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001 決意の夜に
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私、砂川明がゲーム『闇夜に輝く兄弟月』の世界のヒロイン、マリアベル・レ・キルヒレシアとして転生して早14年。貴族院への入学を明日に控えて、私は頭を抱えていた。だって、状況が悪すぎる!
この世界に転生して、自分がゲームのヒロインだと知って、最初は大喜びだった。両親が、娘に悪魔が付いたんじゃないかと心配するほど狂喜乱舞した。だって、大好きで何十回もプレイしたゲームのヒロインになれたのだ。冗談ではなく、世界は私を中心に回ってると思っていたほどだ。
『闇夜に輝く兄弟月』には4人の攻略キャラが居る。王子然とした第一王子、俺様系の第二王子、庇護欲を誘う侯爵家嫡男、冷静沈着な辺境伯家嫡男の四人だ。どれも魅力的なキャラだし、誰を攻略しようか悩んで眠れない夜もあった。いっそ逆ハーレムルートにいくかと、日々妄想してはゲームのスタート時間である貴族院入学を心待ちにしていた。
しかし、そんな私の野望は脆くも崩れ去ることになる。この世界の常識によって。
5歳になる頃、両親は私に家庭教師を付けてくれた。ゲームの設定や裏事情を知るみたいで面白かったのは最初だけで、この世界の、貴族の常識を知るにつれて、私の夢は叶わないということを思い知らされた。
逆ハーレムルートなんてダメに決まっていた。複数の男性に好意を寄せる女は周りから白い目で見られるらしい。そりゃ当たり前だよね。日本でもそうだったから分かる。この世界はどうやら日本以上に女性の浮気について厳しいようだけど、要は浮気しなければ良いのだ。攻略キャラを一人に絞るのは、他のキャラを幸せにできなくて悲しいけど、これは仕方がない。
次に、この世界、なんと略奪婚禁止だった。略奪婚って言うと物騒ね。つまり、婚約者がいる異性に無暗に近づいてはいけないし、婚約者を横取りなんてもってのほからしい。攻略キャラ達には、それぞれ婚約者がいるの。つまり、攻略キャラに近づけば、婚約者のみならず、周りからも顰蹙をかってしまうのだ。もしかしたら、ゲームでヒロインちゃんがいじめられていたのはこれが原因かもしれないわね。でも、これには婚約破棄という裏技があるの。ゲームのストーリーでも婚約破棄するし、たぶん大丈夫だと思う。私がいじめに耐えられるか、という問題はあるけれど…。
でも婚約破棄にも問題がある。王族や貴族の結婚って政治だ。そこに恋愛感情なんて無い。だから、ヒロインちゃんが攻略キャラの婚約者達を出し抜けるんだけど……問題は出し抜いた後の婚約破棄だ。貴族や王族にとって結婚は政治。そこには結婚によって得られる国の、家のメリットがある。結婚は個人の問題ではないのだ。婚約破棄するということは、その得られるはずだったメリットよりも、自分の意思を優先するという自己中宣言に他ならない。もしくは、その程度の政治も分からない無能と蔑まれるかも。婚約破棄ってかなり危険だ。
そもそも、私との結婚なんて許可が下りないという問題もある。この世界、結婚相手を決めるのは本人たちではなく、家の当主だ。家の当主が、家にとってのメリットデメリットを考えて結婚相手を決める。貴族や王族の結婚って政治の材料なのだ。私の家、キルヒレシア男爵家は、吹けば飛ぶような木っ端貴族である。とても王族や侯爵、辺境伯に提示できるメリットなんて無い。むしろデメリットばかりだ。これは無理っぽい…。
この世界の常識を学べば学ぶほど、私と攻略キャラの結婚は無理だと思い知らされた。じゃあ諦めるのかと言われると、諦きらめるしかないのかなぁ。でも、諦めたら諦めたで、一つ問題が出てくる。それは決して私の浮ついた心の問題じゃない。もっと冷たい、私の命が懸かっている脅威が原因だ。
3年前、東の隣国、ホッケカイヤ王国が大国アルルトゥーヤ帝国に滅ぼされ、併呑された。アルルトゥーヤ帝国は、次はこの国を攻め獲るつもりらしい。ホッケカイヤ王国を飲み込んだアルルトゥーヤ帝国は、強大な国だ。対抗するには、国を一つにして総力戦で挑むしかない。
だと言うのに、この国は今二つに割れている。次の王を第一王子にするか、第二王子にするか揉めているのだ。どちらを選んでも国が混乱するほど、この国の分断は進んでしまっているらしい。王様も決めるに決めきれず、この国に王太子がいない理由になっている。王子達もお互いを敵視し、国の分断は進む一方だとか。まぁ、本当は王子同士は和解を模索しているのだけど、お互いの属する派閥の対立に巻き込まれている。
第一王子が属する派閥が、海派だ。来るアルルトゥーヤ帝国の侵攻に対して、海軍力を増強して迎え撃とうとする一派である。それに対して、第二王子が属する派閥が、陸派だ。こちらは陸軍の増強によってアルルトゥーヤ帝国の侵攻に備えようという一派である。
世知辛い話だけど、国のお金も、人員も有限なのだ。陸軍と海軍、どちらも増強するという手は打てないらしい。ではどちらを優先するか、という問題で国が二つの派閥に分かれて、二分されているらしい。その旗頭になっているのが、第一王子と第二王子だ。
つまり、次の王をどちらにするか、という問題が、海軍と陸軍、どちらを優先するか、という国防上の一大事と連動してしまったのだ。そのことに対して、王様は答えを出せずにいるらしい。早く答えを出せばいいのに。でも、王様の選択が、国の存亡を分けるかもしれない。そう思うと、なかなか答えを出せないのも頷けるかな。
このまま、分断したままの国でアルルトゥーヤ帝国に勝てるのか?私にはとても勝てるとは思えない。負けたらどうなるか……。お父様は言葉を濁していたけれど、敗れたホッケカイヤ王国の貴族たちは酷い目に遭っているらしい。きっとこの国が負けたら、私も酷い目に遭うだろう。そんなのは嫌だ!どうにかしないと!そこで私はあることを思い出した。
ゲームのメインストーリーを進めると、ヒロインちゃんの働きにより、王子達が和解するイベントが起きる。これでなんとか国も一つに纏まらないかな?無理かな?でも、私にできることってこれぐらいしかない。王子達が反目し合ってるより、和解してた方が勝率高くなるよね?できることはとりあえずやっておこうと思う。思うんだけど……。
ゲームのメインストーリーを進めるということは、攻略キャラ達に近づくということだ。それを婚約者達や、周りの人間がどう見るか……。婚約者に近づく害虫?分不相応な恋をしているおバカちゃん?無礼者?きっと、私の評価は散々なものになるに違いない。もしかしたら、ヒロインちゃん同様、私もいじめられるかも……。
でも!国が滅んで酷い目に遭うよりもマシだと思う。それに、私の家、キルヒレシア家は武家で、お父様もお兄様も陸軍に務めている。たぶん、国が敗れるような敗戦となったら、二人とも死んでしまうだろう。お父様もお兄様も良い人だ。家族として私のことを愛してくれている。お父様は軍人だと思えないくらい柔和な人で、私に甘い。いつも私の事を甘やかしては、お母様に怒られている。お兄様も優しい人だ。自分も欲しいものがあっただろうに、初任給で私に服を買ってくれたことを覚えている。お母様はちょっとおっちょこちょいで可愛い人だ。私に厳しいことを言うこともあるけれど、それも愛しているが故だ。私は家族に愛されて育ってきた。ううん、家族だけじゃない。私の周りの人、皆大切な人だ。誰にも死んでほしくない!
「やってやる…!絶対、やってやるわ!」
恋愛なんてしてる場合じゃない!絶対に国を一つに纏めて、アルルトゥーヤなんかに負けない国にしてやるんだから!
この世界に転生して、自分がゲームのヒロインだと知って、最初は大喜びだった。両親が、娘に悪魔が付いたんじゃないかと心配するほど狂喜乱舞した。だって、大好きで何十回もプレイしたゲームのヒロインになれたのだ。冗談ではなく、世界は私を中心に回ってると思っていたほどだ。
『闇夜に輝く兄弟月』には4人の攻略キャラが居る。王子然とした第一王子、俺様系の第二王子、庇護欲を誘う侯爵家嫡男、冷静沈着な辺境伯家嫡男の四人だ。どれも魅力的なキャラだし、誰を攻略しようか悩んで眠れない夜もあった。いっそ逆ハーレムルートにいくかと、日々妄想してはゲームのスタート時間である貴族院入学を心待ちにしていた。
しかし、そんな私の野望は脆くも崩れ去ることになる。この世界の常識によって。
5歳になる頃、両親は私に家庭教師を付けてくれた。ゲームの設定や裏事情を知るみたいで面白かったのは最初だけで、この世界の、貴族の常識を知るにつれて、私の夢は叶わないということを思い知らされた。
逆ハーレムルートなんてダメに決まっていた。複数の男性に好意を寄せる女は周りから白い目で見られるらしい。そりゃ当たり前だよね。日本でもそうだったから分かる。この世界はどうやら日本以上に女性の浮気について厳しいようだけど、要は浮気しなければ良いのだ。攻略キャラを一人に絞るのは、他のキャラを幸せにできなくて悲しいけど、これは仕方がない。
次に、この世界、なんと略奪婚禁止だった。略奪婚って言うと物騒ね。つまり、婚約者がいる異性に無暗に近づいてはいけないし、婚約者を横取りなんてもってのほからしい。攻略キャラ達には、それぞれ婚約者がいるの。つまり、攻略キャラに近づけば、婚約者のみならず、周りからも顰蹙をかってしまうのだ。もしかしたら、ゲームでヒロインちゃんがいじめられていたのはこれが原因かもしれないわね。でも、これには婚約破棄という裏技があるの。ゲームのストーリーでも婚約破棄するし、たぶん大丈夫だと思う。私がいじめに耐えられるか、という問題はあるけれど…。
でも婚約破棄にも問題がある。王族や貴族の結婚って政治だ。そこに恋愛感情なんて無い。だから、ヒロインちゃんが攻略キャラの婚約者達を出し抜けるんだけど……問題は出し抜いた後の婚約破棄だ。貴族や王族にとって結婚は政治。そこには結婚によって得られる国の、家のメリットがある。結婚は個人の問題ではないのだ。婚約破棄するということは、その得られるはずだったメリットよりも、自分の意思を優先するという自己中宣言に他ならない。もしくは、その程度の政治も分からない無能と蔑まれるかも。婚約破棄ってかなり危険だ。
そもそも、私との結婚なんて許可が下りないという問題もある。この世界、結婚相手を決めるのは本人たちではなく、家の当主だ。家の当主が、家にとってのメリットデメリットを考えて結婚相手を決める。貴族や王族の結婚って政治の材料なのだ。私の家、キルヒレシア男爵家は、吹けば飛ぶような木っ端貴族である。とても王族や侯爵、辺境伯に提示できるメリットなんて無い。むしろデメリットばかりだ。これは無理っぽい…。
この世界の常識を学べば学ぶほど、私と攻略キャラの結婚は無理だと思い知らされた。じゃあ諦めるのかと言われると、諦きらめるしかないのかなぁ。でも、諦めたら諦めたで、一つ問題が出てくる。それは決して私の浮ついた心の問題じゃない。もっと冷たい、私の命が懸かっている脅威が原因だ。
3年前、東の隣国、ホッケカイヤ王国が大国アルルトゥーヤ帝国に滅ぼされ、併呑された。アルルトゥーヤ帝国は、次はこの国を攻め獲るつもりらしい。ホッケカイヤ王国を飲み込んだアルルトゥーヤ帝国は、強大な国だ。対抗するには、国を一つにして総力戦で挑むしかない。
だと言うのに、この国は今二つに割れている。次の王を第一王子にするか、第二王子にするか揉めているのだ。どちらを選んでも国が混乱するほど、この国の分断は進んでしまっているらしい。王様も決めるに決めきれず、この国に王太子がいない理由になっている。王子達もお互いを敵視し、国の分断は進む一方だとか。まぁ、本当は王子同士は和解を模索しているのだけど、お互いの属する派閥の対立に巻き込まれている。
第一王子が属する派閥が、海派だ。来るアルルトゥーヤ帝国の侵攻に対して、海軍力を増強して迎え撃とうとする一派である。それに対して、第二王子が属する派閥が、陸派だ。こちらは陸軍の増強によってアルルトゥーヤ帝国の侵攻に備えようという一派である。
世知辛い話だけど、国のお金も、人員も有限なのだ。陸軍と海軍、どちらも増強するという手は打てないらしい。ではどちらを優先するか、という問題で国が二つの派閥に分かれて、二分されているらしい。その旗頭になっているのが、第一王子と第二王子だ。
つまり、次の王をどちらにするか、という問題が、海軍と陸軍、どちらを優先するか、という国防上の一大事と連動してしまったのだ。そのことに対して、王様は答えを出せずにいるらしい。早く答えを出せばいいのに。でも、王様の選択が、国の存亡を分けるかもしれない。そう思うと、なかなか答えを出せないのも頷けるかな。
このまま、分断したままの国でアルルトゥーヤ帝国に勝てるのか?私にはとても勝てるとは思えない。負けたらどうなるか……。お父様は言葉を濁していたけれど、敗れたホッケカイヤ王国の貴族たちは酷い目に遭っているらしい。きっとこの国が負けたら、私も酷い目に遭うだろう。そんなのは嫌だ!どうにかしないと!そこで私はあることを思い出した。
ゲームのメインストーリーを進めると、ヒロインちゃんの働きにより、王子達が和解するイベントが起きる。これでなんとか国も一つに纏まらないかな?無理かな?でも、私にできることってこれぐらいしかない。王子達が反目し合ってるより、和解してた方が勝率高くなるよね?できることはとりあえずやっておこうと思う。思うんだけど……。
ゲームのメインストーリーを進めるということは、攻略キャラ達に近づくということだ。それを婚約者達や、周りの人間がどう見るか……。婚約者に近づく害虫?分不相応な恋をしているおバカちゃん?無礼者?きっと、私の評価は散々なものになるに違いない。もしかしたら、ヒロインちゃん同様、私もいじめられるかも……。
でも!国が滅んで酷い目に遭うよりもマシだと思う。それに、私の家、キルヒレシア家は武家で、お父様もお兄様も陸軍に務めている。たぶん、国が敗れるような敗戦となったら、二人とも死んでしまうだろう。お父様もお兄様も良い人だ。家族として私のことを愛してくれている。お父様は軍人だと思えないくらい柔和な人で、私に甘い。いつも私の事を甘やかしては、お母様に怒られている。お兄様も優しい人だ。自分も欲しいものがあっただろうに、初任給で私に服を買ってくれたことを覚えている。お母様はちょっとおっちょこちょいで可愛い人だ。私に厳しいことを言うこともあるけれど、それも愛しているが故だ。私は家族に愛されて育ってきた。ううん、家族だけじゃない。私の周りの人、皆大切な人だ。誰にも死んでほしくない!
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