【完結】死に戻りの悪役令嬢は拗らせ王子の護衛執事に溺愛される 〜ループの果てに〜

春風悠里

文字の大きさ
20 / 32

20.買い出し

しおりを挟む
「本当にいいんですか、通わなくて」
「どうしてあの方もあなたも、私を通わせたがるのよ」

 今日はイグニスと買い出しだ。
 そんなものは下っ端に任せればいいものの、気分転換になるのでオフの時に足りないものがないか聞いて多少買ってきたりしている。

 今回の買い出しはいつもと違う。なぜだか部下に「こちらが足りなくなってきたので侍従長と一緒に買ってきてください」と午後になって追い出された。「ミセル様の許可は得ています」とも言っていた。彼らに私たち二人ともを留守にさせる権限はないので、100%ミセル様の意向だ。それを私が察することまで織り込み済み。

 今日は戻らなくていいですよとまで言われている。

「あなたは私たちとは違う。あちら側の人間だ。護衛職からはいったん退いて、通われた方がいいと思いますよ」
「そのまま貴族の仲間入りする流れになるじゃない」
「あなたは貴族ですよ」

 どうして、こんなにも線引きされるんだろう。恨みがましい目で見ても、イグニスは無表情のままだ。

「頼まれたのは文房具類だけですよね」
「そうね」

 せっかくのデートのようなもので不機嫌になりたくないのに、苛立ちを隠せない。

「さっさと買ってしまいましょう」
「……そのあとはどうするのよ」
「戻ればいいんじゃないですか」
「戻らなくていいって言われてるけど」
「戻るなとも言われてませんよ」

 苛々する!
 苛々する!
 めちゃくちゃ苛々する!

「……まぁ、行きたいところがあるのなら付き合いますけど」
「そうね。付き合ってもらうわ!」

 私のことを好きっぽく見えるのに、ここまでその気を見せてくれないと辛すぎる。

 ……辛いって、私は何を期待していたんだろう。

 もらったアクセサリーは服の下に身に着けている。毎日キスだけはたくさんしてもらってる。

 これ以上何を?

 私はもしかして、普通のデートをしたかったのかな。手とか繋いで楽しいねって笑って一緒にご飯食べて……。

 こんな血塗られた道を歩んでたくさんの人を死に追いやって、前世では全てを捨てておいて、学園に通うなんて普通の学生みたいなことも気持ち悪いって思っておきながら、私は普通のデートを……。

「ど、どうしたんですか、ナタリー」
「なんでもないわよ」

 つい涙が出てしまったわ。

「わ、分かりました、付き合います。あなたの行きたいところに付き合いますから泣かないでください」
「それはどうも」

 可愛げがない。
 昔からそうだった。

 普通の女の子ならどうしただろう。あなたとデートがしたかったのとか可愛く言って、ここに行きたいのとかあなたの行きつけのお店がいいのとかおねだりしてみたりとか……。

 そんな普通の女の子になれないから、私は前世で死を選んだのに。

 まずい。ちょっとズビズビになってきた。
  
「な、なんでそんなに泣くんですか」
「泣いてない」
「泣いていますよ」

 でも泣きたくないから、泣いてないってことにするのよ。

「……来てください」

 手を引っ張られて狭い路地の奥に連れていかれる。不審者とか出そうだけど。

「もしかして、何か辛いことでもあったんですか」
「……え」
「貴族だってことで、虐められたりはしていないですよね。だから戻りたくないとかでは――」
「それは絶対ないわ。仲間のメイドはみんないい子よ。先輩もやさしくしてくれる」

 誰もが簡単に人は殺せるけど。まさか、そんな勘違いをするとは。

 びっくりしすぎて涙も止まるわ。

「それなら、誰に……、あ、貴族連中ですか。学園にも行ったことですし、何か言われました? すぐに対処します。教えてください」
「私が泣いた原因は自分かもしれないとか考えないの」
「……私ですか」

 違うわね。
 イグニスはイグニスらしくしているだけ。いつもと変わらない。それなのに私がこんなに泣いているから、見当違いなことを考えてしまっている。

「違う……かもしれない」
「なんですか、かもって。あ、私に相談したいことがあったんですか。だから、帰りたくないと。あれ、でもそんなの夜に言ってくれればいいのに。あ、いつもと違う雰囲気じゃないと言えないことってありますよね。えっと、どうしようかな……」

 いつもよりよくしゃべる。ものすごくあたふたしている。私の涙なんかで焦ってくれているらしい。

「おうおう、こんなところで痴話喧嘩かぁ~? って、うわ!」

 やっぱり狭い路地の奥だし、変な人が来た……。私もイグニスも反射的にナイフをいくつも取り出している。何本表に出てるんだってくらいに刃がギラついている。

「死にたいです?」
「チッ!」

 すぐに踵を返して逃げていった。

「……行きましょうか」
「そうね。買い出しが終わったら連れていってほしいところがあるわ」
「分かりました」

 私たちに「普通のカップル」は無理なのかもしれない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない

As-me.com
恋愛
完結しました。 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。 そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。 ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。 そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。 周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。 ※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。 こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。 ゆっくり亀更新です。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

処理中です...