【完結】死に戻りの悪役令嬢は拗らせ王子の護衛執事に溺愛される 〜ループの果てに〜

春風悠里

文字の大きさ
12 / 32

12.選択

しおりを挟む
「なるほど」

 全てを聞き終わり、ミセル様が柔和に笑った。

「君のこれまでの話を聞いて、僕の護衛に君がならなくてもどうにかできる道筋は立てられそうだと思っている」
「……え?」
「あの方が犯人なんだろう?」

 さすがにその名前は、さっきミセル様の耳元で小さな声で告げた。天井裏にも護衛がどこかにいるし廊下にも衛兵がいる。万が一聞こえてしまっては大問題だ。

「おそらくそうだとイグニス侍従長が話してくれただけです。私にはその理由もどう突き止めたのかも分かりません」
「ああ。それでどうしたい? 僕の婚約者のまま貴族の令嬢として学園に通い、いずれ僕と結婚する道を選ぶこともできるけど」
「それは……」
「君の死は防げるし防ぐ。どうする?」

 何もなかったことにして、社交する側に? こんなひらひらしたドレスを着て高価なアクセサリーを身に着けて上品に笑って……?

「嫌です」
「僕と結婚するのが?」
「えっと……」

 け、結婚?
 この人とキスとかしちゃうの?

「薄ら寒いですね……」
「それは酷すぎるな」
「あ、ち、違うんです。私にとってミセル様はお守りする方です。婚約者なんかに私はなりたくない。あなたのために血を流さない存在になんて、なりたくありません」
「ふっ……前の僕になんか言われた?」
「う」
「価値感すら共有していそうだ」
「そ、うかもしれないです」
 
 くすくすと笑う彼に、懐かしさを感じる。

 彼は前回、こう言っていた。

『婚約者なんかと一緒にしてもらっては困るな。僕のために血を流すわけでも、日常的に命を危険にさらすわけでもない。どうやってそんな相手を信じられる?』

 私は嬉しかった。頑張りを認めてもらえたようで。今更、そうではない道になど戻りたくない。

「君がこなしたという僕の命じた任務の話には信憑性がありすぎる。信じざるを得ない。だからといって、まだ完全に信じたわけでもないが……君の話が本当だとしたら、また一から始めるのは苦だろうな」
「いえ、当然のことです。信じてもらうために、死刑囚の息の根なら今すぐに何百人分でも止めに行きますよ。躊躇いもありません。殺し方も指示通りにします」
「それは頼もしいな」

 彼があの時と同じ目をする。
 部下に対する目。
 自分の所有物に向ける目だ。

 彼が私に手を差し出した。
 私もそっと握りしめる。

「もう一度、ここへ上ってこい」
「もちろんです」

 護衛の中で仕事をこなし、また上へいく。次は前よりも最短距離で。

 
 ♠

 
「あなたは馬鹿ですか」
「……失礼ね」

 私室へとイグニスに案内されながら罵られる。

「わざわざこちら側に来る必要などない」

 一度やり合っていると、少し気安くなるわね。刃を交える中で、あなたとは知った仲ですよというのが伝わったのも大きいのかもしれない。

「それは前にも聞いたわ」
「あなたの過去はさっきので分かりました。そのうえで言います。ミセル様の婚約者としてお過ごしください」

 戻る気はない。

「汚れて堕ちて戻れなくなってしまう」
「それも、前に聞いたわ。既に堕ちているわよ。さっきので分かったでしょう」
「まだ、他の誰もそれは知りません。ミセル様はそんなことを気にする人はでない。引き返せるんです」

 同じ人物ね。
 本当にそう思う。

「次に私が殺される時には、今度こそあの刺客を自分で倒すわ。難しい依頼もじゃんじゃん回して。まだ実力が足りないわ。あの刺客との実力差は縮んでいる。それはハッキリと感じたの。せめて自分の手で相打ちにしたいわね」
「……まだあなたは、ミセル様の婚約者ですよ」
「意識のうえでは違うわ。私はこれからも、ミセル様のために血を流すのよ」
「それがあなたの生きがいですか」

 ……い、生きがい?
 えっと?
 あれ?
 なんで私、生きたいんだっけ?
 死んだらループするから、生きていたいのよね、私は。そう。ループしたくないから生きていたくて……。

 他に理由があったような……。

「あ!」
「どうしたんですか」

 私、死にたいんだった……ちゃんと死ぬために……あれ、なんで死にたいんだっけ? 別に死ぬ必要なくない?

「どうしたんですか、ナタリー様」
「いや、どうして生きているのか分からなくなって……」
「殺されていないからでしょう」
「あ、うん。そうなんだけど」

 頭がぐるぐるしてきた。
 
「ほんとに大丈夫ですか?」
「えっと、どうかしら。ね、イグニスはどうして生きているの?」
「……少し休んだ方がよさそうですね。私が生きる理由はミセル様を守るためですよ」

 あ、そうよね。
 それが一番大事だったわ!

「そうだったわ。私を信じてくれたミセル様のために、戦い続ける。どんな危険な任務だってこなしてみせる。命をかけてお守りし続けるのよ」

 死んだら戻るし、安い命かもしれないけど。
 
「休息が必要だとミセル様に進言しておきますね」
「やめて! 死にすぎておかしくなっていたのよ。私は最短距離でもっと強くならないといけないの。とにかく、徹底的にしごいてちょうだい」
「……貴族のご令嬢なのに……」
「そんなものいらないわ」

 よかった。
 これからも自分を見失わないようにしないと。

「こちらがあなたの部屋ですよ。客室の一つです。正式に護衛となったら、またご案内します。待合室にいるあなたのメイドのルナも呼んでまいりますね」

 そうよね、そうだった。
 イグニスとは違う部屋だ。
 前と同じ。

「あなたと……また同じ部屋で過ごせるのかしら」
「無理でしょう。もう寝ている間の殺気を察知できるようになったんですよね」
「ええ、あなたのお陰で」
「同じ部屋で過ごす理由がありませんよ。それでは」
「ま、ままま、待って。そうすると、本当にもう一緒に寝られないの?」

 立ち去ろうとするイグニスの袖をガシッと握ってしまう。

 寝ている間の殺気の察知の訓練。そのために同じ部屋で過ごしていたことはさっき伝えた。私の死ぬ時期が近づけばミセル様が心配してそう促してくれるわよね?

 だって、前にそうだったものね?

「……はぁ。一つ、教えて差し上げます」
「え、ええ」
「嫁入り前のお嬢様が、男と同じ部屋で寝てはいけません」
「そ、そんな……!」
 
 憐れむような顔をしているけど、普通に同じ部屋で寝起きしていたのに。
 
「どうしてもとおっしゃるなら、ミセル様に交渉してください。それでは」

 ああっ、腕を払われてしまったわ。

 なんてこと……。ミセル様に「イグニスと寝たいの。特に理由はないけど」って? 無理無理。そんなの無理! 護衛になりたいとお願いしているのに、命の危険からイグニスに守ってほしいなんてもっと言えないし、いい理由がなさすぎる。

 寂しい。もらったはずのペンデュラムも、もうどこにもない。全部、なかったことになってしまった。

 まずは……信用だ。私だけが彼に親近感を抱いている。たくさん任務をこなして、もう少し距離を縮めたい。

 ――たとえその道が血塗られていても。 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜

水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。 そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。 母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。 家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。 そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。 淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。 そんな不遇な少女に転生した。 レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。 目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。 前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。 上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎ 更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

処理中です...