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081 賭け
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クロエの左腹への一撃。背筋を逸らして天を見上げていた白狼が、ついに力尽きたのか、だらんとその巨大な頭が、急に支えを失ったように落ちてくる。薄い土煙の向こう。その落下地点には、黒に赤のラインが入った軽装鎧の少女が居た。
土煙の中にあっても、強烈に見る者の目を奪う赤いポニーテール。ジゼルだ。ジゼルが大きく足を開いて腰を落とし、その手を鞘に納めた剣の柄に置いている。ジゼルの得意技。抜刀術だ。
おそらく、まだ剣士として体ができあがっていないジゼルが、少しでも斬撃の威力を上げようとして、辿り着いた答えが抜刀術なのだろう。
既に、たまにオレから一本を取ることもあるジゼルだ。その実力は、レベル4のダンジョンでも通用するまでになっていると断言できる。
実際、ジゼルは今回の白狼戦でも活躍を見せている。白狼に深手を負わすこと二回。白狼の攻撃も全て紙一重で避けてみせた。
元々、勝気な少女だったが、初めての大型モンスター戦で怖気づかないその胆力は称賛に値する。
そんなジゼルが、落ちてくる白狼の頭の下で待ち構えている。なにをしようとしているのか、オレにはすぐに分かった。ジゼルは、次の攻撃で白狼を屠るつもりだ。
白狼はまだその身を白煙に変えてはいない。つまり、まだ生きているのだ。
もし、ジゼルの攻撃で白狼が消滅しなかった場合、ジゼルは白狼の頭に圧し潰されることになるだろう。白狼は既に死に体だ。今更そんな危険を冒す必要などどこにもない。だというのに、ジゼルは無意味に自分の命を賭けている。
その姿からは、ジゼルの並々ならない覚悟のようなものが伝わってきた。
「伝わってはくるがな……」
オレは収納空間を前方に展開しながら、自分の顎を手で摩った。無精ヒゲのチクチクした感覚が指に刺さる。
正直、ジゼルのやろうとしていることに、オレは同心できないでいた。なぜ、無暗に自分の命を賭けられるのか、理解はできない。だが、ジゼルのような行動を取る人間が冒険者に多いことも理解している。
「必ず屠れるという自信がそうさせるんだろうが……」
あるいは、ジゼルにとって、もうレベル3のダンジョンでは満足できないと言外に言っているのかもしれない。
ジゼルのギフトは【剣王】。その効果は、持ち主の剣技の習熟にボーナスが付くこと。つまり、ジゼルの成長は他の奴よりも早いのだ。その成長速度の違いも加味しないといけないな。
最初は似たような強さの奴でも、時が経てば、その強さにバラつきが出るのは避けられない。そのあたりも上手く差配するのがリーダーの役目だ。
例え、ジゼルのように規格外の成長速度を誇っていても、それは変わらない。
「面倒だが、やるしかねぇか……」
ジゼルと一度話し合う必要性を感じながら、オレはジゼルの独断専行を許すことにした。
ボルトの一斉射で、白狼の頭を吹き飛ばすのは容易いことだ。ジゼルの命を無駄に危険にさらす必要もない。だが、ジゼルができると背中で語っているのだ。ここは一度、ジゼルを信用することにする。
まぁ、ジゼルがそういう思考の持ち主というのが分かっただけでも、今回は収穫だったな。その分、手をかけてジゼルを育てていけばいいだけだ。この手の思考の奴がパーティメンバーなんて、今まで幾度も体験してきたからな。勝手も分かっている。
「上手くやれよ……」
その言葉はジゼルに言ったのか、それとも自分に言い聞かせたのか、自分でもよく分からない気持ちで呟いていた。
視界の向こう、ジゼルが落ちてくる白狼の頭を見上げて一段と深く腰を落とす。そして、次の瞬間には土煙の中に鋭い銀の線が走る。
「ちぇりおッ!」
誰に習ったのか、ジゼルが奇怪な声を上げる。しかし、その声には裂帛の気迫が乗っていた。間違いなくジゼルの全力だと分かる一撃だ。
ジゼルの長剣が走ったのは、白狼の首だった。白狼の首がカパッとおもちゃのように裂け、どっぷりと見通せないほどの濃さの白煙が噴き出す。まるでミルクをぶちまけたような白煙に、ジゼルの姿が隠れてしまう。
「ジゼルッ!?」
「ジ……ッ!?」
横からイザベルとリディの焦ったような声が聞こえた。傍から見れば、ジゼルが白狼の頭に圧し潰されたように見えるのだから当然だろう。
「ふぅー……」
だが、オレはイザベルとリディとは逆に安堵の溜息を吐いていた。
ボフンッ!
白狼の巨体が、まるで魔法のように白煙へと一瞬で変わる。白狼の形をした白煙が薄れて晴れた時、そこには長剣を振り抜いたまま残心を残しているジゼルの姿があった。ジゼルは賭けに勝ったのだ。
「まったく、冷や冷やさせやがって……」
オレが呟くのと同時に、クロエとエレオノールが、最後の一撃を決めたジゼルへと駆け寄っていくのが見えた。ジゼルも残心を解き、クロエとエレオノールと共になにか話している。
オレたちも行くか。
「イザベル、リディ。オレたちも行くぞ」
「え? ええ」
「無事……?」
ジゼルの生存をようやく確認して安堵したのか、少し呆けたような様子のイザベルとリディを連れて、クロエの元に歩いていく。
言いたいことや小言はたくさんあるが、まずは皆を褒めるところからだな。過剰にならないように注意しなければ。
土煙の中にあっても、強烈に見る者の目を奪う赤いポニーテール。ジゼルだ。ジゼルが大きく足を開いて腰を落とし、その手を鞘に納めた剣の柄に置いている。ジゼルの得意技。抜刀術だ。
おそらく、まだ剣士として体ができあがっていないジゼルが、少しでも斬撃の威力を上げようとして、辿り着いた答えが抜刀術なのだろう。
既に、たまにオレから一本を取ることもあるジゼルだ。その実力は、レベル4のダンジョンでも通用するまでになっていると断言できる。
実際、ジゼルは今回の白狼戦でも活躍を見せている。白狼に深手を負わすこと二回。白狼の攻撃も全て紙一重で避けてみせた。
元々、勝気な少女だったが、初めての大型モンスター戦で怖気づかないその胆力は称賛に値する。
そんなジゼルが、落ちてくる白狼の頭の下で待ち構えている。なにをしようとしているのか、オレにはすぐに分かった。ジゼルは、次の攻撃で白狼を屠るつもりだ。
白狼はまだその身を白煙に変えてはいない。つまり、まだ生きているのだ。
もし、ジゼルの攻撃で白狼が消滅しなかった場合、ジゼルは白狼の頭に圧し潰されることになるだろう。白狼は既に死に体だ。今更そんな危険を冒す必要などどこにもない。だというのに、ジゼルは無意味に自分の命を賭けている。
その姿からは、ジゼルの並々ならない覚悟のようなものが伝わってきた。
「伝わってはくるがな……」
オレは収納空間を前方に展開しながら、自分の顎を手で摩った。無精ヒゲのチクチクした感覚が指に刺さる。
正直、ジゼルのやろうとしていることに、オレは同心できないでいた。なぜ、無暗に自分の命を賭けられるのか、理解はできない。だが、ジゼルのような行動を取る人間が冒険者に多いことも理解している。
「必ず屠れるという自信がそうさせるんだろうが……」
あるいは、ジゼルにとって、もうレベル3のダンジョンでは満足できないと言外に言っているのかもしれない。
ジゼルのギフトは【剣王】。その効果は、持ち主の剣技の習熟にボーナスが付くこと。つまり、ジゼルの成長は他の奴よりも早いのだ。その成長速度の違いも加味しないといけないな。
最初は似たような強さの奴でも、時が経てば、その強さにバラつきが出るのは避けられない。そのあたりも上手く差配するのがリーダーの役目だ。
例え、ジゼルのように規格外の成長速度を誇っていても、それは変わらない。
「面倒だが、やるしかねぇか……」
ジゼルと一度話し合う必要性を感じながら、オレはジゼルの独断専行を許すことにした。
ボルトの一斉射で、白狼の頭を吹き飛ばすのは容易いことだ。ジゼルの命を無駄に危険にさらす必要もない。だが、ジゼルができると背中で語っているのだ。ここは一度、ジゼルを信用することにする。
まぁ、ジゼルがそういう思考の持ち主というのが分かっただけでも、今回は収穫だったな。その分、手をかけてジゼルを育てていけばいいだけだ。この手の思考の奴がパーティメンバーなんて、今まで幾度も体験してきたからな。勝手も分かっている。
「上手くやれよ……」
その言葉はジゼルに言ったのか、それとも自分に言い聞かせたのか、自分でもよく分からない気持ちで呟いていた。
視界の向こう、ジゼルが落ちてくる白狼の頭を見上げて一段と深く腰を落とす。そして、次の瞬間には土煙の中に鋭い銀の線が走る。
「ちぇりおッ!」
誰に習ったのか、ジゼルが奇怪な声を上げる。しかし、その声には裂帛の気迫が乗っていた。間違いなくジゼルの全力だと分かる一撃だ。
ジゼルの長剣が走ったのは、白狼の首だった。白狼の首がカパッとおもちゃのように裂け、どっぷりと見通せないほどの濃さの白煙が噴き出す。まるでミルクをぶちまけたような白煙に、ジゼルの姿が隠れてしまう。
「ジゼルッ!?」
「ジ……ッ!?」
横からイザベルとリディの焦ったような声が聞こえた。傍から見れば、ジゼルが白狼の頭に圧し潰されたように見えるのだから当然だろう。
「ふぅー……」
だが、オレはイザベルとリディとは逆に安堵の溜息を吐いていた。
ボフンッ!
白狼の巨体が、まるで魔法のように白煙へと一瞬で変わる。白狼の形をした白煙が薄れて晴れた時、そこには長剣を振り抜いたまま残心を残しているジゼルの姿があった。ジゼルは賭けに勝ったのだ。
「まったく、冷や冷やさせやがって……」
オレが呟くのと同時に、クロエとエレオノールが、最後の一撃を決めたジゼルへと駆け寄っていくのが見えた。ジゼルも残心を解き、クロエとエレオノールと共になにか話している。
オレたちも行くか。
「イザベル、リディ。オレたちも行くぞ」
「え? ええ」
「無事……?」
ジゼルの生存をようやく確認して安堵したのか、少し呆けたような様子のイザベルとリディを連れて、クロエの元に歩いていく。
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