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番外編 愛称
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「ところで殿下、いつまでディオのことを“将軍”って呼ぶおつもりです?」
エルドの言葉に「えっ?」と顔を上げた。
「殿下とディオは伴侶なんですし、公爵夫人がいつまでも旦那様のことを役職名で呼ぶのはどうかと思いまして」
指摘されて初めて「そうか」と思った。将軍が自分のことを「殿下」と呼ぶのは元王族だからで、王族と貴族の婚姻では珍しくない。だが、自分が将軍のことを役職名で呼ぶのはたしかに不自然だ。
(とはいえ「旦那様」というのもな。だからといっていきなり名前で呼ぶのも気が引ける)
エルドは昔からの癖だからと言って今でも将軍のことを「ディオ」と呼ぶ。さすがに公の場では「ディエイガー将軍」と呼ぶらしいが、初めて顔を合わせたときから「ディオ」と呼ぶ姿を見てきたからか畏まった呼び方をするほうが違和感があった。
自分も名前で呼べるだろうかと想像してみた。胸の内では「ディエイガー将軍」と呼ぶこともあるが、いざ本人を目の前にするとやはり「将軍」とだけ呼ぶだろう。
「昔から“将軍”と心の中で呼びかけていたから、つい」
「初めてディオを見たのは五歳のときでしたっけ?」
「あぁ。だが名前を知ったのはもっと後になってからだ。そのときはすでに将軍になっていて、そこからずっと“将軍”だな」
「俺の“ディオ”と似たような感じってことですか」
「俺がどうかしたのか?」
そう言いながら扉を開けたのは将軍だった。帰ってきた直後だからかきっちりした軍服姿のままで、それがまたよく似合っているせいで思わず見惚れてしまう。
「先に一杯やってますよ、将軍閣下」
「なぜわたしの副官であるおまえが上官より先に帰っているのか知りたいんだがな。しかも上官の屋敷にいるのはどういうことだ?」
「そんな固いことを言うなって。ほら、おまえさんもさっさと着替えてこいよ」
眉を跳ね上げる表情も気にならないのか、「ほら、行った行った」と追い出すように手を動かした。普段も気さくな態度だが、酒が入っているからかいつも以上に砕けた様子になっている。
エルドは将軍の六歳年下で三十二歳だと聞いた。生まれた頃からの幼馴染みだというエルドはマルガレートとも仲がよいらしく、「実の妹、いや弟みたいなものですかね」と笑いながらエメウスとのことを喜んでいた。
(なんとも羨ましい関係だな)
六歳になる前に神殿に入れられた自分にそうした存在はいなかった。しいていうなら従兄のエメウスがそれに近いが、メレキア王として祖国に戻れば気軽に会うことはできなくなる。
そう考えると寂しくなるが、こうしてエルドと話していると自分も仲間に入れてもらえたような気がして心が弾んだ。さすがに幼馴染みとまではいかないが、友とは違う、かといって部下とも違うなんとも不思議な感覚になる。
「で、先ほどの話ですけどね」
どうやら「将軍」という呼び方がよほど気になっているらしい。酒の入ったグラスをグイッと空けてからこちらを見た。
「俺としては“旦那様”がお勧めなんですけど、どうですかね?」
「さすがにそれは……」
自分が口にするのははばかられる。それに呼ばれる側もどう思うだろうか。
「えぇ~。興奮すると思うんだけどなぁ」
「興奮……?」
「間違いなく興奮しますって。伴侶とはいえ身分は殿下のほうがずっと上。そんな相手に“旦那様”なんて呼ばれるのは倒錯的というかなんというか……それに女神様にそんなふうに呼ばれちゃあディオもイチコロです」
「そう思っているのはエルドだけでは?」
「いえいえ、ディオもただの男。伴侶に思う存分惑わされている姿を見たい、もとい、鼻の下もグーンと伸びるってもんです」
「適当なことを言うな」
着替えて戻って来た将軍がエルドの座るソファの後ろを通り過ぎた。振り返りながら「いやいや、絶対に伸びるだろ」とエルドがなおも口にする。
「あっ! それじゃあ“ディオ”はどうです? そう呼ぶのはもはや俺くらいですし、大陸一の武人に気安く愛称で呼びかける人間はそうそういませんからね。マギーもディオって呼ぶことがありましたけど、メレキアに行っちゃいますからねぇ」
美しいマルガレートの強気な微笑みを思い出した。将軍が「マギー」と呼び、マルガレートも「ディオ」と呼ぶ姿を想像する。仲がよい兄妹ならそうした呼び方もするのだろうが、ほんの少しだけ胸がズキッと痛むような気がした。
(これは……嫉妬、だろうか)
妹に嫉妬してどうする。すぐに呆れたものの、愛称という特別な呼び方ができるマルガレートのことが正直羨ましくなる。それに小さい頃から将軍のことを間近で見ることができた。剣の鍛錬も見てもらっていただろう。
(わたしもずっと憧れていたのに……)
やはり少し妬ましい。そういう意味ではいまだに愛称で呼び、上官と部下という特別な絆で結ばれているエルドのことも羨ましかった。
「おっと、呼んでみたいって顔してますね?」
「……いや……」
「せっかくなんで、ちょっと練習してみましょうよ」
「だが、」
「さぁさぁ」
隣に座った将軍をちろっと見た。会話が気にならないのか、こちらを見ることなくグラスに酒を注いでいる。もしかして自分に愛称で呼ばれることにも興味がないのだろうか。
(意識しているのはわたしだけか)
なぜか少しだけ寂しく感じた。同時に、もし今ここで「ディオ」と呼んだらどんな反応をするのか見てみたくなる。
(まぁ、酒の席だし)
エルドに誘われてそれなりの量を飲んでいる。将軍もきっと酔っ払いのたわごとだと気にしないだろう。「それなら……」と口を開いた。一瞬声が詰まったのは思ったより緊張したからで、一度口を閉じ、唾を飲み込んでからもう一度開いた。
「ディオ」
声が掠れてしまった。「んんっ」と咳払いをしてから再び「ディオ」と口にする。
(なんだかくすぐったいな)
それに思ったより心地いい。愛しい人の特別な呼び方だと思うと心が弾むような気さえした。そういえばこれまで自分が誰かを愛称で呼んだことがないことに気がついた。それを悲しいと思ったことはなかったが、こうして愛称で呼ぶと感慨深い気持ちになる。
「あっははははは!」
急にエルドが笑いだして驚いた。もしかして自分を笑ったのだろうか。そう思ったのが表情に出ていたのか、「違いますって」と否定してからまたエルドが笑った。
「本っ当にわかりやすいなぁ。ディオ、おまえさん今めちゃくちゃ喜んでるだろ」
「えっ?」
驚いて隣を見た。だが将軍はいつもどおりの表情でグラスを傾けている。多少表情が柔らかく見えなくもないが“めちゃくちゃ”というほど喜んでいるようには見えなかった。
「殿下もそのうちこいつの気持ちが手に取るようにわかるようになりますって。いかつい顔のうえに面の皮も厚いですが、案外わかりやすいのがこの男のいいところです」
「そう、ですか……?」
こうして近くで見ることは多いが、いまだに将軍の機微を正確に読み取ることは難しい。目を細めたり口角を上げたりといった変化があればわかるものの、今のようにすました表情のときはとくにわからなかった。
(手合わせのときのほうがまだわかるかもしれない)
いや、あれは表情ではなく纏っている気配から感じているからだ。顔を見ただけでは次にどう動くか判断するのは難しい。
(表情だけで読み取れるようになるのだろうか)
不意にギラギラしたはしばみ色の目を思い出した。ベッドでの将軍は昼間と違い雄弁なほどよくわかる。手を見なくてもどう動くのが、次にどこに触れてくれるのか、それどころかもうすぐ体の奥で果てるのだろうということまでわかった。
「殿下、そういう顔はディオ以外に見せないでくださいよ」
「!」
エルドの指摘に慌てて顔を逸らした。酒が入っているからか具体的な状況まで思い出してしまい、居たたまれない気持ちになる。
「はいはい、旦那様もそうやって嫉妬しない。今のはおまえさんのことを考えていた結果だろうし、旦那様としては最高のご褒美だろうが」
「おまえは酒が入っていても口が達者だな」
「上官が口下手ですからね」
「言ってろ」
空になった将軍のグラスにエルドが酒を注いだ。そうかと思えば将軍もエルドのグラスに酒を注いでいる。口ではあれこれ言い合うが気心が知れた仲ということなのだろう。そうした様子を見せられると、やはりほんの少し焼いてしまう。
「殿下、その気持ちのままディオって呼ぶといいですよ」
「それは……」
「あぁ、今じゃありません。ベッドの中で呼ぶんです。親密な空間で呼んでいるうちに自然とディオと呼べるようになりますよ」
エルドの言葉に今度こそ顔が真っ赤になったに違いない。ところがエルドはそっぽを向いた状態で、代わりに将軍が目を細めてこちらを見ていた。
(い、居たたまれない)
もしかして将軍も酔っているのだろうか。以前エルドが「こいつが酒で酔ったところなんて見たことないですよ」と言っていたが、ひたすらじっと自分を見つめる様子は酔っているようにしか見えなかった。
その後、訓練で起きた出来事や将軍の笑顔で魔獣が失神したという話、大剣イオニータで仕留めた巨獣の話題などで大いに盛り上がった。そうして心地よくなったまま寝室に入ったからか、エルドに言われたことを実行しなくてはと思ってしまった。気がつけば「ディオ」と言いながら首に両手を回していた。
「酔っておいでですか?」
「ふふっ、どうでしょう」
「ご機嫌なのはよろしいかと思いますが」
「では、もっと機嫌がよくなるようにしてください」
相当酔っていたいに違いない。その後、普段なら口にしないようなことをあれこれ言わされ、ためらいもなく口にしてしまった。そのたびに焦れったさに体を昂ぶらせては「ディオ」と愛称を口にする羽目になった。
(将軍は段々と意地が悪くなってきた)
朝、目が覚めてぼんやりした頭でそう思った、将軍はすでに起きているようで傍らは空いている。すでに冷たくなったベッドに指を這わせながら、「意地悪くされるのも悪くないな」と思っている自分にサッと顔が熱くなった。
エルドの言葉に「えっ?」と顔を上げた。
「殿下とディオは伴侶なんですし、公爵夫人がいつまでも旦那様のことを役職名で呼ぶのはどうかと思いまして」
指摘されて初めて「そうか」と思った。将軍が自分のことを「殿下」と呼ぶのは元王族だからで、王族と貴族の婚姻では珍しくない。だが、自分が将軍のことを役職名で呼ぶのはたしかに不自然だ。
(とはいえ「旦那様」というのもな。だからといっていきなり名前で呼ぶのも気が引ける)
エルドは昔からの癖だからと言って今でも将軍のことを「ディオ」と呼ぶ。さすがに公の場では「ディエイガー将軍」と呼ぶらしいが、初めて顔を合わせたときから「ディオ」と呼ぶ姿を見てきたからか畏まった呼び方をするほうが違和感があった。
自分も名前で呼べるだろうかと想像してみた。胸の内では「ディエイガー将軍」と呼ぶこともあるが、いざ本人を目の前にするとやはり「将軍」とだけ呼ぶだろう。
「昔から“将軍”と心の中で呼びかけていたから、つい」
「初めてディオを見たのは五歳のときでしたっけ?」
「あぁ。だが名前を知ったのはもっと後になってからだ。そのときはすでに将軍になっていて、そこからずっと“将軍”だな」
「俺の“ディオ”と似たような感じってことですか」
「俺がどうかしたのか?」
そう言いながら扉を開けたのは将軍だった。帰ってきた直後だからかきっちりした軍服姿のままで、それがまたよく似合っているせいで思わず見惚れてしまう。
「先に一杯やってますよ、将軍閣下」
「なぜわたしの副官であるおまえが上官より先に帰っているのか知りたいんだがな。しかも上官の屋敷にいるのはどういうことだ?」
「そんな固いことを言うなって。ほら、おまえさんもさっさと着替えてこいよ」
眉を跳ね上げる表情も気にならないのか、「ほら、行った行った」と追い出すように手を動かした。普段も気さくな態度だが、酒が入っているからかいつも以上に砕けた様子になっている。
エルドは将軍の六歳年下で三十二歳だと聞いた。生まれた頃からの幼馴染みだというエルドはマルガレートとも仲がよいらしく、「実の妹、いや弟みたいなものですかね」と笑いながらエメウスとのことを喜んでいた。
(なんとも羨ましい関係だな)
六歳になる前に神殿に入れられた自分にそうした存在はいなかった。しいていうなら従兄のエメウスがそれに近いが、メレキア王として祖国に戻れば気軽に会うことはできなくなる。
そう考えると寂しくなるが、こうしてエルドと話していると自分も仲間に入れてもらえたような気がして心が弾んだ。さすがに幼馴染みとまではいかないが、友とは違う、かといって部下とも違うなんとも不思議な感覚になる。
「で、先ほどの話ですけどね」
どうやら「将軍」という呼び方がよほど気になっているらしい。酒の入ったグラスをグイッと空けてからこちらを見た。
「俺としては“旦那様”がお勧めなんですけど、どうですかね?」
「さすがにそれは……」
自分が口にするのははばかられる。それに呼ばれる側もどう思うだろうか。
「えぇ~。興奮すると思うんだけどなぁ」
「興奮……?」
「間違いなく興奮しますって。伴侶とはいえ身分は殿下のほうがずっと上。そんな相手に“旦那様”なんて呼ばれるのは倒錯的というかなんというか……それに女神様にそんなふうに呼ばれちゃあディオもイチコロです」
「そう思っているのはエルドだけでは?」
「いえいえ、ディオもただの男。伴侶に思う存分惑わされている姿を見たい、もとい、鼻の下もグーンと伸びるってもんです」
「適当なことを言うな」
着替えて戻って来た将軍がエルドの座るソファの後ろを通り過ぎた。振り返りながら「いやいや、絶対に伸びるだろ」とエルドがなおも口にする。
「あっ! それじゃあ“ディオ”はどうです? そう呼ぶのはもはや俺くらいですし、大陸一の武人に気安く愛称で呼びかける人間はそうそういませんからね。マギーもディオって呼ぶことがありましたけど、メレキアに行っちゃいますからねぇ」
美しいマルガレートの強気な微笑みを思い出した。将軍が「マギー」と呼び、マルガレートも「ディオ」と呼ぶ姿を想像する。仲がよい兄妹ならそうした呼び方もするのだろうが、ほんの少しだけ胸がズキッと痛むような気がした。
(これは……嫉妬、だろうか)
妹に嫉妬してどうする。すぐに呆れたものの、愛称という特別な呼び方ができるマルガレートのことが正直羨ましくなる。それに小さい頃から将軍のことを間近で見ることができた。剣の鍛錬も見てもらっていただろう。
(わたしもずっと憧れていたのに……)
やはり少し妬ましい。そういう意味ではいまだに愛称で呼び、上官と部下という特別な絆で結ばれているエルドのことも羨ましかった。
「おっと、呼んでみたいって顔してますね?」
「……いや……」
「せっかくなんで、ちょっと練習してみましょうよ」
「だが、」
「さぁさぁ」
隣に座った将軍をちろっと見た。会話が気にならないのか、こちらを見ることなくグラスに酒を注いでいる。もしかして自分に愛称で呼ばれることにも興味がないのだろうか。
(意識しているのはわたしだけか)
なぜか少しだけ寂しく感じた。同時に、もし今ここで「ディオ」と呼んだらどんな反応をするのか見てみたくなる。
(まぁ、酒の席だし)
エルドに誘われてそれなりの量を飲んでいる。将軍もきっと酔っ払いのたわごとだと気にしないだろう。「それなら……」と口を開いた。一瞬声が詰まったのは思ったより緊張したからで、一度口を閉じ、唾を飲み込んでからもう一度開いた。
「ディオ」
声が掠れてしまった。「んんっ」と咳払いをしてから再び「ディオ」と口にする。
(なんだかくすぐったいな)
それに思ったより心地いい。愛しい人の特別な呼び方だと思うと心が弾むような気さえした。そういえばこれまで自分が誰かを愛称で呼んだことがないことに気がついた。それを悲しいと思ったことはなかったが、こうして愛称で呼ぶと感慨深い気持ちになる。
「あっははははは!」
急にエルドが笑いだして驚いた。もしかして自分を笑ったのだろうか。そう思ったのが表情に出ていたのか、「違いますって」と否定してからまたエルドが笑った。
「本っ当にわかりやすいなぁ。ディオ、おまえさん今めちゃくちゃ喜んでるだろ」
「えっ?」
驚いて隣を見た。だが将軍はいつもどおりの表情でグラスを傾けている。多少表情が柔らかく見えなくもないが“めちゃくちゃ”というほど喜んでいるようには見えなかった。
「殿下もそのうちこいつの気持ちが手に取るようにわかるようになりますって。いかつい顔のうえに面の皮も厚いですが、案外わかりやすいのがこの男のいいところです」
「そう、ですか……?」
こうして近くで見ることは多いが、いまだに将軍の機微を正確に読み取ることは難しい。目を細めたり口角を上げたりといった変化があればわかるものの、今のようにすました表情のときはとくにわからなかった。
(手合わせのときのほうがまだわかるかもしれない)
いや、あれは表情ではなく纏っている気配から感じているからだ。顔を見ただけでは次にどう動くか判断するのは難しい。
(表情だけで読み取れるようになるのだろうか)
不意にギラギラしたはしばみ色の目を思い出した。ベッドでの将軍は昼間と違い雄弁なほどよくわかる。手を見なくてもどう動くのが、次にどこに触れてくれるのか、それどころかもうすぐ体の奥で果てるのだろうということまでわかった。
「殿下、そういう顔はディオ以外に見せないでくださいよ」
「!」
エルドの指摘に慌てて顔を逸らした。酒が入っているからか具体的な状況まで思い出してしまい、居たたまれない気持ちになる。
「はいはい、旦那様もそうやって嫉妬しない。今のはおまえさんのことを考えていた結果だろうし、旦那様としては最高のご褒美だろうが」
「おまえは酒が入っていても口が達者だな」
「上官が口下手ですからね」
「言ってろ」
空になった将軍のグラスにエルドが酒を注いだ。そうかと思えば将軍もエルドのグラスに酒を注いでいる。口ではあれこれ言い合うが気心が知れた仲ということなのだろう。そうした様子を見せられると、やはりほんの少し焼いてしまう。
「殿下、その気持ちのままディオって呼ぶといいですよ」
「それは……」
「あぁ、今じゃありません。ベッドの中で呼ぶんです。親密な空間で呼んでいるうちに自然とディオと呼べるようになりますよ」
エルドの言葉に今度こそ顔が真っ赤になったに違いない。ところがエルドはそっぽを向いた状態で、代わりに将軍が目を細めてこちらを見ていた。
(い、居たたまれない)
もしかして将軍も酔っているのだろうか。以前エルドが「こいつが酒で酔ったところなんて見たことないですよ」と言っていたが、ひたすらじっと自分を見つめる様子は酔っているようにしか見えなかった。
その後、訓練で起きた出来事や将軍の笑顔で魔獣が失神したという話、大剣イオニータで仕留めた巨獣の話題などで大いに盛り上がった。そうして心地よくなったまま寝室に入ったからか、エルドに言われたことを実行しなくてはと思ってしまった。気がつけば「ディオ」と言いながら首に両手を回していた。
「酔っておいでですか?」
「ふふっ、どうでしょう」
「ご機嫌なのはよろしいかと思いますが」
「では、もっと機嫌がよくなるようにしてください」
相当酔っていたいに違いない。その後、普段なら口にしないようなことをあれこれ言わされ、ためらいもなく口にしてしまった。そのたびに焦れったさに体を昂ぶらせては「ディオ」と愛称を口にする羽目になった。
(将軍は段々と意地が悪くなってきた)
朝、目が覚めてぼんやりした頭でそう思った、将軍はすでに起きているようで傍らは空いている。すでに冷たくなったベッドに指を這わせながら、「意地悪くされるのも悪くないな」と思っている自分にサッと顔が熱くなった。
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