愛して欲しいと言えたなら

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再会

再会・・・その14

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「あい?って、あんた、どこ見てんのよ?」

「だって~・・・」

「あんたは、相変わらず多いの?」

「ちょっと!ふーちゃん!ダメでしょ?そんなことまで覚えてちゃ!」

「あはは!そろそろ暖ったまったから行くわよ」

まだ、何か言いたそうな雪子を横目に、夏樹は車を走らせた。

「ちなみにあんたの家、まだ変わってないわよね?」

「うん、おんなじ場所だよ」

「それじゃ、裕子に電話しなさい!もう帰って来てると思うから」

「うん・・・」

そう言うと、雪子はバッグからスマホを取り出した。

「そういえば、ふーちゃんは、今はどこに住んでるの?」

「あたし?あんたの家とは反対側になるかしら?」

「反対側?私の家の向かいに住んでるの?」

「何、言ってるのよ?違うわよ。反対って言うのは、街の反対側って意味よ」

「う~ん・・・おしいな~もう~・・・あっ!裕子?」

雪子は、スマホをかけながら夏樹と話をしていたらしい。

「うん、ふーちゃんがね、裕子に連絡しなさいって!うるさいんだよ」

「あ~っ!やっぱり、雪子、あの人に会いに行ってたのね?」

「へへ・・・バレちゃった?」

「もうバレバレでしょ?で、今、どこにいるの?」

「うんとね、ふーちゃんの車の中だよ」

「な~に?一緒なの?」

「うん。一緒!一緒!ふーちゃんと一緒だよ!」

「もう~困った子ね?それで、まさか、そのまま帰って来ない気じゃないでしょうね?」

「それがね、ふーちゃんったら、ちゃんと家に帰りなさいって言うのよ」

「ちゃんと帰りなさいって・・・ちょっと、雪子?」

「ふーちゃんね、もう女には興味がなくなったんだって!」

そう言いながら、チラチラ夏樹の方を見る雪子の頭を捕まえてゴニョゴニョしてくる夏樹に
(きゃっ!きゃっ!)・・・嬉しそうに甘える雪子の声が裕子のスマホから聞こえてきた。
はぁ~、私だって、一応、これでも昔は夏樹さんの彼女だった時もあるんだけどな~。

「それで、雪子はいつ帰ってくるの?」

「うんとね、今からだよ」

「今から・・・?」

「そうなんだ。ふーちゃんって、いつの間にか真面目になっちゃったみたい」

「いえ・・・それ、普通・・・いえ、確かに・・・」

「でしょ?でしょ?まだ7時前だって言うのに、もう帰りなさいって言うんだもん!」

「今からって、な~に?あの人に送って来てもらうの?」

「うん、そうだよ。もう向かってるけど・・・」

「もう向かってるって、まさか、雪子の家の前まで来るんじゃないでしょうね?」

「どうして・・・?」

「どうしてって、雪子?雪子は人妻なのよ?少しは思い出しなさい!人妻だって!」

「大丈夫だよ。だって、ふーちゃんってどこから見ても女の人にしか見えないから」

「なるほど!ってか、雪子、それでよくあの人だって分かったわね?」

「それにね、それにね、ふーちゃんね!お毛毛ないんだって!」

「ほら、そろそろ切りなさい」

夏樹にそう言われると、雪子は「バイバイ!今、帰るからね」と言ってスマホを切った。

「ちょっと雪子?ちょっと?」

まったく、もう~・・・。で・・・?・・・お毛毛がないって、なんのこと・・・?

「送るのは、あんたの家の前までじゃなくて、住宅街の入り口までよ」

「どうして・・・?」

「きっと、裕子が入り口で待ってるから」

「そっかな?だって、雪が降ってるよ?」

「まぁ~見てなさい」

とはいえ、このまま大人しく乗っている雪子ではないようで、
あ~でもない、こう~でもないと、夏樹に話しかけまくりながらの帰り道なのである。

「ほら!見なさい!ちゃんと待っててくれたでしょ?」

「あっ・・・ホントだ!」

雪子の実家がある住宅街の入り口に、傘をさした裕子が立っていた。
道路から入って少し広くなっている所に車を止めると、助手席のドアを開けて雪子が出てきた。

とはいえ、裕子の視線は、雪子ではなくて夏樹のいる運転席の方を見つめていた。
夏樹がドアを開けて降りてくるのか?それとも、そのまま帰ってしまうのか?

裕子は、夏樹に会えると思う気持ちと、30年以上も会っていない恥ずかしさが同居したまま、
胸の奥から心臓の音とともに、何とも言えない気持ちの高ぶりを感じていた。

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