【完結】死に戻りの悪役令嬢は拗らせ王子の護衛執事に溺愛される 〜ループの果てに〜

春風悠里

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18.魔法使いと騎士

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 そして、今回は二回目の視察だ。

 前回は戻ってきたミセル様に「酷い顔だね」と言われ、そのまま一緒に王宮へ戻った。「そんな感動的なシーンに居合わせられないなんて残念だったよ」とも。

 放課後になり、生徒が動き出すタイミングに合わせてミセル様が戻ってきた。

「よし、ナタリー。今度こそ一緒に学園を回ろう」
「なぜですか」
「前回は、君の顔が酷かったからな」
「すみませんね」
「本当に残念だよ。僕も感動的なその場にいたかった」

 一緒に学園を回る理由になっていない。

「で、オリバーも連れてきた」

 占いの館を出ると、そこに知った顔があった。緑のボサボサ髪のイケメンオッサン。学園に到着した時にも会ったけれど……わざわざ護衛である私たちの自己紹介はしていない。

 おそらく前も占いの館の前まで連れてきたのだろう。私の泣き腫らした顔を見て戻らせたに違いない。そういえば前回、少し待っててと言って外に一度出ていた。

 ループ前は……ここでは会っていない。引き合わせることなく戻らせたのかな。私が今、主任になっていることも理由の一つかもしれない。

「ナタリー・モードゥスと申します。お見知りおきを」
「知っていますよ、ナタリー様。あなたはとても有名人だ。なるほど、これは面白い存在ですね。魔に浸かっているのに女神の加護を感じる」

 加護?
 もしかして私が死んだらループするのが加護だったっての? 反吐が出るわ。

「そうですか」
「少し触れてみてもいいです? 握手がしたいな」
「お断りします」

 魔法使い。そんな存在があるというだけで気分が悪い。化け物……ミセル様を害そうとすればできてしまうかもしれない、正体不明の術を使う相手。かなり気持ち悪い。

「そんな嫌そうな顔をしなくてもいいのにな。いい男に見た目を変えればいいです?」
「関係ありません」
「そうかー……」
「小さな蜘蛛にご変身されたら、私から触れるかもしれません」
「君、潰す気でしょう」
「分かりません」
「怖い! 怖いよ、このメイドさん!」
「そりゃ、僕のメイドだからね」

 ミセル様はなんで平気なんだろう。対等な関係ということは、いつ何をされてもおかしくないのに。

 まさか、目の前にするとこんなに気持ち悪い存在だとは思わなかった。闇に浸かっているからだろうか。底知れない何かをビリビリと感じて、警戒せずにはいられない。

 おそらく、私たちのような護衛はみんな彼を嫌うはずだ。とにかく気持ち悪い。

「ここからは彼らと行動するよ。ここまでありがとう」
「いえいえ、執事くんとバトンタッチですね。では、いつでも頼ってくださいね!」
「ああ。じゃ、行こうか」

 私を護衛だと認めていないわね。わざわざイグニスだけに交代だと……ムカつくわ。もうそんなに弱いつもりはないのに。
 
 魔法使いはひとまずこの占いの館に留まるようだ。こんなのと一緒にいたくはないし、大人しく学園を回ろう。

 
 ♠
 

 ひそひそひそひそ。

 ミセル様の後ろにイグニスと一緒に控えるように歩いているけれど、なんかもうあちこちでひそひそされているのが分かる。というか訓練も受けているので小さい声でも聞きとれてしまう。

「ナタリー様よ」
「ミセル様の婚約者から護衛になったっていう……」
「でも愛人になったとかいう噂も……」

 ひそひそひそひそ。

 睨みつけると、ヒィッと静かになるものの、またひそひそが始まる。

 久しぶりだわ。護衛になったばかりの頃は王宮でこんな感じだった。

「それでね、ナタリー。ここが緑風館という名前の食堂なんだ。緑が眩しいだろう? さっきの食堂よりも少し量が少ないらしくてね、少食の子がよく利用するらしいよ」
「そうなんですか」

 どうでもいいな……。

「それでね、あそこが図書館で、そこが鍛錬場だ。寄っていこうか」
「鍛錬場……」

 剣の鍛錬を放課後にしているのね。ここでは確か部活みたいな位置づけだった気がするけど。

「あ、ミセル様! また見学に来ていただいたんですね!」
「やぁ、レイド。しばらくぶりだな」

 誰かが寄ってきたわね。

 ……って、思い出した。ヒロインの幼馴染のレイド・マーキュリーだ。途中まで攻略して投げた相手。今の今まで名前なんて忘れていた。茶髪で茶色い瞳の、人懐っこい騎士。
  
「ミセル様のお姿を見ると、やる気がみなぎります!」
「そうか。せっかくだし、ナタリーと手合わせをしてみるか?」
「えっ。あ、ナタリー様……。レイド・マーキュリーと申します。よろしくお願いします」
「そんな畏まらなくていいわ。私はただの付き人よ」
「い、いえ。そんなわけには」

 やりにくそうね。
 まだ私、侯爵令嬢だものね。

「ナタリー、たまには君の実力を見たいな」
「……剣は苦手なんですけど」

 ミセル様、どういうつもりだろう。私が護衛としてしっかり働いていると見せつけたいのかしら。貴族のご子息らに。

 適当にその辺に置かれている剣をスッと抜く。鍛錬用だろう。

「まぁいいわ。どうぞ」
「え、えっと」

 鍛錬中だったせいで、レイドは既に剣を手にしている。

「私からいくわよ」
「……!」

 切りかかると当然ながら受け止められる。激しい鍔迫り合いが始まった。一度飛び退いてからまたぶつかり合う。衝突音の連続に、観客が多くなる。

「……っく!」

 正面からの戦いなら、私の方が分が悪い。でも……重いでしょうね。これが、人を殺してきた人間の重さよ。闇の力が自動的にのっかる。

 騎士も衛兵も当然ながら強い。けれど、私たちのような護衛は、曲芸サーカスをするような異質さを持っている。魔法使い相手のように、気持ち悪さを感じる者は多い。ものすごい数の人間を殺めてきた魔を感じとるのだろう。

 ダンっと彼の剣筋を避けて壁を蹴り上げ回転するように剣を一閃させる。暗殺用の身のこなしだ。

「やっぱり剣は苦手よ」

 もういいでしょう。

 構えを解いて、鍛錬場の壁にかけられていた的へ向かって隠し持っていたナイフをダンダンダンッと連続で遠くから突き刺す。当然ながら一点狙いだ。

 シーンとする鍛錬場。

 えぐい数のナイフが突然一箇所に集中したのだから当然だろう。

 騎士相手に剣だけで勝つわけにはいかない。彼を傷つけないようにしながら、王族の護衛の強さを見せつけなくてはならない。

 ……と思ったんだけど、本当にこれでよかったかな。

「さ、すがですね、ナタリー様」
「ただのミセル様の護衛よ。そうですよね」

 不安すぎてミセル様にふっちゃったわ。

「ああ。君は大切な、僕の道具だ」
「光栄です」
「では、鍛錬を続けて。いきなり見学に来て悪かったね」

 ナイフ、どうしようか……。あとで誰かに回収してもらおう。まだたくさん隠し持っているし……このまま取りに行くのはかっこ悪い。剣だけレイドに押し付けて立ち去ろう。

「行こうか」
「はい」

 このあと、どうなるのかサッパリだ。
 
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