【勇者の友人】~【勇者】のギフトの本体が、僕だった件について~戻って来いって言われたって、今更君たちを“友人”だとは思えないよ。

くーねるでぶる(戒め)

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第二章

067 エサと罠

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「あぁもう、ほんと最悪ぅー……」

 森から離れた草原。見晴らしのよい小高い丘の上に、ルイーゼの嫌悪の混じった声が漏れる。僕はそれを、へヴィークロスボウを構えて森を監視しながら聞いていた。思わず苦笑いが零れる。

 ルイーゼが嘆いている原因。それは、オーガの血糊だ。オーガを軽く倒してしまった彼女でもこれには手こずっているみたいで、先程からグチグチと零している。剣や鎧に付いた血糊はなんとか落とせたけど、服に付いた血糊が落ちずにシミになってしまったらしい。

「せっかくのおニューなのにー……」

 振り返ると、紺に白のフリルが付いたロングワンピースを着ているルイーゼの姿が目に入った。光り輝く金糸のようなサラサラの髪をそよ風に靡かせ、銀色に輝くアイアンアーマーを身につけた姿は、戦乙女のような絵になる美しさがあった。眉を寄せて不機嫌そうな顔をしているけど、その美貌に陰りはない。題して『ワルキューレのつかの間の休息』なんてどうだろう?

 彼女の言葉どおり、その装備は今回の冒険にあたって新調したものだ。新品の装備が汚れてしまった彼女の嘆きには察するにあまりあるものがある。ただ、不幸中の幸いか、紺色のワンピースなので、シミは目立たないけど、汚れてしまった事実にはかわりない。

「野生の魔物の相手って嫌ね。斬ったら血が出るし、臭いし……」

 僕たちが普段相手にしているダンジョンのモンスターは、斬っても血は出ないし、倒すとドロップアイテムを残して煙となって消えてしまう。根本から生き物とは違うモンスターとしか呼べない奇っ怪な存在だ。だから、血糊で汚れたりということはない。

 野生の魔物を相手にするより、ダンジョンのモンスターを相手にする方が安全だし、楽なのだ。野生の魔物は、ダンジョンのモンスターと違い、その強さも分からなければ、いつ襲ってくるかも分からない。当然、ダンジョンのように安全地帯があるわけでもない。ルイーゼが嘆くように血で汚れたりするしね。僕たち冒険者が、魔物の相手よりダンジョンに潜ることを優先する理由も分かってくれると思う。

 まぁ、中には変わり者も居て、魔物を専門に狙う冒険者パーティもあるらしい。ダンジョンでモンスターの奪い合いをするくらいなら、競争相手の居ない魔物を狙うことにした冒険者パーティだ。

 この前の『コボルト洞窟』みたいに冒険者パーティがひしめきあうように混雑することは稀な例だけど、ダンジョンでのモンスターの奪い合い、特にボスモンスターの奪い合いは日常茶飯事。酷い場合、僕たちが被害に遭ったように、ライバル冒険者パーティを亡き者にしようとするケースもある。

 そんな面倒事とはおさらばできるのは、魔物狩りの大きなメリットだろう。他にも、魔物を狩ると、領主から助成金が出たり、狩った魔物の素材を丸々手に入れることができるメリットがある。

 こう考えてみると、魔物を狩ることも悪くないような気がするけど、やっぱり危険なことと汚れ仕事だからか、魔物狩りよりもダンジョン攻略をする冒険者パーティの方が圧倒的に多い。そのせいか、有名どころの冒険者パーティは、全てダンジョン攻略で名を上げたパーティばかりだ。

 それに、なんと云ってもダンジョンにはダンジョンにしかない魅力がある。多くの冒険者が求めて止まないもの。それは宝具だ。

 宝具は、ダンジョンで稀に発見される不思議な力を持ったアイテムの総称だ。宝箱の中に入っていたり、ダンジョンボスを倒した時、たまにポップする色違いモンスターを倒した時なんかにドロップアイテムとして手に入れることもある。

 有用なまさに宝具といった物から、なんのためにあるのかも分からないような珍品まで、非常にバリエーション豊かな多種多様な宝具がダンジョンで発見されている。

 宝具のような不思議な力を持つ道具は、ダンジョンでしか見つかっていない。ある人は宝具をエサと呼び、ダンジョンは人間をおびき寄せて食べる悪魔の罠だと言う。またある人は、ダンジョンを神の試練やら、魂の精錬場と呼び、宝具は神からの褒美だとありがたがる。まぁ冒険者の大半は、そんなことどうでもいいと思いながら宝具目当てにダンジョンに潜る。そんな僕らを愚か者と呼ぶか修験者と呼ぶかはあなた次第。

 ちなみに、この件に関して教会はなにも声明を出していない。たぶん、教会の頭の良い偉い人たちにも答えが分からなかったのだろう。沈黙は霊銀、雄弁は金なんて言葉があるけど、まさにその通りだね。下手なことは言わないに限る。

 僕も雄弁な人間よりも沈黙を選べる人間に成りたいな。例えば、女の子の身支度の時間の長さにも沈黙を選べる人間でありたいね。

「もぉ~。落ちないし~……。はぁ……もういいわ。みんな、ごめんね。お待たせ……」

 明らかにテンションの低いルイーゼが、バックラーを持って立ち上がった。どうやら服のシミ抜きは諦めたらしい。まぁ血のシミだし気持ちが悪いよね。

「いえいえ。オーガのツノの採取もありましたので、丁度良かったです」

 オーガの討伐証明部位は、2本のツノらしい。このツノを冒険者ギルドに持っていくと、領主から討伐の報奨金が出る。

 それにしても、やっぱりラインハルトの気遣いはさすがだね。ルイーゼが気を遣わないように配慮しているのが分かる。先程は沈黙を選べる人間に成りたといった僕だけど、ラインハルトのような雄弁にもやっぱり憧れてしまうな。

「なんか来てる!」

 ようやくパーティが動き出そうとした時、マルギットの悲鳴のような声が上がるのが聞こえた。そちらに目を向けると、草原を馬で移動する一団が目に入る。いや、あれは馬だろうか? 馬の首から直接人の上半身が生えているような……。

「セントール! 見つかってしまいましたか!」

 セントール!? たしか、人間の上半身と馬の下半身を持つ魔物だ! 主に草原に出没し、野盗のように人を襲う。その特徴は……。

「弓! セントールは弓を使う!」

 馬の速さと弓の射程と攻撃力。セントールは天然の弓騎兵だ。

「弓の間合いから一方的に攻撃してきて、追いかけると逃げながら弓を撃ってくる。厄介な相手だよ」
「なるほど……」

 僕の言葉に重々しく頷いたラインハルト。そして、皆の視線は自然とルイーゼに集まる。ルイーゼは、その青の瞳でセントールの群れをキッと睨むと、ヴァージンスノーをシャラリと抜いてセントールへと突きつける。

「迎撃よ! 敵! セントール8! 対騎馬戦よーい! あたしとリリーで行くわ!」

 ルイーゼの指示に、僕は地面に伏せて草の中に隠れながら、へヴィークロスボウを構えるのだった。
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