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17 カレー大人気

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「ぐああ! うめー! なんだよこのスパイシーな燃える味はよお!」
「ただ辛いだけじゃないわね。とても繊細な計算されつくされた味よ。まさかこんなに完成度の高い料理があるなんて……!」
「はぐ! はぐ! こんなうめえの食ったことねえよ!」
「これ、やっべえよ! ウサギ肉がマジうめえ!」

 夜警に参加していた虎族の青年たちが、一心不乱にカレーを貪っている。オレはその様子を心が満たされるような気持ちを感じながら見ていた。

 やっぱり、オレは自分の料理で誰かを幸せにできることに無上の喜びを感じるらしい。もうほんと、空を飛べそうな気持だ。

「おかわりもあるから、ゆっくり食べてくれ」

 ガタッ!

 そう言った瞬間、虎族の青年たちが一斉に立ち上がった。

「おかわりだ!」
「てめ、どけよ!」
「ちょ!? どこ触ってるの!?」
「早い者勝ちだぜー!」
「あらら……」

 ゆっくり食べるように言ったのだが、彼らは大きな寸胴鍋をひっくり返しそうな勢いでおかわり争奪戦に入ってしまった。

「食べきれない量作ったんだが……。聞いちゃいないな……」

 そんなことを呟きながら、オレはせっせとナンを焼いていく。大量に作ったスパイスカレー。その付け合わせになるナンの量も膨大で、まだ全部焼きあがらない。

「ほら、ナンも焼けたぞー」
「っしゃ!」

 ナンをテーブルに置いた瞬間、瞬時に消える。すごい手の速さだ。バルタザールの目でなくてはきっと見逃していただろう。

「このナンってのもうまいよな。パリパリなのに甘みがあってよ」
「本当に。これだけでも十分ご馳走ね」
「コムギってやつを使うんだろ? トルティーヤとはずいぶん違うよな」
「わいは芋よりもこっちの方が好きだな」

 ナンも好評みたいでよかったよ。ゲームでの知識だが、ウリンソン連邦は大陸でも南部にあり、小麦よりもトウモロコシや芋の栽培が主だったことを覚えている。

 特に首都のウリンソンは森の中にある。農耕民族というよりも狩猟民族のような生活スタイルだ。小麦のパンは珍しいのだろう。

 となると、小麦の使用を今後は控えないといけないかもしれない。隣国であるマルブランシェ王国は戦争中で劣勢だし。たぶん、食料品の補充はできないだろうな。

 マルブランシェ王国といえば、フェリシエンヌとエステルは今頃何をしているのだろう? 

 ゲーム通りなら、フェリシエンヌたちはウリンソン連邦に援軍を要請しているのだろう。だが、それは難しい。

 ウリンソン連邦に属する亜人やエルフ、ドワーフたちにとって、人間は野蛮な種族だと認知されている。

 同じ種族同士なのに、飽きもせず殺し合いばかりしているからな。

 違う種族であってもお互いを尊重して生活しているウリンソン連邦の者たちにとっては信じられないくらい野蛮な種族だ。

 今回のランゲンバッハ帝国によるマルブランシェ王国への侵略戦争も、ウリンソン連邦の者たちにとっては人間たちの内輪揉めのように映っていることだろう。

 そんな所に、しかも劣勢の側に援軍を送るなんてしないさ。むしろ、早く人間国家が一つに纏まるようにランゲンバッハ帝国を応援しているかもしれない。

 ゲームでも、ウリンソン連邦はランゲンバッハ帝国から宣戦布告されるまで動かなかった。そして、その宣戦布告をしたのは、皇族を皆殺しにして世界征服を企んだバルタザールだ。

 もちろんオレにそんなことをするつもりはないし、父である皇帝の目的は人類国家の統一である。ウリンソン連邦には宣戦布告しないだろう。

 フェリシエンヌたちには申し訳ないが、マルブランシェ王国が滅亡して終わりだ。ゲームのような世界大戦にはならない。

 オレはここウリンソン連邦でフアナと一緒にのんびり暮らすんだ。

「あー、食った食った」
「うぷっ。ごちそうさまでした」
「もう食べられないぜ」

 ようやく夜警のメンバーたちの食事が終わった頃、ゆっくりと村が動き出す。

 最初に起きてくるのは、家を預かる女性たちだ。昨日の夜の洗い物をしたり、それが終われば家族のために朝食を作っていく。そのはずなのだが……。

「おはよう、バルタザール。今日はなんだかすごくいい匂いをさせてるわね?」
「今日の夜警組のお夜食でしょう?」
「私たちにもちょっと味見させておくれよ」

 どうやらみんなカレーの匂いに釣られてやって来てしまったようだ。興味深そうな顔で寸胴鍋に半分ほど残っているカレーを見ている。

 まぁ、カレーはまだ量があるし大丈夫だろう。

 その油断が命取りになるとも知らず、オレは笑顔を浮かべてカレーを皿によそった。

「これはカレーって料理だよ。このナンって言うパンを千切って、カレーに付けて食べるんだ」
「へー。じゃあ、さっそく……。まあ! おいしい!」
「どれどれ……。ほんと! おいしいわ!」
「おいしいじゃない!」
「あなた、それ二口目じゃない?」
「まだこんなにあるんですもの。大丈夫よ」
「そうよね」
「おはよう、いい匂いね!」
「カレーって言う料理だって! すっごくスパイシーでおいしいのよ!」
「旦那が好きそうな味だわ!」
「これ、ちょっと貰えないかしら? 子どもに食べさせてあげたいのだけど?」

 あれよあれよと主婦の方々が寸胴鍋に集まり、井戸端会議ならぬ寸胴鍋端会議が始まってしまった。

 そして、どんどんと減っていく寸胴鍋のカレー。

 今さらもうダメとは言えず、オレは黙ってカレーをもう一度作り始めるのだった。
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