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22 今後の道筋2
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どういうことかわからず将軍を見た。「いい加減自分で話せって」と言うエルドにため息をついた将軍が持っていたカップを置く。
「殿下は今回の戦争に思うところがあるのではありませんか?」
将軍の問いかけにハッとした。思わず視線を逸らしかけたものの、将軍は自分が従軍した背景も、ままならなかった気持ちにもおそらく気づいている。
(今さら隠す必要はない)
なにより将軍に隠し事はしたくなかった。そう思い、気持ちを打ち明けることにした。
「自分の立場なら……“女神の愛し子”なら戦争を止めることができたのではと、そう何度も考えました。望んで愛し子と呼ばれるようになったわけではありませんが、何もできなかった自分を許すことはできません。わたしだけ逃げ出すことなどできるはずがない」
流され続けた結果の立場だったとしても自分はそれを受け入れた。それなのに今さら投げ出すことなどできるはずがない。
「殿下らしいお考えだと思います。だからこそ身を削ってでも祖国のために尽くされようとする。そうすべきだと考えていらっしゃる。殿下のお立場は理解していますが、これから先メレキアのことに日々心を砕かれる姿を間近で見続けるのかと思うと、忌々しくて仕方がないのですよ」
「……メレキアを思うことが不愉快だと、そういうことですか?」
「あっはははは! 殿下、ずばり言い過ぎですって」
エルドが腹を抱えるように笑い出した。
「ディオは何もメレキアを大事にするなと言っているんじゃありません。いいですか、殿下。ディエイガー・グレモンティという男は恋愛に関してはとくに心が狭いんです。そのうえ巨漢で顔はいかつく、笑顔は寿命を縮ませるほどの恐怖を与えるだけでなく嫉妬深くもある。ついでに体に見合った精力の持ち主なんで、殿下のお体がこの先耐えられるか今から心配でなりません」
「半分以上わたしの悪口に聞こえたのは気のせいか?」
「あはは、やだなぁ」
「余計なことしか言わないのなら出て行け。そもそも仕事でもないのに同席する必要はないだろう」
「はいはい。まったく、まだ正式な伴侶になってないっていうのに心の狭い旦那様は困りものですねぇ。ま、戦神と言われるような男でも嫉妬するってことですよ」
にやりと笑ったエルドは、いつもどおり右手をヒラヒラと振りながら部屋を出て行った。途端に部屋が静かになる。
「エルドの話は気にされませんように」
そう言われても気にならないわけがなかった。最後の「嫉妬する」という言葉が頭をぐるりと巡り、そわそわと落ち着かない気持ちになる。
「そんな男なのかと幻滅されましたか?」
「いいえ! そんなこと思うはずがありません。そうではなくて……少し驚いたと言いますか……」
まさか祖国に嫉妬するほど想われているとは想像すらしていなかった。想いは交わしたものの自分のほうが強く将軍を求めているに違いない。それでもいいと思っていた。ところが将軍も強く自分を想ってくれていたのだとわかり、体の芯をゾクゾクとしたものが駆け上がってくる。同時に後ろめたい気持ちにもなった。
(わたしばかりが浮かれていていいのか? 今はメレキアのことを考えなくてはいけないときだというのに、わたしは……)
祖国のために身を尽くしたいと口にしたのはついさっきだ。それなのに色恋に気持ちが傾く自分が情けなくなる。
「殿下はわたしのことを目標にしているとおっしゃいましたが、中身はただの男でしかありません。愛しい人に溺れ、国のためだと言いながら殿下のことを第一に考えるような情けない男なのです」
「そんなことはありません! それを言うならわたしのほうこそ……今も祖国のためと言いながら胸の内では……」
情けなくて言えなかった。「何をお考えですか?」と尋ねられても答えることを渋ってしまう。
「意地の悪いことを申しました。殿下を悩ませたいわけではありません。どうかお許しを」
「……いえ……自分の情けなさに言葉も出ません」
「祖国よりわたしを想ってくださることが情けないと?」
「そうではなくて、」
「殿下にそこまで想っていただけること、わたしは心から嬉しく思っています。このような状況で不謹慎とは思いますが」
将軍が立ち上がった。そのまま傍らに来ると床に片膝をついてこちらを見上げる。
「殿下に想われていることに喜びを覚え、困らせるとわかっていて殿下のお気持ちを伺いたいと意地の悪いことを口にしてしまいました。年甲斐もなく興奮しているせいでしょうか」
将軍の手が膝に置いていた右手を掴んだ。そうかと思えばうやうやしく手の甲に口づける。まるで姫君のように扱われるのは不快でしかないはずなのに、相手が将軍だと思うとどうしようもなく気持ちが昂ぶった。
「殿下をお守りするために伴侶にと考えたのは本当です。ですが、それだけで伴侶にと口にしたのではありません」
自分をじっと見つめるはしばみ色の目から視線が外せない。トクントクンと鼓動が速まり、将軍に握られたままの手が熱くてどうしようもなくなる。
「殿下のすべてをこの手にしたい、そうした下衆な思いもありました」
「この手にしたい」と言いながら将軍の手に力が入るのを感じた。それだけで耳がカッとなり、こめかみまでドクドクとうるさくなる。最後に見た淫らな夢の中と同じ興奮が体を駆け巡り腰が疼いた。
駄目だとわかっているのにあふれる感情を止めることができなかった。自分も同じだと言いかけ、すんでのところで思い留まる。自分にはメレキアのために尽くさなくてはいけない役目がある。それなのにすべてを忘れて将軍に縋りついてもいいのだろうか。
(恋い慕うどころか将軍を想う気持ち以外のすべてを捨ててもいいとさえ思ってしまう。そんなことは許されない)
わかっていても胸に渦巻く気持ちを抑えることができない。自分も将軍と同じ気持ちなのだと伝えたくてほんの少し唇を開き、それでもためらう気持ちが消えず再び閉じる。
「誘っておいでですか?」
「え?」
「殿下のそうした表情に抗えるものはこの世におりますまい」
「あの、……っ」
トンと肩を押されて驚いた。背中からソファに倒れてしまい、すぐに起き上がろうとしたものの体を覆うように将軍にのし掛かられて身動きが取れなくなる。
「わたしも生身の男です。愛しい相手を前に欲望を隠すのは難しい」
「それは、」
「清廉な神官である殿下には想像もつかないことでしょうが」
清廉という言葉に顔がカッと熱くなった。将軍を思い浮かべながら何度も自慰をしたことを思い出し居たたまれない気持ちになる。
「わたしは清廉なんかじゃありません。これまで何度も……その、汚れた目で将軍を見ていたのですから……」
「それはわたしに欲情したことがあるということですか?」
欲情という言葉に目眩がした。淫らすぎる夢のことを思い出して将軍の顔を見ることができない。
「あぁ、その表情はよくありません」
聞いたことがない声色に視線を戻した。初めて見る表情にドクンと鼓動が跳ねる。自分を見下ろす将軍の前髪が一房はらりと額に落ちてきたのがやけに色っぽい。ますます激しくなる鼓動にどうしていいのかわからなくなってきた。
「殿下は清廉ではないとおっしゃいましたが、決してそのようなことはありません。陥れられても相手を悼むことができる殿下は、やはりわたしから見れば清廉でいらっしゃる」
「……ただの偽善です」
「そう口にできる強さもお持ちだ」
頬を撫でられてドキッとした。頬にかかっていた髪の毛を払ってくれたのだとわかっていても高鳴る鼓動を抑えることができない。惚けたように見ていると将軍の顔が近づいてきた。
「あの、」
「そのままで」
囁く将軍の吐息が鼻先に触れた。思わず息を呑むと、口元を緩めた将軍の吐息が今度は唇を撫でる。そうかと思えば熱いものが触れて思わず目の前の肩を掴んでいた。
「将軍、」
「しぃっ」
戸惑っている間に再び口づけられた。自分はまた淫らな夢を見ているのだろうか。ところが唇を熱く柔らかいものに擦られて体の中心を甘く鋭いものが駆け抜けた。
背中がびくんと震え、思わず縋りつくように逞しい腕を掴んだ。それでも震えてしまう体に慌てて力を入れるが、将軍を掴む手はカタカタと震えている。
「わたしが恐ろしいですか?」
「そ、んなことは、」
「では緊張していらっしゃるのか」
「……こうしたことは初めてで」
将軍が「んん」と咳払いした。「わたしを試しておいでか」とつぶやく声は聞こえたが、答える前に唇を塞がれて何も言えなくなる。
どのくらい口づけていただろうか。唇は痺れ、掴んでいた手にもうまく力が入らない。ぼんやりしていると将軍が前髪をかき上げるように額に触れた。ゴツゴツした手の感触に背中がゾクッと震える。
「正式に婚姻を結ぶまではと思っていましたが、その決意も殿下の前では呆気なく崩れ去ってしまいました。辛抱のない男だとどうぞ笑ってください」
眉尻を下げた表情に胸が熱くなった。将軍が自分に興奮しているのだとわかり、体中が疼いてどうしようもなくなる。
「それはわたしも同じです」
正直にそう答えると将軍が困ったように笑った。
「御身に触れること、許していただけますか?」
低く艶やかな、それでいて熱っぽい声に心が震える。
「この身でよければ……」
最後まで告げることはできなかった。続きは将軍の口の中に呑み込まれ、代わりに口づける濡れた音が響く。
気がつけば上着をはだけられていた。昼日中からと恥ずかしく思ったのも最初だけで、胸のあたりに口づけられて将軍のことしか考えられなくなる。素肌に感じる唇の感触にどうしようもなく興奮した。初めてだとは思えないほど感じてしまう自分が恥ずかしくなるが、腰が揺れるのを止めることができない。
「んんっ」
胸の尖りに噛みつかれてあやうく悲鳴を上げそうになった。慌てて手の甲で口を押さえて声を噛み殺す。
「声を抑える必要はありません。ここには殿下とわたししかいないのですから」
そう言われても恥ずかしいものは恥ずかしい。それに声を出してしまっては、きっともう止められなくなる。夢の中の自分よりもっと淫らな姿をさらけ出してしまうに違いない。
「そう頑なにされると、かえって鳴かせたくなるものです」
「ひぁっ!」
下穿きの中に入り込んできた手の感触に声を押し殺すことができなかった。そんな場所を他人に触れられたのは初めてで、あまりの衝撃に目尻がじわりと濡れる。
慌てて将軍の手を掴んだ。ところが自分よりずっと力の強い手を止めることはできない。すぐにグチュグチュと淫らな音が聞こえてきて頭が真っ白になった。自分でするのとは違う、夢で見たのとも違う強烈な快感に腰がガクガクと震え出す。
「だめ、だ……っ、はなし、て……。っ、ねがっ、はな、して……っ」
これ以上されたら粗相をしてしまう。早く止めなくては。わかっているのにあまりの気持ちよさに将軍の腕を邪魔することができなかった。
グチュグチュといやらしい音を聞かせるように将軍の手がますます激しく動く。それに応えるように腰が淫らに動き始めた。せり上がってくる衝動は感じたことがないくらい強く深いもので、気がつけば熱を吐き出したいということで頭がいっぱいになる。
「もぅ、……っ、出て、で、てしまう、から……っ」
「違いますよ。こういうときは“いく”というのです」
耳元で囁くようにそう告げられ、背中がビクンと大きくしなった。耳や頬に触れる将軍の吐息は熱く、それだけ自分に興奮してくれているのかと思うとたまらない気持ちになる。
「どうか我慢せず、わたしの手を感じて」
「あぁっ! も、い……っ、いっ、く……っ」
爪先にギュッと力が入った。両手で何かを目一杯掴んだもののそれが何かわからない。全身がビクビクと震え、そうかと思えばピンと背筋が伸びた。
ドクン!
強烈な感覚に目の前が真っ白になった。下腹がビクビクと震えているのがわかる。これでもかと膨らんだものがパチンと弾け、下半身から鋭く甘い感覚が背中を駆け上がった。
「あ……ぁ……」
吐精の気持ちよさに涙が滲んだ。こんなにも激しく深い快感は初めてで、自分が今どうなっているのかさえわからない。
「今後一切、何人たりともあなたに触れさせたりはしません。この体にも、その心にも」
将軍が何か言っている。声は聞こえるのに意味を理解することができない。そのまま闇に落ちるように意識が薄れていくのを感じた。
「殿下は今回の戦争に思うところがあるのではありませんか?」
将軍の問いかけにハッとした。思わず視線を逸らしかけたものの、将軍は自分が従軍した背景も、ままならなかった気持ちにもおそらく気づいている。
(今さら隠す必要はない)
なにより将軍に隠し事はしたくなかった。そう思い、気持ちを打ち明けることにした。
「自分の立場なら……“女神の愛し子”なら戦争を止めることができたのではと、そう何度も考えました。望んで愛し子と呼ばれるようになったわけではありませんが、何もできなかった自分を許すことはできません。わたしだけ逃げ出すことなどできるはずがない」
流され続けた結果の立場だったとしても自分はそれを受け入れた。それなのに今さら投げ出すことなどできるはずがない。
「殿下らしいお考えだと思います。だからこそ身を削ってでも祖国のために尽くされようとする。そうすべきだと考えていらっしゃる。殿下のお立場は理解していますが、これから先メレキアのことに日々心を砕かれる姿を間近で見続けるのかと思うと、忌々しくて仕方がないのですよ」
「……メレキアを思うことが不愉快だと、そういうことですか?」
「あっはははは! 殿下、ずばり言い過ぎですって」
エルドが腹を抱えるように笑い出した。
「ディオは何もメレキアを大事にするなと言っているんじゃありません。いいですか、殿下。ディエイガー・グレモンティという男は恋愛に関してはとくに心が狭いんです。そのうえ巨漢で顔はいかつく、笑顔は寿命を縮ませるほどの恐怖を与えるだけでなく嫉妬深くもある。ついでに体に見合った精力の持ち主なんで、殿下のお体がこの先耐えられるか今から心配でなりません」
「半分以上わたしの悪口に聞こえたのは気のせいか?」
「あはは、やだなぁ」
「余計なことしか言わないのなら出て行け。そもそも仕事でもないのに同席する必要はないだろう」
「はいはい。まったく、まだ正式な伴侶になってないっていうのに心の狭い旦那様は困りものですねぇ。ま、戦神と言われるような男でも嫉妬するってことですよ」
にやりと笑ったエルドは、いつもどおり右手をヒラヒラと振りながら部屋を出て行った。途端に部屋が静かになる。
「エルドの話は気にされませんように」
そう言われても気にならないわけがなかった。最後の「嫉妬する」という言葉が頭をぐるりと巡り、そわそわと落ち着かない気持ちになる。
「そんな男なのかと幻滅されましたか?」
「いいえ! そんなこと思うはずがありません。そうではなくて……少し驚いたと言いますか……」
まさか祖国に嫉妬するほど想われているとは想像すらしていなかった。想いは交わしたものの自分のほうが強く将軍を求めているに違いない。それでもいいと思っていた。ところが将軍も強く自分を想ってくれていたのだとわかり、体の芯をゾクゾクとしたものが駆け上がってくる。同時に後ろめたい気持ちにもなった。
(わたしばかりが浮かれていていいのか? 今はメレキアのことを考えなくてはいけないときだというのに、わたしは……)
祖国のために身を尽くしたいと口にしたのはついさっきだ。それなのに色恋に気持ちが傾く自分が情けなくなる。
「殿下はわたしのことを目標にしているとおっしゃいましたが、中身はただの男でしかありません。愛しい人に溺れ、国のためだと言いながら殿下のことを第一に考えるような情けない男なのです」
「そんなことはありません! それを言うならわたしのほうこそ……今も祖国のためと言いながら胸の内では……」
情けなくて言えなかった。「何をお考えですか?」と尋ねられても答えることを渋ってしまう。
「意地の悪いことを申しました。殿下を悩ませたいわけではありません。どうかお許しを」
「……いえ……自分の情けなさに言葉も出ません」
「祖国よりわたしを想ってくださることが情けないと?」
「そうではなくて、」
「殿下にそこまで想っていただけること、わたしは心から嬉しく思っています。このような状況で不謹慎とは思いますが」
将軍が立ち上がった。そのまま傍らに来ると床に片膝をついてこちらを見上げる。
「殿下に想われていることに喜びを覚え、困らせるとわかっていて殿下のお気持ちを伺いたいと意地の悪いことを口にしてしまいました。年甲斐もなく興奮しているせいでしょうか」
将軍の手が膝に置いていた右手を掴んだ。そうかと思えばうやうやしく手の甲に口づける。まるで姫君のように扱われるのは不快でしかないはずなのに、相手が将軍だと思うとどうしようもなく気持ちが昂ぶった。
「殿下をお守りするために伴侶にと考えたのは本当です。ですが、それだけで伴侶にと口にしたのではありません」
自分をじっと見つめるはしばみ色の目から視線が外せない。トクントクンと鼓動が速まり、将軍に握られたままの手が熱くてどうしようもなくなる。
「殿下のすべてをこの手にしたい、そうした下衆な思いもありました」
「この手にしたい」と言いながら将軍の手に力が入るのを感じた。それだけで耳がカッとなり、こめかみまでドクドクとうるさくなる。最後に見た淫らな夢の中と同じ興奮が体を駆け巡り腰が疼いた。
駄目だとわかっているのにあふれる感情を止めることができなかった。自分も同じだと言いかけ、すんでのところで思い留まる。自分にはメレキアのために尽くさなくてはいけない役目がある。それなのにすべてを忘れて将軍に縋りついてもいいのだろうか。
(恋い慕うどころか将軍を想う気持ち以外のすべてを捨ててもいいとさえ思ってしまう。そんなことは許されない)
わかっていても胸に渦巻く気持ちを抑えることができない。自分も将軍と同じ気持ちなのだと伝えたくてほんの少し唇を開き、それでもためらう気持ちが消えず再び閉じる。
「誘っておいでですか?」
「え?」
「殿下のそうした表情に抗えるものはこの世におりますまい」
「あの、……っ」
トンと肩を押されて驚いた。背中からソファに倒れてしまい、すぐに起き上がろうとしたものの体を覆うように将軍にのし掛かられて身動きが取れなくなる。
「わたしも生身の男です。愛しい相手を前に欲望を隠すのは難しい」
「それは、」
「清廉な神官である殿下には想像もつかないことでしょうが」
清廉という言葉に顔がカッと熱くなった。将軍を思い浮かべながら何度も自慰をしたことを思い出し居たたまれない気持ちになる。
「わたしは清廉なんかじゃありません。これまで何度も……その、汚れた目で将軍を見ていたのですから……」
「それはわたしに欲情したことがあるということですか?」
欲情という言葉に目眩がした。淫らすぎる夢のことを思い出して将軍の顔を見ることができない。
「あぁ、その表情はよくありません」
聞いたことがない声色に視線を戻した。初めて見る表情にドクンと鼓動が跳ねる。自分を見下ろす将軍の前髪が一房はらりと額に落ちてきたのがやけに色っぽい。ますます激しくなる鼓動にどうしていいのかわからなくなってきた。
「殿下は清廉ではないとおっしゃいましたが、決してそのようなことはありません。陥れられても相手を悼むことができる殿下は、やはりわたしから見れば清廉でいらっしゃる」
「……ただの偽善です」
「そう口にできる強さもお持ちだ」
頬を撫でられてドキッとした。頬にかかっていた髪の毛を払ってくれたのだとわかっていても高鳴る鼓動を抑えることができない。惚けたように見ていると将軍の顔が近づいてきた。
「あの、」
「そのままで」
囁く将軍の吐息が鼻先に触れた。思わず息を呑むと、口元を緩めた将軍の吐息が今度は唇を撫でる。そうかと思えば熱いものが触れて思わず目の前の肩を掴んでいた。
「将軍、」
「しぃっ」
戸惑っている間に再び口づけられた。自分はまた淫らな夢を見ているのだろうか。ところが唇を熱く柔らかいものに擦られて体の中心を甘く鋭いものが駆け抜けた。
背中がびくんと震え、思わず縋りつくように逞しい腕を掴んだ。それでも震えてしまう体に慌てて力を入れるが、将軍を掴む手はカタカタと震えている。
「わたしが恐ろしいですか?」
「そ、んなことは、」
「では緊張していらっしゃるのか」
「……こうしたことは初めてで」
将軍が「んん」と咳払いした。「わたしを試しておいでか」とつぶやく声は聞こえたが、答える前に唇を塞がれて何も言えなくなる。
どのくらい口づけていただろうか。唇は痺れ、掴んでいた手にもうまく力が入らない。ぼんやりしていると将軍が前髪をかき上げるように額に触れた。ゴツゴツした手の感触に背中がゾクッと震える。
「正式に婚姻を結ぶまではと思っていましたが、その決意も殿下の前では呆気なく崩れ去ってしまいました。辛抱のない男だとどうぞ笑ってください」
眉尻を下げた表情に胸が熱くなった。将軍が自分に興奮しているのだとわかり、体中が疼いてどうしようもなくなる。
「それはわたしも同じです」
正直にそう答えると将軍が困ったように笑った。
「御身に触れること、許していただけますか?」
低く艶やかな、それでいて熱っぽい声に心が震える。
「この身でよければ……」
最後まで告げることはできなかった。続きは将軍の口の中に呑み込まれ、代わりに口づける濡れた音が響く。
気がつけば上着をはだけられていた。昼日中からと恥ずかしく思ったのも最初だけで、胸のあたりに口づけられて将軍のことしか考えられなくなる。素肌に感じる唇の感触にどうしようもなく興奮した。初めてだとは思えないほど感じてしまう自分が恥ずかしくなるが、腰が揺れるのを止めることができない。
「んんっ」
胸の尖りに噛みつかれてあやうく悲鳴を上げそうになった。慌てて手の甲で口を押さえて声を噛み殺す。
「声を抑える必要はありません。ここには殿下とわたししかいないのですから」
そう言われても恥ずかしいものは恥ずかしい。それに声を出してしまっては、きっともう止められなくなる。夢の中の自分よりもっと淫らな姿をさらけ出してしまうに違いない。
「そう頑なにされると、かえって鳴かせたくなるものです」
「ひぁっ!」
下穿きの中に入り込んできた手の感触に声を押し殺すことができなかった。そんな場所を他人に触れられたのは初めてで、あまりの衝撃に目尻がじわりと濡れる。
慌てて将軍の手を掴んだ。ところが自分よりずっと力の強い手を止めることはできない。すぐにグチュグチュと淫らな音が聞こえてきて頭が真っ白になった。自分でするのとは違う、夢で見たのとも違う強烈な快感に腰がガクガクと震え出す。
「だめ、だ……っ、はなし、て……。っ、ねがっ、はな、して……っ」
これ以上されたら粗相をしてしまう。早く止めなくては。わかっているのにあまりの気持ちよさに将軍の腕を邪魔することができなかった。
グチュグチュといやらしい音を聞かせるように将軍の手がますます激しく動く。それに応えるように腰が淫らに動き始めた。せり上がってくる衝動は感じたことがないくらい強く深いもので、気がつけば熱を吐き出したいということで頭がいっぱいになる。
「もぅ、……っ、出て、で、てしまう、から……っ」
「違いますよ。こういうときは“いく”というのです」
耳元で囁くようにそう告げられ、背中がビクンと大きくしなった。耳や頬に触れる将軍の吐息は熱く、それだけ自分に興奮してくれているのかと思うとたまらない気持ちになる。
「どうか我慢せず、わたしの手を感じて」
「あぁっ! も、い……っ、いっ、く……っ」
爪先にギュッと力が入った。両手で何かを目一杯掴んだもののそれが何かわからない。全身がビクビクと震え、そうかと思えばピンと背筋が伸びた。
ドクン!
強烈な感覚に目の前が真っ白になった。下腹がビクビクと震えているのがわかる。これでもかと膨らんだものがパチンと弾け、下半身から鋭く甘い感覚が背中を駆け上がった。
「あ……ぁ……」
吐精の気持ちよさに涙が滲んだ。こんなにも激しく深い快感は初めてで、自分が今どうなっているのかさえわからない。
「今後一切、何人たりともあなたに触れさせたりはしません。この体にも、その心にも」
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カクヨムに書き溜め。
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