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後編 魔法学園での日々とそれから

133.翌日

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 翌日の日曜日の早朝、ジェニーが私の部屋を訪れた。早い時間にごめんなさいと断って、教えてくれた。

『昨日のお風呂のことなんだけど……夜に入るってダ、ダニーに伝えたのは私なのよ。ニコールからも聞いていたとは思うけれど。そのままレイモンド様にも伝わって……その……アリスなら露天風呂でよからぬ発言をする可能性もあるから隣にいるって言ってたらしくてね……。だから私は知っていたの。ごめんなさい、言わなくて』
『大丈夫、いてくれてよかったよ。さすがレイモンド、分かってるね』
『元気がないわね。レイモンド様はアリスに強く怒るタイプではないと思ったのだけど……』

 注意するって言葉に心配してくれたのかもしれない。ユリアちゃんと残った時もそれを説明したのかな。

 やっぱり真っ裸で他の男性が壁を隔てていても隣にいるだけで、普通気になるもんね。

『怒られてはいないけど注意はされた。そうされないと気付けないほど、私はまだ全然レディじゃないんだなって少しショックだったかな。ジェニーってお手本が身近にいてくれるし、気を付けるね』

 なぜだか少し涙が滲んでしまった。

 理由は分からない。
 レイモンドには大事にされているし、プロポーション問題もそんなに気にならなくなった気がするし、キスだって交わして……何も悲しいことなんてないはず。ガッカリなんて私もしていないよって昨日の返事をすれば、全て解決のはずだ。

 信用されていないことが悲しいのかもしれないけど、実際に外でアレな言葉を発してしまったわけで……これから気を付けて、少しずつレディらしくなっていけばいい。

 理由が分からないのに悲しい気持ちになるのは初めてで解決のしようもない。咎められたのがショックだったのかな。翌日にまで引きずるほどに……。
 
 朝食の時間も、なぜか皆に気遣われた。

『いい天気ですね、アリスさん』
『あ、うん。そうだね』
『今日もレイモンド様とデートなんですよね』
『たぶん……』
『たぶんじゃないよ!? 土日のどっちかはいつもそうしているし、約束もしていたよね』
『行くなら行く』

 と、私がいつもよりテンションが低かったからかもしれない。でも、落ち込んでいる時にテンション高くはいられないしな……。
 そして、なぜ落ち込んでいるかも分からないときている。

 ダニエル様まで、少しこっちに来いと私を大浴場の向こうの廊下まで誘って――、

『お前は私が妹にしたくなるくらいには可愛らしい。自信を持て』

 と、照れながら言うものだから、私の頭の中になぜかピヨピヨとひよこが飛んだ。どうしていきなりこの人はこんなことをと大混乱だ。
 お陰で、罵ってしまってごめんなさいと謝ったものの、放心しながらだった気がする。反省の色がちゃんと出ていたのか自信がない。今も少しピヨピヨしている。

 私が落ち込んでいると他の皆までおかしくなってしまう。なんとかしなきゃと思いながら、今はレイモンドと本屋に向かって歩いている。

「ねー、アリス。言い過ぎたから機嫌直してよ」
「機嫌は悪くない」
「ごめんね、アリス。隙がありすぎて八つ当たりしちゃったんだよ」
「あ……そういえばえっと、ガッカリとかしてない。他の人と比べてこうだったらとかも思ったことない」
「そ、そっか。それはありがとう」
「うん……」
「でも顔が強張ってるって、アリスー」

 違うことに頭を使いたくて本屋に行きたいと言ったものの、道中ずっとこんな感じだ。

 ソフィに全部話して相談しよっかな。
 明日からまた学校が始まるし、それまでに解決したい。ほとんど休みなしで働いているニコールさんと違って、日曜日はソフィもお休みだ。隠れ家にいる確率は高い。

 八方塞がりだった現状の打開策を見つけた気分になって、少し浮上する。

「レイモンド。悪いけど私、ソフィとお話したい」
「あ……うん……俺は機嫌が悪いアリスでもいいからデートはしたいけど、それなら一緒に行こうか」
「却下。昼食の時間前に迎えに来て。それまでに血湧き肉躍る本を探し出して買っといて」
「どんな本!?」
「分かんない。レイモンドの趣味のエロ本でもいい。どっちでもいい。どちらかでよろしく」
「え……頑張って血湧き肉躍る本を探すよ……。なんのイメージも湧かないけど」
 
 レイモンドの前で相談なんてできない。彼には意味の分からない課題を与えておこう。可哀想だけど、私を好きになったんだから諦めてもらおう。

 悩み始めたレイモンドと隠れ家の方向へ。よく考えると、護衛がいないのに私を一人にはしたくないに決まっている。

「じゃ、頑張ってね」

 そう言って、隠れ家が見えたところで早くソフィに会いたくて走り出した。……私が中に入るまで見つめ続けるんだろうなと思いながら。
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