【完結】死に戻りの悪役令嬢は拗らせ王子の護衛執事に溺愛される 〜ループの果てに〜

春風悠里

文字の大きさ
11 / 32

11.ループ

しおりを挟む
 視察は無事に終わった。
 胸騒ぎはずっと収まらない。

 学園では生徒に会うと、「あれはナタリー様じゃ……」という顔をされたけれど、もうその反応は慣れている。

 ゲームと同じく学園への見学は繰り返され、王宮での日常も変わらない。

 美しく着飾った女性たち。
 歯の浮くような台詞を吐くどこぞの貴族。
 きらびやかな夜会の場で行われる化かし合い――もとい、社交。

 私は警備する側だ。

 場を守る衛兵もいるし、個人を守る私たちのような護衛もいる。全ての貴族や王族の護衛が勢揃いしていたら邪魔なので、持ち回りだ。

「交代よ」

 先輩がスッと来たので下がる。

 いつもの夜会。
 いつもの警備交代。

「お願いね」

 いつものいつものいつもの――。

 ああ――、いつものではなかった。

 詰所へと報告に戻る静かな廊下。使用人専用通路に入り、もう華美な装飾はどこにもない。そこで、なぜかいつもとは違って窓が開いていた。

 誘われるように手を伸ばし――。

「――っ!」

 どうして無造作に閉めようとしてしまったのか。

 ――もう、手遅れだ。

 既に致命傷。

 窓から入ってきた相手に対して体に鞭打って距離を詰める。ナイフで迫るも防がれた。蹴りを入れて着地した反動で鎖鞭を回す。切っ先が相手の顔に傷をつけたところで、相手の喉に私のものではないナイフが突き刺さった。真っ赤な血が噴き出る。

 あの――、メイドだ。
 今は全身黒い。

 相討ちね。
 殺ったのは私ではないけど。

「ナタリー!」

 イグニス……。

 彼が跪き、力の入らなくなった私を抱きしめた。

 窓を閉めようと手を伸ばした時にはもう、ナイフによって心臓を貫かれていた。私よりも深い闇の力ののった一突きは重く、防ぎきれなかった。

「王妃だ」
「…………ぇ?」
「犯人は王妃だ、おそらく――。頼む、次も私と……」

 体から血が失われていくのを感じる。痛覚も視覚も薄れて――。

 唇に何かが触れた。

「ナタリー……、守りたかった……」

 守ってもらう側ではなくなったはずなのに……。

 白い。
 どんどんと世界が白くなっていく。
 意識が遠くなって、そして――。 

 
 ♠


 また「来世を始めますか ▶YES」の選択肢が空中に浮いている。

「ああ、はいはい。またこれですか。これなんてすね。もぉぉぉぉ!」

 怒ってもどうしようもない。
 私は死んだんだ。

 文字の色が紫に変化して一枚のタロットカードが現れた。

 同時に声が聞こえる。

「審判の正位置です。意味は復活。最悪の事態が好転したり、スランプから脱出したり……。蘇っている死者が描かれているでしょう。死からの復活を意味します」
「知ってるわよ!」

 あの時のカードだ。

「全てよい方向へ向かいます」
「そうね、最後に犯人を教えてくれたものね。それよりあなた、最後に私にキスしなかった? もしかしてアレなの。私が好きなの。それにしては毎晩一緒に寝てたのにぜんっぜん――」
「この調子で頑張ってくださいね」

 分かっていたけど、私の問いには何も返してくれない。

「答えなさいよ! ちょっと、私のことをどう思ってたのよ!」

 せめて、声だけでなく顔も見たい。

「それでは、来世にお連れしましょう」 

 またなのね。
 もう一度、あそこからスタートしないといけないのね。

 もういない。
 護衛と認めてくれたミセル様も、一緒に毎晩寝てくれたイグニスも。

 もう、どこにもいないんだ……。

 絶望感の中で、私はもう一度目覚めた。

 
 ♠

 
「ミセル様、私はあなたの婚約者であることをやめようと思います」
「…………は?」

 もう一度、同じことを繰り返す。

 ただし、今回は私のメイドのルナとルキアにループしていることを話した。そうでないと、私の攻撃に闇の力がのっているのを説明できないからだ。ループしてもそこは予想通り変わらなかった。どっぷりと血塗られた道に魂が浸かっている感覚はもう抜けない。
 
 あの時と同じ会話を繰り返し、また私は――、

「場所を変えようか、ナタリー」

 鍛錬場へと向かった。
 慣れ親しんだ、そこへ。

 
 ♠

 
「先にお伝えしておきますわ」
「なんだい、ナタリー」
「今は信じないと思います。けれど、伝えておきます。私は死ぬたびに何度もループを繰り返し、ここに来るのは二度目です。前回のループの時には護衛として認められ、イグニス侍従長にも鍛えられました」
「…………」

 ま、そういう顔になるわよね。
 
「なので、次のミセル様とイグニス侍従長の言葉も大体分かります。着替えは必要ありません。武器も慣れ親しんだものを使います。私が怪我をした場合、王宮に泊めていただけることも存じています」
「……ほう」
「覚えていないでしょうけれど、私はミセル様とイグニス侍従長への感謝を込めて、全力でぶつかります」

 スカートの留め具を外し、動きやすくする。ミセル様が、私たちから遠ざかった。

「いつでもどうぞ」

 イグニスの言葉に合わせて、ナイフを次々と投げていく。全て急所狙いだけれど、打ち落とされる。彼のナイフも避けながら、鎖鞭を真っ直ぐに突き刺すように投げつける。当然持ち手からは手を離さない。防がれたタイミングで蹴り飛ばそうとするも避けられた。
 戻した鎖鞭のナイフでもう一度突き刺しに行き――、

 キンキンと金属が打ち合う音が鍛錬場に響く。互いに譲らない……けれど、イグニスは余裕そうだ。当然だろう。ループ前も私よりずっと強かった。

「攻撃に癖がありすぎますね」
「あなただって、ないわけじゃないわ」
「分かっていますよ。でも、対応できていない」
「あなたが速すぎるのよ!」

 前よりもやり合える。
 そこは誇らしい。

 でも――また蹴り飛ばされる。そこは前と同じ。投げつけた急所狙いのナイフも全て弾かれた。

「そこまでだ」

 ミセル様に止められる。

「どう思った、イグニス」
「攻撃が重い。既にこちら側のお人です。私の攻撃を先に読んでいるような動きもありました。早急に、ナタリー様の話を詳しく聞いたほうがよろしいかと思います」
「……だろうな」

 よかった。
 ミセル様を狙う暗殺者だと思われてしまっては、おしまいだ。

「もう一度、場所を移そう。今度は知っていることを全て話してくれ」 
「仰せのままに。我が君」

 ――私はもうこの人を、ご主人様としか思えない。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない

As-me.com
恋愛
完結しました。 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。 そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。 ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。 そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。 周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。 ※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。 こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。 ゆっくり亀更新です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

処理中です...