愛して欲しいと言えたなら

zonbitan

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あなたが見えない

あなたが見えない・・・その1

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裕子が夏樹に電話をかけている頃、直美は、気分転換にと思い京子を食事に誘ってみた。
直美は、京子がシートベルトを締めるのを確認してからキーを回してエンジンをかけた。

「でも、直美?さっきは、どうして、あの人の性格みたいなことを私に訊いたの?」

「別にこれといって深い意味はないんだけど、ほら、私って夏樹さんの事とかよく知らないじゃない?」

「知らないって、だって、あの人と会って話をしてきたんでしょう?」

「それはそうだけど、1回や、2回、会って話をしたくらいじゃ、やっぱ分かんないじゃない?」

「何・・・?直美、あの人と2回も会ってたの?」

ハチャー・・・お口が滑ってしまったぞいな・・・。
でも、なんか、いついまでも、夏樹さんの事で、京子に気を使いながら話してても仕方がないわよね。

「ええ・・・会ったわよ」

「いつ・・・?」

はい・・・?どちて、いきなり、そこを突っ込むわけ?

「いつって・・・今日だけど・・・」

「うそ・・・?」

「いやね、午前中に京子が私に電話をしてきたでしょ?」

「私の電話が、どうして直美があの人に会う事に繋がるわけ?」

「京子が、電話で言ってたじゃない?夏樹さんと雪子さんの事をさ」

「言ってたって・・・あの人が雪子さんとって事?」

「そうよ。それで、京子に会う前に、その事を、夏樹さんに確かめようと思ったのよ」

「思ったのよって・・・バカじゃないの?」

「どうしてよ・・・?」

「だって、そんなの、あの人が、雪子さんと付き合ってます。なんて、馬鹿正直に言うわけないじゃない?」

「へっ・・・?」

「んもう~、そういうとこって、直美は、昔から少しも変ってないわね」

まあ~ね・・・。
確かに、私って、昔から信じやすくて裏切られやすいところがあるにはあるけど・・・

「でも、夏樹さんが嘘を言ってるようには思えなかったけどな~」

「そうじゃないわよ。あの人は、昔から口が上手いのよ」

「そうかな~?」

「それじゃ、せっかく街に行くんだから、あの人の家の前でも通って行ってみる?」

「どうして・・・?」

「もしかして、雪子さんと会ってたりして・・・」

「会ってたりって、いくらなんでも、雪子さんが夏樹さんの家にいるとは思えないんですけど」

「あら?直美って、変な事を言うのね?」

「変な事・・・?」

「いま、雪子さんがあの人の家にいるとは思えないって言ったわよね?」

「まあ・・・言った事は言ったけど。それのどこが変な事なの?」

「普通なら、雪子さんはこの街にいないんだから会えるわけがないって言うんじゃない?」

「いや~別に、そんなに違いはないと思うけど・・・」

「そうかしら?今日の直美の電話の内容。それに、今日も、あの人に会いに行ってた。しかも、雪子さんと付き合っているのかどうかを確かめるために・・・。まるで、雪子さんが、この街に帰ってきてるみたいじゃない?」

「まさか・・・」・・・ってか、すごい勘繰りに思うんですけど。

「それじゃ、どうして、ふーちゃんって名前を私に訊いてきたの?」

「いえ・・・それは・・・あの・・・」

京子に気を使わないようにと思いながら話そうとしても、無意識に気を使ってしまうからなのか。
なぜか、今日に限っては、どうしても、自分から墓穴を掘ってしまう直美なのである。

その頃、裕子はスマホの呼び出し音から手に伝わってくる複雑なドキドキ感に襲われながら、夏樹が通話ボタンを押すのを待っていた。

「もしもし・・・夏樹さん?」

「あら?その可愛い声は、あたしの愛しい裕子じゃない?」

「もう~!心にもないことを・・・。それより・・・」

「雪子でしょ・・・?」

「どうして、分かったの・・・?」

「今、あたしの歩いている前方10メールにて、射程距離内に入ってるわ!」

「やっぱり・・・」

「やっぱりって・・・どうかしたの?」

「あのね、雪子ね、今日はね、駄目なのよ。だからね・・・」

「あんた、言葉がバラバラよ?」

「いや・・・だからね、今日は、雪子に会っては駄目なのよ」

「駄目?どうして、駄目なの?」

「あのね、来てるのよ」

「来てる・・・?誰が・・・?」

「愛奈ちゃんが来てるのよ。雪子と一緒に来てるのよ」

「愛奈ちゃん?まあ、いいわ。とりあえず、後で電話するから今は切るわね」

「えっ・・・?えええ===っ?」

思わず出てしまった無情なる悲痛の声に反応した周りの視線に、慌ててコーヒーを口にする裕子だった。
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