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後編 魔法学園での日々とそれから
161.祈り
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隠れ家から出てすぐに、当たり前のように魔女さんが現れた。今は黒髪だ。全てを知っている魔女さん。外に出たら来てと頼めば、そうしてくれる。
たまに……ふと、情事のあとに思い出してしまうことがある。全部知っているんだよねって。全部知っているからこそ、他の人の想像もつかないそれはもうとんでもないプレイも知っているはずだから気にしないでおこうと思いつつも……彼女が他の人と深く関わらないのは、それが理由かもしれないなって。
知られているって思わせてしまう。それによって行動まで変えてしまうかもしれない。影響を直接与えないようにしているのかなって。
魔女さんは優しいからなぁ。
「用意はいいかしらぁ~?」
「ああ、頼むよ」
「黒髪魔女さんも安心するね」
にっこりと彼女が微笑んで私たちに手を置く。その瞬間にラハニノスより西にある農村部へとワープした。
「また呼んでちょうだいねぇ~」
あっという間に魔女さんが消える。
うん……何もない。暗がりの中、クリスマスなのに何もない。だってここは、人参畑の広がる畦道だから。
「俺が隠れる場所はないね」
「それなら今日は一緒にいて」
「そうだね。控えの者みたいに後ろにいよっかな」
畑が広がる農村地帯。真っ暗で月明かりだけが頼りだ。ふわりふわりと雪が舞い散り始めた。
「始めようか」
「うん……始める」
彼が私を浮かせてくれる。足元には星型の光の障壁。聖女ちゃんは十字架の上に乗っていたし……せっかくなら私たちも足元になんか光らせておこうかなと。
スゥと天高く昇る。私は何もしていない。私の斜め後ろにいるレイモンドに全てを任せる。
どこまでも広がる暗闇を、私たちの光が照らしていく。
――さぁ、祈ろう。この国のために。
優しいダニエル様とジェニーが導いてくれる大切な場所。私が落ち込んでいたら調子を崩して慰めてくれるあの二人が背負う、私たちの国。
貴族の友人も皆、領地のために尽くす日が来る。そうでない友人も、この国の発展を担う。誰もがこの国の輝かしい未来を願っている。
ソフィの子供が生まれ落ちるこの地が……そこに住む人々の心が、どうか幸せに包まれますように――。
私の体から無数の光の珠が溢れ出す。星降るように見渡す限りの全てへと向かって飛び出していく。
私はこの地に招かれて、大した努力もなしに大きな力を使えてしまう。それなら――、お返しをしなくてはならない。この国を……好きにさせてくれてありがとうって。
国のためにできることをしたいなとレイモンドに言ったら、そう思えるならきっと光魔法はこの国全てに届くはずだよって。やってみないかと提案されて今年はこうなった。
もう有名になってしまう覚悟はそれなりにできた。
いつの間にか農村部の家から人が出てきたらしい。灯りが見える。
この付近……農作物が今年ずっと不作だったらしい。ベビーワームが例年より多く発生しているからだ。魔物は人への害はないものの、近くの作物の成長を阻害してしまう。
この付近に……負の感情に強く苛まれている人が多くいるのかもしれない。
一部の地域の魔獣退治より、被害の出ているこの付近の魔物退治をしておこうという話になったらしい。私が魔獣退治に介入すると今後も期待されてしまう可能性がある。善意が義務になってもよくはないと……。
「空へお還り」
眼下の畑からわずかに光が見え隠れする。
浄化に成功したのかもしれない。まるでホタルのようだ。
魔物を浄化しても原因が取り除かれなければ、また魔物は増える。数は少なくなっても明日には多少は発生する。でも……それくらいでいい。気付かれない程度でなければ、期待されてしまう。生活に直結するからこそ、ベビーワームが出るたびに、なんで浄化してくれないんだと恨みに繋がってしまう。
人とは、そういう自分勝手なもの。一生懸命に生きているからこそだ。
魔物を一時的に退治したことではなく……私がここに住む人々の前で祈りを捧げたこと。それが見守られているという意識につながり、魔物が減る可能性はあるらしい。
そんな存在になってしまうことへの恐れはあるけど……でも、そうなるといいなとも思う。
「行こうか」
「そうね」
あ、大人っぽく返しちゃったかな。大人っぽいことを考えていたしね。さすがに卒業したら、子供っぽい話し方はプライベートでも卒業しようかなぁ。
どっちでもレイモンドは気にせず私を愛してくれるに決まっているけど!
「ラハニノスまで行っちゃおっか」
「それもいいかなー」
彼の杖に横乗りして、一緒にここからびゅーんと立ち去っていく。
「聖アリスちゃーん! バイバーイ!」
小さな男の子の声がしたと思ったら、あちこちから……。
「アリスちゃん、ありがとー!」
「アリス様、ありがとうございましたー!」
子供はちゃん付け。
大人は様付け。
正体がバレているうえに、絵本の影響が大きい気がする。
赤い服の二人が夜の闇の中、月明かりを浴びて飛んでいく。
「凱旋みたい……」
「結婚した時のための練習になるよね!」
空を凱旋するの?
私への人々の印象はどうなるんだろう。覚悟はしたけど、考えたくは……ないなぁ。
たまに……ふと、情事のあとに思い出してしまうことがある。全部知っているんだよねって。全部知っているからこそ、他の人の想像もつかないそれはもうとんでもないプレイも知っているはずだから気にしないでおこうと思いつつも……彼女が他の人と深く関わらないのは、それが理由かもしれないなって。
知られているって思わせてしまう。それによって行動まで変えてしまうかもしれない。影響を直接与えないようにしているのかなって。
魔女さんは優しいからなぁ。
「用意はいいかしらぁ~?」
「ああ、頼むよ」
「黒髪魔女さんも安心するね」
にっこりと彼女が微笑んで私たちに手を置く。その瞬間にラハニノスより西にある農村部へとワープした。
「また呼んでちょうだいねぇ~」
あっという間に魔女さんが消える。
うん……何もない。暗がりの中、クリスマスなのに何もない。だってここは、人参畑の広がる畦道だから。
「俺が隠れる場所はないね」
「それなら今日は一緒にいて」
「そうだね。控えの者みたいに後ろにいよっかな」
畑が広がる農村地帯。真っ暗で月明かりだけが頼りだ。ふわりふわりと雪が舞い散り始めた。
「始めようか」
「うん……始める」
彼が私を浮かせてくれる。足元には星型の光の障壁。聖女ちゃんは十字架の上に乗っていたし……せっかくなら私たちも足元になんか光らせておこうかなと。
スゥと天高く昇る。私は何もしていない。私の斜め後ろにいるレイモンドに全てを任せる。
どこまでも広がる暗闇を、私たちの光が照らしていく。
――さぁ、祈ろう。この国のために。
優しいダニエル様とジェニーが導いてくれる大切な場所。私が落ち込んでいたら調子を崩して慰めてくれるあの二人が背負う、私たちの国。
貴族の友人も皆、領地のために尽くす日が来る。そうでない友人も、この国の発展を担う。誰もがこの国の輝かしい未来を願っている。
ソフィの子供が生まれ落ちるこの地が……そこに住む人々の心が、どうか幸せに包まれますように――。
私の体から無数の光の珠が溢れ出す。星降るように見渡す限りの全てへと向かって飛び出していく。
私はこの地に招かれて、大した努力もなしに大きな力を使えてしまう。それなら――、お返しをしなくてはならない。この国を……好きにさせてくれてありがとうって。
国のためにできることをしたいなとレイモンドに言ったら、そう思えるならきっと光魔法はこの国全てに届くはずだよって。やってみないかと提案されて今年はこうなった。
もう有名になってしまう覚悟はそれなりにできた。
いつの間にか農村部の家から人が出てきたらしい。灯りが見える。
この付近……農作物が今年ずっと不作だったらしい。ベビーワームが例年より多く発生しているからだ。魔物は人への害はないものの、近くの作物の成長を阻害してしまう。
この付近に……負の感情に強く苛まれている人が多くいるのかもしれない。
一部の地域の魔獣退治より、被害の出ているこの付近の魔物退治をしておこうという話になったらしい。私が魔獣退治に介入すると今後も期待されてしまう可能性がある。善意が義務になってもよくはないと……。
「空へお還り」
眼下の畑からわずかに光が見え隠れする。
浄化に成功したのかもしれない。まるでホタルのようだ。
魔物を浄化しても原因が取り除かれなければ、また魔物は増える。数は少なくなっても明日には多少は発生する。でも……それくらいでいい。気付かれない程度でなければ、期待されてしまう。生活に直結するからこそ、ベビーワームが出るたびに、なんで浄化してくれないんだと恨みに繋がってしまう。
人とは、そういう自分勝手なもの。一生懸命に生きているからこそだ。
魔物を一時的に退治したことではなく……私がここに住む人々の前で祈りを捧げたこと。それが見守られているという意識につながり、魔物が減る可能性はあるらしい。
そんな存在になってしまうことへの恐れはあるけど……でも、そうなるといいなとも思う。
「行こうか」
「そうね」
あ、大人っぽく返しちゃったかな。大人っぽいことを考えていたしね。さすがに卒業したら、子供っぽい話し方はプライベートでも卒業しようかなぁ。
どっちでもレイモンドは気にせず私を愛してくれるに決まっているけど!
「ラハニノスまで行っちゃおっか」
「それもいいかなー」
彼の杖に横乗りして、一緒にここからびゅーんと立ち去っていく。
「聖アリスちゃーん! バイバーイ!」
小さな男の子の声がしたと思ったら、あちこちから……。
「アリスちゃん、ありがとー!」
「アリス様、ありがとうございましたー!」
子供はちゃん付け。
大人は様付け。
正体がバレているうえに、絵本の影響が大きい気がする。
赤い服の二人が夜の闇の中、月明かりを浴びて飛んでいく。
「凱旋みたい……」
「結婚した時のための練習になるよね!」
空を凱旋するの?
私への人々の印象はどうなるんだろう。覚悟はしたけど、考えたくは……ないなぁ。
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