【完結】死に戻りの悪役令嬢は拗らせ王子の護衛執事に溺愛される 〜ループの果てに〜

春風悠里

文字の大きさ
10 / 32

10.学園

しおりを挟む
 そうして、あっという間に学園への視察日となった。

 到着後は学園長と挨拶やらなんやらして、その後ミセル様は魔法使いオリバーと共に行動している。

 ……やっぱりあの魔法使い、知っていたわ。ゲームで見た。緑のボサボサ髪のオッサンに見えて実はイケメンでしたという、ありがちなパターンの臨時講師だ。

 正体は王室の魔法使い、か。

 やっぱり一度はクリアしておくべきだったわね。いえ、こんな世界に来るなんて思わないでしょう、普通。

「ここが占いの館ですよ」
「うわー」

 私たちは学園内の占いの館に来た。
 
「夜には裏の近衛部隊が情報交換をする場の一つとしても使われています。王宮と違って建物が狭いので侵入者を警戒しやすい。王立ですからね、ここ」
「そんな話、私なんかが聞いちゃっていいわけ」

 陛下と王妃の裏側の手駒がいるらしいと……それくらいしか分からない。
 
「どこから言って駄目なのかはミセル様に確認済みです」
「そう……」

 その建物の見た目は研究所といった感じなのに、なぜか「占いの館」という看板が立っていた。中に入るとまたもや占いの館と看板がかけられた部屋があり、その中はもう……言わずもがなだ。

 金に縁取られた紫のカーテン、飾られた水晶宮、なにもかもそれっぽい。しかし、一室だけなので普段は占いの館という看板自体外されているのかもしれない。

 タロット占いに関しては暗殺者ギルドに本が置いてあって覚えただけと言っていた。なんでそんなものをと聞いたら、隠れるところがない場所で待機する時に占い師を装うのも一つの手段としてはあるので気が向いた人は読めばとギルドマスターに勧められたらしい。結局読んだのは当時彼だけのようだ。

「では占い師用の服に着替えてきますね」
「ええ」

 今日は一緒に学園長に会ったので、互いに執事服とメイド服だ。でも――。

「戻りました」
「やっぱりそれなのね……」

 ゲームで見たことのある服装に変わった。攻略はしていないとはいえ、出会いイベントは当然発生する。ゲームのままだ。

 占い師なのか趣味の悪い執事なのか……ジャンジャラギラギラ派手なアクセサリーをつけている。

「それっぽいでしょう?」
「……本当にね」
「あなたにも、お一つどうぞ」
「え」
「夜空の色のペンデュラムです」

 ペンデュラム――、振り子だと言ってるにも関わらず、私の首に手を回して後ろで留めてくれた。ネックレスになっているのね、これ。

 初めて、アクセサリーをもらった……。

「あ、ありがとう」
「いえ。これで多少は助手に見えるでしょう。それでは時間を潰しましょうか。まだ授業中なので誰も来ませんよ」
 
 助手……。
 少しくらい、なんかさ。あればいいのに。贈り物をしたかったとかさ。なんて……無理か。そんなふうに見てくれてないわよね。

「気に入りませんでした?」
「……一生の宝物にするわ」
「ふっ。あなたの一生が長いことを祈りますよ」

 顔が熱い。
 侯爵家にいた時はたくさんアクセサリーをつけていたのに。他に何もいらないなんて思ってしまう。

 他の護衛は、職員のふりをして学園周辺や内部のあちこちを警戒している。暗殺を企てる者――つまり怪しい動きをしている者がいないかパトロール中といった感じだ。

 私たちだけ、ここにいる。

 まぁ、ゲームでそうだったんだから、そうなるよねと。私はおまけだけど。

「二人きりね」
「ええ、夜と同じに」

 イグニスと同じ部屋で寝起きしていることは護衛にだけもう筒抜けだ。突然の殺気に飛び起きる特訓をしていることとセットで広まっているので同情されている。色っぽいことがないことも確信されているのは、イグニスへの信頼なのかなんなのか。

「いや……今は夜ではないですからね」
「え? それはそうね」
「鍛錬でもします?」

 これなのよね。
 本当に、私のことは全然……。
 
「しないわよ。しりとりのがマシ」
「では、しりとりでもします?」
「……占いのがマシ」
「では、占いましょうか」

 死ぬたびにイグニスの声が聞こえるという話もしてあるけれど、その記憶は彼にはないらしい。あの白い世界はなんなのか。

「ここでは初めてね」
「私はあなたを占うの、完全に初めてなんですけどね。では、未来だけ」 

 裏向きにして、ぐるぐるとシャッフル。三つの山にわけ、また一つに戻すカット。彼が上から一枚だけ無造作に引いた。

 ……私が引くのではないのね。

 しばらくの沈黙。

「あ……あの、イグニス? よくない結果だった?」
「審判の正位置です。意味は復活。最悪の事態が好転したり、スランプから脱出したり……。蘇っている死者が描かれているでしょう。死からの復活を意味します」

 死からの復活。

 彼は【未来】を占ったはずだ。
 私はまた死んで復活するということ……?

「それは地獄ね」
「全てよい方向へ向かいます」

 でもそれは、一度死んでからということ?

「ただの占いです。私の本業ではない、ただの趣味。本を一冊読んだだけにすぎません」
「……ええ」
「あなたは、死にません」

 前はその言葉に安心できた。

 今は……いいカードが出たはずなのに、怖くて仕方がない。

 
 ♠

 
「ここで占いをしていると聞いたのですが……」
「はい、こちらへどうぞ」

 とうとうヒロインがやってきた。

 毎回、ループのたびに一度は私も学園で会っている。できればその姿を見たくもなかった。金色の髪に澄み切った空のような青い瞳。ヒロインのパルフィ・ロマンスチカーナ。貧乏貴族のご令嬢で、誰でもいいからお金持ちの男をゲットしてきなさいという使命を親に課されてここにいる。

「占いの館へようこそ」
「あ、はい」

 私は控えて立っていたけれど、イグニスの言葉を聞きながら垂れ下がっているカーテンの奥へと引っ込んだ。堂々と占い内容を聞くのは申し訳ないからだ。

 彼らがいくつも会話を重ね、イグニスは彼女の運命を占ったようだ。

「占い結果は――、塔の逆位置ですね」

 塔の逆位置?
 それは、聞いたことがある。
 この世界に来た、最初の――。

「全ての努力は無に帰します」
「え……?」
「倒れてしまう塔は崩して建て直した方がいい。慎重に行動し、自らを見つめ直した方がいいかもしれませんね」

 違う。
 
 ゲームの最初の出会いイベントの時のカードは塔ではなかった。なんのカードだったのかは覚えていないけど、こんな占い結果をゲームでは絶対に言われていない。

「学園生活。浮かれすぎないように気をつけてくださいね」
「は、はい。ありがとうございました」

 ――妙な胸騒ぎは収まりそうにない。
 
 何が起きているのだろう。
 いったい、何が……。
  

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

コワモテの悪役令嬢に転生した ~ざまあ回避のため、今後は奉仕の精神で生きて参ります~

千堂みくま
恋愛
婚約を6回も断られ、侍女に八つ当たりしてからフテ寝した侯爵令嬢ルシーフェルは、不思議な夢で前世の自分が日本人だったと思い出す。ここ、ゲームの世界だ! しかもコワモテの悪役令嬢って最悪! 見た目の悪さゆえに性格が捻じ曲がったルシーはヒロインに嫌がらせをし、最後に処刑され侯爵家も没落してしまう運命で――よし、今から家族のためにいい子になろう。徳を積んで体から後光が溢れるまで、世のため人のために尽くす所存です! 目指すはざまあ回避。ヒロインと攻略対象は勝手に恋愛するがいい。私は知らん。しかしコワモテを改善しようとするうちに、現実は思わぬ方向へ進みだす。公爵家の次男と知り合いになったり、王太子にからまれたり。ルシーは果たして、平穏な学園生活を送れるのか!?――という、ほとんどギャグのお話です。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

処理中です...