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傷つけたい
傷つけたい・・・その7
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「あの、その感情の歪みというのは?」
「人が人を好きになるという感情は、とても素晴らしい事だと思います」
そう言うと、マスターは少し考え込むような仕草をしながらコーヒーを一口飲んで言葉を続ける。
「母親を好きになる。父親を好きになる。兄弟がいればその兄弟を好きになる。そして、人は成長とともに外の世界を知ると、今度は友達を好きになったり、クラブ活動などに入れば仲間の事が好きになる。そのうち異性を意識するようになると、人を好きになるという感情に疑問を抱くようになり、その先の世界を垣間見たくなっていきます」
「それは、恋人とかですか?」
「ええ、そうです・・・。男性が女性を、そして、女性が男性を好きになるようになると、人を好きになるという今までの経験の中にある好きという感情とは別に、まるで無重力の中にいるような感覚に戸惑う自分の感情を知るようになります」
「それは・・・?」
「親や兄弟に対しての好きという感情は一つしかないんです。それは、友達に対しても仲間に対しても同じ事が言えると思うんです。ところが、これが異性という事になると、好きという感情が一つではないという事を知るようになるんです」
「それは、憧れや片思いとかっていう事ですか?」
「ええ、そうです・・・。裕子様にとって、裕子様よりも年下なら弟のように年上なら兄のように、兄弟でもない異性に対して、そんな風に好きになる場合もありますよね」
「あっ・・・確かに、言われてみればそうですね」
「それと、異性に対して恋人という感情も一つではないんです」
「でも、もし、その二人が恋人同士なら、好きという気持ちは一つなんじゃないんですか?」
「こちらの場合は、好きという感情のバリエーションではなくて、好きという感情の深さと考えた方が分かりやすいかと思います」
「好きという深さ・・・ですか?」
「はい。好きになったその人のことを、どのくらい好きかという深さです」
「でも、それは、自分の家族や友達に対しても、同じような感情の深さとかがあるんじゃないですか?」
「確かにありますね・・・。この場合は、バリエーションと想いの深さという違いで考えた方が分かりやすかったですね。それでは、家族や友達と恋人との想いの深さの違いを言いますね」
「あっ・・・すいません。変な事を言ってしまって」
「ははは・・・気になさらなくても大丈夫です。結論から言いますと、胸がドキドキする感覚と、ドキドキしない感覚の違いだと思います」
「あっ、なるほど・・・。それなら分かりやすいです」
「それでは、こちらも結論から言いますと、雪子様の場合、その好きになるという想いの深さは、大切な指輪を、これほど長い年月の間ずっと守り続けてきたことで、その方をどれほどまでに好きなのかという雪子様の想いの深さは裕子様にも分かると思います」
「ええ・・・。それは、確かに」
「問題は、それゆえに、雪子様の中に、時折、現れてしまう感情の歪みの方なんです」
「その歪みって・・・?」
「雪子様が、大切にしたいと願う想いの中に生まれてくる感情の歪みなのです」
「それって、独占欲とか、ストーカーとかって事なんですか?」
「それなら、まだ救いもあるのですが。雪子様の場合は、それとは少し違うような気がするんです」
「違うって言いますと・・・?」
「一般に、ストーカーとかというのは独占欲が人一倍強いだけの感情に過ぎないので、確かにそういう感情も、どこか歪んだ感情なのかもしれませんが。でも、その歪みは、好きという感情から来ているわけではないと私は思うんです」
「えっ?・・・でも、よくニュースとかで・・・」
「本当にその人に事が好きなら、その人が傷つくような行為などするはずがありません・・・」
「言われてみれば、確かに・・・。それじゃ、ストーカーとかの感情の歪みというのは?」
「ストーカーの持つ好きという感情は愛情ではなくて、自分が欲しい玩具に対しての独占欲と同じような感情なのだと思います」
「それは、自分の思い通りにしたいという感情ですか?」
「はい・・・その通りです。さっきも言いましたけど、本気で、その人の事が好きなら、絶対に自分が好きになった人が悲しむような行為はしないものです」
「それじゃ、雪子の場合はいったい・・・?」
「あなたとなら地獄まで・・・。そして、微笑を浮かべる感情の歪みと言った方が分かりやすいかもしれません」
「人が人を好きになるという感情は、とても素晴らしい事だと思います」
そう言うと、マスターは少し考え込むような仕草をしながらコーヒーを一口飲んで言葉を続ける。
「母親を好きになる。父親を好きになる。兄弟がいればその兄弟を好きになる。そして、人は成長とともに外の世界を知ると、今度は友達を好きになったり、クラブ活動などに入れば仲間の事が好きになる。そのうち異性を意識するようになると、人を好きになるという感情に疑問を抱くようになり、その先の世界を垣間見たくなっていきます」
「それは、恋人とかですか?」
「ええ、そうです・・・。男性が女性を、そして、女性が男性を好きになるようになると、人を好きになるという今までの経験の中にある好きという感情とは別に、まるで無重力の中にいるような感覚に戸惑う自分の感情を知るようになります」
「それは・・・?」
「親や兄弟に対しての好きという感情は一つしかないんです。それは、友達に対しても仲間に対しても同じ事が言えると思うんです。ところが、これが異性という事になると、好きという感情が一つではないという事を知るようになるんです」
「それは、憧れや片思いとかっていう事ですか?」
「ええ、そうです・・・。裕子様にとって、裕子様よりも年下なら弟のように年上なら兄のように、兄弟でもない異性に対して、そんな風に好きになる場合もありますよね」
「あっ・・・確かに、言われてみればそうですね」
「それと、異性に対して恋人という感情も一つではないんです」
「でも、もし、その二人が恋人同士なら、好きという気持ちは一つなんじゃないんですか?」
「こちらの場合は、好きという感情のバリエーションではなくて、好きという感情の深さと考えた方が分かりやすいかと思います」
「好きという深さ・・・ですか?」
「はい。好きになったその人のことを、どのくらい好きかという深さです」
「でも、それは、自分の家族や友達に対しても、同じような感情の深さとかがあるんじゃないですか?」
「確かにありますね・・・。この場合は、バリエーションと想いの深さという違いで考えた方が分かりやすかったですね。それでは、家族や友達と恋人との想いの深さの違いを言いますね」
「あっ・・・すいません。変な事を言ってしまって」
「ははは・・・気になさらなくても大丈夫です。結論から言いますと、胸がドキドキする感覚と、ドキドキしない感覚の違いだと思います」
「あっ、なるほど・・・。それなら分かりやすいです」
「それでは、こちらも結論から言いますと、雪子様の場合、その好きになるという想いの深さは、大切な指輪を、これほど長い年月の間ずっと守り続けてきたことで、その方をどれほどまでに好きなのかという雪子様の想いの深さは裕子様にも分かると思います」
「ええ・・・。それは、確かに」
「問題は、それゆえに、雪子様の中に、時折、現れてしまう感情の歪みの方なんです」
「その歪みって・・・?」
「雪子様が、大切にしたいと願う想いの中に生まれてくる感情の歪みなのです」
「それって、独占欲とか、ストーカーとかって事なんですか?」
「それなら、まだ救いもあるのですが。雪子様の場合は、それとは少し違うような気がするんです」
「違うって言いますと・・・?」
「一般に、ストーカーとかというのは独占欲が人一倍強いだけの感情に過ぎないので、確かにそういう感情も、どこか歪んだ感情なのかもしれませんが。でも、その歪みは、好きという感情から来ているわけではないと私は思うんです」
「えっ?・・・でも、よくニュースとかで・・・」
「本当にその人に事が好きなら、その人が傷つくような行為などするはずがありません・・・」
「言われてみれば、確かに・・・。それじゃ、ストーカーとかの感情の歪みというのは?」
「ストーカーの持つ好きという感情は愛情ではなくて、自分が欲しい玩具に対しての独占欲と同じような感情なのだと思います」
「それは、自分の思い通りにしたいという感情ですか?」
「はい・・・その通りです。さっきも言いましたけど、本気で、その人の事が好きなら、絶対に自分が好きになった人が悲しむような行為はしないものです」
「それじゃ、雪子の場合はいったい・・・?」
「あなたとなら地獄まで・・・。そして、微笑を浮かべる感情の歪みと言った方が分かりやすいかもしれません」
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