83 / 124
083 反省会③
しおりを挟む
「で、だ……」
一波乱あったエレオノールの装備の点検も終わり、オレは改めて五人の少女たちを見渡す。皆、楽な姿勢を取って、オレの顔を見上げていた。先程のエレオノールへの辱めで大きく株を下げたオレだが、それでもまだ、少女たちはオレの話を聞いてくれるようだ。
そのことに安堵して、オレはまずエレオノールを見る。エレオノールは、まだ若干顔を赤らめていたが、青い瞳は真剣にオレのことを見ていた。
「まず、エレオノールだな。巨体の白狼相手に、よく立ち向かってくれた。その勇気は称賛に値する。素晴らしい。タンクという過酷な役割の中で、その勇気は、必ずお前の武器になる」
「はいっ!」
真剣な硬い表情を浮かべていたエレオノールが、目尻を緩めて柔らかな笑みを浮かべる。どちらかと言うと、ホッとしたような安堵の笑みだな。
エレオノールは、失敗を恐れる傾向が強い気がする。リスクのある成功よりも、安定を求めることが多かった。悪く言い方を変えれば消極的だった。
それが、ここ『白狼の森林』に来て、若干の変化があった。
何度もオオカミたちにいいように弄ばれた経験から、このままではダメだと奮起し、より良い選択肢を探し始めたのだ。
最初は二体のオオカミに遊ばれてしまったが、今では三体のオオカミを捌けるまでに成長している。今日一日で、目を瞠るような驚くべき成長を遂げてくれた。
「何度吹き飛ばされても立ち上がり、敵に立ち向かう勇気。そしてなにより、白狼への鼻っ面への一撃は見事だった。白狼の注意が完全にクロエに向いた時に、白狼の注意を引こうと無理せず、敢えて声を上げずに襲撃したのは素晴らしい状況判断だ」
「はいぃ!」
照れたように若干オレから目を逸らすエレオノール。落ち着きかけたその頬は、再び上気し始めていた。
「そうそう。エルエルってばすごいよねー。エルエルがいつも一番最初に敵に立ち向かってくれるから、あーしも勇気もらえるし!」
「あたしも! エルがガッチリ敵の注意を引いてくれるから、あたしも自由に動けるし!」
「まあ! お二人とも、ありがとうございます」
ジゼルとクロエもエレオノールを褒め出し、エレオノールはますます頬を染めていく。
「ジゼルもクロエもすごかったですよ。ジゼルには助けられましたし、クロエの一撃で戦況が大きく動きましたし」
エレオノールが、お返しにとジゼルとクロエを褒める。そうだな。エレオノールばかりではなく、二人も褒めなければ。
「エルの言う通り、ジゼルもクロエもよくやったな。ジゼルは白狼の追撃を防いだし、クロエの一撃は見事という他なかった。二人とも素晴らしい働きだったな。初めての大型モンスター戦で、あれだけ動ければ文句は無い」
「おしゃー!」
「ふふんっ!」
オレの言葉に、ジゼルとクロエが大袈裟に喜びを露わにする。
「あーしら最強ー! Foooooooooo!」
「Fooooooooooo!」
「え? あの……。F、Foooooo!」
ジゼルとクロエがハイタッチして盛り上がり、エレオノールも戸惑いながらそこに加わる。初めての大型モンスターの討伐を成して、いつも以上に達成感を感じて高揚しているのだろう。三人ともテンションが高い気がする。
「落ち着け落ち着け」
オレは、前衛三人娘を落ち着けて、話を本題へと戻す。
「それで、どうだった? 初めての大型モンスターが相手だったが、なにかつかめたか?」
「そうですね……。初めに聞いてはいましたが、大きいというのはそれだけで脅威ですね。軽くぶつかっただけでも吹き飛ばされてしまいました……」
「大き過ぎて斬れなかったよねー……。斬っても致命傷にはならない感じー」
「そうね。体が大きいから、致命傷部分までスティレットが届かないのよね。太ってるわけじゃないけど、お肉が邪魔で届かないみたいな。一撃で倒せないって怖いかも……」
エレオノール、ジゼル、クロエが、それぞれ先程の白狼戦を振り返って難しい表情を浮かべていた。
オレからすれば、最初の一回は恐れずに立ち向かうことができれば合格だった。期待してはいたが、白狼の討伐はあまり重要視していなかった。倒せなくても、感覚がつかめるだけでいいと割り切っていたくらいだ。
オレの予想以上の戦果を挙げたクロエたちだが、その分、各々が見えた課題は大きそうだな。
「耳にタコができちまうかもしれねぇが、まぁ聞いてくれ。お前らが言ったように、体がデカいってのはそれだけで脅威だ。ただ足で踏まれるだけでも、大怪我しちまうほどな。同じオオカミなのに、デカいってだけで攻撃面も防御面も強化されてやがる。まぁ、やりにくい相手だな」
クロエたち前衛三人娘は、オレの話に真剣に耳を傾けていた。そのことに、オレは感謝をもって口を開く。
「だが、こればかりは少しずつ慣れていくしかねぇんだ。簡単な近道なんてねぇ。一歩ずつ、課題を見つけてそれを乗り越えていくんだ。まぁ、安心しろ。今回も山のように食料を持ってきたからな。何日でも戦えるぞ」
「うへぇー……」
「叔父さん、ひょっとして……」
「その……。今回も何泊もするのですか……?」
「当たり前だろ。せっかく来たんだ。ボスを余裕で倒せるようになるまで張り込むぞ」
一波乱あったエレオノールの装備の点検も終わり、オレは改めて五人の少女たちを見渡す。皆、楽な姿勢を取って、オレの顔を見上げていた。先程のエレオノールへの辱めで大きく株を下げたオレだが、それでもまだ、少女たちはオレの話を聞いてくれるようだ。
そのことに安堵して、オレはまずエレオノールを見る。エレオノールは、まだ若干顔を赤らめていたが、青い瞳は真剣にオレのことを見ていた。
「まず、エレオノールだな。巨体の白狼相手に、よく立ち向かってくれた。その勇気は称賛に値する。素晴らしい。タンクという過酷な役割の中で、その勇気は、必ずお前の武器になる」
「はいっ!」
真剣な硬い表情を浮かべていたエレオノールが、目尻を緩めて柔らかな笑みを浮かべる。どちらかと言うと、ホッとしたような安堵の笑みだな。
エレオノールは、失敗を恐れる傾向が強い気がする。リスクのある成功よりも、安定を求めることが多かった。悪く言い方を変えれば消極的だった。
それが、ここ『白狼の森林』に来て、若干の変化があった。
何度もオオカミたちにいいように弄ばれた経験から、このままではダメだと奮起し、より良い選択肢を探し始めたのだ。
最初は二体のオオカミに遊ばれてしまったが、今では三体のオオカミを捌けるまでに成長している。今日一日で、目を瞠るような驚くべき成長を遂げてくれた。
「何度吹き飛ばされても立ち上がり、敵に立ち向かう勇気。そしてなにより、白狼への鼻っ面への一撃は見事だった。白狼の注意が完全にクロエに向いた時に、白狼の注意を引こうと無理せず、敢えて声を上げずに襲撃したのは素晴らしい状況判断だ」
「はいぃ!」
照れたように若干オレから目を逸らすエレオノール。落ち着きかけたその頬は、再び上気し始めていた。
「そうそう。エルエルってばすごいよねー。エルエルがいつも一番最初に敵に立ち向かってくれるから、あーしも勇気もらえるし!」
「あたしも! エルがガッチリ敵の注意を引いてくれるから、あたしも自由に動けるし!」
「まあ! お二人とも、ありがとうございます」
ジゼルとクロエもエレオノールを褒め出し、エレオノールはますます頬を染めていく。
「ジゼルもクロエもすごかったですよ。ジゼルには助けられましたし、クロエの一撃で戦況が大きく動きましたし」
エレオノールが、お返しにとジゼルとクロエを褒める。そうだな。エレオノールばかりではなく、二人も褒めなければ。
「エルの言う通り、ジゼルもクロエもよくやったな。ジゼルは白狼の追撃を防いだし、クロエの一撃は見事という他なかった。二人とも素晴らしい働きだったな。初めての大型モンスター戦で、あれだけ動ければ文句は無い」
「おしゃー!」
「ふふんっ!」
オレの言葉に、ジゼルとクロエが大袈裟に喜びを露わにする。
「あーしら最強ー! Foooooooooo!」
「Fooooooooooo!」
「え? あの……。F、Foooooo!」
ジゼルとクロエがハイタッチして盛り上がり、エレオノールも戸惑いながらそこに加わる。初めての大型モンスターの討伐を成して、いつも以上に達成感を感じて高揚しているのだろう。三人ともテンションが高い気がする。
「落ち着け落ち着け」
オレは、前衛三人娘を落ち着けて、話を本題へと戻す。
「それで、どうだった? 初めての大型モンスターが相手だったが、なにかつかめたか?」
「そうですね……。初めに聞いてはいましたが、大きいというのはそれだけで脅威ですね。軽くぶつかっただけでも吹き飛ばされてしまいました……」
「大き過ぎて斬れなかったよねー……。斬っても致命傷にはならない感じー」
「そうね。体が大きいから、致命傷部分までスティレットが届かないのよね。太ってるわけじゃないけど、お肉が邪魔で届かないみたいな。一撃で倒せないって怖いかも……」
エレオノール、ジゼル、クロエが、それぞれ先程の白狼戦を振り返って難しい表情を浮かべていた。
オレからすれば、最初の一回は恐れずに立ち向かうことができれば合格だった。期待してはいたが、白狼の討伐はあまり重要視していなかった。倒せなくても、感覚がつかめるだけでいいと割り切っていたくらいだ。
オレの予想以上の戦果を挙げたクロエたちだが、その分、各々が見えた課題は大きそうだな。
「耳にタコができちまうかもしれねぇが、まぁ聞いてくれ。お前らが言ったように、体がデカいってのはそれだけで脅威だ。ただ足で踏まれるだけでも、大怪我しちまうほどな。同じオオカミなのに、デカいってだけで攻撃面も防御面も強化されてやがる。まぁ、やりにくい相手だな」
クロエたち前衛三人娘は、オレの話に真剣に耳を傾けていた。そのことに、オレは感謝をもって口を開く。
「だが、こればかりは少しずつ慣れていくしかねぇんだ。簡単な近道なんてねぇ。一歩ずつ、課題を見つけてそれを乗り越えていくんだ。まぁ、安心しろ。今回も山のように食料を持ってきたからな。何日でも戦えるぞ」
「うへぇー……」
「叔父さん、ひょっとして……」
「その……。今回も何泊もするのですか……?」
「当たり前だろ。せっかく来たんだ。ボスを余裕で倒せるようになるまで張り込むぞ」
143
あなたにおすすめの小説
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』
アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた
【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。
カクヨム版の
分割投稿となりますので
一話が長かったり短かったりしています。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる