30 / 30
30.私たちのこれから
しおりを挟む
――昼食を食べての午後。
「真っ白な雲! 青い海! 青い空! 最高ね、バロン様!」
しかもプライベートビーチ状態だ!
貸し切りにどれだけのお金を使っているのかは分からねーが……まぁ、ハネムーンだからな! 気にしないでおこう。
今日は体を休めようとも提案はされたものの、海を目の前にしてそれはない。やや遅めの午後にはなってしまったが、海を堪能しよう。
それに、前以上に距離も近くなった気がする。やはり体というものは距離を縮めるのに有効なんだろうか。
「海が好きなのか?」
「そうね。やっぱり特別感があるわ」
「……男の口調でも大丈夫だぞ」
「もうっ。さっき宣言したでしょう。女として生きるって決めたのよ。こっちの口調も自然になってきたし、もうあなたのお嫁さんだもの。これからはこっちでいくわ」
「そうか」
でも、ちょっとくらいは……。バロン王子の耳元に口を寄せて。
「徹底的に女をやってやんぜ!」
「ははっ」
これもまた、秘密の共有って感じでいいよな。
「この世界、浮き輪もあっていいわよねー。電気もあるし」
「……君がいたところでは、異世界は浮き輪も電気もないという印象なのか」
「うーん……」
異世界の定義が広すぎるな。
「貴族が絡む異世界はそんな印象ね」
「貴族が絡むって……よく分からないが、異世界の文明は自分の世界より落とすのが普通ってことか」
「いやー……、進んでる文明より劣っている文明のが想像しやすいのかな……そんなにファンタジー関係の本は読んでいないし……」
「なるほど。歴史上存在しない世界は想像しにくいものだろうしな」
「あっちに魔法はなかったけど」
「そこは想像できるのか。分からないな」
「もー。こんなに魅力的な女を目の前にして考えることじゃないわよ?」
「それはそうだ」
バロン王子の手が私の胸にペトッと……。
「あのー……、そんなキャラでした?」
「君がこの世界に来た時、まず真っ先に何をしようとした?」
「あー……」
「同じ男なら分かってくれますよねと君は言ったんだ。よく分かるよ。証明しよう。よく分かる」
「証明しなくて結構よ」
ま、男の浪漫か。
待てよ、これからすごい頻度で触られるんじゃ……。
ま、いいか。
「潮の香りが落ち着く……ずっとここに浮いていたい……」
「焼けて酷い目にあうぞ」
「魔法世界の日焼け止めを塗ったんだし、大丈夫よね」
「過信するな」
明日は痛かったらショッピングの日にするか……。
海の音が心地よすぎる。癒やされる。これからの王子の嫁としての責任とかぜーんぶ、今だけは忘れられる。
「贅沢な時間だな」
「ええ、そうね」
「君を独り占めできる」
「あー、ロダンとエーテルもあとで呼びますか」
「どうしてそうなるんだ! それからなんで丁寧語に戻っているんだ!」
「く……癖ね」
癖ってなかなかとれねーよな。これからも混在はしそうだ。
「僕は君と二人きりがいい。それは伝えておくからな。君が呼びたいなら好きにすればいいが……僕は四人になったところで触りたい時に触る」
あ。またバインバインと。
「全然王子らしくない……」
王道王子じゃねーのかよ。
「王子らしい王子がいいのか?」
「いいえ。女らしくない女の私にとっては、王子らしくない王子のが安心するわ」
「ならよかった」
らしいとからしくないとか。
そんなのはどうでもいーな。
大好きで側にいたい。
それは本物の気持ちだ。
ここは、どこなんだろうな。
あの夢はきっと現実だった。だからここがあの世であることは間違いないのだろう。
「バロン様との恋愛の物語は、妹の由真に言わせるとイマイチだったらしいんですよ」
「は?」
「私は、イマイチだったバロン様ルートを正すためにここにきたのかしら」
「……まったく意味が分からないけどさ」
だろうな。
「君の命は若くして途絶えてしまったんだろう? 十六歳で」
「……ええ」
「ここで、やりたかったことを全部やるといい。全部叶えるよ」
やりたかったこと……。
何もなかったな。まだ将来の夢すら抱いていなかった。
「乳のでけー女と付き合いたかったです」
「……自分がなれたな、おめでとう」
全然おめでたくねー。
いや、最終的にはおめでたいか。
「結婚は……してみたかったわ」
「ははっ。それならよかった。早く言ってくれればもっと早くしたのに」
これ以上早くは無理だろ。
「同棲もしてみたかったかも」
「よし。罠の部屋にちょくちょく泊まろう。寮の点呼は誤魔化せるから大丈夫だ。あそこにベッドも用意しよう。さすがにそこは学園には黙っておくか」
え……待て待て待て。
これから三年半もあるんだぞ、学園生活。ほんとに爛れた毎日が始まるんじゃねーか?
「断らないのか」
「迷っているところです」
「それならいいってことだな。決定事項としよう」
ま、卒業したらもう甘えてはいられない。この国を背負う人間の妻として、責任を果たさなければならない。少しくらいは……いいのかもしれない。
「……そんなに私が欲しいのかしら?」
「ああ。ロダンに夜這いを計画するなと言われたが、無理だな。堂々と罠の部屋で行おう。君の魅力に抗うことはできない」
「ほんとに王道王子じゃねーなー……」
「君もね。全然王道女の子ではない」
だから好きなんだという顔で笑い合う。
オレがワタシでワタシはオレで。
細かいことはどうでもいい。
ぜーんぶ取っ払っても、最後に残るのは一つだけだ。
「私、バロン様が大好きです」
「僕もだ、シルヴィア。大好きだよ。ずっと側にいる」
ここは乙女ゲー厶の世界だ。
誰かと強く結ばれたなら、きっと待っているのはベストエンドだけだ。
ゲームとは相手が違うけれど、幸せな今を大切にして、自分らしい未来をつくっていきたい。
好きな奴と一緒にな!
〈完〉
「真っ白な雲! 青い海! 青い空! 最高ね、バロン様!」
しかもプライベートビーチ状態だ!
貸し切りにどれだけのお金を使っているのかは分からねーが……まぁ、ハネムーンだからな! 気にしないでおこう。
今日は体を休めようとも提案はされたものの、海を目の前にしてそれはない。やや遅めの午後にはなってしまったが、海を堪能しよう。
それに、前以上に距離も近くなった気がする。やはり体というものは距離を縮めるのに有効なんだろうか。
「海が好きなのか?」
「そうね。やっぱり特別感があるわ」
「……男の口調でも大丈夫だぞ」
「もうっ。さっき宣言したでしょう。女として生きるって決めたのよ。こっちの口調も自然になってきたし、もうあなたのお嫁さんだもの。これからはこっちでいくわ」
「そうか」
でも、ちょっとくらいは……。バロン王子の耳元に口を寄せて。
「徹底的に女をやってやんぜ!」
「ははっ」
これもまた、秘密の共有って感じでいいよな。
「この世界、浮き輪もあっていいわよねー。電気もあるし」
「……君がいたところでは、異世界は浮き輪も電気もないという印象なのか」
「うーん……」
異世界の定義が広すぎるな。
「貴族が絡む異世界はそんな印象ね」
「貴族が絡むって……よく分からないが、異世界の文明は自分の世界より落とすのが普通ってことか」
「いやー……、進んでる文明より劣っている文明のが想像しやすいのかな……そんなにファンタジー関係の本は読んでいないし……」
「なるほど。歴史上存在しない世界は想像しにくいものだろうしな」
「あっちに魔法はなかったけど」
「そこは想像できるのか。分からないな」
「もー。こんなに魅力的な女を目の前にして考えることじゃないわよ?」
「それはそうだ」
バロン王子の手が私の胸にペトッと……。
「あのー……、そんなキャラでした?」
「君がこの世界に来た時、まず真っ先に何をしようとした?」
「あー……」
「同じ男なら分かってくれますよねと君は言ったんだ。よく分かるよ。証明しよう。よく分かる」
「証明しなくて結構よ」
ま、男の浪漫か。
待てよ、これからすごい頻度で触られるんじゃ……。
ま、いいか。
「潮の香りが落ち着く……ずっとここに浮いていたい……」
「焼けて酷い目にあうぞ」
「魔法世界の日焼け止めを塗ったんだし、大丈夫よね」
「過信するな」
明日は痛かったらショッピングの日にするか……。
海の音が心地よすぎる。癒やされる。これからの王子の嫁としての責任とかぜーんぶ、今だけは忘れられる。
「贅沢な時間だな」
「ええ、そうね」
「君を独り占めできる」
「あー、ロダンとエーテルもあとで呼びますか」
「どうしてそうなるんだ! それからなんで丁寧語に戻っているんだ!」
「く……癖ね」
癖ってなかなかとれねーよな。これからも混在はしそうだ。
「僕は君と二人きりがいい。それは伝えておくからな。君が呼びたいなら好きにすればいいが……僕は四人になったところで触りたい時に触る」
あ。またバインバインと。
「全然王子らしくない……」
王道王子じゃねーのかよ。
「王子らしい王子がいいのか?」
「いいえ。女らしくない女の私にとっては、王子らしくない王子のが安心するわ」
「ならよかった」
らしいとからしくないとか。
そんなのはどうでもいーな。
大好きで側にいたい。
それは本物の気持ちだ。
ここは、どこなんだろうな。
あの夢はきっと現実だった。だからここがあの世であることは間違いないのだろう。
「バロン様との恋愛の物語は、妹の由真に言わせるとイマイチだったらしいんですよ」
「は?」
「私は、イマイチだったバロン様ルートを正すためにここにきたのかしら」
「……まったく意味が分からないけどさ」
だろうな。
「君の命は若くして途絶えてしまったんだろう? 十六歳で」
「……ええ」
「ここで、やりたかったことを全部やるといい。全部叶えるよ」
やりたかったこと……。
何もなかったな。まだ将来の夢すら抱いていなかった。
「乳のでけー女と付き合いたかったです」
「……自分がなれたな、おめでとう」
全然おめでたくねー。
いや、最終的にはおめでたいか。
「結婚は……してみたかったわ」
「ははっ。それならよかった。早く言ってくれればもっと早くしたのに」
これ以上早くは無理だろ。
「同棲もしてみたかったかも」
「よし。罠の部屋にちょくちょく泊まろう。寮の点呼は誤魔化せるから大丈夫だ。あそこにベッドも用意しよう。さすがにそこは学園には黙っておくか」
え……待て待て待て。
これから三年半もあるんだぞ、学園生活。ほんとに爛れた毎日が始まるんじゃねーか?
「断らないのか」
「迷っているところです」
「それならいいってことだな。決定事項としよう」
ま、卒業したらもう甘えてはいられない。この国を背負う人間の妻として、責任を果たさなければならない。少しくらいは……いいのかもしれない。
「……そんなに私が欲しいのかしら?」
「ああ。ロダンに夜這いを計画するなと言われたが、無理だな。堂々と罠の部屋で行おう。君の魅力に抗うことはできない」
「ほんとに王道王子じゃねーなー……」
「君もね。全然王道女の子ではない」
だから好きなんだという顔で笑い合う。
オレがワタシでワタシはオレで。
細かいことはどうでもいい。
ぜーんぶ取っ払っても、最後に残るのは一つだけだ。
「私、バロン様が大好きです」
「僕もだ、シルヴィア。大好きだよ。ずっと側にいる」
ここは乙女ゲー厶の世界だ。
誰かと強く結ばれたなら、きっと待っているのはベストエンドだけだ。
ゲームとは相手が違うけれど、幸せな今を大切にして、自分らしい未来をつくっていきたい。
好きな奴と一緒にな!
〈完〉
37
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい
鍋
恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。
尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。
でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。
新米冒険者として日々奮闘中。
のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。
自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。
王太子はあげるから、私をほっといて~
(旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。
26話で完結
後日談も書いてます。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした
Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。
同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。
さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、
婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった……
とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。
それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、
婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく……
※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』
に出てくる主人公の友人の話です。
そちらを読んでいなくても問題ありません。
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
転生令嬢、シスコンになる ~お姉様を悪役令嬢になんかさせません!~
浅海 景
恋愛
物心ついた時から前世の記憶を持つ平民の子供、アネットは平凡な生活を送っていた。だが侯爵家に引き取られ母親違いの姉クロエと出会いアネットの人生は一変する。
(え、天使?!妖精?!もしかしてこの超絶美少女が私のお姉様に?!)
その容姿や雰囲気にクロエを「推し」認定したアネットは、クロエの冷たい態度も意に介さず推しへの好意を隠さない。やがてクロエの背景を知ったアネットは、悪役令嬢のような振る舞いのクロエを素敵な令嬢として育て上げようとアネットは心に誓う。
お姉様至上主義の転生令嬢、そんな妹に絆されたクーデレ完璧令嬢の成長物語。
恋愛要素は後半あたりから出てきます。
目指せ、婚約破棄!〜庭師モブ子は推しの悪役令嬢のためハーブで援護します〜
森 湖春
恋愛
島国ヴィヴァルディには存在しないはずのサクラを見た瞬間、ペリーウィンクルは気付いてしまった。
この世界は、前世の自分がどハマりしていた箱庭系乙女ゲームで、自分がただのモブ子だということに。
しかし、前世は社畜、今世は望み通りのまったりライフをエンジョイしていた彼女は、ただ神に感謝しただけだった。
ところが、ひょんなことから同じく前世社畜の転生者である悪役令嬢と知り合ってしまう。
転生して尚、まったりできないでいる彼女がかわいそうで、つい手を貸すことにしたけれど──。
保護者みたいな妖精に甘やかされつつ、庭師モブ子はハーブを駆使してお嬢様の婚約破棄を目指します!
※感想を頂けるとすごく喜びます。執筆の励みになりますので、気楽にどうぞ。
※『小説家になろう』様にて先行して公開しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる