私はヒロインを辞められなかった……。

くーねるでぶる(戒め)

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023 怒られる私

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「聞きましたよ、マリアベル!貴女、システィーナ様を差し置いて、シュヴァルツ殿下に近づいたんですって!?」

 お父様とお母様に呼び出されて食堂に行くと、早速とばかりに顔を赤くしたお母様に問い詰められてしまった。2人は今日、晩餐会に出かけていた。きっとそこで色々と聞いてきたのだろう。いつかバレてしまう時がくるとは思っていたけど、今日がその日だったらしい。できれば永遠に来てほしくなかったな……。

「挙句の果てには、シュヴァルツ殿下ときき、キキキ、キスまで交わしたとか!本当ですか!?」

 お母様が更に顔を赤くして問い詰めてくる。お父様が宥めているけど、全然効果が無い。お父様頑張って!

「本当です……」

 私は素直に答えた。あんなに大勢の前でしたんだもの、嘘を吐いても意味が無いわ。キスの事を思い出して、胸がトクンと脈打ち、体温が上がり、顔が熱くなる。私、しちゃったんだ……シュヴァルツと、キス……。それもあんなに人が見てる前で……。改めて思い返すと恥ずかしくなる。

 私の顔は、今赤くなっているだろう。でも、私の話を聞いたお母様の顔はどんどん青ざめていく。

「まあ!まあ!まあ!ああ、嘘だと言ってください、神様!まさか、わたくしの娘が、こんなふしだらな娘になってしまうだなんて!」

 ふしだらって酷いわね。なにもキスくらいで大げさね、と思わなくもない。でも、この国の常識だとお母様の反応の方が普通なのだろう。そのあたりお堅いのよねーこの国。女性には異常なくらい貞淑さが求められるのだ。

「どうしましょう!?こんなに噂がたっていては、まともな婚約者なんて見つかるはずないわ!」

 今、社交界はシュヴァルツの婚約破棄と並んで、私の事が噂の中心になっているらしい。なんでも『天才を堕とした希代の悪女』と呼ばれているとか。なんかもう言いたい放題言われてるわね。

 きっと、あのパーティに居た貴族の子ども達が、親に報告したのだろう。私の悪評は、貴族院の中だけではなく、今や国中に広まってしまったようだ。

 それにしても『天才を堕とした希代の悪女』って……。たしかに、シュヴァルツ派閥の人達から見れば、シュヴァルツを惑わした悪い女に映るんでしょうけど……さすがに酷くない?

 今日、両親は私と兄の婚約者を探しに晩餐会に出たみたいだ。そこで自分たちの娘が『天才を堕とした希代の悪女』なんて呼ばれていて、お母様は気絶しちゃったみたい。噂の事実を確かめようと急いで帰って来たらしい。

 両親には悪いことをしたと思わなくもないけれど、私に婚約者なんて必要ない。シュヴァルツが、あの天才が「任せておけ」と言ったのだ。何か手があるはず。少なくともシュヴァルツが諦めるまでは私も諦めたくない。シュヴァルツのこと信じていたい。

「わたくしはシュヴァルツ殿下と結ばれます!」

「貴女まだそんなことを!良いですか、王家と我が家ではつり合いが取れないのです!」

 そんなことは分かってる。でも!

「シュヴァルツ殿下が任せておけと」

「シュヴァルツ殿下が貴女との婚約を宣言したことも聞いています。でも!そんなものは女を落とすための方便です!事実、貴女は唇を奪われてしまったではないですか!いい加減に目を覚ましなさい、マリアベル!貴女には、貴女に相応しい殿方がきっといるはずです。お母様たちがきっと探してきます。だからシュヴァルツ殿下の事は忘れてしまいなさい」

 お母様が心配そうに、まるで懇願するように見つめてくる。お母様は私を一心に心配しているのだと分かる。でも。それでも。私はシュヴァルツの事を信じていたい!

「少なくともシュヴァルツ殿下の婚約者が決まるまでは、わたくしも婚約者を決めません!」

 これが私の妥協できるボーダーラインだ。

「マリアベル!」

「まぁまぁフレア。マリーも時間が必要だろうし……」

 再びヒートアップしそうなお母様を、お父様が宥めにかかる。

「あなた……。あなたはマリーが心配ではないのですか!?」

「そんなことはない。シュヴァルツ殿下に婚約者ができればマリーも諦めがつくだろう。それにマリーに婚約者を決めるのも今は時期が悪い。時間が必要だよ。それに……」

 お父様がお母様を説得し始めた。頑張れお父様!私が心の中でお父様にエールを送っていると、それまで黙って座っていたお兄様が口を開いた。

「母上、マリーはシュヴァルツ殿下を、言うなれば大将を討ち取ったのです。褒めこそすれ、叱るのは……」

 お兄様が頓珍漢な事を言い始めた。お兄様……私を擁護してくれる気持ちは有り難いけど……話ちゃんと聞いてた?どこまで脳筋なのよ!

「はぁー…アル……貴方も別の意味で問題ね……。もっと恋愛に興味を持ちなさい。そんなだからその年で婚約者ができないのですよ」

 お母様が、頭が痛いと言わんばかりに頭を抱え、ため息を吐いた。
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