをもう一度よくお考えください」
部屋に戻ってからもそのことが気になって仕方なかった。手合わせを提案されたときも驚いたが、短剣はそれとはまったく違う。捕虜に短剣を渡したのだと露呈すれば将軍は間違いなく重い罰を与えられるだろう。国によっては処刑されてもおかしくない行動だ。
(なにより知られればわたし自身の命もない)
それでも将軍は「肌身離さず」と言った。そう言わざるを得ないほどの何かが起きつつあるということだ。
(短剣が必要になるようなこと……)
考えられるのはこの身に何かが起きようとしていることだ。メレキアの王宮ならあり得なくもないがここはアトレテス、しかもディエイガー将軍が住む屋敷だ。アトレテスの誰かが将軍の屋敷に潜り込んでまで自分の命を狙ったりするだろうか。
(そもそもわたしを殺せばアトレテス王の考えに反することになる)
武人の頂点に立つ王に逆らってまで事を起こす者がいるとは思えない。そういう意味では王妃や王太子に存在を疎まれていたメレキアより安全かもしれなかった。
(アトレテス側に狙われているのではないとしたら、いったい誰が……)
不意に王太子の顔が浮かんだ。鮮やかな金髪を揺らしながら整った顔で薄く笑う様子を思い出し、眉間に皺が寄る。
こうした状況でも自分をどうにかしたいと願うのは王太子くらいだろう。だが王太子は幽閉の身だ。そんな状態で何かできるとは思えない。
(それとも王妃が……? いや、いくら王妃の兄が高位神官だったとしても力が及ばないこの地で何かできるとは思えない)
それに自分が神殿に入ってからは王妃からの接触はなかった。王妃の兄とも顔を合わせたことはない。疑心暗鬼に揺れる自分に苦々しい気持ちになった。愛をもっとも尊いものだと説く女神に仕える神官がこんなことでどうする。
預かった短剣を取り出した。神殿でもこうした武器を持つことはなく、だからかやけに重く感じる。「普段は細剣を振り回しているのにな」と自嘲の笑みが漏れたところで扉を叩く音がした。急いで懐に短剣を仕舞い、「入れ」と返事をする。
「失礼します」
振り向くと扉の外にヨシュアが立っていた。わざわざ寝室を尋ねてくるのは初めてだ。いつにも増して鋭い眼差しをしていることに気づき、短剣のこともあるからか緊張が走った。
「何かあったのか?」
「何かあったのは殿下のほうではありませんか?」
「なんだと……?」
鋭さを増した目に「まさか短剣のことを気づかれたか?」と焦った。しかしヨシュアの視線が胸のあたりを見ることはなく、なおもじっと顔を見ている。
「どういう意味だ?」
「殿下と将軍の手合わせを拝見しました」
「な……」
思わず「なんだと」と言いかけた言葉を呑み込んだ。
(なぜそのことを知っている? ヨシュアはこの部屋から出られないはずだ)
この部屋から中庭を望むことはできない。それなのになぜ手合わせのことを知っているのだろうか。そもそも中庭のことは執事も口にしたことはなく、どうして場所まで知っているのだろうか。
「なぜとお思いですか?」
ヨシュアがにやりと笑った。続けて「この目で見たからですよ」と告げる。
「まさか部屋を抜け出したのか?」
「屋敷に連れて来られたときから、わたしは祖国メレキアのために動いております。ただ愚鈍に寝室に籠もっているだけだとお思いでしたか?」
嘲るような笑みにグッと拳を握った。まさかヨシュアがそこまでするとは思わなかった。もし誰かに見つかればその場で斬り捨てられてもおかしくないことを平然とやってのける胆力にも驚いた。
(戦場では一度も剣を握る姿を見なかったが、形式だけの神官兵ではなかったということか)
副官の力量さえ見定められなかったとは……噛み締めた奥歯がギリリと軋む。
「残念ながらわずかな時間しか拝見できませんでしたが、なるほどと納得しました」
「……どういう意味だ」
「おや、ご自分のことですよ? わたしの口から申し上げるまでもないでしょう。それとも指摘させていただいたほうがよろしいですか?」
ヨシュアが部屋に入ってきた。一歩、また一歩と近づいてくる。
「わたしは剣に詳しくありませんが、少しの時間拝見しただけでも気づきました。殿下の動きはグレモンティ将軍によく似ていらっしゃる。さすがは武人を目指していらっしゃるだけのことはあると感服しました」
「……なぜそのことを知っている」
「殿下が密かに訓練所に潜り込み剣の腕を磨いていたことは将軍、副官なら存じ上げていますよ」
王太子が吹聴したのだろう。だから最前線へ進めという命令に誰も異を唱えることなく、そして誰も付いてくることなく自分の隊だけが先頭に立たされたのだ。
「殿下の様子はまるでグレモンティ将軍の弟子か子飼い。アトレテスの武人なら誉れでしょうが、殿下はメレキアの神官です。女神の愛し子であり大地の女神でいらっしゃる。これからの祖国は殿下の肩にかかっていると申し上げたはずですが、わたしの言葉は心に届きませんでしたか」
「そんなことはない」
「そんなことは大いにあるでしょう? グレモンティ将軍に心酔しているのだと考えれば手合わせのときの殿下の表情にも納得できます」
ヨシュアの目がギラリと光った。その目に何度も見てきた王妃と王太子の眼差しが重なる。
――何が“女神の愛し子”です。所詮は陛下のための道具でしかないというのに忌々しい。
――あちこちに愛想を振りまいて、王族として恥ずかしくないのですか?
――誰もおまえのことなど好きになるわけないだろう。母にも好かれていないくせに勘違いするな。
――姿だけは女神のようだな。その顔で今度は誰をたらし込むつもりだ?
望んで黒髪で生まれたわけではなく好きでこの姿になったわけでもない。何度も憎悪を向けられた記憶が蘇り心がグッと重くなった。将軍との手合わせで忘れていた重苦しいものが体の深いところから泥のようににじみ出てくる。
「殿下はグレモンティ将軍を慕っていらっしゃいますね?」
「な、にを」
「隠さなくても結構です。まさか仇に恋をするとは、なんと恥知らずな」
茶色の目が睨みつけるように鋭くなった。
「殿下は祖国のことを忘れ、民のことを忘れ、そうして仇である敵国の将軍にうつつを抜かしていらっしゃる。神官としての魂も第二王子としての気概もお忘れか」
「そのようなことは断じてない」
「言い訳はけっこう」
鋭い言葉に反論することはできなかった。
「あれほど申し上げたというのにこの体たらくとは……。陛下も王太子殿下もどうお思いになることか」
「嘆かわしい」と言いながら額に手を当てた。
「祖国のために将軍を籠絡するということなら納得できます。殿下ほどの美貌ならあのいかつい将軍でも手玉に取ることができるでしょう。ところが祖国を忘れ、陛下や王太子殿下のことを忘れ、ただの色恋に身を落とすなどなんと嘆かわしいことか」
「忘れてなどいない」
「では、いつまで手合わせなどという武人の真似事を続けるおつもりだったのですか? 今も陛下は、王太子殿下は、そして民たちはアトレテスに苦しめられているというのに、殿下は将軍に骨抜きにされているだけではありませんか」
「それは、」
「殿下、我が国の女神は大変寛容なお方です。ですが、女神の愛し子である殿下が我が国を滅ぼそうとしている相手と結ばれることは決してお許しにならないでしょう。殿下が成すべきこと、成さねばならぬことをもう一度よくお考えください」
118
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
別れたはずの元彼に口説かれています
水無月にいち
BL
高三の佐倉天は一歳下の松橋和馬に一目惚れをして告白をする。お世話をするという条件の元、付き合えることになった。
なにかと世話を焼いていたが、和馬と距離が縮まらないことに焦っている。
キスを強請った以降和馬とギクシャクしてしまい、別れを告げる。
だが別れたのに和馬は何度も会いに来てーー?
「やっぱりアレがだめだった?」
アレってなに?
別れてから始まる二人の物語。
氷の公爵様と身代わりパティシエ~「味覚なし」の旦那様が、僕のお菓子でトロトロに溶かされています!?~
水凪しおん
BL
【2月14日はバレンタインデー】
「お前の菓子だけが、私の心を溶かすのだ」
実家で「魔力なしの役立たず」と虐げられてきたオメガのリウ。
義弟の身代わりとして、北の果てに住む恐ろしい「氷血公爵」ジークハルトのもとへ嫁ぐことになる。
冷酷無慈悲と噂される公爵だったが、リウが作ったカカオのお菓子を食べた途端、その態度は激変!?
リウの持つ「祝福のパティシエ」の力が、公爵の凍りついた呪いを溶かしていき――。
拾ったもふもふ聖獣と一緒に、甘いお菓子で冷たい旦那様を餌付け(?)する、身代わり花嫁のシンデレラストーリー!
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ぽて と むーちゃんの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
紳士オークの保護的な溺愛
flour7g
BL
■ 世界と舞台の概要
ここはオークの国「トールキン」。
魔法、冒険者、ギルド、ダンジョン、獣人やドラゴンが存在する、いわゆる“典型的な異世界”だが、この国の特徴はオークが長命で、理知的な文明社会を築いていることにある。
トールキンのオークたちは、
灰色がかった緑や青の肌
鋭く澄んだ眼差し
鍛え上げられた筋骨隆々の体躯
を持ち、外見こそ威圧的だが、礼節と合理性を重んじる国民性をしている。
異世界から来る存在は非常に珍しい。
しかしオークは千年を生きる種族ゆえ、**長い歴史の中で「時折起こる出来事」**として、記録にも記憶にも残されてきた。
⸻
■ ガスパールというオーク
ガスパールは、この国でも名の知れた貴族家系の三男として生まれた。
薄く灰を帯びた緑の肌、
赤い虹彩に金色の瞳孔という、どこか神話的な目。
分厚い肩と胸板、鍛え抜かれた腹筋は鎧に覆われずとも堅牢で、
銀色に輝く胸当てと腰当てには、代々受け継がれてきた宝石が嵌め込まれている。
ざらついた低音の声だが、語調は穏やかで、
貴族らしい品と、年齢を重ねた余裕がにじむ話し方をする。
● 彼の性格
• 極めて面倒見がよく、観察力が高い
• 感情を声高に表に出さないが、内側は情に厚い
• 責任を引き受けることを当然のように思っている
• 自分が誰かに寄りかかることだけは、少し苦手
どこか「自分は脇役でいい」と思っている節があり、それが彼の誠実さと同時に、不器用さでもあった。
⸻
■ 過去と喪失 ――愛したオーク
ガスパールはかつて、平民出身のオーク男性と結ばれていた。
家柄も立場も違う相手だったが、
彼はその伴侶の、
不器用な優しさ
朝食を焦がしてしまうところ
眠る前に必ず手を探してくる癖
を、何よりも大切にしていた。
しかし、その伴侶はすでにこの世を去っている。
現在ガスパールが暮らしているのは、
貴族街から少し離れた、二階建ての小さな屋敷。
華美ではないが、掃除が行き届き、静かな温もりのある家だ。
彼は今も毎日のように墓参りを欠かさない。
それは悲嘆というより、対話に近い行為だった。
⸻
■ 現在の生活
ガスパールは現在、
街の流通を取り仕切る代表的な役職に就いている。
多忙な職務の合間にも、
洗濯、掃除、料理
帳簿の整理
屋敷の修繕
をすべて自分でこなす。
仕事、家事、墓参り。
規則正しく、静かな日々。
――あなたが現れるまでは。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる